ドーハの歓喜 真のアジア王者目指せ

朝日新聞 2011年01月31日

アジア杯制覇 この勢いでピッチの外も

決勝のゴールを決めた李忠成選手のボレーシュートは、胸がすく完璧な一撃だった。サッカーのアジアカップ決勝で、日本代表が豪州を延長戦の末破り、2大会ぶりに頂点を極めた。

昨年、南アフリカでのワールドカップ(W杯)で16強入りし、日本中を熱狂させた時を思い起こさせる、歓喜あふれる優勝だ。

舞台のドーハは日本サッカー界因縁の地である。1993年の米国W杯アジア最終予選、イラク戦で終了間際に追いつかれ、W杯初出場を逃した。「ドーハの悲劇」と呼ばれてきたが、そんな過去も一蹴した。

14年ブラジルW杯へ向け、チームを勢いづける価値ある優勝だ。

「素晴らしい団結力だ。成長しながら、団結しながら勝利をつかんだ」。ザッケローニ監督がこう話した通り、日本代表には、主力も控えもない強固な連帯感と厚い信頼感があった。

李選手は延長戦からの出場で、決勝点は代表初ゴールだった。彼に象徴されるように、代表経験の浅い選手の働きも主力に劣らなかった。李選手ら4人が今回、代表初得点を挙げている。

全選手に気を配る指揮官のこまやかさと的確な采配、そして監督の意をくみ、準備を怠らない選手の高い意識がかみ合っての栄冠と言える。

王座に返り咲くまで、楽な試合はひとつもなかった。退場者を出すゲームが2度、相手を追う展開が3度あった。準決勝ではここ5年半、5度の対戦で1回も勝てなかった韓国に対し、PK戦の末、勝利をもぎとった。

W杯で苦しんで得た自信と、まだ高みを目指せるという向上心。今の代表に満ちている前向きなベクトルが、苦闘を勝ち抜いた原動力だろう。

サッカーの本場欧州から見ても、もう「遠いアジア」ではない。南アW杯で日本と韓国が16強入りしたように、躍進する国が増えている。アフリカが優れた人材供給源と目されたように、熱い視線がいまアジアに注がれる。

今大会、欧州のスカウトがこぞって有能な選手の動きを追った。中でも、日本の選手は小柄ながら俊敏で技量が高く、団結力にも優れる――。そんな個性を改めて印象づけた。日本への注目は今後、従来以上に増すだろう。

ピッチ上で躍動した日本だが、大会直前に開かれたアジアサッカー連盟選出の国際サッカー連盟理事選で、田嶋幸三・日本協会副会長が落選した。22年W杯招致失敗に次ぐ敗戦で、サッカー界での発言力低下は必至だ。

東京五輪招致にも失敗したように、日本スポーツ界の国際的な影響力低下が著しい。世界での発言力が落ちている日本を象徴するようだ。

再度目指そうとしているW杯招致に向け、芝の外でも存在感を増す戦略が日本サッカー界には求められる。

毎日新聞 2011年01月31日

ドーハの歓喜 真のアジア王者目指せ

長らく日本サッカーにとって「悲劇」の舞台として刻み込まれていたカタール・ドーハがサムライ・ジャパンの歓喜の地に変わった。

日本時間30日未明に行われたサッカー・アジアカップ決勝。日本は延長後半、途中出場の李忠成選手が決勝ゴールを奪い、オーストラリアを1-0で降し、2大会ぶり4度目のアジア王者に返り咲いた。

過去3度、アジアカップを制している日本だが、今回の優勝は格別に感慨深いものがある。その理由は二つあるように思える。

一つはアジア全体のレベルが上がり、1次リーグの初戦から手に汗握る好試合が続いたことだ。とりわけ準々決勝以降のカタール、韓国、オーストラリアと続いた3試合は両チームの実力が伯仲し、一瞬たりとも目が離せないスリリングな試合内容だった。苦しみが大きかった分、喜びも大きかった。

もう一つは昨年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会後、イタリア人のザッケローニ監督を迎え、メンバーも若返った日本代表が、3年後のW杯ブラジル大会に明るい望みをつないだことだ。

大会途中で松井大輔選手と香川真司選手が故障で戦線を離脱。戦力の低下が心配されたが、控えメンバーが見事に穴を埋めた。試合ごとにヒーローが入れ替わったのは、控えメンバーを含めチームが一丸となって戦った証しだろう。また昨年秋の就任以来、短期間で日本選手の特徴をつかんだザッケローニ監督の手腕に負うところも大きかった。

今回の優勝で2年後、ブラジルで行われるコンフェデレーションズ杯にアジア代表として出場することも決まった。世界の強豪とW杯の本番1年前に手合わせする機会を得たのは大きな財産となる。

18年前、ドーハで行われたW杯米国大会アジア地区最終予選のイラク戦。日本はほぼ手中にしていた初のW杯切符をロスタイムの同点ゴールで逃した。その因縁の地で新生日本代表が幸先良い船出を飾った。

ただ、今回の優勝で、日本がアジア王者として大きな責任を背負ったことも忘れてはならない。

大会前に行われたアジア・サッカー連盟(AFC)の役員改選でAFC選出の国際サッカー連盟(FIFA)理事のポストを日本は失った。アジアカップを制した勝因以上に役員改選における日本の敗因をしっかり検証する必要がある。

競技力でアジアサッカーをけん引するだけでなく、アジアのサッカー発展に向け、日本がどのように貢献できるのか。日本は今後、アジアの仲間から信頼される真のリーダーを目指さなくてはならない。

読売新聞 2011年01月31日

アジア杯優勝 日本サッカーの進化を見た

アジアのチャンピオンの座をチーム一丸となって奪回した。優勝カップを高く掲げる選手たちの笑顔は輝いていた。

サッカーのアジア杯決勝で、日本はオーストラリアを1―0で下し、2大会ぶり4度目の優勝を果たした。

暗い話題が多い中、久しぶりに胸がすくニュースである。私たちに元気を与えてくれた代表選手たちの奮闘をたたえたい。

決勝は一進一退の息詰まる展開だった。日本は豪州の高さを生かした攻撃に苦しんだが、GKの川島永嗣選手らが、再三のピンチを体を張って防いだ。

延長後半、勝負を決めた李忠成選手のボレーシュートは見事だった。左サイドを突破して李選手のゴールを演出した長友佑都選手のスタミナにも驚かされた。

ザッケローニ監督は「最高のチーム。日本の皆さんもこの代表チームを誇りに思ってほしい」と語った。屈強な相手にひるまず立ち向かった選手たちを、誰もが頼もしく思ったに違いない。

昨年のワールドカップ(W杯)で、日本はベスト16入りを果たした。今回の代表チームの核になったのも、長友、川島選手のほか、本田圭佑、長谷部誠選手らW杯のメンバーだった。

世界最高の舞台で、期待以上の成績を残した経験が、大きな自信になったのだろう。彼らは、劣勢になっても浮足立たずに挽回する勝負強さを身に着けていた。

その最たる試合が、準々決勝のカタール戦だった。開催国相手の独特の雰囲気の中、警告による退場で1人少ない日本は、1点を追う苦しい展開となった。それでも2点を奪って逆転した。

準決勝の韓国戦も延長終了間際に追いつかれ、PK戦となったが、川島選手が立て続けに相手のPKを止めた。際どい勝負を制することで、チームの結束が一段と強まった。それが、監督や選手たちが口にした「成長」であろう。

決勝トーナメントのテレビ中継は、時差の関係から深夜、未明だったにもかかわらず、高い視聴率を記録した。

試合のたびに強くなる日本チームに、昨日未明も大勢の国民が必死の声援を送ったことだろう。

アジア杯を制したことで、2014年W杯への期待も膨らむ。その予選は今秋から始まる。アジアの各国は「打倒日本」を目指し、研究を重ねてくるはずだ。

日本代表選手たちも一層、技を磨き、進化したアジア王者の力を見せつけてほしい。

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