税と社会保障改革 まずは政府・与党案急げ

朝日新聞 2011年01月20日

年金改革 民主案は税方式なのか

「税と社会保障の一体改革」をめざす政府・与党は、野党とも協議を進めたいという。だが、肝心の民主党の年金改革案があやふやでは、話が始まらないのではないか。

原因は民主党がきちんとした案を示さず、中途半端な説明をしてきたことにある。まずは党内の議論を整理して、国民に民主党案とは何なのかを明らかにすることが先決だろう。

これまでに民主党は月額7万円の最低保障年金をつくるとし、その財源は税で賄う「税方式」としてきた。これに対し、経済財政相に就任した与謝野馨氏は「社会保険方式」を主張していることから、食い違いが指摘されている。菅直人首相と民主党は早急に、この問題を解決すべきである。

税方式には、保険料の納付実績が問われる社会保険方式と違って未納問題が起きないという利点がある。

自公政権時代の2004年、閣僚の未納が相次ぎ発覚し、これを追及した菅氏自身にも未納が見つかり党代表を辞任した。その後、菅氏や岡田克也・現幹事長は「未納者はいなくなる」「全員がもらえる」と、税方式を前提にした説明をしてきた。

鳩山由紀夫代表のもとで戦った一昨年の総選挙でも、政権公約に「消費税を財源とした最低保障年金を創設し、全ての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする」と書いた。これを税方式と理解した人も多いはずだ。

ところが、民主党が昨年6月に示した「新年金制度の基本原則」では「未納・未加入ゼロの原則 保険料の確実な徴収により無年金者をなくす」と、保険方式を強調した。

さらに12月、藤井裕久・現官房副長官が会長をつとめた税と社会保障の抜本改革調査会は「社会保険方式である所得比例年金を基本に、税を財源とする最低保障年金を補足給付する」と「中間整理」に明記した。

これなら「社会保険方式で改革するのが合理的」という与謝野氏と根本的な違いはない。現行制度は受給者全員について基礎年金の半分を税で賄うが、民主案では、年金が一定額以上の人には税で賄う最低保障部分を減らしたり、払わなかったりするだけだ。

民主党が政権獲得後、保険方式に傾斜したのは現実的な動きともいえる。税方式にこだわると必要な財源が膨らみ、消費税などの増税幅が大きくなる可能性が高いからだ。保険方式を是としている自民党や公明党などと協議する上でも有効だ。

現行制度の最大の問題は、未納者が多く発生し、いずれ低年金・無年金になってしまうことだ。貴重な税財源をどう使ってそれを防ぐのか。与野党で一致できる点を見つけ出して改革を進めるには、政府・与党案の骨格を早く示すことが欠かせない。

毎日新聞 2011年01月23日

論調観測 税と社会保障改革 党内合意はどうなるか

老いても医療や介護が充実し住居があって家族や友だちがいれば、金がなくてもさほど不安は感じないだろう。国民の関心が年金に集まるのはそういうものがないためではないか。が、年金に財源を集中させると医療や介護に金が回らなくなる。少子化や子育てにも回らないと、年金財政を支える層は先細りしていく。これが第一の矛盾だ。

お年寄りは選挙に行く人が多いので、野党が選挙に勝とうと思えば年金不安をあおるのは効果的だ。現役世代にとっては国が基礎年金の半分を負担するので年金を払っていた方が将来得をするが、不安をあおられると年金を払いたくなくなる人が増える。これが第二の矛盾だ。

つまり、財源がないのに年金を充実させても生活不安はおさまらず、年金問題を選挙に利用すると社会の危機を招く。そのことを菅政権は学んだのだろう。与野党が長期的視点で税と社会保障の改革に取り組む必要があるのはそのためだ。

「肝心の民主党の年金改革案があやふやでは、話が始まらないのではないか」「まずは党内の議論を整理して、国民に民主党案とは何なのかを明らかにすることが先決だろう」(朝日)との主張は各紙社説に共通している。民主党はマニフェストで「年金制度の一元化」「消費税による最低保障年金」をうたっていたが、詳細な制度設計は説明したことがなく、菅政権になってからは次第に内容が変容している。自民や公明の案とどう違うのか示されなければ議論のしようがない。

ところが何かにつけて党内の意見がまとまらないのが民主党だ。与謝野馨氏があえて入閣に踏み切ったのは、そうした民主党の欠陥や時間の余裕がないことを熟知している故だろう。

「与謝野氏の入閣に対して、与野党双方から反発が出ている。与謝野氏は、迅速かつ着実に成果をあげることで応えるしかない。起用した菅首相もここは腹をくくって、与謝野氏が思いきった仕事のできる環境を作るべきだ」と読売は指摘する。

現行制度と民主党案は具体的に内容を詰めていくと必ずしも対立点ばかりではないことがわかる。むしろ重なり合う部分が多いことを知っている議員は与野党にいる。

「明確なのは、自公も実は改革の必要性を認識していること、与謝野氏が相当の覚悟で成案作りに臨んでいること、最後は菅直人首相の指導力が成否を分けること」(毎日)。各紙論調も危機感がにじむ点は共通している。【論説委員・野沢和弘】

読売新聞 2011年01月20日

社会保障改革 与謝野氏軸に政府案を急げ

社会保障制度は少子高齢化で、随所に(ゆが)みが生じている。改革に一刻の猶予も許されない。

政府が社会保障と税の一体改革について、6月に政府・与党案をまとめる方針を決定した。それまでに与野党協議をレールに乗せたいという。

政府・与党案とりまとめは与謝野経済財政相、与野党との窓口には玄葉国家戦略相があたるなど役割分担も決まった。まずは推進体制を整えたということだろう。

民主党の姿勢を厳しく批判してきた与謝野氏の入閣に対して、与野党双方から反発が出ている。与謝野氏は、迅速かつ着実に成果をあげることで応えるしかない。

起用した菅首相もここは腹をくくって、与謝野氏が思い切った仕事のできる環境を作るべきだ。

社会保障改革の議論の中心は、年金制度と消費税である。

政府・与党が年金改革案について意思統一を図ることが、その第一歩となる。

民主党内には、年金改革の財源について「党としては従来、“全額税方式”を唱えてきたのだから現行の社会保険方式維持を主張する与謝野氏とは全く相いれない」とする声が根強く存在する。

だが、民主党は政権交代を果たした衆院選の政権公約(マニフェスト)から、年金改革案の説明を微妙に修正している。

全額税による最低保障年金を創設はするが、それは同時に新設する社会保険方式の国民共通年金を補完するもの、という位置づけに変えた。全体としてはむしろ、社会保険方式に傾いている。

一方、与謝野氏の持論は、社会保険方式の現行制度の不備を改善した上で、年金額が低い人には税金を用いた支援措置を講じる、というものだ。

保険料と税のバランスの問題であり、大枠は重なっている。十分に妥協点は見いだしうる。

政府は、現実的な社会保険方式を基本に議論することで、民主党内の合意を得るべきだ。

自民、公明など野党側の考える年金改革案も与謝野氏の考え方と大きな違いはない。

持続可能な制度を実現するためには、消費税率を引き上げることでしか安定財源を確保する手だてはない。議論の過程でこうした認識も再確認できるはずである。

年金制度は何十年先まで安定したものでなければ、国民の不安は解消しない。政権交代のたびに制度が変わることのないよう、与野党で早急に改革案を練り上げなければならない。

毎日新聞 2011年01月20日

税と社会保障改革 まずは政府・与党案急げ

消費税を含む税と社会保障の一体改革をめぐる関係閣僚会議の準備会合が開かれ、6月の取りまとめを目指した作業がスタートした。

まずは、この改革の重要性を改めて強調したい。日本の社会保障制度は、医療、介護、年金ともに現役世代が中心になって高齢者を支える仕組みだが、これが制度的財政的に維持不可能になりつつある。というのも、1970年代に10人で1人を支えていたのが、現在では3人が1人を、25年ごろには2人が1人を支えざるをえないという急速な少子高齢化が進展しているからだ。

制度を設計し直して持続可能なシステムとして再活性化させることは、国民に安心を与えるだけでなく、国家財政を立て直し、民間経済を元気にさせるためにも必要不可欠な課題になっている。12年には団塊世代が大量に年金受給者となることや、日本の財政赤字に対する市場の評価が次第に厳しくなっていくことを考慮すると、改革の緊急性も高まっている。問題は制度改革を担保する財源として消費税増税が欠かせないことである。議論の出発点に当たり、与野党に注文をつけたい。

政府・与党は、成案作りに向けてフル回転で組織内論議を行うべきである。制度改革も増税も生やさしい論議ではない。夜間や週末を使っての侃々諤々(かんかんがくがく)の論議を期待したい。政府・与党がやる気を見せない限り国民の支持も得られないだろう。

論議のポイントはいくつかある。年金制度でいえば、マニフェストでうたった最低保障年金をベースとした税方式の年金改革案をそのまま維持するのか、修正するのか。消費税を社会保障支出に限定する目的税にした場合、医療や介護にどう配分するのか。少子化対策は対象にするのか。野党が指摘するように政府・与党が改革の全体像と工程表を伴ったしっかりした案を作り、野党側に示す必要がある。4月の統一地方選で消費税隠しをするような半端な態度ではとても乗り切れないだろう。

野党も批判するばかりでは国民の理解を得られない。早くも、09年、所得税法の付則に「消費税を含む税制抜本改革を11年度までに法制化する」と明記された問題が与野党間の火種になっている。民主党は、当時与党だった自民、公明両党にも一定の責任があると指摘、自公両党は民主党政権を批判してきた与謝野馨経済財政担当相の入閣に反発する。

明確なのは、自公も実は改革の必要性を認識していること、与謝野氏が相当の覚悟で成案作りに臨んでいること、最後は菅直人首相の指導力が成否を分けること。そして、与野党はもちろん日本の政治がその真価を問われていることではないか。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/628/