社会保障改革 具体的な与党案を早急に示せ

朝日新聞 2011年02月06日

社会保障改革 年金以外へも視野を広く

社会保障と税の一体改革を議論する政府の「集中検討会議」がきのう始まった。6月に策定される政府与党案に、審議の結果を反映させる。

与謝野馨担当相は会議後の会見で「年金と医療が主旋律になる」と語った。まずは、各界の人を招き改革についての意見を聞くという。

だが、社会保障と税金の将来像を総合的に描き直すとなれば、検討対象はきわめて幅広くなる。6月までにそれを細かな部分まで設計するのは、いかにも無理がある。少子高齢化の進展に合わせて制度を手直ししていく必要もあるので、社会保障の改革は長い道のりになるはずだ。

改革の大きな構図をまず描いて、着手すべき優先順位をつける。そのうえで、早急に実施すべき課題から細かな部分を設計する――。こうした手順で与野党協議の条件整備をめざすのが現実的ではなかろうか。

年金と医療で「国民皆保険」が実現して今年で50年。社会の変化に伴いもろくなった部分を改革し、必要財源のめどをつけることが、制度を永続させるために最優先の課題だ。

年金でいえば、基礎年金の国庫負担を2分の1に維持するための財源確保が、それに当たる。

医療では、3600万人が加入する国民健康保険に注目してほしい。

創設当時に加入世帯主の7割近くを占めた農林漁業者と自営業者は、いまや2割ほど。無職の人と非正規労働者が7割を占める。会社を退職した高齢者や正規雇用からはじき出されたりした人が、国保に流れ込んでいる。

この結果、保険料を負担できない人が大幅に増えた。4日に発表された2009年度の財政状況によると、保険料の収納率は88%と過去最低を更新した。約2割の世帯が滞納し、実質的に無保険状態の世帯も30万ある。

保険料が集まらないので、所得のある人の保険料が急激に高くなって、しわよせがいく。負担をさらに上げるのは限界にきている。

結局、国保を運営する市町村は、保険料が不足する赤字分を年間3600億円ほど補填(ほてん)している。このままでは立ちゆかなくなるだろう。

高齢化や雇用の不安定化といった日本社会の弱さが、国保に集中している。同様の構図は、未納率が4割になる国民年金でも見られる。

道は険しい。いまの消費税収では、高齢者向けの医療・介護・年金の国庫負担分を賄うにも、10兆円近く足りないという現実がある。

いまは与野党の攻防戦のなかで年金問題にばかり焦点が当たっているが、このように緊急の課題はほかにも多い。集中検討会議ではぜひ、厳しい現実を正面から受け止め、優先順位をよく考えて議論を進めてほしい。

毎日新聞 2011年02月08日

税と社会保障 安心担保する番号制を

税制と社会保障の一体改革をめざすうえでポイントとなるのが、国民一人ひとりに番号を割り振り、行政事務に活用する番号制の導入だ。政府がその基本方針を決定した。

年金、医療、福祉、介護、労働保険、そして税の分野で利用され、年金手帳、医療保険証、介護保険証が1枚のICカードで代用できる。今秋にも番号法案を国会に提出し、15年からの実施をめざすという。

年金記録が照合できない消えた年金問題のように、共通の番号制度がないためにさまざまな問題が生じ、行政の非効率も指摘されてきた。

番号制の導入がこれまで見送られてきたのは、納税者番号という形でとらえられ、個人情報を国に管理されることへの不安や、情報流出への懸念などが理由となっていた。

しかし、財政の危機的状況は限界にきている。これからの少子高齢化の進展を考えると、税制と社会保障の一体改革は避けられない課題だ。

ただし、所得の低い人たちの負担を軽減するための措置についても同時に考えておかねばならない。消費税率の引き上げなど、国民の負担が増すことは避けられないが、各種の手当を支給するなどの形で、所得の低い人たちについては、支援する必要がある。

社会保障によるセーフティーネットが、必要な人たちに重点的に行き渡るようにするには、個人の所得情報を正確につかみ、どのような措置がとられているのか、または、とられていないのかが分かるようにしておかなければならない。

また、税や保険料の支払いと、医療や介護、年金などの形で受け取る分との関係が、個人単位でもよく分かるようになっていれば、社会保障制度に対する信頼も増すだろう。

安心できる社会を築くには、税と社会保障を共通の番号で管理する仕組みが不可欠だが、一方、この共通番号は、住民基本台帳ネットワークを活用する形で導入するという。

住基ネットについては、個人情報漏えいの可能性が指摘され、プライバシーの保護を保障した憲法に反するとして訴訟も相次いだ。最高裁は合憲の判断を示したものの、懸念が完全になくなったわけではない。

しかも、税や年金に加え、医療も含む個人情報が同じ番号で管理されるとなると、さらに慎重な制度設計が必要だ。

目的外利用を防ぐため、第三者機関によるチェックや自分の番号の使用履歴を確認できるようにするなどの措置をとるというが、徹底した監視制度や違反者への厳罰なども含め、安心のための仕組みが、不安の増幅につながることのないようにしてもらいたい。

読売新聞 2011年02月06日

社会保障改革 具体的な与党案を早急に示せ

社会保障制度の将来像を、どこまで具体的に描き出せるか。

政府・与党は5日、菅首相を議長とする「社会保障改革に関する集中検討会議」をスタートさせた。

議長補佐として検討会議を主導するのは与謝野経済財政相だ。

メンバーには、福田内閣で社会保障国民会議の座長を務めた吉川洋・東大教授、麻生内閣で安心社会実現会議の座長だった成田豊・電通名誉相談役ら、自公政権で政策提言を担った識者が何人も加わった。与謝野氏の人選という。

民主党内には、「これでは政権交代した意味がない」との批判もあるようだ。

だが、こうした見方は狭量である。社会保障政策は、外交・安全保障と同様、国の根幹にかかわる重要な政策だ。与野党が対立する問題ではない。将来を方向づける政策が政権交代で大きく変わるようでは、国民は安心できない。

その意味で、自公政権と同じ顔ぶれでも不思議ではなかろう。

国民会議と安心会議は、いずれも、かなり中身の濃い報告書をまとめている。

国民会議は、年金・医療・介護・少子化対策をトータルで見た将来見通しを検討し、いくつかの選択肢を必要な追加負担額と共に示した。2015年度に確保すべき新たな財源は消費税率で3~11%分になる、と試算している。

安心会議は、消費税を社会保障目的税とし、新設する「社会保障勘定」に入れて他の税とは管理を別にすることで、負担した税が確実に国民に還元される仕組みを明確にするよう提言している。

二つの会議の座長が今回の検討会議に加わる意味は大きい。両会議の試算や提言をすべて引き継ぐということだろう。積み上げた議論を生かし、早急に改革原案をとりまとめるべきだ。

菅首相はそれをもとに、年金など社会保障の基本方針を4月までに、税制を含む一体改革の全体像を6月までに示すとしている。

消費税率の具体的な引き上げ幅と実施時期を明示することはもちろん、民主党が掲げてきた現実味のない年金一元化構想や、子ども手当の再検討も不可欠だ。

民主党内には与謝野氏への反感が根強くある。検討会議に柳沢伯夫・元厚生労働相が加わったことも反発に拍車をかけている。

だが、財政危機の深刻さを考えれば、社会保障制度の見直しは待ったなしだ。感情的対立で社会保障改革の議論を遅らせたり、ゆがめたりしてはならない。

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