新首都に建設された壮大な議事堂。そこで開かれる初めての国会。華やかなこけら落としのはずなのにメディアは建物にさえ近づけない。夜の国営ニュースが決定事項を伝えるだけだ。
国の変化や「民主化」への期待感など、まったく伝わらない門出である。
ミャンマー(ビルマ)で国会が開かれ、軍事政権の首相だったテイン・セイン氏が大統領に選ばれた。
昨年11月、20年ぶりに実施された総選挙を受けた国家元首の誕生だ。新内閣がまもなく発足し、これをもって「民政に移管する」と軍政はいう。
憲法もない、議会もない統治から、選挙を経て新政権が誕生する。聞こえはいいが、議会の4分の1は軍人枠だ。選挙を経た議員の圧倒的多数も軍服を脱いだ元軍人である。
3年前に軍主導で制定された憲法を改正するには国会の4分の3を超える賛成が必要なので、実際には合法を装った圧政の永続ともいえる。
軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長が大統領に就任しなかったことで、最低限の前進はあったという見方もある。
しかし、軍序列4位のテイン・セイン氏は議長の忠実な部下として、対外的な役割を担った人物だ。
この国では、大統領以上の権力を握るポストがある。国軍司令官だ。国防相、内相らを任命するほか、非常時には大統領から全権を譲り受ける。
タン・シュエ議長は現在、国軍司令官を兼務する。新政権の治安評議会が新司令官を選ぶが、議長が再びそこに座れば、状況は何も変わらない。
新政権が「民政」をうたうなら、その意思を内外に示さねばならない。試金石は人事の刷新だ。タン・シュエ氏が司令官にとどまったり、闇将軍として権勢をふるったりすれば、民政移管とはとても認められない。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、総選挙の実施と民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁解除を理由に、欧米諸国が同国に科す経済制裁の解除を求めた。
日本政府も、総選挙とスー・チーさんの解放については「一定の評価をしている」(前原誠司外相)という。
しかしまだ、日本が経済制裁解除を求める、あるいは本格的な援助を再開するといった時期ではない。新政府の具体的な行動を待つ必要がある。
スー・チーさんとの対話を速やかに、かつ本格的に始めるかどうか。21年前の選挙で圧勝し、いまでも国民の間に高い人気のある彼女を抜きにして国民和解はあり得ない。
さらに約2千人とされる政治犯の釈放もまったなしだ。
日本政府は新政権がこうした取り組みを進めるよう、周辺諸国とともに粘り強く働きかけなければならない。
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