菅首相がスイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、日本の貿易自由化を強力に推し進める「平成の開国」を表明した。
事実上の国際公約になった開国の実現へ、政府は環太平洋経済連携協定(TPP)などへの対応を急がねばならない。
ダボス会議は毎年、世界の政治リーダーやトップ経営者などが集まり、重要課題を議論する。
国会の合間に首相が強行日程で出席したのは、日本のメッセージを直接発信するのが狙いだ。
首相の講演タイトルは、「開国と絆」だった。明治維新と戦後に続く「第3の開国」を強調し、日本再生を目指すとした。
施政方針演説などで繰り返してきた内容と同じだが、とくにダボスで明言した意義は大きい。
首相が具体的に言及したのはまず、約10年も難航している世界貿易機関(WTO)の新ラウンド(ドーハ・ラウンド)推進への取り組みだった。
新ラウンドは、日米欧の先進国と新興国などが農業と鉱工業品分野の関税引き下げで対立し、2008年夏から決裂状態にある。
同時に開催されたWTO非公式閣僚会合には、海江田経済産業相らが出席し、7月までに大筋合意を目指すことで一致した。
来秋は米大統領選があり、米国が交渉に動きにくくなることから今年は最後のチャンスとみられる。合意に向けて、日本は積極的に交渉に臨むべきだ。
首相は6月をメドに、TPP参加の結論を出す方針も重ねて示した。1月の日米協議では、今秋の交渉決着を狙う米国の意向が明確になった。日本の参加が決まらないうちに、交渉が加速していることに危機感を持つ必要がある。
貿易自由化と農業再生の両立を図る方針も首相は強調した。
農業改革は、TPPの参加決定や、新ラウンドに弾みを付ける共通の課題だ。指導力を発揮して国内調整を急がねばならない。
首相は、今春をメドに、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉を始めたい意向も示した。EUの関心が高い日本の非関税障壁の早期撤廃などの検討が求められよう。
一方、首相は、財政健全化に向けた試みや、米格付け会社による日本国債の格下げ問題には言及しなかった。
社会保障と税の一体改革の動きなどを説明し、世界の市場にくすぶる不安を払拭するチャンスを生かせなかったのは残念だ。
その舌の根も渇かないうちに、次の約束を、しかも国際公約なんてしてしまっていいのだろうか。