対ロシア外交 対立断ち切り対話に戻れ

朝日新聞 2011年02月09日

対ロシア外交 対立断ち切り対話に戻れ

日ロ関係が激しい非難の応酬を繰り返す深刻な状態に陥っている。不毛な悪循環を断ち切らなければならない。

菅直人首相は昨年11月のメドベージェフ大統領による国後島訪問を「許し難い暴挙だ」と強く批判した。

これに対し、ロシア側は「容認できない」「(北方四島への)ロシアの主権を見直すことはない」などと猛反発している。

首相の論旨は理解できるとしても、その言葉遣いは尋常ではない。

ロシア側は、大統領の訪問後も第1副首相や国防相らが国後島などを訪れた。そのなかで北方領土での軍事力強化や、韓国の企業も巻き込んで開発を推進する方針も打ち出した。

これが四島の実効支配を固める動きとして日本側に警戒を呼び起こしたのは当然だろう。

北方四島は交渉で帰属問題を解決すると日ロ両政府が何度も合意した場所である。ここで既成事実を積み重ね、ロシアへの帰属を無理やり認めさせるような乱暴な手法は許されない。

しかし、これまでの対ロシア外交の流れから見れば、菅首相の発言はやはり唐突感を否めない。

まず、日ロ間では正常な首脳外交がほとんど機能していない。首相とメドベージェフ大統領との首脳会談は2度きりだ。アジア・太平洋地域での安全や経済協力の問題で日ロが果たすべき役割といった重要な問題が、突っ込んで協議されたこともない。

高いレベルでの政治対話がなく、日本政府はロシア要人の北方領土訪問を止める手だてを持てずにいる。両国間に不信だけがわだかまる中での強硬発言はいたずらにロシア側を反発させ、領土交渉もむずかしくする。

首相が、新年度予算案審議にも苦労する弱い政権基盤のもとで声高に領土問題の早期解決を叫んでも、ロシア側に足元をみられるだけだろう。

必要なのは、建設的な対話の回路を回復することである。

11日から訪ロする前原誠司外相には、ラブロフ外相との会談をその最初の機会としてもらいたい。

まず、これまでの領土交渉の経緯について何が認められ、何が認められないかを両国がきちんと確認し合うことだ。それがなければ、今後に実のある協議はとても期待できない。

北朝鮮の核開発問題など国際舞台での協力や、経済協力をめぐる協議も重要だ。外相らとの協議で議題となるシベリア・極東での天然ガス田や炭田の開発、ウラン濃縮などのエネルギー協力で突っ込んだ協議を望みたい。

ロシアも今年末の下院選と来年春の大統領選をにらんだ政治の季節に入ってくる。領土問題で進展が望めない時だからこそ、それ以外の分野で成果を積むことが大切だ。

毎日新聞 2011年02月12日

日露外相会談 領土、信頼築き粘り強く

昨年11月のメドベージェフ・ロシア大統領の国後島訪問以来、国防相ら政府要人の相次ぐ北方領土訪問と、菅直人首相の「許し難い暴挙」発言。これに対抗するかのような大統領の「ロシアの不可分の領土」発言と、北方領土の軍備増強指示--。激しい応酬と不信のスパイラルに陥る中での前原誠司外相のモスクワ訪問、日露外相会談となった。

最大のテーマは北方領土問題だった。会談冒頭、ラブロフ露外相が首相発言を念頭に「友好的な雰囲気の中で会談したかったが、そうならず残念だ」と不快感を示したのに対し、前原外相は「お互いが知恵を出して乗り越えなければならない問題だ」と述べ、北方領土は歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土であると日本政府の立場を強調した。

一方、北方領土での経済協力については日本の法的立場を害さない前提で議論を進めることで一致した。が、会談後の会見では、ラブロフ外相が中韓両国との協力の可能性に言及し、前原外相は「日本の立場と相いれない」と反対の考えを示した。

前原外相が、北方領土の帰属や経済開発協力について原則的な考えを強調したのは当然である。しかし、同時に、領土問題解決は極めて困難なテーマであり、両政府のハイレベルの話し合いがなければ前進が期待できないのも事実だ。両外相が「静かな環境下で協議する」ことを再確認したことを評価したい。

今、求められるのは両国間の不信の連鎖を断ち切り、議論の環境を整えることだ。会談が新たな信頼関係構築と首相の訪露につながるよう、両政府の一層の努力が不可欠だ。対露外交の立て直しが日本政府に必須であることは言うまでもない。

ロシアにしてみれば、近年、日本の対露政策が手薄になっていることに不満があるのだろう。実際、民主党政権発足後、首相の訪露はなく、外相の訪問も09年12月以来である。12年の大統領選を控えて領土問題で強い態度を示さざるを得ないという事情もあるのかもしれない。

しかし、北方領土の実効支配を軍事・経済両面で強める行為は事態の悪化しか招かない。冷え切った両国関係が、ロシア側の言動によって引き起こされていることを自覚すべきである。

会談では、資源・エネルギーなど広く経済分野の関係強化についても話し合われた。交流の促進は日本経済、企業の利益にもなる。ロシアへの一方的譲歩とみるのは間違いだろう。「経済外交」は前原外相の看板であり、領土と経済は対露外交の車の両輪だ。とはいえ、経済関係の進展が領土問題の比重低下と国民に受け取られるようなことがあってはならない。思慮ある対応が必要だ。

読売新聞 2011年02月13日

日露外相会談 「領土」前進へ粘り強く交渉を

モスクワで開かれた前原外相とラブロフ露外相との会談は、北方領土問題で双方が従来の主張を繰り返し、平行線をたどったまま終わった。

メドベージェフ大統領の北方領土訪問以来、日露関係は険悪さを増し、領土問題での進展は、期待しにくい状態に陥っている。

しかし、このまま放置しては、お互いの利益にはなるまい。あらゆる機会を見つけて協議を続け、解決の糸口を探るべきである。

外相会談は冒頭の握手もなく、厳しい雰囲気だったという。前原氏は、1993年の東京宣言など「これまでの合意文書と法と正義」に基づき、双方が受け入れ可能な解決策を探ろうと提案した。

これに対し、ラブロフ氏は「前提なし、歴史的な結びつきなしに議論を進める必要がある」と述べた。4島返還を主張する日本側に柔軟な対応を求めたのだろう。

会談は、予定の倍の約2時間続いたが、結局、議論はかみ合わなかった。協議継続が唯一の成果という寂しさだった。

ただ、この結果は、事前に予想された通りでもあった。

ロシアは近年、極東の石油・天然ガス資源開発に力を入れ、その一環として北方領土にも予算を投入している。もはや日本に領土問題で譲歩する必要はない、との考え方が強まっているようだ。

大統領に続いて政府要人が相次いで北方領土を訪問したのも、そうした姿勢の表れだろう。

日本としては、北方領土の「ロシア化」をただ傍観するわけには行くまい。菅首相のように大統領の訪問を「許し難い暴挙」と声高に非難するだけでなく、具体的な戦略を立てて臨むべきだ。

一方、外相会談後の貿易経済政府間委員会では、日露の経済協力について、官民による新たな「円卓会議」の設置を合意した。ロシアの生産設備の近代化や極東開発などを協議するという。

日本からロシアへの直接投資額はこのところ、右肩上がりで増えている。ロシア側も、日本からのハイテク分野などでの協力に期待を強めている。

日露が経済を突破口に、外交・安全保障でも関係を強化することは望ましいことだ。中国に対抗するうえでも必要だろう。

だが、領土問題を置き去りにしての協力であってはならない。

平和条約を結び、日露間に真の信頼関係が生まれることが、両国の一層の経済発展につながることを、粘り強くロシア側に訴えて行く必要がある。

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