GDP日中逆転 質の世界一を目指そう

朝日新聞 2011年01月21日

日中GDP逆転 共に豊かさを問う時代

経済力の指標が3位から2位になる中国の姿は、約40年前の日本と重なる。躍進の中で、豊かさを問い直すうねりも本格化するだろう。

「くたばれGNP」という連載を朝日新聞が始めたのは、1970年5月だった。いざなぎ景気の終末期。大阪万博が開かれていた。

その2年前に国民総生産(GNP)で西ドイツを抜き自由経済圏で2位に躍り出た。浪費、公害、過労、過疎など成長の暗部をえぐった連載の初回には「ほかに社会の豊かさをはかる物差(ものさし)はないのか」とある。

間もなくニクソン・ショック、石油ショックに見舞われて日本経済は減速。所得倍増論のプランナー下村治氏は「環境が変わった以上、ゼロ成長しかない」と喝破した。だが、為政者も国民もそこまで達観できず、国債増発や土地の高騰まで甘受しつつ成長にこだわった。その指標は、93年から国内総生産(GDP)になった。

旧ソ連を抜いて世界第2位になる一方でバブルが崩壊。公共事業に偏った景気対策の連発や税収不足などで国債は増発の一途をたどる。残高は今やGDPの2倍に近い。

成長力が弱く、デフレから抜けられない。「成長戦略」はできたが、その効果はあいまいだ。経済全体のパイを大きくするだけでなく、生活の質や安心こそ大切ではないか、との問いは膨らむばかり。だが、それに答えるはずの税財政、社会保障の抜本改革は、いっこうに進まない。

こうした日本の状況は、中国の人々が今後の進路を考える上で大いに参考になるに違いない。

中国のGDPも1人当たりでは日本の10分の1だが、ここまで来ると生活の「質」への要求が高まる。自動車が飛ぶように売れる半面、自由や公正、環境、安心への要求が政治を揺さぶることは日本で経験済みだ。政治への圧力を和らげるためにも、中国は年8%以上の高度成長を維持しようとしているようである。

中国はいずれ経済超大国になろう。だが、格差の拡大や非効率な投資、環境汚染など経済のひずみが蓄積され、日本のようなバブル崩壊から停滞に陥る恐れもある。だからこそ、高い成長を追い求めるだけでは危うい。

国民生活の安定を図り、均衡のとれた発展の道を歩むことが必要だ。それには政治と経済の両分野にわたる民主化が避けて通れない。共産党と政府が経済運営の全責任を負う方式を改め、企業の自律や個人と家計の選択の自由を拡大することだ。

真の豊かさとは何か。日本が答えあぐねてきた問いを、中国もまた自問してゆくのだろう。その先に、成熟へ向かう中国と日本、そして世界の新しい関係が描かれる。

毎日新聞 2011年01月21日

GDP日中逆転 質の世界一を目指そう

中国の国内総生産(GDP)が昨年、日本を抜き、世界2位となった。中国政府の発表によるもので、来月、日本側の統計が公になるまでは確定といえないが、日中逆転は確実視されている。

半世紀近く慣れ親しんだ枕ことば「世界第2の経済大国」が使えなくなるのは寂しい気もする。だが、悲観の必要はない。高い経済成長を続け、世界一の座さえうかがおうという国の隣に位置することは、むしろ国際的に有利と見ることもできよう。ともに繁栄する道を探りながら、中国が国際ルールを守り、規模にふさわしい責任を果たすよう、他の国々と結束し促していく必要がある。

中国のGDPは2005年に英国を、07年にはドイツを抜き世界第3位となった。そしてついに日本も超えたわけだが、将来、米国から首位の座を奪うというのも現実味のある予測として語られている。

米国のシンクタンク「ピュー研究センター」が最近実施した世論調査によれば、「世界一の経済大国はどこか」との問いに米国人の47%が「中国」と回答したそうだ。「米国」の31%を大幅に上回り、すでに首位の存在感である。それだけに脅威として警戒が高まっているのだろう。

とはいえ、国民1人当たりのGDPを見ると、中国は日本の約10分の1。国内の経済格差や環境問題、人民元相場に象徴される経済の国家管理などさまざまな課題を抱えている。何かのきっかけで矛盾が一気に噴き出て、経済や社会を深刻な混乱に陥らせることも十分、考えられる。

中国は日本にとり、最大の貿易相手国だ。貿易総額に占める中国の比重は米国にとってのそれよりはるかに大きい。すでに強い依存関係にある中国が混乱すれば影響は直接、日本にも及ぶ。中国はもちろん、他の国々とも協力し、混乱の芽を早期に摘み取る努力をすることは、何より日本の国益につながる。

一方、日本にとって経済規模の拡大をひたすら追い求める時代は終わったといえよう。今後は、くらしの質、つまり真の意味の豊かさにもっと関心をよせていきたいものだ。

日本は犯罪被害率の低さ、人口に対する大卒者の多さ、長寿など世界でトップクラスの“質”を持っている。半面、自殺者の数、女性の社会進出、男性の家事参加、出生率、くらしへの満足度など、先進国中、ほぼ最悪と呼べる問題も少なくない。

だがこれは、努力次第でよりよい国に変われる潜在性と見ることもできる。若者がこの国に生まれたことを誇らしく思い、他国の人々からは目標にしたいと思われるような国にするにはどうしたらよいか、みんなで真剣に考えていこう。

読売新聞 2011年01月21日

GDP世界2位 「昇竜中国」にも課題は多い

中国が2010年の国内総生産(GDP)の規模で日本を抜き、世界2位の経済大国になることが確実になった。

中国政府が20日に発表した速報で、昨年の実質成長率が10・3%を記録し、名目GDPが39兆7983億元(約5兆8790億ドル)に達した。

日本の昨年の名目GDPは2月に公表されるが、5兆4500億ドル程度にとどまる見通しで、中国を下回ることが確定的だ。

日本は1968年以来、米国に次ぐ2位を42年間守ってきた。しかし、バブル経済崩壊後の長期低迷が響き、ついにその座を明け渡すことになった。歴史的な日中逆転である。

しかし、中国経済には問題が山積している。1人当たりGDPは約4000ドルと日本の10分の1にとどまり、都市部と農村部、沿岸部と内陸部で所得格差も大きい。格差を是正し、均衡ある発展を実現できるかどうかが課題だ。

中国経済が急成長した要因は、安価で豊富な労働力を武器に、外資を積極的に受け入れたことだろう。「世界の工場」として投資が急増し、輸出主導による経済成長に成功した。

08年の金融危機とその後の世界不況も、大型の景気対策でいち早く克服した。北京五輪や上海万博などの国家的イベントも、経済成長の追い風になったようだ。

ところが、最近では、景気の過熱に伴い、食料品などの物価が高騰し、不動産バブルが生じていることが最大の懸念材料だ。

中国当局が昨年末、金融政策の方針を転換し、利上げを2回実施するなど、金融引き締めに動いている。これは当然の対応だが、インフレ抑制の効果は限定的だ。バブルが加速する気配もある。

急激な引き締めによる景気失速を避けつつ、景気過熱をどう沈静化するか。(かじ)取りは極めて難しい。中国経済の安定が、世界経済の本格回復の行方を左右しよう。

人民元改革もまだ途上だ。為替介入で元高を抑制しているため、過剰マネーが市中にあふれ、物価上昇を招いている。

為替介入の結果、昨年末の外貨準備高が約2・8兆ドル(約236兆円)に達したのも異常である。経済力に応じた元の切り上げを着実に実現すべきだ。

中国にとって重要なのは、過度に輸出に頼らない、内需主導型経済への構造転換である。地球温暖化対策など、グローバルな課題で果たすべき役割も大きい。経済大国の責任はますます重くなる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/631/