新燃岳噴火 万全の警戒と支援が必要だ

朝日新聞 2011年02月04日

新燃岳噴火 降灰の町の住民に支援を

宮崎・鹿児島県境にあり、火山が連なる霧島連山の中央部に位置する新燃岳(しんもえだけ)の活動が活発化し、爆発的な噴火を繰り返している。もくもくと上がる黒い噴煙に自然のエネルギーと脅威を改めて実感させられる。

鹿児島地方気象台によると、地下のマグマが上昇して噴き出す「マグマ噴火」はこの火山では、記録に残る江戸時代の「享保噴火」以来、約300年ぶりだ。一日も早い終息を祈りたい。

噴煙は上空2千~3千メートルに達し、火口周辺の市や町に火山灰や小さな噴石が大量に降り注ぐ。車が路面の火山灰を巻き上げると数十メートル先が見えなくなるほどだ。斜面では雪道のようにタイヤが滑る。

新燃岳から東へ約10キロ離れた宮崎県高原町では、住民約350人が避難する事態になっている。県や地元の市町はこれまで通り、住民の安全確保を最優先に対策をとってもらいたい。

高原町は畜産の町だ。約560戸が肉牛など約1万頭を飼育している。昨年、隣の都城市で口蹄疫(こうていえき)感染が確認されたときは、町のほぼ全域で一時、家畜の搬出が制限され、ようやく牛を出荷できるようになったばかりだ。

「今年はいい年に、と思っていた。どうして宮崎ばかり……」。塩入桃子さん(43)は、約1300頭の牛を夫と飼育する。降り積もる火山灰や小さな噴石の雨が牛に影響を与えないか。不安を隠せない。

高原町の避難勧告区域に住む養鶏農家の宮本敏郎さん(31)は、鶏舎で6万羽のブロイラーを飼育する。県内で鳥インフルエンザが相次ぎ、自らの鶏舎で発生させまいと、消毒用石灰を散布して注意を払ってきた。

だが噴火のために、鶏舎のまわりの石灰が見えないくらいに、火山灰が5センチも積もった。噴火と鳥インフルとの両面の闘いを強いられている。「天災だからあきらめるしかない」と宮本さんは話している。

宮崎県が被っている経済的損害は甚大である。政府は支援の手をいかに差し伸べるか知恵を絞ってほしい。

新燃岳は活発な噴火活動を続けてきた。1716年の享保噴火は断続的におき、収まるまで1年半かかった。この間、60人以上の死傷者と600棟以上の焼失家屋などを出した。

降り積もった大量の火山灰が雨で流されて土石流が発生する恐れもある。火山の噴出物による二次災害も含めた対策を総合的に考える必要がある。

長崎県の雲仙・普賢岳では、噴火から約7カ月後に火砕流による大惨事がおきている。自然の猛威の前に人知は遠く及ばない。この事実をあらためてかみしめたい。

噴火がいつまで続くかわからない。長期戦を覚悟し、その備えと、地元の人たちを支える仕組みを整えたい。

読売新聞 2011年02月02日

新燃岳噴火 万全の警戒と支援が必要だ

52年ぶりに火山活動が活発化した霧島連山の(しん)(もえ)岳が、爆発的な噴火を繰り返している。

爆発的な噴火が続いて起きた1日には、火口の溶岩ドームが一部壊れ、噴煙が上空約2000メートルに達した。

噴火の衝撃で空気が揺れる空振が麓の鹿児島県霧島市などで観測され、窓ガラスが割れる被害が相次いだ。同市内の病院では、散乱した破片で女性がけがをした。

今のところ、こうした激しい噴火活動が静まる見通しは立っていない。政府と鹿児島、宮崎両県、周辺の市や町は被害の防止に万全を期してほしい。

最も心配されるのが噴石、そして火砕流の被害だ。火口から4キロ離れた場所で、直径50センチの噴石が確認された。3キロ離れた山林には、噴石の直撃で直径5メートル、深さ2メートル以上の大穴ができた。

岩石などが高温の火山ガスとともに斜面を下り落ちる火砕流も、いつ発生するか分からない。

大量の降灰も続く。長い間吸い込むと、呼吸器官などに健康被害が出る恐れがある。

現在、火砕流の警戒範囲は3キロに、入山規制は4キロに設定されている。今後の状況変化に応じ、住民の避難範囲を拡大するなど、機敏かつ柔軟な対応が必要だ。

新燃岳は、江戸時代の1716年から翌年にかけ、大規模噴火を繰り返したと記録されている。

今回の噴火でも、観測の結果、地下深くから大量のマグマが上昇していると推定されている。300年前と同様、何か月にもわたって大規模な噴火が起きる恐れもあるという。

財源難で近年、各地の火山活動の監視は手薄になっている。新燃岳もデータの蓄積が十分とは言えない状況だ。新たな観測装置を追加するなど、監視態勢の充実も急がなければならない。

鹿児島、宮崎両県では、農地への降灰で、収穫前のキャベツや白菜などの作物に被害が出ている。空の便に欠航が相次ぎ、温泉地の予約のキャンセルが増えるなど、経済的な損失も膨らんでいる。

宮崎県は昨年、口蹄疫(こうていえき)の流行で牛、豚農家が壊滅的な被害を受けた。いまだに本格的な事業再開には至っていない。先月には、鳥インフルエンザが、同県と鹿児島県の養鶏業者に打撃を与えた。

災厄が次々、この地域を襲っている。住民は将来への不安を募らせている。

政府には、住民生活や経済活動への影響を最小限に抑えるよう、きめ細かな支援が求められる。

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