春闘スタート 若い世代に報いる努力を

朝日新聞 2011年01月19日

春闘スタート 若い世代に報いる努力を

デフレ不況を克服する展望が立たない中で、今年の春闘が始まる。企業と労組の主張にどう折り合いをつけるかは大切だが、明日の社会を担う若者たちの働きに応える知恵を労使でしぼる契機にもしてほしい。

2008年のリーマン・ショック以降、国内総生産(GDP)や企業収益を見れば景気は回復への道を歩んできた。だが、企業が利益を上げても株主への配当と内部留保に回り、賃金にはなかなか還元されていない。設備投資が抑制傾向にあり、雇用も全体に拡大できていない。

少子高齢化による国内市場の縮小や原油などの資源高を考えれば、企業の慎重姿勢もわかる。だが、賃金や雇用が停滞したままでは消費は盛り上がらず、企業活動も振るわない。

要求を掲げる労働側も勢いを欠く。パートや派遣などの非正社員が働き手の3分の1に達し、交渉力は弱まった。円高による空洞化への懸念も影を落とし、自動車総連が統一要求を見送るなど苦悩は深い。

諸手当を含む給与総額の1%引き上げなど働き手への分配増を求める連合に対し、日本経団連は「賃金より雇用」と難色を示す。非正社員の賃上げ幅を時給換算で正社員よりも大きくし格差縮小を、との要求にも否定的だ。

経営側は定期昇給の維持だけはかろうじて容認する構えだが、この状況では、消費の回復は望み薄だ。

高度成長期、日本の経営者は従業員、株主、内部留保にそれぞれ配慮して利益の配分をおこない、消費の活性化を実現したといわれる。そうしたバランスを取り戻すことも問われているのではあるまいか。

90年代以降、人件費を節約する企業や株主への配当の多い企業が「いい企業」と評価される傾向が続いた。バブル期の「水ぶくれ」経営を正すには、効果もあった。だが今、同じような仕事でも非正社員というだけで大幅に賃金が低いという現実に、働き手の士気は減退している。

連合総研が昨春まとめた「勤労者短観」では、5年後の賃金が今より高くはならないと予想する回答が過半数を占めた。仕事の腕を上げる20代、30代でも男性は3分の1以上、女性の5~6割が同様の答えだった。

ここから浮かぶのは、消費性向の高い子育て世代が将来への希望を失い、消費の抑制に回る姿である。

厳しい状況ではあるが若い世代の働きにも正当に報いるには、どうすべきなのだろう。若手を励ます工夫について、それぞれの企業や業界ごとに労使で話し合ってはどうか。

デフレ脱却には、「賃金や雇用を増やす会社」がもっと評価されることも必要だ。さまざまな課題に向き合う場としての春闘を提案したい。

毎日新聞 2011年01月20日

春闘スタート 悪循環を断ち切ろう

デフレや円高で景気の先行きが不透明な中で今春闘が始まった。正社員の賃金は減り、不安定な非正規雇用労働者は増えている。多くの人々が生活の安心を実感できるよう労使で取り組んでほしい。

連合は今春闘で年齢や勤務年数に応じて毎年自動的に上がる「定期昇給」の確実な実施、一時金などを含めた給与総額の1%増などを方針に掲げた。一般労働者の賃金はピーク時の97年に比べて5・1%減少しており、1%ずつ5年かけて復元させることを目指すという。全従業員の賃金水準を一律に底上げするベースアップは運動方針に明記せず2年連続で見送った。

経営者側は定期昇給の維持については容認する方針だが、給与総額1%増には否定的だ。短期的には業績回復が見られるが、賃金の引き上げよりも企業の成長を優先すべきだとの主張である。だが、これまでも内部留保を設備投資に回してきた企業がどれだけあるのか。「人件費の抑制こそが低成長とデフレから抜け出せない原因」と連合は批判する。

ただし、連合の方針とは裏腹に主な個別労組も総額引き上げまでは求めないところが多いと見られている。労使とも守りの姿勢が色濃くては社会に活気が出ない。

連合は昨年初めて非正規雇用労働者の待遇改善を運動方針に盛り込んだが、今年は時給ベースで正規労働者を上回る賃金の引き上げを掲げた。全従業員に対する非正規雇用は34%、若年層では45%を占める。正社員と同じ内容の労働をしても賃金格差は大きく、年金や保険など社会保障も不十分な人が多い。日本経団連は「非正規だけの議論を行うのは現実的ではない」と言うが、増え続ける非正規雇用労働者を不安定なまま放置しておくべきではない。

人件費を抑制するため新規採用を抑え、正社員を非正規雇用に置き換えてきた企業は多い。不況時に正社員を守るため非正規職員を解雇してきた企業も多い。

最近は若い世代が非正規雇用に流入していることで50代以上の非正規雇用労働者が職を失っている。家族も住居もなく再就職への意欲も希薄な人が多いという。生活保護などの給付費が膨張する悪循環をどこかで断ち切らないといけない。

経団連は春闘の名称を「春の労使パートナーシップ対話」に変えるよう呼びかけた。賃上げ中心の交渉ではなく、あらゆる課題を協議する場にしようという提案だ。労使一体となって国際競争力を高めようというのは大いに結構だが、まずは非正規雇用労働者を中心に広がっている生活不安を解消することに取り組むべきではないか。

読売新聞 2011年01月20日

春闘スタート 雇用改善に労使一体で臨め

日本経団連の米倉弘昌会長と連合の古賀伸明会長の労使トップが19日に会談し、今年の春闘がスタートした。

経団連は、企業業績は持ち直してきたが円高などの懸念材料が多く、賃上げは難しいとの考えを示している。

連合は、収入の低迷は消費を冷やし、景気を悪化させるので、給与の改善が必要だと主張する。

賃上げを巡る意見の隔たりはあるが、日本経済の再生と国民生活の向上を目指している点では労使ともに同じだろう。真剣な論議を重ね、労使双方にとって、実りのある春闘にしてもらいたい。

経団連は昨年の春闘で、年齢に応じて給与が増える定期昇給(定昇)にすら応じられないとしたが、今回は定昇の容認に転じた。

サラリーマンの年齢が増すにつれ、育児や教育、住居などの出費が膨らむのが家計の特徴だ。このため、定昇は家計にとって頼みの綱と言える。景気が最悪期を脱したことで、経営側も労働側の事情に配慮した形だ。

連合は定昇に加え、賞与や手当を含む給与総額の1%引き上げを求めている。経団連は「賃金より雇用確保を」として、はねつける構えだ。厳しい国際競争を勝ち抜けるほど、企業体力は回復していないと見ているのだろう。

自動車や電機などの主要組合はすでに、賃金改善要求を見送る方針を固めた。輸出産業では、労組も国際競争の激烈さを痛感しているからに違いない。

国内の雇用情勢を見ると、失業率は5%台に高止まりし、失業者も300万人を超える。ともに1年前とほぼ同水準である。

こうした厳しい状況で、労組が賃上げを求めても、実現が難しいケースは多かろう。

まずは、雇用の維持が大前提だ。そのうえで、各企業が業績に応じて、定昇の確保に努めることが求められる。

経営側は、利益確保を賃金抑制ばかりに頼ってはなるまい。成長分野を開拓し、時として果敢に先行投資する決断力が、新たなビジネスと雇用を生み出す。

大卒予定者の就職内定率は、12月時点で初めて70%を割った。このままでは、大勢の就職浪人があふれ、収入や雇用が不安定な非正規労働者も増えかねない。だが、経団連と連合の会談で、就職氷河期の話は出なかったという。

危機感が薄いのではないか。労使は、新卒採用の拡大なども含めた雇用全体の改善に、もっと知恵を出し合ってほしい。

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