ミャンマー新体制 民主化には程遠い

朝日新聞 2011年02月08日

ミャンマー 新政権は民主化へ行動を

新首都に建設された壮大な議事堂。そこで開かれる初めての国会。華やかなこけら落としのはずなのにメディアは建物にさえ近づけない。夜の国営ニュースが決定事項を伝えるだけだ。

国の変化や「民主化」への期待感など、まったく伝わらない門出である。

ミャンマー(ビルマ)で国会が開かれ、軍事政権の首相だったテイン・セイン氏が大統領に選ばれた。

昨年11月、20年ぶりに実施された総選挙を受けた国家元首の誕生だ。新内閣がまもなく発足し、これをもって「民政に移管する」と軍政はいう。

憲法もない、議会もない統治から、選挙を経て新政権が誕生する。聞こえはいいが、議会の4分の1は軍人枠だ。選挙を経た議員の圧倒的多数も軍服を脱いだ元軍人である。

3年前に軍主導で制定された憲法を改正するには国会の4分の3を超える賛成が必要なので、実際には合法を装った圧政の永続ともいえる。

軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長が大統領に就任しなかったことで、最低限の前進はあったという見方もある。

しかし、軍序列4位のテイン・セイン氏は議長の忠実な部下として、対外的な役割を担った人物だ。

この国では、大統領以上の権力を握るポストがある。国軍司令官だ。国防相、内相らを任命するほか、非常時には大統領から全権を譲り受ける。

タン・シュエ議長は現在、国軍司令官を兼務する。新政権の治安評議会が新司令官を選ぶが、議長が再びそこに座れば、状況は何も変わらない。

新政権が「民政」をうたうなら、その意思を内外に示さねばならない。試金石は人事の刷新だ。タン・シュエ氏が司令官にとどまったり、闇将軍として権勢をふるったりすれば、民政移管とはとても認められない。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、総選挙の実施と民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁解除を理由に、欧米諸国が同国に科す経済制裁の解除を求めた。

日本政府も、総選挙とスー・チーさんの解放については「一定の評価をしている」(前原誠司外相)という。

しかしまだ、日本が経済制裁解除を求める、あるいは本格的な援助を再開するといった時期ではない。新政府の具体的な行動を待つ必要がある。

スー・チーさんとの対話を速やかに、かつ本格的に始めるかどうか。21年前の選挙で圧勝し、いまでも国民の間に高い人気のある彼女を抜きにして国民和解はあり得ない。

さらに約2千人とされる政治犯の釈放もまったなしだ。

日本政府は新政権がこうした取り組みを進めるよう、周辺諸国とともに粘り強く働きかけなければならない。

毎日新聞 2011年02月05日

ミャンマー新体制 民主化には程遠い

ミャンマーの大統領にテインセイン首相が選出された。新体制の下、半世紀続いた軍主導の政権から衣替えし、形のうえでは民政へと移行する。だが、軍が政治に強い影響力を持つ構造に変わりはなく、民主化には程遠いと言わざるを得ない。

テインセイン氏は軍籍を離脱したとはいえ、軍事政権でナンバー4に位置し、トップのタンシュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長の側近として、軍による政治支配を担った人物である。国会議席の8割以上を軍の翼賛勢力が占め、正副大統領と上下両院議長がすべて親軍政党出身という現実とも併せ、ミャンマー政府が言う「民主化」と受け取るのは無理がある。

軍政下で権力を集中したタンシュエ氏は元首の座には就かないものの軍を掌握しながら事実上の院政を敷くとみられている。国内外に「民政移管」をアピールするのであれば、潔く引退するのが筋だろう。

軍事政権は「民主化プロセス」と称して、長期間かけて新憲法を制定し、総選挙を実施した。だが内実は国会に軍人枠を確保したり、民主化運動指導者のアウンサンスーチーさんを選挙から排除するなど、親軍派による国会支配を確保するための地ならしだった。その総仕上げが大統領選出と新政権の発足である。

強引な手法に対し、スーチーさん率いる旧最大野党「国民民主連盟」(NLD)は、民主的ではないとして昨年11月の総選挙には参加せず、軍政主導の新体制づくりを批判してきた。国内では厳しい監視網や検閲体制が敷かれ、国民の政治的自由や言論の自由は封じられたままだ。

軍事政権は総選挙後、スーチーさんの自宅軟禁を7年半ぶりに解除した。しかし、スーチーさんは政治活動を事実上禁じられ、政権側には対話の姿勢もうかがえない。新政権が民主化勢力や少数民族と対話を開始し、本格的な国民和解の道を探らなければ民主化の道筋はつかない。

ミャンマーも一員である東南アジア諸国連合(ASEAN)は総選挙実施を一定の前進と評価し、欧米による対ミャンマー経済制裁の解除を求める構えだ。一方、米政府高官が制裁解除は「時期尚早」との見解を示すなど、欧米諸国がミャンマーの現状を見る目は依然厳しい。

ミャンマーに対しては、軍事政権の後ろ盾となってきた中国が影響力を強める一方、日本の発言力は低下気味だ。しかし、ミャンマーの民主化が進まなければアジア全体の協力や交流も停滞する。欧米と価値観を共有し、ASEANとも太いパイプを持つ日本は、国際世論をまとめ、ミャンマーに民主化を促す役割を積極的に担うべきだ。

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