春場所中止 八百長が土俵の火を消した

朝日新聞 2011年02月07日

春場所中止 土俵の信頼取り戻せるか

浪速の街に本場所の始まりを告げる小気味いい触れ太鼓が、この春は響かない。大相撲の三月場所が中止されることになった。

日本相撲協会は八百長問題の解明に時間を要することなどから、場所を開くことは困難と判断した。

角界は本場所を最も大事にし、戦時中も途絶えさせず、土俵を守り抜いてきた。不祥事による中止は初めてだ。

大相撲の歴史に汚点を残す、未曽有の事態である。

協会の特別調査委員会は3日間かけて、関与が疑われる力士ら14人に聴取をした。だが、八百長の深い闇に光を当てるのは容易ではなかった。

協会幹部が描いていた青写真は「力士らの処分を発表した上で春場所は開催する」だった。まず春場所開催ありき、の思惑である。

だが、その認識は甘すぎた。

放駒理事長はきのうの記者会見で「謝っても謝り切れない」と謝罪した上で、こう話した。「ウミを完全に出し切るまでは土俵上で相撲をお見せすることはできないと考えている」

調査委は14人に携帯電話や過去の通信記録、預金通帳の提出も求めた。きょうからは十両以上の力士全員への聴取を始める。納得できる調査内容を公表しない限り、五月場所の開催さえおぼつかないだろう。

八百長は昔からあった――。今、そうした声が多く聞かれる。しかし、相撲のすべてをおとしめてはならない。

大相撲は神事として始まった。その歴史から、様式美を含めた伝統芸能的な要素も愛されてきた。

相手が勝ち越せるかどうかといった瀬戸際にあるとき、手を緩めることを「人情相撲」と呼ぶなど、一種独特な角界の「空気」も含めて大相撲だと受け止めてきた向きがあった。人情相撲を題材にした落語や歌舞伎もある。

だが歴史的な経緯とは別に、アマ相撲が純然たる競技として発展し、学生や社会人のトップが挑む最高峰として大相撲が存在するようになった。

伝統芸能とスポーツの要素を併せ持つ特異な存在が大相撲と言えるが、相撲競技の頂点でもあるのだから、やはり八百長は許されない。「そんなものさ」と切り捨てて済む話ではない。欧州などからの力士も多数おり、日本情緒豊かな競技として海外でも人気があることも忘れてはならない。

八百長への関与を認めた竹縄親方は囃子(はやし)歌「相撲甚句」の名手として知られた。相撲のよき伝統の一つを担いながら、一方で土俵を汚していたという事実が、何とも寒々しい。

大相撲は存亡の危機にある。伝統のあしき部分をぬぐい去り、最高峰の舞台としての誇りをどう取り戻すか。

角界にかかわるすべての人々に今、そのことが問われている。

読売新聞 2011年02月07日

春場所中止 八百長が土俵の火を消した

今後も「国技」を担っていけるのか。本場所を開催できない事態に追い込まれ、日本相撲協会は存立そのものが問われる危機に直面している。

八百長問題で揺れる相撲協会が、3月13日から大阪府立体育会館で開く予定だった春場所を中止することを決めた。

本場所の中止は65年ぶり、戦後の混乱期、国技館の改修工事が遅れた1946年夏場所以来のことだ。不祥事による中止は、過去に例がない。大相撲の長い歴史においても、消し難い汚点である。

ファンの理解が得られない。八百長疑惑に名前が挙がった14人の力士の調査に時間がかかる。それらが本場所中止の理由だ。相撲協会の放駒理事長は「ウミを出し切るまでは、土俵で相撲をお見せすることはできない」と語った。

相撲協会が最優先になすべきは、八百長の実態を徹底解明し、関与した力士らを厳しく処分することだ。それを考えれば、春場所の中止は、当然の判断である。

大相撲が真剣勝負の競技であるならば、八百長はそれを真っ向から否定する行為だ。白熱した土俵を楽しみにしているファンに対する裏切りでもある。

大阪で本場所が開かれるのは年1回のため、中止を残念に思うファンも多いだろう。

しかし、今の状況では、八百長にかかわっていない力士にも、疑いの目が向けられよう。疑念を持たれる土俵は、「国技」を名乗るに値しない。

全容解明にあたっているのは、弁護士ら外部のメンバーで組織する特別調査委員会だ。全力士らを対象に、八百長への関与の有無を確認するアンケートを実施した。だが、形式的な調査だけで真相を把握できるはずがない。

過去に八百長が疑われた取組を分析したうえで事情聴取するなど、踏み込んだ調査が必要だ。

相撲協会は一貫して「八百長は存在しない」と主張してきた。故意の無気力相撲に関する罰則規定を設けて、闘争心に欠ける相撲を取った力士には、その都度、注意などをしてきたが、八百長かどうかの調査は行ってこなかった。

今回、疑惑が持たれている14人の力士の一部が八百長行為を認めたことで、「八百長はない」との前提は崩れた。八百長相撲を取った力士を除名などにすると規定に明記すべきだ。

相撲協会は、税制面で優遇を受けている公益法人だ。社会が納得できる措置を講じる責任があることを忘れてはならない。

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