朝日新聞 2011年02月11日
「トヨタ安全」 リコール騒動の重い教訓
喜ばしい結果だ、というだけではすまない。関係者はもちろん、多くの人々が共有すべき教訓がある。
トヨタ自動車の屋台骨を揺るがし、1年前には豊田章男社長が議会公聴会に呼び出される事態に至った米国での製品トラブル。その中で最後まで調査が続いていた電子制御システムに絡む急加速の疑いについて、米運輸省が「シロ」の判定を下した。
システム解析で欠陥は見つからなかった。多くの急発進は、運転席のフロアシートがアクセルペダルに引っかかるという別のトラブルか、運転手のミスによるものだという。
アクセルペダルはリコール(回収・無償修理)ずみなので、巨額の民事訴訟などは残るが、一連のトラブルはひとまずケリがついた格好だ。
品質の良さで米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)を抜き世界のトップに立った矢先のトヨタは、ブランドイメージに深手を負った。米当局が電子制御にお墨付きを与えたことが失地回復への追い風にはなろう。
しかし、米当局の対応は振幅が大きかった。今後の安全行政にとって生かすべき点は少なくない。
例えば、疑惑報道で持ちきりだった昨年2月、米議会でラフッド運輸長官が「私の忠告はトヨタ車の運転をやめて販売店に持っていくことだ」と述べ、運転できないほど危険な欠陥なのか、との不安を広げた。
後に訂正したものの、この発言はトヨタの信用を失墜させる破壊力も大きかった。今回の「シロ」発表で長官は手のひらを返したように「私の娘もトヨタ車を買った」と語り、修復に配慮する姿勢を示した。
このような大きなブレは、米当局の姿勢に疑問を抱かせる。当時はGM再建に米国民が期待を寄せているさなかで、中間選挙を控えた時期でもあった。米メディアを中心とした過熱報道もあり、安全性をめぐる冷静な議論が見失われがちだった。
電子制御という新しいシステムの安全をいかに迅速に確認するか、という課題も浮き彫りになった。
トヨタにとっての教訓も重い。トラブルが発生すれば情報の洪水が世界を駆けめぐる。対応が鈍かった根本原因は、日本の本社に権限が集中しすぎていたことにあった。反省を踏まえ、安全対応への判断などについて海外拠点の発言権を大幅に拡大した。
世界のトップに立つと、批判の矢面にさらされやすい。トヨタでもなお「グローバル経営」というには課題が多いということだろう。
多くの企業が新興国を含む世界市場へ改めて打って出ようとしているいま、トヨタが直面した問題は、脱皮しようとする日本の企業すべてが我が事として考えるべき教訓に満ちている。
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毎日新聞 2011年02月10日
トヨタ最終報告 危機管理の重み増す
トヨタ自動車の大規模なリコール(回収・無償修理)に発展した急加速問題について、米運輸省が「電子制御システムの欠陥は発見できなかった」という最終報告をまとめた。トヨタ側の主張を全面的に認めるものである。
この問題でトヨタの北米での自動車販売は落ち込み、イメージも悪化した。今回の発表で問題は収束に向かうとみられるが、グローバル展開を急ぐ日本企業にとって、大きな教訓となる事件だった。
発端は米国の西海岸で09年夏発生した4人の死亡事故。これを契機にトヨタ車のなかには電子制御システムの欠陥で急加速する車があると指摘する声が強まった。
トヨタはアクセルペダルがフロアマットにひっかかるなどの不具合を認め、カムリなど延べ800万台近くをリコールしたが、電子制御システムに欠陥はないと主張した。しかし、事態はおさまらず、ついには豊田章男社長の米議会公聴会での証言という異例の事態に発展した。
当時の米国は中間選挙を控え「政治の季節」に入っており、経営危機のゼネラル・モーターズ(GM)を税金を投入してでも救済すべきかどうかが議論になっていた。このため、この問題が政治的に利用された、という見方が根強く存在する。
米国は車の品質と価格が適正であればどこの国の車であれ、差別なく受け入れてきた。世界一オープンで公正な市場だが、その一方で、消費者は安全性に厳しく政治も敏感に反応する。訴訟多発社会でもある。トヨタ車の電子制御システムに欠陥はなかったにしろ、トヨタ側の初期対応が後手に回り、問題を拡大させてしまった面があるだろう。
また、最近の車は「電子機器のかたまり」といわれる。トヨタはいち早くグローバル展開を成功させ、90年代以降の不振の日本産業界にあって、気を吐いたメーカーである。そのような企業にしても、海外で現地企業から電子部品を調達する場合、国内のようには機敏な対応がしにくいようだ。
少子高齢化で日本の国内市場の縮小は避けられず、日本企業が生き残っていくには海外展開するほかなくなっている。だが、海外市場は地雷原のようにリスクだらけだ。発展途上国では政治腐敗や知的所有権の欠落によるリスクが大きい。
しかし、先進国には先進国のリスクがある。米国は世界で最も豊かで自由な市場だが、市民(消費者)の権利意識は日本では想像もできないほど強い。対応を誤ると手ひどいしっぺ返しをうける。トヨタのリコール問題はそれを改めて思い起こさせるものであった。
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読売新聞 2011年02月11日
トヨタ安全認定 国際企業に残された重い教訓
全米に吹き荒れた「トヨタたたき」は、おおむね収束に向かうだろう。だが、傷付いたブランドイメージの回復は道半ばである。
トヨタ車が運転中に急加速するとされた問題で、米運輸省が最終報告を発表した。原因として疑われた電子制御システムに「シロ判定」を下した。「欠陥はない」とするトヨタの主張が全面的に認められたといえる。
しかし、問題の発生当時、米当局への報告が遅れるなど、トヨタの動きは鈍く、安全性に敏感な米国の消費者の反応を見誤った。
企業にとって、自社製品の品質管理は最優先課題である。対応を誤れば、長年かけて築き上げてきた信用も一瞬で崩れ去る。トヨタは、こうした点を今後の経営の糧としなければならない。
トヨタ車に対する苦情が米国内で相次いだのは、2009年ごろだ。自ら調査した結果、トヨタはアクセルペダルなどの不具合を認め、800万台のリコール(回収・無償修理)に追い込まれた。
焦点となっていた電子制御システムは、米国で販売されているすべてのトヨタ車に使われている。欠陥が認定されれば、米国での生産や販売への打撃は計り知れないものとなったに違いない。
米当局が安全性にお墨付きを与え、疑念がさらに広がる事態を避けられたことは、トヨタにとっては朗報である。
一方で、トヨタ車の保有者が「リコールで車の価値が下がった」として損害賠償を求める集団訴訟は各地で続いている。最終報告はトヨタに有利に働こうが、訴訟の行方は予断を許さない。
米国での業績不振も続いている。昨年の米新車市場は主要各社が揃って前年比プラスを確保する中で、トヨタだけが販売台数を減らした。消費者の不信感が払拭されていないということだろう。
米国の議会や政府、メディアは一時、激しいトヨタ批判を展開した。急先鋒となったのは、米自動車大手の拠点を選挙区に抱える議員たちだ。10年の中間選挙を控え、トヨタ追及を政治的に利用しようとする狙いは明らかだった。
最終報告を受け、米紙は「ヒステリーを起こした米議会は責められるべきだ」と批判した。こうした議員らには、大いに反省してもらう必要がある。
ただ、グローバル企業にとって、文化の違いなどから国内では想定しがたいリスクがつきものである。それを再認識することが、トヨタ問題の教訓となろう。
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