原子力の安全 監視役は独立でなければ

朝日新聞 2009年10月04日

原子力の安全 監視役は独立でなければ

茨城県東海村のウラン加工会社ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故から10年になる。

この節目が歴史的な政権交代と重なったことを、原子力の安全行政を見つめ直す絶好の機会ととらえるべきではなかろうか。

経済産業省の原子力安全・保安院が現場に目を光らせ、内閣府の原子力安全委員会が保安院の判断の妥当性を審査する。現在の安全行政は、そんな体制になっている。

まず、原子力の安全性を高める上で保安院はどうあるべきかを考え直さなければならない。

保安院は01年1月の省庁再編で発足した。JCO事故をきっかけに安全規制への不信感が広がるなか、旧通産省や旧科学技術庁などに分散していた原子力の規制部門をまとめ、組織や人員を強化したうえでの船出だった。

原発の定期検査や耐震チェックを担うほか、原子力施設が事故や地震に見舞われた際は、トラブルの原因究明や再発防止策を点検する。

問題は、原子力行政の推進役をつとめてきた経産省の所管の下に置かれている点だ。それで客観的な規制ができるのかという懸念は根強い。

朝日新聞社が昨年、原発がある21市町村の首長に保安院のあり方を尋ねたところ、12人が組織上の改善を求め、うち8人は経産省からの分離・独立が必要だとした。視線は厳しい。

自民党政権は「原子力を慎重に進めるためには推進官庁の内側にブレーキがいる」という理屈で保安院の改革に手をつけてこなかった。「規制と推進は分離されている」と国際原子力機関(IAEA)に評価されたことも、現状維持の支えになっている。

だが、1人の大臣が推進と規制という相反する仕事を受けもち、人事交流で幹部職員が両部門を行き来するような体制が理想的とは言いがたい。安全行政の信頼性を高めるには、保安院を経産省から切り離すべきだ。海外でも規制部門の独立は一般的である。

民主党は現行制度を抜本的に見直すと言ってきた。鳩山政権は、保安院の経産省からの分離を最優先に取り組まなければならない。

こうした改革は、安全委の強化とセットでないと意味がない。

安全委の法的権限を強め、その下に保安院を移す形で規制部門を一本化する。そんな案が効果的だろう。元原子力安全委員会委員長代理の住田健二氏も先月24日の本紙「私の視点」で、同じような趣旨の主張をしている。

安全委を強めるには、技術面の鑑識眼も高める必要がある。メーカーや電力会社に頼らず、独自に安全性を判断できる力をつけなければ看板倒れだ。

原子力安全の担い手を、名実ともに独立させなければならない。

毎日新聞 2009年10月05日

臨界事故10年 終わりなき安全対策

「ウラン溶液をバケツで容器に入れていたら青い光が見えた」。10年前の1999年9月30日、茨城県東海村で起きた臨界事故で、作業員が語った言葉は衝撃的だった。核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所」は、違法な作業マニュアルを作り、そのマニュアルさえ逸脱した作業を続けていた。

原子力の「安全神話」が崩壊した前代未聞の事故をきっかけに、原子力の安全管理体制は強化された。しかし、安全対策に終わりはなく、改善を重ねる努力が欠かせない。

たとえば、安全規制の体制はこのままでいいのか。事故後の01年、省庁再編で安全規制を担当する原子力安全・保安院が経済産業省に置かれた。経産省は基本的に原発推進の立場であり、その中に規制当局が存在する矛盾は解消されていない。

原子力災害対策特別措置法も制定され、全国22カ所に緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)が設置された。だが、施設によっては内部の人が被ばくする恐れがある。新潟県中越沖地震の際には使われず、有効活用の体制に疑問もある。

原子力事業者の意識や組織体質にも課題が残る。当時、JCOでは、作業員への安全教育がほとんど行われず、法律を守る意識も薄かった。「安全より効率」の体質は、04年に5人の作業員が死亡した関西電力美浜原発の高温蒸気噴出事故、07年に複数の電力会社で発覚した事故隠しやデータ改ざんにもみられた。規制が強化されても、組織体質が変わらなければ安全性は保てない。

温暖化対策を念頭に二酸化炭素をほとんど出さない原発に注目する動きもある。しかし、中越沖地震で想定外の揺れに見舞われた柏崎刈羽原発は長期停止し、二酸化炭素の排出増加につながった。地震国日本はどこでも大きな地震が起きる可能性があり、原発頼みの対策は危険だ。

原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して燃やす国策「核燃料サイクル」も先行きが不透明だ。青森県六ケ所村の再処理工場も、95年にナトリウム漏れ事故を起こした高速増殖炉「もんじゅ」も、トラブル続きで完成や運転再開が何度も延期されている。

プルトニウムとウランの混合燃料を軽水炉で燃やす「プルサーマル」計画も遅れ続けた。九州電力玄海原発3号機で初の導入が予定されているものの、延期の請願などを審議している佐賀県議会の要求で、燃料取り付けが延期された。

連立政権では、「原子力利用に着実に取り組む」民主党と、「脱原発」の社民党で立場が異なる。しかし、民主党も「安全」「国民の理解と信頼」は大前提だ。臨界事故の教訓を今後も風化させてはいけない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/64/