朝日新聞 2011年01月26日
鳥インフル 力をあわせ、封じ込めを
高病原性インフルエンザウイルスのニワトリへの感染が広がっている。
宮崎県の2カ所の養鶏場で見つかって約42万羽が殺処分されることになったのに続き、鹿児島県出水市でもその疑いが出てきた。国内最大のツルの越冬地である出水市では昨年12月、絶滅危惧種のナベヅルがこのウイルスに感染したのが見つかっており、ニワトリへの感染が心配されていた。
同じ昨年12月には、島根県でも感染が見つかって約2万羽のニワトリが殺処分された。宮崎県で口蹄疫(こうていえき)の流行を食い止めるために30万頭近い牛や豚が殺処分されたことも記憶に新しい。
家畜の大量処分は、精神的にも経済的にも、大きな痛手となる。感染防止策を再点検することはもちろん、これ以上の広がりを防ぐために万全の対策を取ってほしい。
ほかの地域も決して油断できない。シベリアから渡ってくる野生のカモが運んでくるとみられるウイルスは昨年秋以来、北海道や鳥取県など全国各地の野生の鳥で確認されている。宮崎のウイルスの遺伝子を調べたところ、これらとほぼ同一で、ウイルスはかなり広がっているといっていい。
感染があった養鶏場では、野鳥の侵入を防ぐ網に穴があったり、鶏舎に入る際の消毒が徹底されていなかったりといった問題もあったようだ。野鳥が入り込まないよう工夫するとともに、フンなどに触れた人や物から感染が広がらないよう、厳重な防疫策がいる。
このウイルスは、家畜の世話などで濃厚な接触をした人の感染例がアジア各国で少数あるが、普通は人に感染しない。ただし、人のウイルスと混ざったり変異したりすると、人に感染しやすくて毒性の強いウイルスが生まれる可能性があり、警戒を要する。
一昨年に新型の豚インフルエンザが現れて世界的に流行したが、それまで新型として警戒されていたのは、この鳥のウイルスの変異だった。アジア各国では、ニワトリでの流行が続いており、変異の可能性は依然としてある。
ただしウイルスは熱に弱く、加熱すれば、仮に肉や卵を食べてもまず問題はない。消費者は冷静に対応したい。
強い毒性を持つウイルスは本来、広がりにくい。宿主を次々に殺してしまっては、自分も生き延びることができないからだ。ニワトリの大量飼育が、毒性の強いウイルスが広がる環境を生み出した側面もある。私たちの食を支える仕組みと社会の安全を、力をあわせて守らなくてはいけない。
同じウイルスでも、野鳥に感染すれば環境省、ニワトリなら農林水産省、人なら厚生労働省、また、研究なら文部科学省と、それぞれ担当が分かれている。こんな縦割りでは脅威に対抗できない。野鳥の監視からウイルス研究まで、連携して当たってゆきたい。
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毎日新聞 2011年01月25日
鳥インフル 防疫対策の再点検を
A型インフルエンザのウイルスは、元をただせば野生の水鳥が持っている。これが、ニワトリに感染したり、種の壁を越えて人に感染するようになると病原性が問題になる。
宮崎県の養鶏場でニワトリへの感染が明らかになった高病原性のH5型鳥インフルエンザウイルスは、ここ何年もアジアを中心に家きん類で流行を繰り返してきた。昨年1年をみても、バングラデシュ、ネパール、ベトナム、イスラエル、韓国など、多数の国で流行している。
いつ、日本で流行が起きても不思議はない状況で、実際、昨年も島根の養鶏場で発生した。今年に入り、宮崎市佐土原町で発生した後、同県新富町で感染が確認された。今後も、他の地域に飛び火したり、新たに感染が発生する恐れは否めず、全国的に警戒が必要だ。
感染ルートのひとつとして考えられるのは渡り鳥だ。昨年10月には北海道稚内市で野生のカモのふんからH5N1型ウイルスが見つかった。その後も、鳥取県のコハクチョウや、鹿児島県の出水平野のツル、福島県の渡り鳥などから強毒のH5N1型が検出されている。
渡り鳥の営巣地が強毒のH5型ウイルスで汚染されている可能性もあり、養鶏場の防鳥ネットのチェックなどを怠らないようにしたい。野鳥が入り込めない鶏舎への切り替えも検討課題だ。
ウイルスは人間や乗り物などに付着して運ばれていくこともある。大量の人が世界を移動する現代では、海外の流行地からウイルスが運ばれてくる恐れは常にある。国内の流行地から人がウイルスを運んでしまうこともありうる。
養鶏農家が注意していても、他の人々が不注意だと感染を広げかねない。農家に出入りする人や車の消毒徹底など地域が一体となった感染防止対策が欠かせない。
インフルエンザウイルスは撲滅できるような病原体ではない。しかも、大量のニワトリを限られたスペースで飼う大規模養鶏場が増えるほど、感染拡大の機会が増える。大量殺処分による被害も甚大だ。こうした現状を念頭に置いた上で、防疫対策が今のままで万全か、再点検する必要がある。
鳥インフルエンザは人間にとっても懸念材料だ。鳥のH5型ウイルスの人への感染は限られているが、なくなったわけではない。
さらに、豚は人と鳥の両方のインフルエンザウイルスに感染するため、体内で組み換えウイルスができることがある。その結果、病原性が強い人型のインフルエンザウイルスが出現する恐れは否定できない。ニワトリだけでなく、豚の監視も忘れないようにしたい。
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読売新聞 2011年01月25日
鳥インフル 感染の拡大封じ込めが急務だ
宮崎県で、またも鳥インフルエンザの感染が広がっている。
同県内では、2007年の冬にも鳥インフルエンザが発生して、大きな被害を受けた。昨年は、牛や豚などが口蹄疫に感染する被害にも見舞われている。
それぞれ、17万羽、29万頭という大量の家畜を殺処分せざるを得ず、経済的に大打撃を被った。口蹄疫被害では、まだ事業再開のめどが立たない農家も多い。
国内有数の畜産地域を相次いで襲った災厄に、県民、とくに畜産関係者の不安や焦燥感は計り知れない。政府と県は密接に協力してこれ以上の被害拡大を食い止めなければならない。
今回は、宮崎市内の養鶏場で先週末、鳥が病気を起こしやすく致死率も高い「高病原性鳥インフルエンザ」に感染した鶏が見つかったのが発端だった。飼育中の鶏1万羽の殺処分が始まった。
次いで、8・5キロ離れた養鶏場でも感染が見つかった。近隣の養鶏場を含めて、41万羽の大量殺処分が実施されている。
鳥インフルエンザは、鳥同士の接触のほか、野鳥のフン、ウイルスが付着した人間の靴底や小動物経由などで感染が広がる。
今回の感染ルートはまだ分からないが、農林水産省の調査チームによると、1例目の感染が起きた養鶏場の防鳥ネットに穴が開いていた。小鳥が入り込めるほどの大きさという。また、1例目と2例目の養鶏場で死んだ鶏の回収をしたのは、同一の業者だった。
宮崎県は昨年、今回の2か所を含め大規模養鶏場の立ち入り検査を2度実施し、防鳥ネットの破損状況などを調べた。見落としはなかったか、結果を再点検して検査手法の充実に生かしてほしい。
今季は、島根県の養鶏場でも昨年11月に鳥インフルエンザが発生している。養鶏場だけでなく渡り鳥にも、北海道から鹿児島県までの各地で鳥インフルエンザ感染が見つかっている。
アジアでは、中国や韓国で鳥インフルエンザの感染拡大が止まらない。渡り鳥がそれを日本に持ち込んでいるとみられる。日本の養鶏場は、常に鳥インフルエンザ被害の危険にさらされている。
渡り鳥など野鳥の感染状況は環境省が情報収集している。都道府県は、その情報をもとに、機敏な感染阻止対策を講じるべきだ。
何より養鶏場の防疫の徹底が求められる。政府は技術と資金の両面から、防疫強化の支援策を検討する必要がある。
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