ムバラク大統領 「即時退陣」が民意だ

朝日新聞 2011年02月06日

エジプト危機 民衆が開く新しい歴史

カイロのタハリール広場がまたムバラク大統領の退陣を求める群衆で埋まった。強権に耐えてきた人々が声を合わせて「大統領は出て行け」と叫ぶ。

大統領の権威はすでに地に落ちた。まだ辞任を受け入れていないが、民衆はすでに歴史の新しいページをめくったと言っていいだろう。

エジプトは民意に基づいて政治を行う時代を開くために、改革を始めなければならない。ムバラク大統領が居座れば混乱が長引くだけである。あらためて、即時辞任を求めたい。

数日前に「大統領支持」を訴える人々が突然、大挙して街に出てきたのは異様な光景だった。

事態収拾に当たるスレイマン副大統領は、大統領派が民主派への投石などの混乱を引き起こしていることを非難し、厳しい措置をとると警告した。

大統領派と言っても、与党の国民民主党(NDP)が金を払ってかき集めた官製デモという見方が強かった。

そして副大統領の警告を受けて姿を消したことを考えると、やはり動員だったと考えざるを得ない。

NDPは選挙でも支持者を金で集めて、票を金で買っていることはエジプトでは広く知られた話だ。

そのうえに、警察を使って野党候補の選挙運動や投票を妨害する。その結果が、昨年11月の総選挙で議席の8割を超す一党支配の維持となった。

今回もNDPは、金権選挙と同じ発想と手法で民主化の動きをつぶそうとしたようだ。なんたる茶番だろう。

スレイマン副大統領は、約束通り真相を解明してもらいたい。さらに、昨年の選挙で野党側が出した不服申し立てを政府が検討することを約束した。出直しのために必要な措置だ。

ムバラク大統領に「ノー」を突きつける民衆には、民衆の声を金や力で曲げてきた政治への強い不信がある。

すでにNDP幹部や元閣僚の経済人が、出国禁止や資産凍結の措置を受けた。金権支配や腐敗の追及が始まっているのは、民主化運動の成果である。

強権支配を批判する動きは、イエメン、ヨルダン、シリア、アルジェリアなどにも広がりを見せている。支配が長引くとともに腐敗や人権抑圧が深刻化し、エジプトと同様に権力者の世襲が問題になっている国もある。

いずれも支配者や政府が、選挙への干渉で民主主義をねじ曲げ、権力側の意のままにしてきた国々だ。

いまの中東民主化が、インターネットのツイッターやフェイスブックを使う若者から始まったことは示唆的だ。

自分の言葉で意見や情報を交換する若者たちにとって、支配者の言葉を繰り返すだけの体制は、束縛でしかないとわかった。

それは人を縛り、国の発展を縛る。脱皮の時はとっくに来ている。

毎日新聞 2011年02月06日

ムバラク大統領 「カオス」収拾へ決断を

エジプトと米国の友好関係がぎくしゃくしてきた。ムバラク大統領は米テレビとの会見で、自分の早期辞任を求めるオバマ米大統領に「エジプトの文化を知らない」と反論したことを明らかにした。辞任すればイスラム原理主義のムスリム同胞団が取って代わり、カオス(混とん)になる。エジプトがイランのようになってもいいのかと開き直った形だ。

未曽有の反大統領運動に直面するムバラク氏は必死だろう。だが、発言には注意すべきである。反大統領運動の背後にムスリム同胞団がいるとの見方には首をかしげるばかりだ。エジプトで盛り上がる民衆運動の中心は、どう見てもイスラム組織ではない。職を求め、日々の生活に苦しむ庶民たちだ。ムバラク氏の目には、そうは映らないのか。

なるほど約30年のムバラク政権下で抑圧されていた同胞団の発言力は今後、増すかもしれない。だが、同胞団は反大統領各派と連携を保っており、イラン型の革命をめざしているわけではない。カオスというなら今のエジプトこそカオスであり、その責任はムバラク氏にある。

エジプトでは4日、「追放の金曜日」と銘打って大規模な反大統領集会が開かれたが、群衆は移動を規制され、反ムバラクのスローガンを叫んで気勢を上げることしかできない。軍がムバラク体制を守っている形だが、では軍がムバラク氏を支持しているかというと、これもはっきりしない。明らかにこう着状態だ。

米紙によれば、米政府はスレイマン副大統領を中心とする暫定政権を作り、ムバラク氏を象徴的な存在とすることを検討している。先行きは不透明だが、ムバラク氏が9月の任期満了まで務める方針に固執すれば、エジプト情勢は収まるまい。中東の不安定化は世界経済にも重大な影響を与える。エジプトの庶民の生活苦が募るのも痛々しい。「カオス」を収拾・回避すべく、ムバラク氏は速やかな辞任を決断してほしい。

エジプト政府の改革への意思が本物なら、国にまつわる暗いイメージを一掃すべきである。ジャーナリストへの襲撃などが横行しているのは、由々しき問題だ。先月26日から今月4日までに世界各国のジャーナリスト計101人が襲撃や拘束の対象になり、死者も出たという。こうした状況はムバラク政権の信用をますます失わせるだけだ。

またシャフィク首相は、いわゆる大統領支持派の反大統領派襲撃について謝罪したが、支持派の中には警察官の身分証明書を持つ者もいたという。ジャーナリストの襲撃、拘束に関与したとの情報もある。そもそも大統領支持派とは何なのか、その実体も明らかにしてほしい。

読売新聞 2011年02月03日

エジプト危機 混乱収拾へ政権移行を急げ

もはや速やかな退陣しか、道は残されていないのではないか。

連日膨れあがる一方の退陣要求デモに直面してエジプトのムバラク大統領が、9月に予定される次期大統領選への不出馬を宣言した。30年の独裁に終止符を打つ事実上の退陣表明である。

だが、これでデモが収まる気配はない。大統領支持派と反大統領派との衝突が新たに起きるなど、混乱はむしろ広がった。大統領は重大な決断を迫られている。

大統領は、腹心のスレイマン情報庁長官を副大統領に任命し、野党勢力との対話開始を指示した。野党候補の大統領選出馬を阻んできた憲法の改正も約束した。

だが、譲歩は遅きに失した感がある。事態は大統領の思惑をはるかに超えて、急進展している。

オバマ米大統領は「秩序ある権力移行」に直ちに着手するよう求めた。引導を渡した形だ。

政権の支柱である軍も、「平和的なデモに銃は向けない」と、大統領とは距離を置く姿勢だ。

治安部隊とデモ隊の衝突で、これまでに約300人が死亡したとされる。経済もまひしている。

これ以上の流血と混乱は避けなければならない。現政権側と野党勢力は、協力して平和的な政権移行に取り組むべきだ。

民主的で公正な次期大統領選が実施できるよう、政治活動の自由も保障する必要があろう。

野党勢力の中で、組織らしい組織を持つのは、イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」だけだ。野党間の足並みも、そろっていない。野党勢力の統合を試みているエルバラダイ前国際原子力機関事務局長も、求心力に欠ける。

平和的な政権移行へ、前途は険しいと見ざるを得ない。

エジプトの危機は、独裁を続ける中東の他の首脳に改革を促している。イエメンでは、大統領が続投や息子への権力継承を否定し、ヨルダンでは、国王が首相を交代させ、改革推進を指示した。

アラブ諸国で初めてイスラエルと和平条約を結んだエジプトは、中東地域の安定の要である。

だが、エジプトの政権移行が中東地域の不安定化につながるのではないか、という懸念が、欧米諸国やイスラエルにはある。

国民の反イスラエル感情は依然として根強く、ムスリム同胞団が台頭すれば、和平条約を見直す恐れがあるというものだ。

そうした不安を払拭する努力も政権移行期のエジプトには求められている。

毎日新聞 2011年02月03日

ムバラク大統領 「即時退陣」が民意だ

エジプト全土で盛り上がった「100万人デモ」の意味を、ムバラク大統領は理解しなかったようだ。デモ後に演説した大統領は、政界引退を表明したものの、次期大統領選が行われる9月までは職にとどまる意向を示した。しかし、デモで示された民意が「即時退陣」であるのは明らかだ。民衆の怒りの火に油を注ぐ演説になったのは残念である。

誰を指導者として、どんな政治を望むか。それはひとえにエジプト国民の選択であり、外国が指図することではない。だからこそ米政府も欧州連合(EU)も「秩序ある移行」に言及しつつ、大統領の辞任を声高に求めることはしなかった。仮にエジプト国民が大統領演説に納得して9月までの続投を許すなら、その選択は尊重すべきである。

しかし、そうなるかどうかだ。ムバラク氏も演説で権力の平和的移譲に努め、憲法改正など各種の制度改革を行うことを約束した。それ自体はいいが、野党勢力などがムバラク氏との対話を拒否する中で、どう改革を実行するのか。平和的な権力移譲を望むなら、速やかに身を引くのが最善の選択だ。

「居座り」に怒る民衆は、イスラム教徒が金曜礼拝に集まる4日、再び大規模デモを行う構えだ。1日のデモは、中立的な立場を取る軍が秩序維持に努めた。だが、4日までにムバラク氏が辞任せず、軍が民衆の暴徒化を防げないようなら、権力の平和的移譲どころか、国は修羅場と化す恐れもある。親大統領派と反大統領派の衝突も起き始めた。憂慮すべき状況だ。

無論、「ムバラク後」への不安も大きい。アラブ世界でイスラエルと最初に和平を結んだエジプトは、中東和平も含めて米国の中東政策に貢献してきた。後継の大統領候補には国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長らの名前が挙がっているが、新体制のエジプトが親米国家であり続けるかも含めて、先行きは不透明だ。

抗議行動の飛び火に先手を打つように、ヨルダンの内閣は総辞職した。イエメンのサレハ大統領は再選を求めないことを表明した。サウジアラビアなど湾岸の王国・首長国も同様の民衆運動を警戒している。在任約30年、82歳のムバラク氏が「私への評価は歴史が下す」と語ったのは、「勇退」を促した米国などを念頭に、「自分を見限っていいのか」と開き直ったように思える。

しかし、国民の信を失った指導者は去るしかなかろう。事ここに至って、大統領の速やかな辞任以外に事態を収拾する方法があるのか。

それをムバラク大統領に静かに問いたい。

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