代表質問 「解散」とはまだ早すぎる

朝日新聞 2011年01月27日

谷垣質問 「解散が条件」理はあるか

谷垣禎一自民党総裁が衆院の代表質問で、消費税を含む税制の抜本改革について、菅直人首相が衆院解散・総選挙に踏み切らなければ与野党協議には応じないという考えを示した。

「今年は解散に追い込む」としていたこれまでより、対決姿勢を厳しくした発言だ。首相は「解散はまったく考えていない」とはねつけたから、協議に入るめどは立たないままである。

結果として問題が先送りされ、財政や社会保障の危機を深めることにならないか。論戦を聞いて、そんな懸念を強く抱く。

谷垣氏の主張はこうだ。抜本改革にあたっては国民の信を問うと、首相自ら述べていたではないか。無駄の排除で財源を賄えるという主張を覆し、消費税を引き上げるなら、成案を得る前に解散すべきだ――。

首相がその言葉を守るべきなのは当然である。きのうも「消費税の引き上げを実施する際には、国民の審判を仰ぐ方針に変更はない」と答弁したことを覚えておこう。

しかし、協議にも入らず、改革の姿も示さないまま総選挙を急ぐことに、どんな意味があるだろうか。

税制抜本改革のため、2011年度までに法を整備するという改正所得税法を成立させたのは自公政権であり、菅政権もこれに沿って対応するとしている。この問題で、2大政党の違いがどこにあるかは見えにくい。いまのまま総選挙を迎えれば、有権者はどう判断すべきか戸惑うだろう。

まず与野党が協議し、論点を煮詰めることである。合意を得られればそれでよし。仮に得られなかったとしても違いが明確になる。それを避けたままの総選挙は、政策で争い、改革の中身を審判する機会にはなりえない。

民主党政権が思うように財源を捻出できず、マニフェスト(政権公約)をそのまま実現できていないのは事実である。率直に認め、謝るべきだろう。

だからといって、それがただちに「政権選択」をやり直さなければならない理由になるかどうかは疑わしい。前回の総選挙から1年半にもならず、衆院議員の任期半ばに満たない。

頻繁な国政選挙は政治に深刻な副作用をもたらしかねないことに留意すべきだ。総選挙、参院選、それに与党の党首選。日本では首相をすげ替える力を持つ機会が目まぐるしく訪れる。

その弊害は、このところの短命政権続きを見れば明らかだろう。政治が「選挙目当て」に傾き、腰を据えた政策遂行を難しくしてもいる。

有権者が十分に考え、判断するには一定の期間が必要だ。その間に争点を明確にし、投票の材料を提供するのが与野党の役割である。それを怠れば、民主主義が時々の空気や感情に流される浅薄なものになりかねない。

毎日新聞 2011年01月27日

代表質問 「解散」とはまだ早すぎる

いずれ、その時が来るかもしれないが、国会冒頭からとはいささか勇み足ではないのか。

国会は26日、衆院本会議で菅直人首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まった。自民党の谷垣禎一総裁は、菅首相が呼びかける税と社会保障の一体改革のための与野党協議について、民主党マニフェストの撤回だけでなく衆院の解散・総選挙を協議参加の前提条件にしたい、との構えを明らかにした。

谷垣氏はその理由として、一体改革は民主党マニフェストとは根本的に相いれずそのけじめとして改めて国民の信を問うべきだと力説した。

これに対して菅首相は、当面は国民生活を改善するための予算、関連法案成立に全力を傾注、解散は一切考えていない、としたうえで、総選挙で国民の信を問うのは「消費税を引き上げる時、またはそれに匹敵する税制改革をする場合」と述べた。

菅首相は、一体改革の段取りについて、(1)全世代対応、未来投資、雇用促進、安定財源確保などいわゆる5原則に沿って4月までにあるべき社会保障制度の方向性を決める(2)6月までにその具体的な制度設計と消費税を含めた税制抜本改革の基本方針を示す(3)成案を作る過程で野党側の意見も求めたい--との考えを示し、与謝野馨経済財政担当相がその際には政治が自ら身を切る覚悟を示し、行政の無駄を徹底的に省くことが肝要、と補足した。

さて、双方の姿勢が明確になった。消費税率引き上げを含めた一体改革の実現に当たっては解散・総選挙で国民の信を問う必要がある、との認識が一致点だ。これは理解できる。ただ、解散を約束しなければ与野党協議に乗れない、とも受け取れる谷垣氏の主張はいかがなものか。解散権が首相の専権事項であることは、長く政権を担当してきた自民党が最もよく理解するところだろう。しかも、首相は解散の時期を明示した。谷垣氏が強調するように一体改革議論で自民党案の方が先行しているのであれば、なぜ協議の場に出し惜しみするのか。よりよい案として切磋琢磨(せっさたくま)される方が国民の利益になるのは明らかだ。協議を入り口から拒むことなかれ、と改めて要望したい。

自民党の知恵をいただきたい、と民主党ももっと腰を低くしたらどうか。菅首相は答弁で「これまでの姿勢で反省すべきは反省する」と言うが、もっと態度で示すことだ。

小沢一郎・民主党元代表の問題も俎上(そじょう)に上った。小沢氏が政治倫理審査会での説明に応じていないことについて首相はあくまでも国会での説明の場が必要だと明言した。その経過も見守りたい。熟議をどう実現するのか。国民もそれを見ている。

読売新聞 2011年01月27日

代表質問 対決だけの政治は機能しない

衆参ねじれ国会の下、与野党がいたずらに対決するばかりでは、政治の機能不全が続くだけだ。協調すべき点では協調する、という建設的な対応が与野党双方に求められる。

菅首相の施政方針演説に対する各党代表質問が始まった。

自民党の谷垣総裁は、民主党の衆院選の政権公約について「憲政史上最大の確信犯的な公約違反」と厳しく批判した。

さらに、「公約の過ちを認め、有権者におわびしたうえで信を問い直すべきだ」として、早期の衆院解散・総選挙を要求し、菅政権との対決姿勢を鮮明にした。

菅首相は、「公約の多くは実施・着手されている」と反論し、早期解散を否定した。ただ、今年9月までに公約を「検証」し、「見直す時は、国民に丁寧に説明し、理解を得たい」とも語った。

首相の認識は甘い。200兆円余の総予算を組み替えれば、必要な16・8兆円の財源を捻出できるとした公約の破綻は既に明白だ。それでも「検証」と強弁するのは問題の先送りでしかない。

6月に消費税を含む税制抜本改革案をまとめるなら、それと並行して公約の全面見直しに取り組むのが筋である。過去の誤りを率直に認め、国民に謝罪することから出直しを図るべきだ。

谷垣総裁は、与謝野経済財政相の入閣について「閣内不一致はないか」と追及した。首相は、6月に成案を得る段階では「内閣の不統一はあり得ない」とかわした。

谷垣総裁の指摘通り、消費税率引き上げを持論とする与謝野氏と民主党の足並みがそろっているとは言い難い。首相は、与謝野氏を入閣させた以上、消費税率引き上げを改革案に盛り込む方向で意思統一を急がねばなるまい。

首相は、社会保障と税の一体改革での与野党協議を改めて呼びかけたが、谷垣総裁は、衆院解散が条件として、事実上拒否した。

協議に応じ、成案をまとめれば、結局は菅政権の得点となってしまう、という判断だろうが、それだけでは責任政党と言えない。

仮に自民党が衆院選で勝利し、政権を奪還しても、今の参院の議席構成のままでは、たとえ公明党と連立を組んでも、少数与党となり、ねじれ国会に直面しよう。

そうした不毛な展開を避けるには、重要な政策課題では与野党が一定の協力をする慣例を作る必要がある。それには、まず菅政権が政策面で大胆な譲歩をすることが欠かせない。自民党も、党利党略優先の対応は自制してほしい。

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