角界にまた、新たな疑惑が持ち上がった。大相撲の現役力士が、勝ち星を売り買いする八百長を行っていた疑いが明らかになった。
警視庁が相撲界の野球賭博事件を捜査する過程で、力士らの携帯電話に八百長をうかがわせるメールの記録が残っていることが分かった。
メールには、立ち合いなど土俵での流れや星の売買とみられる数字など、生々しい内容が書かれていたという。
野球賭博事件と次元が違うのは、問題が「土俵の中」であることだ。
関与が疑われる力士らは十数人にのぼる。実際に現金やなれ合いの取組による星のやりとりがあったのだとすれば、ファンへの背信であり、大相撲の根幹を揺るがす重い事態である。
日本相撲協会はきのう、この問題を調査する特別委員会を作った。委員は外部の有識者に頼んだ。
八百長に関与したとされる力士への聴取に加え、疑われる取組をビデオで検証するなど、早急な調査が求められるのは言うまでもない。
その上で事実関係を明らかにし、土俵を売った者に処分を科さねば、来月に迫った大阪での春場所開催は到底、世間の理解を得られまい。放駒理事長は全力士への調査にも言及した。調査の行方次第では、場所の休止も視野に入れねばならない非常事態だ。
過去、八百長については元力士が証言したり、週刊誌が疑惑を報じ、裁判になるなど、何度も取りざたされてきた。国会で疑惑が追及されたこともある。一方で「昔から星のやり取りはある。相撲なんてそんなもの」といった冷めた見方をする向きもある。
だが、協会は八百長を終始否定してきた。お金を払って場所に足を運ぶファンも、鍛え上げた力士同士の白熱した勝負をこそ、楽しみにしてきた。
昨年、白鵬が双葉山の69連勝に迫ったとき、多くの関心が集まった。連勝は63で止まったが、不滅の記録に挑んだ若き横綱の健闘を人々はたたえた。それは、土俵が「見せ物」ではなく、真剣勝負を挑む場である、ということが大前提としてあったからだ。
今回の疑惑は角界が神聖視する土俵を自ら汚し、真剣勝負を堪能してもらおうと日々鍛錬を積んでいる多くの力士の努力を踏みにじるものでもある。
立行司は腰に短刀を帯びる。軍配を差し違えた時、腹を切る覚悟を示すためと聞く。疑惑の力士にはそんな気概も、勝負への敬意もないのだろうか。
「協会新生の年となるよう、全力で努める」。初場所初日、放駒理事長はこうあいさつし、不祥事からの信頼回復をファンの前で誓ったばかりだ。
様々な問題が起きても、多くの人が相撲を愛し続けてきた。しかし、今度という今度は、冷え切った心はたやすく元には戻らないのではないか。
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