首相虚偽献金 疑惑を晴らす責務がある

朝日新聞 2009年10月06日

鳩山献金疑惑 捜査を待たず自ら説明を

鳩山首相の資金管理団体の政治資金収支報告書に、故人や実際には献金していない人からの献金が記載されていた問題で、東京地検特捜部が関係者からの参考人聴取などに動き始めた。

この問題では、東京都内の団体が7月に、鳩山氏と資金管理団体の会計実務担当者ら3人を虚偽記載など政治資金規正法違反容疑で告発している。総選挙が終わり、新政権が軌道に乗ったこの時期に、本格的な捜査に乗り出したということだろう。

首相は6月の記者会見で、05~08年の4年間に計192件、2177万8千円の虚偽記載があったことを認め、報告書を修正した。会計実務を任された公設秘書が、個人献金を多く集めたように見せかけるため独断で行ったとして、この秘書を解任した。

しかし、この説明には疑問が残る。首相は個人献金の目標額などはなかったと説明している。個人献金を多く見せかけるといっても、もともと他の政治家と比べて鳩山氏の個人献金の額は突出して多く、なぜさらに多くする必要があったのか。

寄付者の名前を記載する義務のない年間5万円以下の献金にも、同じような不正がなかったか。首相側は調査を続ける考えを示したが、3カ月以上たった今も新たな報告はない。

首相の政治資金をめぐっては最近も、関連する政治団体が首相の母が所有する北海道室蘭市内のビルを、相場の5分の1以下と言われる月10万円の賃料で借りていたことが明らかになった。相場との差額は「寄付」にあたり、収支報告書に記載する義務があるが、首相は「適正な賃料だ」との立場を崩していない。

鳩山家は政界でも有数の資産家である。虚偽献金の原資は本人のお金とされるが、ファミリーの資金が使われたことはなかったのか。影響力の行使を期待しての企業・団体からのヤミ献金と性格が違うのは確かだが、虚偽記載は明らかな違法行為だ。

ファミリーの財布と政治資金が「どんぶり勘定」のようになっているとすれば、あまりにいい加減な経理処理であり、首相になるほどの政治家としては、だらしないというよりない。

今月下旬にも始まる臨時国会では、自民党など野党の厳しい追及が予想される。新しい政治への期待を背負った新政権にとって、この問題がノドに刺さったとげであり続けるのは好ましくない。

首相はきのう、記者団に「捜査に影響がある発言は避けなければならない」と語ったが、捜査を理由に口をつぐむのではなく、積極的に説明責任を果たすべきだ。一方、東京地検特捜部には、相手が首相であっても適正かつ公正な捜査を尽くし、国民の納得できる結論を出してもらいたい。

毎日新聞 2009年10月07日

「故人」献金問題 首相は逃げずに説明を

発足以来、国民の高い支持率を維持している鳩山政権にとってアキレスけんとなるかもしれない。鳩山由紀夫首相の資金管理団体の政治資金報告書に故人や実際には献金していない人たちの献金が記載されていた問題である。

市民団体の告発を受け東京地検特捜部が関係者から参考人聴取を始めており、早ければ年内にも立件するかどうか判断するとみられている。

首相はこれまでも説明や謝罪を繰り返してきたが、世論調査を見れば国民が納得しているとはいえない状況だ。しかも、首相は「これから捜査当局が調べていく段階で影響がある発言は避けなければならない」と捜査を理由に説明を避ける姿勢に転じてしまっている。これではますます国民の理解は得られない。

鳩山首相が今年6月明らかにしたところによると05~08年の収支報告書の記載のうち94人(193件)、計2177万円余が故人の名前などを使ったものだった。首相は虚偽記載だったと認めて報告書から削除し、担当の元公設秘書も解任した。

ただ、なぜ、そのような虚偽の記載をしたのかについて今に至るまで説得力のある説明をしていない。

首相は「元秘書の独断だった」と強調し、「個人献金があまりに少なく、それが分かったら大変だったという思いがあった」などと説明する一方、個人献金額は削除分を除いても他の政治家より多いと指摘されると「企業献金がなかなか集まらない焦りではないか」とも語るなど、一貫性に欠けるからだ。

加えて、毎日新聞の取材では削除された「寄付者」のうち10人は「実際に献金している」と証言。虚偽が発覚した後の調査もずさんだった疑いが出ている。

自民党は今月下旬に召集予定の臨時国会で、この問題を追及する構えだ。一方、政権側は、臨時国会は審議する法案を減らし、極力短期間で終えたい意向という。新年度予算編成を優先させるというのが理由だが、献金問題も避けたいからではないかとの見方も出ている。仮にそうだとしたら「国民目線」の看板が泣く。東京地検が適正な捜査を進めることは当然だが、首相も逃げずに対応すべきだ。

民主党では原口一博総務相が代表を務める政党支部の政治資金収支報告書で寄付の記載漏れが発覚し、藤原良信参院議員の資金管理団体が建設資材会社から事務所と光熱水費、人件費の無償提供を受けていることも分かった。

今回の政権交代で、多くの国民は政治とカネの問題についても「チェンジ」を期待したはずだ。こうした問題から国民の信頼が崩れていくということを自覚する必要がある。

読売新聞 2009年10月04日

架空個人献金 首相は改めて説明すべきだ

鳩山首相の“故人献金”問題の発覚から既に3か月以上が経過している。「調査中」「弁護士に任せている」といった弁明は、もう通用しまい。

総務省が公表した政治資金収支報告書で、鳩山首相の資金管理団体が、2008年の個人献金者69人のうち55人の寄付計406万円が実際にはなかったと削除していたことが判明した。その分は首相個人の貸付金と訂正した。

首相は6月末、05~08年の団体の個人献金で延べ193人、2177万円分の虚偽記載があったと発表していた。団体の会計を担当していた公設秘書が「独断で」行ったとして、秘書を解任した。

だが、首相の従来の説明には多くの疑問がある。首相は、国民の信頼を回復するため、「政治とカネ」の問題から逃げずに正面から向き合わなければならない。

年間5万円以下の個人献金については、個人名を記載する必要がない。08年の団体のこうした匿名献金は2668万円にも上る。だが、報告書には匿名分の訂正はない。本当にそうなのか。

偽装が発覚しやすい実名分に、故人の名前まで使って架空献金を計上していたのに、内訳が分からない匿名分に虚偽記載が一切ないのは不自然ではないか。

04年以前の架空献金の有無も明確でない。また、首相は否定しているが、架空献金の原資がすべて首相本人の資金なのかどうか。

首相の元秘書が、首相の資金を別人からの個人献金と偽って報告した動機もよく分からない。首相は「個人献金が少ないので、それが分かったら大変だと思ったのではないか」と説明したが、到底納得できるものではない。

政治資金収支報告書の虚偽記載は明確な政治資金規正法違反であり、重大な犯罪だ。鳩山首相は資金管理団体の代表であり、監督責任は免れない。東京地検も捜査に着手している。

読売新聞が9月中旬の鳩山内閣発足直後に実施した世論調査でも首相の説明が「納得できない」とする回答が69%に上っている。

首相は、一連の疑問に対し、きちんと説明する責任がある。

さらに重大な問題は、総務省が6月末、架空の個人献金者について交付した所得税控除の証明書を返還するよう指導したのに、首相の団体が応じていないことだ。証明書が使われていれば脱税だ。

首相が役所の指導を無視するようでは、政府に対する信頼は維持できない。首相は早急に証明書を返還させるべきだ。

産経新聞 2009年10月04日

首相虚偽献金 疑惑を晴らす責務がある

鳩山由紀夫首相の個人献金をめぐる虚偽記載問題で、東京地検特捜部が献金者として勝手に名前を使われていた人からの参考人聴取を始めた。

この問題は首相の政治資金管理団体「友愛政経懇話会」が故人も含めて架空の名義を用い、多額の個人献金があったように政治資金収支報告書に虚偽の記載をしていたことだ。

これについて首相は、政権交代前の6月に「実務担当者の独断だった」と事実関係を認めている。政治資金規正法の明白な違反である。捜査当局はなぜ、これまで放置してきたのか。徹底した事件の解明を求めたい。

民主党の小沢一郎幹事長の公設第1秘書が逮捕・起訴された西松建設の違法献金事件と同様、自身の政治資金処理に疑いを持たれ、捜査の対象になっていること自体、首相には重大な責任がある。これまでの説明も不十分だ。最も高い倫理性を求められる立場にあることを自覚してほしい。

今後は実務を担当した元公設秘書への捜査も予想される。捜査の進展を待つことなく、進んで疑惑を晴らすことが首相の責務だ。

虚偽献金は、首相自身が認めただけでも4年間で2100万円を超える。名義の無断借用は約90人、193件に上る。政治資金収支報告書によると、首相の資金管理団体は平成20年までの6年間に5万円以下の匿名の個人献金を約2億5千万円集めていた。匿名献金の突出ぶりも政治資金の不明朗さを増している。

首相が支部代表を務める「民主党北海道第9区総支部」では、道市町議会議員が党費に代えて個人献金を行い、本来は所得税控除の対象とならないのに不正に還付金を受けていた問題が浮上している。最近も、母親所有のビルを地元事務所として格安で借り受け、相場賃料との差額は寄付として報告すべきなのに処理を怠っていた問題が表面化したばかりだ。

あまりにも杜撰(ずさん)な処理が目立つ。虚偽記載に関して「個人献金を多く見せるため」という当初の説明もその後揺らいでいる。次々と表面化する疑惑は、国民の政治不信を強めており、明確かつ納得できる説明が求められる。

原資は自己資産だからヤミ献金とは違う。首相の姿勢からは、そんな問題軽視の印象すら受ける。政治資金の収支を明らかにする政治資金規正法の趣旨を、首相自らが逸脱してはなるまい。

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