毎日新聞 2011年01月22日
尖閣事件不起訴 政府に残した重い課題
沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件と、その後のビデオ流出事件で刑事処分が決まった。
海上保安庁の巡視船に衝突したとして、日本側が逮捕・送検し、処分保留で釈放していた中国人船長を那覇地検が不起訴(起訴猶予)処分とした。また、衝突のビデオ映像を動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿したとされる元海上保安官(昨年末に退職)を、東京地検がやはり不起訴(起訴猶予)処分とした。
船長については、既に中国に帰国しており、事実上、刑事責任を問うのは困難とみられていた。
船長を起訴猶予処分にした理由について、那覇地検は「負傷者がなく巡視船への衝突も計画的でなかった」などとコメントした。
昨年9月の漁船衝突後、検察は「日本の法律に基づいて粛々と対応する」としていた。ところが釈放時は一転して「外交上の配慮」を挙げ、独自に釈放を決めたと説明した。明らかに政治の判断が働いたとみられるのに、菅内閣も国会で検察の判断と主張し続けた。
釈放の段階で、外交を優先した政府の決断であると明確にしておけば、衝突ビデオの公開についての判断も違ったものになっただろう。
外交に影響を与えない範囲で早く公開できたし、たとえ非公開としても、その理由を説得力をもって国民に説明できたはずだ。
そこをあいまいにしたことが元保安官によるビデオ流出につながり、それが世論の支持を一定程度得ることになった。政府は対応の不手際を改めて反省すべきである。
元保安官の起訴猶予処分の理由について、東京地検は「映像管理に不十分な点があった。入手方法に悪質性はなく、利欲目的でもない」とコメントした。
公務員の秘密漏えいが、刑事事件に発展するか否かの判断は、過去分かれてきた。今回は、地検が指摘するように海保の情報管理が甘く映像の秘密性が低いことや、船長の処分とのバランスも考慮し結論を出したとみられる。
尖閣問題を受け、馬淵澄夫前国土交通相は、海上保安庁の領海警備のあり方の見直しを表明した。今月7日には現場の海上保安官の警備の選択肢を増やす基本方針も発表したが、実効性を含めて議論は途上である。
菅直人首相は20日に行った外交方針についての演説で、海洋権益をめぐる争いが顕在化し、地域の不安定要因となりつつあるとの認識を示した。その上で「日本の権利は正々堂々と主張しつつ、紛争を未然に防止する海上ルール作りなどで指導力を発揮する」との決意を述べた。腰を据えた対応を求めたい。
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読売新聞 2011年01月22日
尖閣沖漁船衝突 事件を総括し危機対応見直せ
尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件と、元海上保安官によるビデオ映像流出事件の捜査は、元保安官と中国人船長がともに不起訴(起訴猶予)となることで終結した。
中国人船長の逮捕から釈放、さらにビデオ流出に至る過程で、政府の対応には極めて問題が多かった。これを機に、政府は事件全体を総括し、危機対応や情報管理の見直しを進めねばならない。
検察当局が、国家公務員法の守秘義務違反の疑いで書類送検されていた元保安官を不起訴にしたのは、問題の映像が海上保安庁のずさんな管理により、海保職員なら誰でも見られる状態にあった点などを考慮したためだ。
元保安官が停職12か月の懲戒処分を受け、既に辞職したことも影響したのだろう。
日本の領海内で海保の巡視船に体当たりした中国漁船の違法行為は、疑う余地がなかった。にもかかわらず政府は、事件直後に映像を公開せず、日本側の正当性をアピールする機会を逃した。
その後もビデオの一般公開を拒み続け、結果として元保安官によるビデオ流出を招いた。
政府の判断ミスは明白だ。
仙谷由人前官房長官と馬淵澄夫前国土交通相は参院で問責決議を可決された。両者の更迭を求める野党の姿勢を、政治のけじめなしでは済まされない、という世論が支えたと言える。
情報管理態勢の整備を急ぐことは言うまでもない。ビデオ映像流出が示す通り、ネット上で情報が瞬時に拡散する時代である。情報の取り扱いに関する公務員の倫理教育も徹底すべきだ。
一方、中国人船長については、検察は衝突で負傷者が出なかったことなどを不起訴理由に挙げた。だが、処分保留のまま釈放し中国に送還した時点で、刑事罰は問わないとの結論を事実上出していたというのが実情だろう。
釈放の経緯は不透明なままだ。政府は検察独自の判断だったと説明しているが、日本人社員の拘束など中国側の圧力で政治決着が図られたことは間違いあるまい。
司法の独立に対する不信感を国民に与えたことを、政府は深刻に受け止めてもらいたい。
無論、海保による領海警備も強化する必要がある。
漁船衝突事件は、外交・安全保障の面で、様々な課題を突きつけた。外洋進出を強める中国との関係を今後どう築いていくのか、政治的な観点からも事件を教訓にした検討が改めて求められよう。
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