菅再改造内閣 政権賭する覚悟を示せ

朝日新聞 2011年10月16日

TPP論議 大局的視点を忘れるな

環太平洋経済連携協定(TPP)の参加問題について、民主党のプロジェクトチームが議論を始めた。政府が参加の是非を判断する予定の11月上旬に向けて、党内で様々な会合が開かれる見込みだ。

反対・慎重派の12日の会合では医療・製薬分野が取り上げられた。日本医師会の幹部らが、TPP参加に伴う規制緩和で国内の制度が崩壊すると訴えたのに対し、外務省の担当者は「公的な医療保険制度はTPPでは議論の対象外」と説明したが、参加議員は納得しなかった。

TPPでは最大の懸案である農業のほか、労働、環境、食品安全など幅広い分野が対象になる。政府は交渉状況を丁寧に説明してほしい。反対派が唱える「国民の生活を守る」という大義名分の陰に、関連業界の既得権益を守る狙いがないか、見極めることが重要だろう。

同時に、国際経済の中で日本が置かれた状況という大局的な視点を忘れてはなるまい。

少子化で国内市場が縮小するなか、成長著しいアジア太平洋地域を中心に経済連携を深めることは欠かせない。この点で異論は少ないはずだ。

日本も東南アジア諸国などと2国間の経済連携協定(EPA)を積み重ねているが、農業への配慮から、相手国との間で自由化の例外品目を数多く設けてきたため、効果に乏しい。

日本がもたつく間も、世界は動いている。自動車や電機といった日本の主力産業でライバルとなった韓国が典型だ。

欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)が7月に発効したのに続き、米国とのFTAも米議会が法案を可決し、来年早々の発効に近づいた。米国は乗用車に2.5%、トラックに25%など関税をかけているが、韓国製品には順次撤廃される。

EUでも乗用車の10%、薄型テレビの14%といった関税が、対韓国では削減・撤廃されていく。日本の産業界は危機感を強めており、欧米や欧米とFTAを結ぶ地域への工場移転に拍車がかかりかねない。

韓国は90年代末、「外需が国の生き残りのカギ」と見定め、農業の保護策をまとめつつFTA推進へかじを切った。日本と比べて経済規模が小さく、貿易への依存度が極めて高いなど、事情に違いはある。ただ、明確な戦略と実行力に学ぶべき点は少なくない。

TPPへの参加は、経済連携戦略での遅れを取り戻す、またとない機会だ。野田首相に問われるのも、大きな戦略とリーダーシップである。

毎日新聞 2011年10月12日

TPP 首相の力強い決断を

野田佳彦首相が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加にむけ動き出した。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での参加表明をめざし、11日には同政権初の関係閣僚会議が開かれた。首相の意欲を評価したい。

与党内には「農業が壊滅する」などの反対論が根強い。野党第1党の自民党も同様である。首相は反対派に配慮して「結論ありき」ではないとする一方、「農業再生と高いレベルの経済連携の両立を図っていきたい」意向を明確にしている。

両立を図るうえで重要なのは、TPPを農業再生の機会とすることである。首相は政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が8月に提出した中間提言を踏まえ、今月中に「行動計画」をまとめるという。それをうけ、APECではTPP参加を明確に表明してもらいたい。

行動計画のポイントはコメ作りの競争力強化だ。そのためには経営規模の拡大が不可欠である。中間提言では「平地で20~30ヘクタール」が目標だ。

いまでも15ヘクタール以上の規模のコメ農家は、米価の約半分のコストでコメを生産する能力があるといわれる。農地の集積を進めれば、日本をコメ輸出国にすることができるだろう。農業再生の何よりの指標となる。

そのための施策として、中間提言であげられているのは「戸別所得補償制度の適切な推進」「ほ場の大区画化」「相続の際に担い手へ農地の集積を促す仕組み」「農業機械の集約化を促す仕組み」である。

成否のカギを握るのは戸別所得補償制度(直接支払い)の設計だ。TPPでコメの価格が低下するのは消費者、とりわけ低所得層にとって福音だ。しかし、米価が低下すればコメ農家の経営を圧迫する。直接支払制度をうまく組み立てれば、米価が下がってもコメ作りを継続できる。

現状の直接支払制度では土地の集約効果があまり期待できない。日本農業の競争力強化に役立つような設計にすべきだ。作物別の支払いになっているのも不自由だ。

TPP問題では農業以外の反対論も強い。混合診療が全面解禁され健康保険制度が崩壊する、という人もいる。しかし、サービス分野は各国の国内制度を前提に、最恵国待遇や内外無差別原則を協議するものだ。

また、そもそも競争になじまない公的医療制度は世界貿易機関(WTO)交渉でも2国間交渉でも、交渉の対象外だ。誤解や曲解によるTPP反対論に対し、政府はていねいに説明し、反論する必要がある。

うちに閉じこもっていては、日本経済の未来はない。経済開国と農業の再生にむけて、首相の力強い決断を求めたい。

読売新聞 2011年10月06日

TPP 参加が日本の成長に不可欠だ

日本の成長戦略を推し進めるため、政府は新たな自由貿易圏となる環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を早期に決断すべきだ。

「例外なき関税撤廃」を原則とするTPPの締結に向け、米国や豪州など9か国が、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での大枠合意を目指している。

TPPの基本的枠組みが日本抜きで固まれば、将来、日本が参加する場合、不利なルールであっても受け入れざるを得なくなる。

経団連の米倉弘昌会長がAPECまでの参加表明を政府に促しているのは、そのためだ。

最大の問題は、農業である。

関税が段階的に下がることで、外国産品は競争力を増し、国内市場を席巻しかねない。全国農業協同組合中央会の万歳章会長は、野田首相に「TPPに参加すると日本農業は壊滅する」と訴えた。

だが、農業は担い手の高齢化が著しく、衰退する一方だ。このままでは展望が見えない。

TPP参加を機に、大胆な農業改革に踏み出して、自由化に耐えられるような強い農業への転換を進めなければならない。

民主党は、鉢呂吉雄・前経済産業相を座長とする、TPPに関するプロジェクトチームを設置した。遅きに失した感はあるが、議論を急いでもらいたい。

党内のTPP反対派の会合では、参加によって工業製品の規格や医療・医薬品などの規制緩和を迫られ、大打撃を被るのではないか、と警戒する声が相次いだ。

政府はそうした疑念を払拭し、TPP参加が日本にどのようなメリットをもたらすのかを明確に説明する必要がある。

気がかりなのは、政府・民主党内に「交渉に参加し、言い分が通らなければ離脱すれば良い」との「途中離脱論」があることだ。

反対派をなだめる方便だろう。だが、参加する前から離脱をちらつかせる国の言い分が、交渉の場で説得力を持つとは思えない。

民主党内には、アジア・太平洋地域の安定を図るという視点がないことも懸念材料である。

TPP参加によって、日本や東南アジア各国、豪州などは、米国を基軸に経済的な連携を強化できる。それは、膨張する中国をけん制することにもつながろう。

臨時国会では、TPP問題が論戦の焦点となる。自民党も意見を集約して臨むべきだ。

民主党内の論議と並行して、政府はTPP参加へ、閣内の意思統一を図ることが急務だ。

産経新聞 2011年01月16日

TPP日米協議 メリット多く参加を急げ

自由貿易圏づくりをめざす環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる初の日米事務レベル協議がワシントンで行われた。米国は「従来の自由貿易協定(FTA)を上回る高い目標」を掲げていると説明、日本が交渉に参加する場合は広い分野で自由化を求められる可能性が強まった。

菅直人首相はTPP推進を最重要課題に掲げて第2次改造内閣を発足させたが、米側の要求は予想以上に厳しいとみるべきだ。参加決断を6月に先延ばしせず、早期参加に向けて国内構造改革を果敢に断行してもらいたい。

協議は事実上の日米FTA交渉とも位置付けられた。米側は農業分野を中心に関税の原則撤廃を強調したほか、米国産牛肉輸入制限問題や郵政見直しに伴う外国企業の扱い、自動車の安全技術基準などにも懸念を表明したという。

日本は昨年11月、TPP参加の判断を先送りした上で、「情報収集」目的の事前協議を参加9カ国と行うことにした。今回の協議は豪州などに続いて4カ国目だ。

日米は今後も協議を継続することになったとはいえ、一連の問題にメドをつけなければ日本の交渉参加を拒まれる恐れもある。菅政権は協議結果を真剣に受け止め、農業も含めて「待ったなし」の改革を推進する必要がある。

日米協議が重要なのは、TPPの中身を詰める交渉が米主導でどんどん進められ、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でまとめる強い意向を示しているからだ。米国が日本に示す懸念や注文は、そのままTPP参加へのハードルになる可能性が高い。

日米FTAと同等の意味を持つTPPに参加するメリットは明らかだ。日米の競争力を強化し、長期的な成長を促す基盤を築くだけでなく、世界の通商ルールについて両国のリーダーシップを発揮できる。安全保障面でも日米同盟を補強し、国際ルール無視が目立つ中国を牽制(けんせい)する意味がある。

民主党は日米FTA締結を当初の政権公約に掲げながら、農業団体などの反発で、「締結」を「交渉を促進」に後退させ、TPP参加の決断も先送りした。貿易自由化で影響を受ける農業の保護・強化策は必要だが、こうした腰砕けの姿勢では国民の不信を募らせるだけだ。首相はTPP参加を日本の死活問題と認識し、党内や国民への説得を急ぐべきだ。

朝日新聞 2011年10月05日

TPP参加 丁寧な説明で再起動を

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に日本も加わるかどうか。米国や豪州など参加9カ国は11月の大枠合意を目指しており、日本にとってもここが判断の節目となりそうだ。

私たちは、まず交渉に参加するよう主張してきた。TPPは成長著しいアジア太平洋地域の自由化の土台となる可能性がある。日本が不利にならないためには、ルール作りからかかわった方が得策だ。交渉に加わり、国益に沿わないと判断すれば協定締結を見送ればよい。

政府は「6月に参加の是非を決める」としてきたが、東日本大震災もあって遅れている。その間、TPPについて様々な懸念が広がった。検討作業を軌道に乗せるには、今の交渉状況について政府が情報を整理・発信し、冷静に議論できる環境を整えることが第一歩となる。

最大の課題は、コメなど高関税品目を抱える農業分野だ。

TPPは「例外なき自由化」が原則だが、実際の交渉では各国とも関連業界の反発から、建前と本音がある。交渉の中心にいる米国は豪州との自由貿易協定(FTA)で砂糖などを対象から外しており、関税撤廃の原則である「10年以内」を超える段階的自由化にとどめた品目も目立つ。TPPでも同様の方針で臨んでいる。

日本の農業関係者は「TPPに参加すると、すべての品目でただちに関税が撤廃されかねない」と危うさを訴えるが、正確さを欠く。大規模化など農業の強化策を早急にまとめ、交渉でそのための時間と条件を確保する。そんな戦略性を持ちたい。

関税以外にも様々な懸念が聞かれる。「単純労働者が大量に入ってくる」「医療制度の抜本改革を強いられる」「環境保護が犠牲になる」「安全基準が緩い食品の輸入を迫られる」といった具合だ。社会的規制と呼ばれ、経済活性化が狙いの規制緩和論議とは異なる視点が求められる分野である。

日本政府の通商担当者は、集めた情報をもとに「懸念の多くはTPP交渉でテーマになっていない」と反論する。その点でも、交渉状況や政府の考え方を丁寧に説明するべきだ。

円高が定着し、空洞化への懸念が一層強まっている。TPPには、関税交渉以外にも貿易手続きの簡素化など日本からの輸出促進につながる項目が少なくない。

「農業対製造業」という単純な対立の図式を乗り越え、産業全体の活性化にTPPを活用する道を探らなければならない。それが野田政権の使命である。

毎日新聞 2011年09月23日

日米首脳会談 鳩菅外交の轍を踏むな

「結果を求める時期が近い」。ニューヨークで野田佳彦首相との初の会談に臨んだオバマ米大統領は、こう言って米軍普天間飛行場移設問題で目に見える進展を促した。日本の首相がくるくる代わり、日米関係が停滞していることに対する米側の強いいらだちがうかがえる。

東日本大震災後、トモダチ作戦をはじめとする米国の圧倒的な人的物的支援で、私たちは日米同盟のありがたさと日米関係の強固な絆を再確認した。だが、日本が震災を理由に外交を動かさないですむ時期はとうに過ぎている。日米首脳会談でオバマ大統領が示したビジネスライクな要求は、「震災外交」というモラトリアム(猶予期間)が終わりを告げたことを意味するものだ。

普天間飛行場問題に限らない。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加も、決断や行動が遅れるほど、日米関係にマイナスになるだけでなく、国際的にも不利な立場に追い込まれる。復興だけでなく、外交も急がなければならない。

今の日米関係は順風満帆からはほど遠く、不正常とさえ言えよう。本来なら、日米安保条約改定から半世紀の昨年、同盟深化をうたう共同宣言をまとめる段取りだったのが、日本の政局混迷で宙に浮いた。今月はサンフランシスコ講和条約と旧日米安保条約調印から60年という歴史の節目なのに、同盟をじっくり論議する機運は生まれなかった。

民主党政権になって、首相がワシントンを公式訪問してホワイトハウスで米大統領と会談した例はない。国連総会など国際会議の場を利用してしか日米首脳が会談できない現実が、そもそも異常である。

野田首相は、オバマ大統領が就任後2年半余で会った4人目の日本の首相だ。「個人的な信頼関係を築くいいスタートが切れた」と会談後に語った野田首相だが、過去3人の首相は途中で政権交代があったり、政権運営の不手際が目立ったりで、いずれもゴールまでたどりつかないまま早期退陣を余儀なくされた。

これでは米側が日本のリーダーの言動に信頼を置けないのは当然だろう。その意味で、野田首相がオバマ大統領に「安定した政治の実現」が野田政権の使命だと強調したのは妥当な認識である。それなくしては、日米同盟の深化も、国際社会における日本の発言力強化も不可能である。

理念先行で行動が伴わなかった鳩山由紀夫元首相、外交当局と連携せず外交ビジョンも希薄だった菅直人前首相。野田首相は民主党政権2代の轍(てつ)を踏んではならない。民主党だけでなく、日本にとってもラストチャンスの覚悟で、外交の立て直しに本腰を入れるべきである。

読売新聞 2011年09月23日

日米首脳会談 同盟深化へ「結果」を出す時だ

国家の首脳間の信頼関係は、双方が努力を重ね、具体的成果を上げることで築かれる。野田首相はそれを実践すべきだ。

野田首相が訪米し、オバマ米大統領と会談した。

大統領は「日本は重要な同盟国で、幅広く協力していくパートナーだ」と語った。首相は、米軍の震災支援に触れ、「日米同盟は日本外交の基軸だという信念が揺るぎないものになった」と応じた。

両首脳が日米同盟を深化させることで一致したことは、まずは無難な初顔合わせと言えよう。

一方で、大統領が日本に多くの具体的要求をした事実を、首相は真剣に受け止める必要がある。

大統領は、米軍普天間飛行場の移設問題について「結果を見いだすべき時期に近づいている」と述べ、進展に強い期待を示した。首相は「沖縄の理解を得るべく全力を尽くしたい」と答えた。

米側には、鳩山元首相と菅前首相が日米同盟の重要性を唱えるばかりで、具体的な課題を先送りし、行動が伴わなかったことへの不信があるのだろう。

普天間飛行場の辺野古移設が実現しなければ、危険な現状が固定化するし、在沖縄海兵隊のグアム移転にも悪影響が出る。政府は、移設の前進へ沖縄県との協議を加速させなければならない。

大統領は、日本が米国産牛肉の輸入を制限している問題の進展を迫った。国際結婚破綻後の子どもの親権をめぐるハーグ条約に関しても、日本が条約加盟に向けて国内法整備を急ぐよう求めた。

野田首相は、牛肉問題で「双方が受け入れ可能な解決」を目指す考えを示すとともに、ハーグ条約の加盟準備状況を説明し、理解を求めた。同盟を深化させるには、こうした長年の懸案を前に動かす努力も欠かせない。

首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題について「しっかり議論を積み重ね、できるだけ早い時期に結論を出したい」と述べるにとどまった。

米国など9か国は、11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でのTPP大枠合意を目指している。首相は、11月が日本参加決断の期限と考え、国内調整を主導しなければなるまい。

北朝鮮問題について、日米両首脳は日米韓の緊密な連携を維持することで合意した。日韓首脳会談でも同様の方針を確認した。

北朝鮮から非核化への具体的な行動を引き出すには、日米韓が中国とも協調し、北朝鮮への働きかけを強めることが大切だ。

産経新聞 2011年01月15日

菅第2次改造内閣 国難打開へ実績を示せ

■また「先送り」では日本が滅ぶ

民主党への激しい逆風が吹き付ける中、菅第2次改造内閣が船出した。昨年9月の改造からわずか4カ月しかたっていない。仙谷由人前官房長官ら問責決議を可決された閣僚を更迭せざるを得なかったためだ。

菅直人首相は改造後の記者会見で、「危機を乗り越えていく力を最大にしたい」と語った。意気込みは分かるが、社会保障の立て直しと財政再建、日米安保体制強化など国難打開に向けた課題に対し、具体的な実績を示すことができるかどうか。新しい布陣にその成否がかかっている。

問題は菅首相自身の統治能力と覚悟である。首相は昨年末、「今までは仮免許だったが、本免許になった」と語り、顰蹙(ひんしゅく)を買った。発言の軽さは変わっていない。

昨夏の参院選でも自ら消費税増税に言及しながら、批判を受けると引っ込めるなど発言がぶれた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についても、首相は昨秋の所信表明演説で「参加検討」を表明しながら反対されると先送りしてしまった。

こうした「生煮え」ともいえる中途半端な政治姿勢が国民の信を失っていることを、首相はしっかりと認識すべきだ。日本はいま崖っぷちに立たされている。これ以上、先送りを続ければ、国がつぶれてしまう。

◆与謝野氏に説明責任

今回注目したいのは、経済財政担当相に「社会保障・税一体改革」として、たちあがれ日本を離党した与謝野馨元財務相を起用したことだ。

与謝野氏は自公政権時代、税財政抜本改革の「中期プログラム」のとりまとめを主導した財政のプロだが、自民党在籍当時から民主党政権を厳しく批判したこともあり、今回の政治行動に対し党内外の批判は大きい。与謝野氏自身の責任ある説明が求められる。

税と社会保障の一体的改革は党派を超えて取り組まねばならない課題だ。首相はこの問題で与野党協議を呼びかけた。しかし、自らの案を示さず、野党が協議に応じないとして責任を転嫁するような姿勢では問題は解決しない。

民主党政権が政権公約の見直し作業に着手するのは当然だ。しかし、平成23年度予算案は子ども手当などのばらまき政策を含んだままになっている。その結果、一般会計規模で過去最大の92・4兆円に達し、新規国債発行額が2年連続で税収を上回る異常事態だ。

高齢化の進展によって社会保障給付費は100兆円を超し、現役世代の負担は限界に達しつつある。にもかかわらず、基礎年金の国庫負担の財源を埋蔵金に依存するような状態だ。財政規律を取り戻し財政再建路線を着実に進めてゆくためにも、与謝野氏は一刻も早く政府・与党案を作り上げ、提示してほしい。

◆TPP参加に踏み切れ

また、日本経済の浮沈はアジア・太平洋地域を中心とする世界の成長力を取り込めるかどうかにかかっており、その突破口としてTPP参加が求められている。具体的な成果を挙げることができなければ、首相が目指す雇用拡大や成長戦略なども望めない。

TPP参加に積極的な海江田万里氏を経財相から経済産業相に横滑りさせた。現在ではTPPのルール作りに参加できず、国益を損なっている。こうした事態を避けるため首相は早急に参加方針のとりまとめに動かねばならない。

TPPへの参加の判断に先立つ農業改革案作りも、従来の保護政策の延長や強化に終わらせてはならない。日本のコメには国際競争力も生まれつつある。鹿野道彦農水相は、こうした農業改革の先頭に立つべきだ。

異例のシフトといえば、参院議長経験者の江田五月氏の法相起用だ。法務・検察行政への信頼回復に手腕が発揮できるのだろうか。国家公安委員長として、不適切な発言が相次いだ岡崎トミ子氏が外れたのは当然だ。

一方、米軍普天間飛行場移設問題にあたる前原誠司外相と北沢俊美防衛相は留任し、仙谷氏の後任の枝野幸男官房長官が新たに沖縄・北方対策担当を兼ねる。

日米同盟強化も問われている。辺野古移設案の実現に向けた取り組みを加速し、集団的自衛権行使に向けた憲法解釈の変更などに踏み込むべきだ。同盟の空洞化を食い止めることが菅首相の重大な責務である。

朝日新聞 2011年09月23日

日米首脳会談 外交立て直しの起点に

外交もまた出直しである。

野田首相が国連総会出席のため、ニューヨークを訪れ、まずオバマ米大統領と会談した。

両首脳は日米同盟の深化で一致した。首相は会談後、「個人的な信頼関係を築くいいスタートが切れた」と自賛した。

それにしてもである。

就任から3年に満たないオバマ大統領が会う日本の首相は、麻生、鳩山、菅各氏に続いて、野田氏で実に4人目である。

首脳外交の時代に、これだけトップがころころと交代していては、戦略的な外交の展開など望むべくもない。

首脳間の本当の信頼関係は、たった1度の短い会談でできるはずもない。相手の国内的な立場にも配慮しつつ、約束を誠実に履行する。そして、手を取り合って課題に立ち向かう。こうした地道な連携を重ねて初めて実現する。その努力は、すべてこれからだ。

いまの日米関係に突き刺さった最大のトゲは、沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題だ。

大統領は初顔合わせにもかかわらず、具体的な結果を明確に求めてきた。首相も日米合意の実現に「沖縄の理解を得るよう全力を尽くす」と応じた。

現行計画が一向に進まず、米国側がいらだつ事情はわかる。しかし、首相のいう「沖縄の理解」がもはや得られそうにないことは、誰の目にも明らかだ。

つい最近も、沖縄県の仲井真弘多知事が米国で講演し、きっぱりと県外移設を求めた。日米合意が強行されれば「全県的な激しい基地反対運動につながり、日米安保体制に悪影響を及ぼしかねない」と警告もした。

知事が米国社会に向けて直接発したメッセージは重い。

日米安保体制の安定的な維持のため、両国政府はともに打開策を探るしかあるまい。同盟の知恵としなやかさが試される。

野田外交は、基軸である日米同盟の確認からスタートした。そこから、多極化する国際政治での日本の立ち位置を確認しつつ、誠実かつしたたかに展開をしていくことが求められる。

そのためには、強固な日米関係を土台に、東アジア、さらにはアジア太平洋地域の安定的な秩序をつくることだ。とりわけ、昨年の尖閣事件で一時、冷え込んだ中国との関係を本格的に改善する必要がある。

10月に首相の訪中が予定され、11月にはアジア太平洋経済協力会議や東アジアサミットといった多国間外交の舞台が控える。首相には、そうした一連の機会を通して、日本外交の全体像を紡ぎ出していってほしい。

毎日新聞 2011年09月14日

所信表明演説 「正心誠意」が胸に響かぬ

臨時国会が召集され、野田佳彦首相による初の所信表明演説が行われた。首相は震災復興を最大、最優先の課題と強調、財源として臨時増税の検討を表明した。

「ねじれ」国会の下、野党との対話重視や合意形成を訴えた点は理解できる。だが、首相が諸課題にどんな方向でのぞむかはあいまいで、演説から決意が伝わったとは言い難い。無難に走りすぎたようだ。

野田首相らしい演説、と言えるかもしれない。政権交代の気負いから理念やキャッチフレーズが先走った鳩山由紀夫、菅直人両氏と異なり、おおむね従来の発言を整理した手堅い内容だった。

幕末の政治家、勝海舟が説いた「正心誠意」の精神を国民、野党に向かうモットーに掲げ、復興、原発事故収束など「国難」に立ち向かう力の結集を訴えた。2年にわたる政権混乱を経ただけに、奇をてらうべきでないと判断したのだろう。

だが、自らを「どじょう」になぞらえ共感を呼んだ代表選に比べ、総じて胸に響かない演説だった。首相がどんな国家観や政策理念で内外の課題に取り組もうとしているかが明快に語られなかったためだ。

たとえば本格復興に向けた3次補正予算案について演説は交付金や特区創設に簡単にふれただけで、防災と地域再生の両立や、集団移転にどうのぞむかなどの方向性をほとんど示さなかった。震災からもう半年が過ぎている。これで「正心誠意」と胸を張れるのか。

菅前首相が進めた「脱原発依存」や自然エネルギー推進については「原発の新設は困難」との従来の発言を盛りこまないなど、後退をにじませた。定期検査中の原発の再稼働には柔軟姿勢を示唆した。エネルギーの将来構想のイメージをより具体的に説明すべきだ。

消費増税を含む税と社会保障の一体改革についても関連法案を次期通常国会に出すスケジュールを示すだけでは、迫力に欠く。国民にいずれは理解を願うと、もう少し踏みこんで語りかけるべきではないか。

与党は今国会の会期をわずか4日間限りとし、野党との調整がつかないまま衆院本会議で採決した。就任間もない閣僚の答弁が不安で、追及をかわす狙いだとすれば情けない守勢だ。「徹底的な議論と対話によって懸命に一致点を見いだす」と首相が説き、演説で野党側に何度頭を下げてもこれでは言行不一致である。

鉢呂吉雄前経済産業相の辞任は党内融和重視の布陣がともすれば緊張感を失いかねない危うさを示した。「融和と対話」は確かに重要だ。だが、首相自ら国民に針路を語る気概を失ってはならない。

読売新聞 2011年09月14日

所信表明演説 日本再生へ具体的な行動を

日本の政治も民主党政権も今、瀬戸際にある。その危機感を持ち、重要政策の実現に全力を挙げることが肝要だ。

野田首相が就任後初の所信表明演説を行った。

政治の停滞に対する海外の視線は厳しい。これまで積み上げてきた「国家の信用」が危機にひんしている。「希望と誇りある日本を再生する」ため、政府と国会は自らの役割を果たすべきだ――。

そうした首相の現状認識に異論はない。問題は、「国家の信用」を回復し、日本を再生するための具体的な行動をどう取るかだ。

首相は演説で、東日本大震災からの復旧・復興を内閣の「最優先課題」と位置づけ、第3次補正予算編成を急ぐ考えを強調した。

震災から半年間、復旧・復興は大幅に遅れている。政治の指導力が発揮されず、官僚も問題先送りの姿勢に終始したためだ。

政官関係の立て直しが急務だ。首相は、政治家と官僚が一体で課題に取り組むという発想を、各府省の閣僚ら政務三役に徹底させる必要がある。事務次官会議を事実上復活させたのは、前向きな一歩と評価できる。

政治家が自ら政策の優先順位を判断し、結果に責任を持つ一方、官僚の専門的意見に謙虚に耳を傾け、その能力と意欲を最大限引き出し、活用することが重要だ。

首相はまた、経済成長と財政健全化の両立に向け、産官学の英知を集めた「国家戦略会議」(仮称)を創設し、年内に日本再生の戦略を策定する方針を表明した。

震災後の産業空洞化や円高に効果的に対処するため、経済界と緊密に連携するのは当然だ。

菅政権では、前首相の場当たり的対応で経済政策が迷走し、経済団体との信頼関係も損なわれた。国家の危機克服には、オールジャパンの取り組みが欠かせない。

野田首相は演説で、消費税率引き上げを伴う社会保障と税の一体改革の関連法案を来年の通常国会に提出する方針を表明し、与野党協議の早期開催を呼びかけた。

衆参ねじれ国会で法案を成立させるには、政府・与党が、首相の言う「正心誠意」の精神で野党と話し合うことが不可欠だ。

それなのに、野党の追及を避けることばかりを優先し、臨時国会をわずか4日間で閉じるのは、おかしい。できるだけ早期に予算委員会の閉会中審査を行い、野党との関係を修復せねばなるまい。

自民党など野党も、日本再生の責任の一端を担っている自覚を持ち、与野党協議に臨むべきだ。

朝日新聞 2011年09月14日

野田首相演説 あとは、やり切れるかだ

野田首相がきのう国会で、所信表明演説をした。民主党政権で3人目の首相の初演説は、総じて地味な印象だった。

2年前、鳩山元首相は政権交代を果たした総選挙の熱気そのままに、持論の「友愛政治」を唱えていた。後を継いだ菅前首相は「政治主導」を旗印に「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げた。

ともに政権奪取の高揚感や、政策決定の仕組みを大きく変えようという意気込みが伝わる内容だった。

それに比べて、野田首相は粛々と課題に取り組む姿勢に徹した。東日本大震災と世界経済危機という「二つの危機」への対応を最優先課題に挙げ、演説の多くを割いた。

それは当然だろう。

いまが危機のときだから、という理由だけではない。

民主党は政権交代への一票を投じた有権者を裏切ってきた。政策で大風呂敷を広げながら、政治主導は空回りした。自信過剰で組織運営は拙劣、おまけに内輪もめばかり。

もはや民主党政権に、多くの有権者はあきれている。いまさら色あせた美辞麗句を聞かされても、しらけるだけ。そんな首相の現状認識が、演説によく表れていたように見える。

復旧・復興の財源は、いまを生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合う。

中長期的には、原発への依存度を可能な限り引き下げていくという方向性をめざす。

財政再建には歳出削減、増収、歳入改革の「三つの道」を同時に展望しながら歩む。

社会保障は世代間の公平性を実感できるように「全世代対応型」に転換する。

こうした演説に並べられた個別の政策の方向性を、私たちは評価する。増税を「歳入改革」と言い換えるなど、歯切れが悪く、具体性に欠けるものが目立つし、官僚の作文に過ぎないとの批判もあろう。

それでも、あとは実行あるのみだと考える。

首相は勝海舟が「政治家の秘訣(ひけつ)」として説いた「正心誠意」という言葉を引き、みずからの心を正し、重責を果たす決意を述べた。そして、ねじれ国会を「議論を通じて合意をめざすという立法府が本来あるべき姿に立ち返る好機でもある」と指摘し、徹底的な議論と対話によって与野党は一致点を見いだすべきだと訴えた。

この言葉通りに行動し、結果を残さねばならない。総選挙なしに4人目の首相など許されるはずもないのだから。

毎日新聞 2011年09月10日

野田政権の課題 TPP参加問題 攻めないと勝てない

野田佳彦首相は「手堅い」印象である。しかし、手堅いだけでは日本の未来は切り開けない。「なでしこジャパン」は守りもいいが、得点力があるから勝ち進んでいる。経済政策も同様である。「攻め」の姿勢が問われている。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は米国や豪州、ベトナム、マレーシアなど環太平洋地域の9カ国の成長戦略であり、自由貿易圏づくりを核心とする。

日本の戦後の経済発展は「貿易自由化」で実現した。今回がその例外であるわけがない。しかし、自由化の目標が非常に高いため、「日本農業が壊滅する」などという恐怖宣伝が浸透し、民主党も自民党も参加をためらっている。木を見て森を見ない議論である。

逆に問いたいが、TPPに参加しなければ日本農業は再生するのか。農業生産は増加するのか。農家の手取りは増えるのか。そんな展望はどこにもない。

TPPに参加しなければ、企業は海外移転をやめ空洞化の動きに歯止めがかかり、製造業の国内雇用は増加に転じるのか。ライバルの韓国や中国の企業に競り勝てるのか。話はまったく逆であろう。

日本が自由貿易協定のネット作りに立ち遅れたため、日本企業は海外市場で不利な競争を強いられつつある。アジア諸国とくらべ法人税も高い。円高も進む。これらがあいまって大企業だけでなく中小企業も海外移転を進めつつある。

中国や韓国、東南アジア諸国は優遇税制や補助金を整備し、世界シェアの高い日本の部品・素材企業を誘致しつつある。日本製造業の宝物ともいうべき企業群である。応じるところも増えている。日本市場の魅力を高めなければ、空洞化は進展する一方だろう。法人税を下げ、TPPに加わって、日本を自由で活力のある市場にしなければならない。

TPP交渉は難航しており、11月のハワイ会合での基本合意は難しそうだ。しかし、それを理由に交渉参加を先送りするようなことがあってはならない。それは「手堅さ」ではなく「無気力」である。

農業の自由化は確かに高度なものを要求される。しかし、明日からというわけではない。発効から10年あるいはそれ以上先のことであり対処の時間はある。自由化の例外品目も交渉次第で設定できるだろう。

TPPはコメの輸出を展望できるほどの強い日本農業にするチャンスなのである。戸別所得補償制度の充実などで混乱を避けつつ農業も「攻め」に転じるのは可能なはずだ。

読売新聞 2011年09月06日

TPP 交渉のテーブルに早く着け

通商政策の出遅れを挽回するために、日本に残された時間は少ない。

野田政権は、米国や豪州、シンガポールなど9か国が交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を決断すべきである。

米国主導のTPPは、鉱工業品、農産物、サービスなどの幅広い分野で貿易自由化を進め、自由貿易圏を形成する構想だ。

モノの関税を原則として10年以内に撤廃する内容とされ、アジア太平洋地域の新たな貿易や投資ルールとなる可能性が高い。

米オバマ政権は、11月にハワイで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)の時に大筋合意しようと、交渉を加速させている。

野田首相は「全世界との経済連携」の重要性を強調しながらも、TPPについては、「しっかり情報収集し、早期に結論を得たい」と述べるにとどまっている。

懸念されるのは、TPPに対する担当閣僚の姿勢が消極的とみられることだ。

産業界の活性化を目指すべき鉢呂経済産業相は、「関税ゼロと農業再生の両立は難しい問題」などと腰が定まらない。

再任された鹿野農相は、「交渉参加の時期は総合的に判断する」と相変わらず慎重だ。民主党代表選の際には、「TPP参加は国のかたちを変える」とさえ主張し、否定的な考えを示していた。

危機感が薄いのではないか。少子高齢化が進む日本は、成長著しいアジアなどの活力を貿易自由化によって取り込み、成長を実現する必要がある。

TPP推進派である前原政調会長の発言力に期待したい。

「平成の開国」を掲げた菅前政権は、APECをにらんで当初、6月にTPPへの参加を決断しようとしていた。しかし、東日本大震災後は結論を先送りした。

このままでは日本が参加する前に交渉が決着してしまう。後になって参加しようとしても不利なルールを押しつけられかねない。

超円高と電力不足を懸念し、製造業が生産拠点を海外に移転する動きが進んでおり、産業の空洞化が懸念される。TPPの出遅れが重なると、日本経済の衰退を招きかねないだろう。

政府は8月、農地の大規模化などを盛り込んだ農業再生の中間提言をまとめた。提言に沿い、野田政権は、貿易自由化に対応できる農業の競争力強化策を打ち出すことが肝要である。

TPP参加へ、首相の指導力の発揮が問われている。

朝日新聞 2011年06月23日

日米安保合意 同盟修復にはなったが

日米両国の外務・防衛担当閣僚が、4年ぶりに「共通戦略目標」を見直し、防衛協力や役割分担について合意した。

民主党政権では初めてのことであり、不透明さを増す東アジア情勢などをめぐり、日米が認識や政策をすりあわせたことには一定の意義があった。

新たな戦略目標は、中国の台頭に「地域の安全保障環境を不安定にしうる」との懸念を示し、国際法の順守や責任ある役割を促した。北朝鮮にも「挑発を抑止する」と強い姿勢で臨んでいる。

オーストラリアや韓国、インドなどと多国間の安保協力を進めようという発想も目を引く。

ただ、今回の合意は民主党政権になって、普天間飛行場の移設問題をめぐって揺らいだ同盟関係を、修復させることに大きなウエートがおかれた。

副題には「より深化し、拡大する日米同盟に向けて」とあるが、「同盟の退化を止めた」というのが実情だろう。

東日本大震災での日米協力の成功がその機運を高めたとはいえ、米側の期待に応えようとして日本側が困難を承知の上で、あえて盛り込んだと映る内容もある。

たとえば、懸案の普天間飛行場の移設問題では、沖縄の根強い反対で実現の見通しが立たない名護市辺野古への代替施設建設を明記した。自公政権時代の合意に戻っただけでなく、沖縄とのミゾをさらに深めるのは確実だ。

これでは、地元が求める訓練移転が進まないまま、住宅密集地の中に危険な軍用空港が固定化されてしまうことになる。

また米空母艦載機の岩国基地への移駐にからみ、米側が求める発着訓練の実施先として、鹿児島県の馬毛島を検討することも決めた。地元の反発は強く、米軍再編の新たな火種になるのは避けられない。

それだけではない。共同開発を進める弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイルの第三国移転についても、あいまいな指針で、なし崩し的に合意してしまった。

私たちはかねて、武器輸出三原則に絡めた国会での本格論議を求めてきた。具体的な歯止めがないまま移転が進む事態は、とても見逃すことができない。

日本が背負う代償が大きいのに、いったん退陣表明をした菅直人首相には、まともに向き合う余裕はない。米側も今月末で国防長官が交代する。

こんな、どたばたの中での合意に意義を持たせるには、改めて同盟深化を着実に進めるための仕切り直しが必要だ。

毎日新聞 2011年06月23日

日米安保協議 「対中」は多角的外交で

日米両政府は外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、中国の軍事的台頭などアジア太平洋地域の安全保障環境の変化を踏まえて新たな共通戦略目標をまとめ、共同文書を発表した。

海洋進出など軍事行動を強める中国に対して「国際的な行動規範の順守」を要求。さらに、名指しこそ避けたものの、中国を念頭に「地域の安全保障環境を不安定にし得る軍事上の能力を追求・獲得しないよう」求め、課題として「(海洋)航行の自由」や「宇宙及びサイバー空間の保護」などを挙げた。中国を強くけん制するトーンで貫かれている。

安全保障協力に力点を置いた日米同盟の深化が、アジア太平洋地域の安定や不測の事態回避に有効であるのは間違いない。政権交代を経た両国が引き続き協調して対応することを確認した意味は大きい。

とはいえ、「対中国」の柱が外交の強化でなければならないのは明らかだ。日中両国が掲げる「戦略的互恵関係」の前進を図るには、尖閣諸島沖衝突事件で損なわれた両国関係の立て直しを急ぎ、相互の政治的信頼の増進を基礎としたさまざまなレベルでの交流や協調行動の拡大が必要である。当面は防衛交流の再開やアジアの災害に対する協力の具体化などが挙げられる。また、日米関係だけでなく、中国との間で課題を抱える東南アジア諸国との連携を強化することも有益である。こうした重層的な対中外交戦略の構築こそが両国関係を前進させる基礎となる。

共同文書は、焦点の沖縄・米軍普天間飛行場の移設について、新たな期限を設けないまま「2014年までの移設完了」を断念する一方、同県名護市辺野古に建設する滑走路の形状と工法を確定させた。

しかし、県外移設を求め、辺野古案に反発する沖縄や、同案は実現困難と見る米議会の動きを見れば、辺野古への移設はほぼ不可能になったと考えざるを得ない。毎日新聞は、移設先を含めて「日米合意」を見直すとともに、移設実現までの間、普天間周辺住民の危険性を除去する具体策を検討するよう主張してきた。両政府に重ねて求める。

また、会合では日米が共同開発中の海上配備型迎撃ミサイルについて、米国から第三国への輸出を認めることで合意した。ミサイル防衛(MD)は防御のためのシステムだが、ミサイル技術には違いない。共同文書は、(1)日本の安全保障や国際の平和と安定に資する(2)第三国からの移転を防ぐ--との基準を提示した。しかし、「国際の平和と安定」というのはあいまい過ぎる。武器輸出三原則をなし崩しで空洞化してはならない。厳格な基準を策定すべきである。

読売新聞 2011年06月22日

日米戦略目標 同盟を深化し中国と対話を

民主党政権の下でも、日米同盟に関する包括的な共同文書がまとめられた意義は大きい。

外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)がワシントンで開かれ、同盟の深化を確認した。共同声明は、アジアと世界の安全保障上の課題を網羅する、新たな「共通戦略目標」を掲げた。

注目されるのは、ここ数年、軍備増強が目立つ中国に対する強い警戒感と踏み込んだ注文だ。「国際的な行動規範の順守」を促し、軍事面の「開放性及び透明性」を高めるよう求めている。

名指しを避けながら、「地域の安全保障環境を不安定にし得る軍事上の能力を追求・獲得しないよう」とも指摘した。「宇宙、公海及びサイバー空間」に対する「脅威」との表現も、中国を念頭に置いたものだろう。

最近の中国軍の近代化と海洋進出は突出しており、東シナ海や南シナ海で周辺国との多くの軋轢(あつれき)を生んでいる。

中国の自己中心的な行動を防止するには、まず強固な日米同盟を再構築したうえで、粘り強く中国と対話を重ね、責任ある行動を取るよう働きかける必要がある。

日米韓や日米豪の3か国協力を強化し、インドや東南アジア各国と連携することも欠かせない。

共通戦略目標は、北朝鮮について、「挑発を抑止」し、「完全かつ検証可能な非核化を達成する」と明記している。

北朝鮮の核とミサイルは、日本にとって現実の脅威だ。昨年の韓国軍艦艇攻撃のような軍事行動を予防するには、日米韓が足並みをそろえ、中国とも緊密に連携することが大切となる。

日米の防衛協力について共同声明は、より精緻な有事対処計画の作成や自衛隊と米軍の共同訓練の拡大、災害救援の後方支援拠点の設置などを列挙した。このメニューの着実な実行が重要だ。

東日本大震災の救援・復旧で自衛隊と米軍が大規模な共同作戦を展開したのは貴重な経験となった。今後の計画策定や共同訓練にきちんと反映させたい。

在日米軍再編では、普天間飛行場の移設時期を、従来の2014年から「できる限り早い時期」に先送りした。地元調整が進まない原因を作った鳩山前首相の迷走の罪は、今更ながら重い。

普天間飛行場の固定化は避けねばならない。民主党政権は、地元の説得に改めて正面から向き合う責任がある。23日の菅首相の沖縄訪問をその第一歩とすべきだ。

朝日新聞 2011年06月19日

TPP まずは交渉に加わろう

米国や豪州、シンガポールなど9カ国が交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するかどうか。政府の検討作業が止まったままだ。

もともとは6月中に参加の是非を判断するはずだったが、東日本大震災で先送りした。判断時期の多少のずれ込みはやむをえないだろう。

ただ、9カ国は今秋の大枠合意をめざしている。TPPは成長を続けるアジア太平洋地域の新たな経済連携の礎となりそうだ。停滞する日本経済の突破口として、貿易や投資の重要さは大震災で一段と増している。

最大の懸案は農業への影響だ。農業関係者のTPPへの反対姿勢は大震災後に強まった。「被災地の農家に配慮するべきだ」「国内対策の財源を確保できるのか」などが理由だ。

津波や原発事故で作付けを断念したり禁止されたりした農家を支援し、がれきの撤去や農地の除塩、放射能除染を急ぐことは当然だ。一方で、高齢化と後継ぎ不足、コメに代表される小規模兼業農家の競争力の乏しさなど、日本の農業が抱える課題は待ったなしである。

震災被害対策と中・長期の強化策を一体で考えたい。被災地の農家にも大規模化を唱える声はある。東北地方の農業を、国際的にも対抗できるモデルとして復興できないか。ばらまき色が濃い戸別所得補償制度を、規模拡大などに積極的な農家に手厚くすることが必要だろう。

TPP問題をにらんで政府が立ち上げた「食と農林漁業の再生実現会議」は6月上旬、震災から3カ月たって再開した。会議のテーマを当面の復旧に限ろうとする動きもあるが、あまりに視野が狭い。

TPPでは、日本がこれまで結んできた経済連携協定より踏み込んだ自由化を求められる。ただ、各国とも政治的に扱いが難しい品目を抱えてもいる。

議論を引っ張る米国も例外ではない。2005年に発効した米豪自由貿易協定では、豪州からの輸入で砂糖を関税撤廃対象からはずし、牛肉の自由化も世界貿易機関(WTO)の原則である「10年以内」を超えて18年かける。米国はTPPでも同様の仕組みにしたいようだ。

日本政府は交渉参加国から個別に情報収集しているが、おのずと限界がある。各国の本音をつかみ、日本の事情を訴えるためにも、まずは交渉に加わりたい。その結果、日本の国益にそぐわないとの結論に至ったら、引き返せばよい。

入り口で立ちすくんでいる余裕はないはずだ。

毎日新聞 2011年05月01日

日米同盟 国民の連帯感が基盤だ

2週間で2度目の会談だ。松本剛明外相がワシントンでクリントン米国務長官と会い、日米同盟深化に向けた協議促進を確認した。4月17日には長官が来日し、復興への全面協力を約束したばかりである。日米の外相同士が頻繁に会って意見を交わすことは、個人的な信頼関係を築くだけでなく、同盟の絆を一層強めるためにもきわめて有益だ。

4月にはオーストラリアのギラード首相も宮城県に足を運び、被災者を励ました。米豪の首脳クラスが日本を訪れ支援と激励のメッセージを送ってくれたことは、同盟国や友好国のありがたさを実感させた。松本外相が今回、米国民に感謝の気持ちを伝えたのは当然である。

震災前の日米関係は不信の連鎖が続いていた。沖縄県の普天間飛行場移設問題にからむ「米軍抑止力は方便」という鳩山由紀夫前首相発言、同盟強化に熱心だった前原誠司前外相の辞任、「沖縄はゆすりの名人」というメア前米国務省日本部長の暴言--。鳩山政権時代の危機的状況に戻ったかにさえみえた。

その雰囲気を変えたのが、震災後の米軍の大規模救援活動だ。米軍の存在がこれほど国民に安心感を与えたことはなかっただろう。

国と国の同盟関係は、政府間の合意や条約の条文だけに支えられているのではない。お互いの国民同士の連帯感が基盤である。草の根の一体感を欠いた同盟関係はもろい。被災者だけでなく多くの日本人が同盟の絆を意識するようになった今を好機ととらえ、政府は日米関係の立て直しに全力を挙げるべきだ。

問題は、何にどう取り組むかである。当面の課題は、普天間飛行場移設をはじめとする沖縄の負担軽減問題だが、同盟の重要性を強調するあまり、地元の同意を抜きにして同県名護市辺野古への移設を軸とした日米合意を沖縄に押しつけるのは、事態をこじらせるだけだ。

今回、日米同盟の大切さが改めて浮き彫りになったことを、むしろ、米軍基地が集中している沖縄の負担軽減論議のきっかけにすべきではないか。在日米軍の受益者は日本国民全体である。米軍の現状固定化ではなく負担の分かち合いを目指すことは、沖縄と本土の溝を埋め、長い目で見て日米同盟の強化につながる。

米国は単なる善意、友情で日本を支援したのではない。日本の国力弱体化は東アジアのパワーバランスを変え、米国の地域戦略に大きく影響する。国益がかかっているからこそこれだけ手厚い態勢を組んだのだ。日本も、日米同盟が安全保障上の国益の根幹であると再確認するとともに、国民全体でそれを維持発展させることを考えていきたい。

読売新聞 2011年05月29日

日米首脳会談 米軍再編を後戻りさせるな

懸案だった日米の重要な外交日程が、ようやく固まった。米軍普天間飛行場の移設や環太平洋経済連携協定(TPP)参加などの重要課題で成果を出す機会とすべきだ。

菅首相とオバマ大統領が仏ドービルでの会談で、首相が9月前半に米国を公式訪問することで合意した。首相訪米に先立ち、6月下旬に外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開くことも決まった。

会談では大統領が、東日本大震災からの日本の復旧・復興を支援し続ける考えを強調した。首相は「日米同盟の絆の深さを感じた」と謝意を表した。

自衛隊と米軍が連携し、被災者支援や復旧に取り組んだことは、日米の防衛協力にとって貴重な経験となった。2プラス2では、日米同盟をどう深化させるのか、その将来像を示してほしい。

普天間問題について、オバマ大統領は「政治的に難しいことは理解するが、日米同盟の安定のため、ぜひ進展させたい」と語った。

日米が合意した普天間飛行場の辺野古移設には、沖縄県などが反対している。米上院の有力議員は辺野古移設を「非現実的」とし、何度も検討された米軍嘉手納基地との統合案を再び持ち出した。

だが、米政府が辺野古移設の方針を堅持している以上、嘉手納統合案への過剰な反応は禁物だ。

米政府は、財政再建のため12年間で約33兆円の国防費削減に取り組んでいる。むしろ警戒すべきは、在沖縄海兵隊8000人のグアム移転が大幅に遅れたり、規模が縮小されたりする事態だろう。

普天間飛行場の移設と海兵隊のグアム移転は本来、一体の計画だ。辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場の固定化に加え、海兵隊のグアム移転も進まなくなる、と以前から指摘されてきた。

沖縄の負担軽減の実現には、辺野古移設が最も現実的な近道だ。政府と沖縄県は冷静に打開策を話し合うことが求められる。

日本がTPP参加の結論を7月以降に先送りしたことについて、菅首相は、「そう遅くない時期に方針を固めたい」と語った。

TPP参加は、日本の産業の国際競争力を強化し、経済成長に弾みをつけるうえで極めて重要だ。交渉参加が遅れれば、より不利な条件を押しつけられかねない。

菅首相は、できるだけ早期にTPP参加を決断すべきだ。

朝日新聞 2011年02月13日

日豪EPA 首相の決断は本物か

「開国」を唱える以上、まずこれを成功させねばならない。

日本と豪州の経済連携協定(EPA)交渉が10カ月ぶりに再開した。4年前に始まった交渉は、豪州が強く求める牛肉や乳製品の関税撤廃を日本が拒んだため妥結のめどが立たず、棚上げ状態となっていた。

交渉の重みは以前よりずっと増している。菅直人首相が参加意欲をみせている環太平洋経済連携協定(TPP)の前哨戦だからだ。

TPPは関税撤廃で高いレベルの自由貿易をめざす通商交渉。米国など9カ国が参加している。豪州はその一つで、有力な農産品輸出国だ。

農産品の関税撤廃を恐れ、農業輸出国との自由貿易を避け続けてきた日本にとって、TPPはかつてないほど難しい通商交渉だ。豪州との交渉はその試金石となろう。

日本は豪州に自動車関税(5%)の撤廃を求めている。日本の自動車メーカーが対豪輸出で関税面から有利な東南アジアに生産拠点を移しており、国内雇用にも響いている。対応を急がねばならない。

逆に豪州からは、「オージービーフ」でおなじみの牛肉や、日本のうどんの原料とされている小麦、乳製品などの関税撤廃を求められている。日本は農産品以外はほとんど関税ゼロなので、農産品での対応がなければ、豪州にとっては魅力がない。

だから日本が農産品の輸入自由化に踏み出さない限り、EPA交渉のゴールは見えない。日本が決断するときではないだろうか。

それには国内農業のショックをやわらげるために、打撃を受ける農家を補償などで支えることも必要になる。関税撤廃を10年ほどかけて段階的に進め、その間に国内農業を強化していくことが欠かせない。

そうした国内の体制を早く整え、それに即した交渉を進めなければいけないのに、菅政権の段取りは遅い。

日豪EPAの合意と、TPP参加の決断は、いずれも6月がめどというが、順調に進んでも日本がTPP交渉のテーブルに着くのは秋だ。オバマ米大統領は11月のTPP合意をめざしており、日本が交渉に入る時には、もはや協定内容が固まっている。

農産品の本格的な自由化時代を迎えるためには、兆円単位とも言われる巨額の国内対策が必要だが、国民負担を抑える知恵もいる。零細な兼業農家まで対象としている現行の戸別所得補償制度では、とても対応できない。大規模な主業農家に対象を絞る方向で制度を見直す必要があるだろう。

「国を開く」という首相の言葉は正しいし、頼もしい。しかしその決断が本物かどうかは、今後の日豪EPA交渉の進展で分かる。

毎日新聞 2011年02月09日

日豪EPA 試される政府の本気度

経済連携協定(EPA)をめぐる日本とオーストラリアの交渉が再開した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加国でもあるオーストラリアとのEPAは、「平成の開国」を唱える日本政府の本気度を試す交渉でもある。

日本は、鉄鉱石や石炭、天然ガスなどの資源の多くをオーストラリアに依存している。小麦などの食料供給でもオーストラリアの役割は大きい。経済安全保障の観点からもオーストラリアとの関係は重要だ。

一方、オーストラリアにとっては、自国の産品の大半がすでに無税で日本に輸出されており、農業分野で関税撤廃が実現しない限り、日本とのEPAのメリットは乏しい。

しかし、日本側は、牛肉、小麦、乳製品、砂糖の4品目を、関税撤廃などの例外となる重要品目とするよう求めている。農産品の市場開放に消極的で、それが障害となって交渉は中断していた。

政府が6月をめどに参加の是非を決めることにしているTPPは、より高いレベルでの市場開放をめざしている。オーストラリアとのEPAは、日本にとってTPPへの参加の前提ともなるだけに、正念場となる交渉だ。

新日本製鉄と住友金属が合併をめざすことになったように、新興国の企業も加わったグローバルな競争に勝ち抜くには、企業の大規模な集約も必要になっている。国内での雇用を確保する意味からも、日本製品が関税などで他国の製品と差をつけられないようにすべきだ。

もちろん、関税撤廃により打撃を受ける乳製品や砂糖などについては、補償措置が必要だ。集票目当てのバラマキになったとして批判されている農家への戸別補償は、市場開放によって打撃を受ける生産者を救済するための手段として集中的に使われるべきで、そうした仕組みに改めるよう求めたい。

オーストラリアとのEPAの合意目標も6月がめどという。日豪EPAが進展すれば、TPPへの参加についても追い風になるだろう。

しかし、オーストラリアは、日本がこれまでEPAを結んできた国々と違って世界有数の農業大国だ。そのため、農業団体などは日豪EPAに強く反対している。

ただ、このままでは農家の高齢化はますます進む。高い貿易障壁の維持という守りの姿勢だけでは、農業の衰退に歯止めをかけることはできない。

目先の困難から目をそむけるのではなく、生産性の向上を促し、競争力を備えた農業に転換することを見据えて、オーストラリアとのEPAの交渉に臨んでもらいたい。

読売新聞 2011年05月01日

日米外相会談 緊密対話を同盟強化に生かせ

東日本大震災への対応における日米の緊密な対話と協力を、同盟関係の強化につなげたい。

そのためには、米軍普天間飛行場の移設問題など日米の懸案の解決に向けて努力することを忘れてはなるまい。

松本外相がワシントンでクリントン国務長官と会談し、震災後の米側の支援に謝意を表明した。両者は、福島第一原子力発電所事故に伴う日本産品の風評被害の防止に協力することで一致した。

震災後の1か月半余で外相会談は3回目だ。頻繁な対話を歓迎したい。米軍のトモダチ作戦、原子力専門家の派遣、経済界の支援など多彩な日米協力は、緊密な政治対話に下支えされている。

一連の日米協力を今後の外交に最大限活用する発想が大切だ。

5月下旬の日中韓首脳会談や主要8か国(G8)首脳会議では、災害時の関係国の協力や原発の安全性確保が重要議題となろう。

救援物資や救難隊を被災地に迅速に送り、原発事故時に円滑な協力を行うには、事前にどんな準備や取り決めをすべきなのか。

日本は、今回の体験を踏まえ、具体的な国際ルールや協定作りを積極的に提案してはどうか。

日米外相会談では、焦点となっている外務、防衛担当閣僚による日米安保協議委員会(2プラス2)の開催について、具体的な日程で合意できなかった。

2プラス2は大型連休中に開く予定だったが、震災対応を優先する日本側の都合で延期された。昨年来の同盟深化の作業を共同声明として発表する予定で、6月下旬の菅首相訪米の前提となる。

日程調整が難航する背景には、普天間問題の停滞が指摘されている。菅首相が、自らの訪米を本気で成功させたいなら、震災対応を言い訳に、普天間問題を放置していられないはずだ。

先週、カール・レビン米上院軍事委員長が沖縄県を訪問した。米議会で、普天間問題が進展しない場合、在沖縄海兵隊のグアム移転予算を大幅に削減すべきだとの意見が強まっているためだ。

普天間問題の停滞が海兵隊のグアム移転をも困難にさせることは、地元負担の軽減を目指す沖縄にとっても本意ではあるまい。

北沢防衛相は7日、沖縄で仲井真弘多知事と会談する。これを機に、菅政権は、普天間飛行場の県外移設を唱える知事らへの説得を本格化することが求められる。

朝日新聞 2011年01月25日

両党首の演説 接点は見つかるはずだ

菅直人首相がきのう、施政方針演説をした。一昨日には谷垣禎一自民党総裁が党大会で演説し、2大政党の違いが鮮明になってきた。

野党との「熟議」を探る首相に対し、衆院解散・総選挙を求めて対決姿勢を強める谷垣氏。とりわけ政策面での焦点は社会保障と税制の一体改革と、マニフェスト(政権公約)の見直し問題である。

首相は一体改革について、自民、公明両党もかねて与野党協議を唱えてきたことに触れ、「各党が提案するとおり、議論を始めよう」と呼びかけた。

これに対し、谷垣氏は「ばらまくだけばらまいて、国民に負担をお願いする耳の痛い話は超党派でやりましょうというのは虫の良い話」と批判した。協議は、子ども手当などをはじめ政権公約を「撤回」してからだという。

私たちも政権公約を見直すべきだと主張してきた。だが、撤回しなければ話もしないというのであれば、かたくなに過ぎないか。

一体改革は、年金など将来も使い続ける社会保障制度と、その財源の再設計である。その間、政権が代わるたびに制度の根本がくるくると変われば、大混乱を引き起こす。とすれば、どの党が政権を担当しようが引き継げる仕組みをめざして共に知恵を出し合い、接点を探る努力が欠かせない。

自公が与野党協議を唱えたのも、だからこそではなかったか。消費税を含む税制改革のため、2011年度までに法を整備するとした改正所得税法を成立させたのは麻生内閣だ。民主党が呼びかけている今が好機のはずだ。

むろん、民主党公約にある政策についても、与野党で議論を深めてもらいたい。新年度予算案の審議を通じて、修正に合意できればよい。

公約の見直しとは、有権者と交わした約束を無造作にほごにせよ、ということではない。

公約の根本にあるのは、どんな社会をめざすのかという目標だろう。

子ども手当でいえば、産みやすい環境をつくり、育ちを助けること。民主党の公約は、高齢者に比べて手薄だった子どもへの投資を増やそうとする点では間違ってはいなかった。それは、高齢者を支える世代を強めることにもつながる。

ただ、子ども手当と保育所整備にそれぞれどのくらいの比重を置くのか、実現の速度や規模をどうするかといった手段や工程は柔軟であるべきだ。

選挙時にすべて見通せればいいが、後によりよい手段が見つかることも、財源の壁にぶつかることもある。

何をめざすのか、理念や目標を整理し、それに沿って公約を組み立て直すことが不可欠だ。そうすれば野党との協議の際、どこを譲れるのか、何が譲れない点かも見えてくるに違いない。

毎日新聞 2011年01月25日

施政方針演説 野党頼みでは危うい

海図なき論戦の幕開けである。第177通常国会が召集され、菅直人首相の施政方針演説が行われた。

首相は税制・社会保障改革をめぐる政府基本方針や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の結論を6月までに取りまとめる考えを表明、自民党などを名指しして与野党協議の開始を強い調子で呼びかけた。

例年、内閣にとって正念場となる通常国会だが、これほど視界不良なケースもまれなのではないか。

「ねじれ国会」の下、野党は菅再改造内閣に対決色を強めている。11年度予算案の関連法案も含め、あらゆる案件の行方が見えない。予算審議が山場を迎える春ごろの「政権危機説」が決して、誇張とは言えない客観情勢だろう。

それだけに、首相の覚悟が問われる。演説で「平成の開国」「最小不幸社会」など3理念を掲げ、消費増税を念頭にある程度の負担増は避けられない、と言い切った。

首相はこれまで明確な政権の目標を打ち出せずにいた。TPPに加え、税制・社会保障改革を持論の「最小不幸社会」に結びつけ、旗印にしようとした意欲は評価できる。

これらの課題で首相が協議を呼びかけたことを野党は重く受け止めるべきだ。だが、政府・与党方針の期限を「6月」としつつ、協議を呼びかけるだけでは迫力を欠く。「野党への責任転嫁」との批判をはねつけるためにも、できるだけ速やかに政府・与党の方針を大筋で固め、国会で説明すべきだ。

何にも増して、予算審議という関門をまずは、越えねばならない。たとえば与野党攻防の焦点である「子ども手当」について首相はさきの党大会で、政権交代のシンボルとして成果を力説したばかりだ。

仮に政府が予算の修正に踏み切るのであれば民主党公約のどの部分を堅持し、修正するか、それに伴う政治責任をどう判断するか、いずれ腹を固めねばなるまい。

3理念のひとつ「不条理をただす政治」について、首相は年頭の記者会見で「政治とカネ」のけじめを強調、小沢一郎民主党元代表の出処進退にまで言及した。ところが、演説では政治改革について、あっさりとふれるだけに終わってしまった。

さきの臨時国会で掲げた「有言実行内閣」のスローガンも早々に消えた。状況次第で政権の力点が揺れ動く感をなお、ぬぐえない。

首相が言う通りの「熟議の国会」の実現には、野党が建設的な議論に応じることが必要だ。だからといって、すべて「野党任せ」の論法では逆に足元をみられよう。国民に信を問うほどの気概で自ら指針を示さねば、到底乗り切れぬ局面である。

読売新聞 2011年02月12日

日豪EPA 早期合意がTPPの試金石だ

10か月ぶりに再開した日本と豪州の経済連携協定(EPA)の交渉は、大きな進展がないまま終了した。

菅首相は貿易自由化を推進する「平成の開国」を掲げ、米国などが進める環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するかどうか、6月ごろに結論を出すと公約している。

豪州はTPPの主要メンバーだ。日豪EPAで妥結できなければ、TPP参加の道も難しい。

日本にとっては、開国の決意が問われる試金石である。民主党内に反対派を抱えるなど環境は厳しいが、政治決断による早期合意が待たれよう。

2007年に始まった日豪EPA交渉は、豪州が求める農産品の関税引き下げに日本が抵抗したため、中断されていた。

今回、東京で開かれた仕切り直しの交渉は、日本の姿勢がどう変わるのかが注目された。しかし、交渉を打開するような動きはなく、期待外れの結果だった。

足かせになったのが、牛肉、小麦、砂糖、乳製品の4品目である。関税率は牛肉が38・5%、バター360%などと相当に高い。

これまで日本が13か国・地域と合意したEPAでは、この4品目を市場開放の「例外扱い」として保護してきた。

だが、TPPは、より徹底した貿易自由化を目指し、原則として10年間で関税を撤廃する内容だ。最初から一部を「例外扱い」とする交渉は認められない。

政府が昨年11月に決めた経済連携の基本方針には「すべての品目を自由化交渉の対象とする」と明記された。その方針に沿い、従来の姿勢を改める必要がある。

農業の国際競争力を強化するため、政府は6月に農業改革の基本方針をまとめる。

関税引き下げなどで打撃を受ける農家の支援策などを検討しながら、豪州との交渉も加速し、TPP参加の道筋をつける――。そうした戦略が求められよう。

豪州との交渉は鉱工業品分野も重要だ。日本は豪州が輸入関税をかける自動車などの関税撤廃を要求している。実現すれば、豪州向けの輸出が拡大するはずだ。

日本が需要の6割以上を依存する鉄鉱石と石炭や、豪州に豊富なレアアース(希土類)のさらなる安定供給も期待できよう。

米国や欧州連合(EU)と自由貿易協定(FTA)を結んだ韓国が、豪州とも交渉中だ。日本は韓国に先を越されないよう、本腰を入れて取り組まねばならない。

朝日新聞 2011年01月15日

改造内閣発足 結果出していくしかない

菅直人第2次改造内閣が発足した。

仙谷由人官房長官らに対する参院の問責決議を受け、やむなく人事に踏み切ったのが実態である。

しかし、菅首相はきのうの記者会見で「日本の危機を越える力を最大にする」ことが眼目だと強調した。とするなら、これからの実際の仕事ぶりでそれを示してもらわなければならない。

与謝野馨経済財政相の起用は社会保障制度と財源の改革、海江田万里経済産業相らの起用は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を含む経済連携と農業改革のためだという。

政権の最優先課題は一体何か。覚悟が見えず、すぐふらつく。そんな批判を首相は浴び続けてきた。目指す目標を明確にし、人事を通じ実行する態勢を整えようとした意図は理解できる。

マニフェスト(政権公約)を網羅的に実現させる「全面展開型」から、菅氏が掲げる二つに力を注ぐ「2点突破型」にかじを切ったと言えるだろう。

むろん一筋縄にはいくまい。政権は深刻な逆境にある。今度こそ金看板の「政治主導」に魂を入れ、改革を現実のものとしなければならない。

大切なのは、国民の理解を得る丁寧な努力である。

首相は会見で「社会保障のあり方を考える中で、持続可能な財源のあり方も議論する」と語った。国の懐が苦しいという言い方では消費増税に理解を得られないと学んだのだろう。社会保障や農業の将来像をどう描き、不安を除くか。成否はそこにかかっている。

政治主導を実効あるものにするには官房長官の役割が重要である。

閣僚がそれぞれの思惑で言い募り、内閣として統率が取れない。政権交代後、見せられたのはそんな姿だった。

批判はあっても、仙谷氏は衝突する利害を調整し、憎まれ役を買って出ていた。その役割を、46歳と歴代最年少の枝野幸男氏が担えるか。枝野氏は立て板に水の弁舌が際だつが、一方で危うい発言も散見される。

心もとなさを拭い去るかぎは、足らざる点を自覚し、互いに補うことだ。繰り返し指摘してきたように「チーム菅」をがっちりと組み上げ、活発に機能させていくことである。

78歳の藤井裕久元財務相を官房副長官に、69歳の江田五月前参院議長を法相に据えた異例の人事には批判もある。それに応えるには、経験と知恵を生かし、結果を出していくしかない。

チーム菅がまず直面するのは依然、政治とカネの問題である。岡田克也民主党幹事長は小沢一郎元代表に対し、きのうまでに衆院政治倫理審査会への出席を自ら申し出るよう求めていたが、小沢氏は応じなかった。

この問題を早急に処理しない限り、「最強の態勢」もつかの間の掛け声に終わるほかない。

毎日新聞 2011年01月16日

論調観測 菅再改造内閣 「問責交代」定着に懸念

菅直人首相が政権発足7カ月で、早くも2度目の内閣改造人事を行った。

閣僚の交代は反転攻勢に一見有効に思えるが、自民党政権下では必ずしも成功しなかった。人事のカードを切った時点で首相の求心力は失われ、むしろ不満を抱え込むことも少なくないためだ。

今回は、参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相が交代しないと、国会召集すらままならぬ窮地での改造だ。同時に、たちあがれ日本を離党した財政再建論者、与謝野馨元財務相を経済財政担当相に据え、消費増税をにらんだ。海江田万里氏を経済産業相に横滑りさせ、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加の促進も図った布陣だ。

各紙は15日社説で取り上げた。毎日は「政権賭する覚悟を示せ」と題し、消費増税、TPP参加に向けた陣容を評価した。だが、首相の記者会見の内容には強い失望を示した。

人事では、やはり財政再建派の藤井裕久元財務相も官房副長官に起用した。ここまで消費増税を意識しながら首相は会見ではまだ白紙、との言い方に終始した。これでは「覚悟が伝わらない」、との指摘である。

他紙は「結果出していくしかない」(朝日)、「懸案に党派を超えて取り組め」(読売)、「『問責改造』で首相は態勢を立て直せるか」(日経)、「国難打開へ実績示せ」(産経)と、首相が懸案から逃げずに取り組むよう求める論調でほぼ一致した。政治がこのまま迷走すれば、国そのものが沈没しかねない、との危機感からだろう。

これに対し東京は「増税シフトなら許さぬ」と与謝野氏起用に疑念を示し、民主党政権を批判していた同氏の行動を「変節」と断じた。

法的拘束力の無い問責決議に屈する形で閣僚が辞任、交代することへの懸念も目立った。毎日は「前例とすべきではない」、日経は「辞任が相次ぐのは望ましくない」と指摘、朝日も「慣例にしてはならない」(14日)と主張した。一方、読売は国会運営を考慮すれば「更迭はやむを得ない」と論評した。

改造の数少ない成功例に、小泉純一郎首相による04年9月のケースがある。同時に行った自民党役員人事で、幹事長に武部勤氏をあてたことは、最初は意味不明とすら言われた。だが、振り返ると「偉大なるイエスマン」武部氏の起用は、翌年の郵政解散の重要な布石だった。菅首相の覚悟はいかばかりか。【論説委員・人羅格】

読売新聞 2011年01月25日

施政方針演説 政策実現へ周到な戦略で臨め

重要な政策での協議をただ野党に求めるだけでなく、実現への戦略を持って臨むべきだ。

通常国会が開幕し、菅首相が、初めての施政方針演説を行った。社会保障と税の一体改革や環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題など懸案を解決するため、野党に協議に応じるよう呼びかけた。

衆参ねじれ国会の下、予算関連法案や重要法案を成立させるにも野党の協力は欠かせない。切羽詰まった感のある首相の主張に、異論はない。

問題は、民主党内をまとめ、対決色を強める野党からも合意を得るだけの周到な準備と強い意志が首相にあるかどうかである。

首相は既に、政府・与党として4月に社会保障改革の方向性を出し、6月に税を含む改革案をまとめる考えを明らかにしている。

政府・与党が、具体的な方針を示さなければ、協議を求めても、野党側は受け入れまい。

野党との協議を急ぐためにも、4月の段階から国民の負担増に関して十分議論し、国民にも正面から理解を求める必要がある。

首相は演説の中で、与党と自民、公明など野党との間に「問題意識と論点の多くは共有されている」と述べた。妥当な認識である。野党側も協議を拒否する理由はないのではないか。

もう一つの大きな政治課題であるTPPへの参加問題について、首相は6月をめどに結論を出すと言明した。しかし、米国の主導で関係国のTPP交渉は加速している。交渉参加への合意形成を急ぐ必要があるだろう。

首相の演説で、決定的に欠けていたのは、国・地方の借金残高が今年度末で868兆円にものぼる国家財政への危機感だ。

高速道路の無料化や子ども手当などバラマキ政策を続ける余裕はない。無駄を見直せば財源を生み出せるとしてきた政権公約を抜本的に改めるべきだ。

民主党の看板である「政治主導」については、政策立案・調整から官僚を排除してきたことが行き過ぎだったと自ら反省し、見直したばかりではないか。

政権公約を大胆に修正する意思を明確にすることが、ねじれ国会を乗り切る手だてにもなる。

首相は、演説の最後で、国民が国会に期待するのは建設的な議論と、先送りせず結論を出すことだと述べ、今度こそ「熟議の国会」にしようと全議員に訴えた。

その通りである。臨時国会の二の舞いは見たくない。

朝日新聞 2011年01月14日

内閣改造 「問責交代」慣例にするな

菅直人首相がきょう、内閣改造と党役員人事を行う。

予算編成に携わった閣僚を、国会審議を前に交代させるのは異例である。これからの厳しい政権運営を見据え、首相としては内閣と党の立て直しにつながる布陣としなければなるまい。

月内に召集される通常国会は、衆参ねじれ状況の下、国民生活に直結する新年度予算案と関連法案を年度内に成立させられるかどうか、政権の命運がかかった正念場となる。

自民、公明など野党は、参院で問責決議が可決された閣僚を代えない限り、国会審議を拒否するという方針を譲らない。であるなら、仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相の交代はやむをえない。そんな現実的な判断を、首相は下したのだろう。

たしかに、「第二院」とはいえ、「参院の意思」としての決議は重い。

しかし、問責決議に法的拘束力がないことは改めて指摘しておかなければならない。それが事実上、政治的に閣僚の生殺与奪の権を握るような事態は、衆院の「優越」を定めた憲法の想定を超えているだろう。

憲法63条は、首相その他の国務大臣は「何時でも議案について発言するため議院に出席することができる」と、閣僚の権利を定めてもいる。

問責した閣僚が出席する国会審議には一切応じないとする野党の姿勢は、この明文規定に照らしても「無理筋」(仙谷氏)というほかない。

国会に求められる政府へのチェック機能は、徹底した審議を通じて発揮されるべきである。

今回、結果的に仙谷、馬淵両氏が交代するからといって、これを今後の国会運営の慣例にしてはならない。

民主党の岡田克也幹事長は、問責決議の位置づけを含め、衆参両院の関係のあり方を与野党で議論したい考えを示した。

政権交代時代を迎え、どの政党にも与党になる可能性がある。野党も当事者意識を持って、共通認識を得るべく真摯(しんし)に話し合いに応じて欲しい。

一方、首相はたちあがれ日本を離党した与謝野馨氏を政権に迎え入れる方針だ。自民党時代から消費税増税を含む財政再建に熱心だった与謝野氏に、税と社会保障の一体改革の推進役を期待してのことだろう。

ただ、与謝野氏はかつて民主党政権の経済財政運営を厳しく批判した経緯がある。どこが一致し、どこが一致できないのか、首相、与謝野氏の双方から納得できる説明を聞きたい。

政策通で、官僚組織の動かし方にたけているとはいえ、無所属となった与謝野氏がたった一人で政府に乗り込んでも、力量を発揮できる保証はない。異例の起用を結果に結びつけられるか、首相の力量もまた問われる。

毎日新聞 2011年01月15日

菅再改造内閣 政権賭する覚悟を示せ

社会保障制度と税制を一体的に改革する。そして環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加して通商国家として成長の基盤を整える--。14日発足した菅再改造内閣は菅直人首相が何を目指しているのかを示す布陣となったのは間違いない。

しかし、菅首相は記者会見で与野党の議論だけでなく国民的議論も求めながら、例えば国民の大きな関心事である消費税率引き上げに関して自身はどう考えているのか、言葉を濁した。今回の内閣改造は首相に与えられた最後のチャンスのはずだ。これでは首相の覚悟が伝わらない。

まず人事のポイントを点検してみたい。今回、一種のサプライズだったのは、やはり経済財政担当相に、たちあがれ日本を離党した与謝野馨氏を起用したことだ。

同氏は自民党政権の要職を歴任し、かねて消費税率引き上げの必要性を明言する財政再建論者として知られる。前例のない人事に託した首相の意図は明白だろう。官房副長官に民主党の長老格、藤井裕久元財務相を充てたのも異例の人事だが、藤井氏も財政再建論者であることから今回の起用となったと思われる。

経済財政担当を外れた海江田万里氏は経済産業相に横滑りし、もう一つの重要課題であるTPP参加問題を担当する。与謝野氏と海江田氏が同じ選挙区で争ってきたことへの配慮だけでなく、大畠章宏前経産相を国土交通相に代えたのは大畠氏がTPPに消極的だったという理由が大きい。ここにも政策実現を優先する姿勢が見て取れる。

一方、焦点だった官房長官人事では、仙谷由人氏の後任に枝野幸男氏を充て、小沢一郎元代表を支持するグループとは一線を画す「脱小沢」路線を貫いた。これも、妥協せずリーダーシップを貫く姿勢を首相はアピールしたいのだろう。

しかし、問題はこうした布陣を整えたうえで、どう政策を実行に移していくかだ。支持率の低迷にあえぐ菅首相にとっては高いハードルがいくつも待ちかまえているのは首相も承知しているはずだ。

まず民主党内だ。再三、指摘しているように今の民主党の深刻さは、「反小沢対親小沢」の党内対立が政策の対立に発展してしまっているところにある。小沢氏を支持しているグループには元々、消費税率の引き上げに反対論が強く、今回の与謝野氏の起用に対しても、早速、反発が広がっている。

税制と社会保障の改革について、与野党の協議を呼びかけている菅首相は、与謝野氏に自民党などとのパイプ役になってもらいたいとの期待もあるようだ。だが、自民党を離党し、さらに、たちあがれ日本も離れて入閣した与謝野氏の行動には野党からの批判も強い。そんな現状で肝心の党内もまとめられないのであれば、野党との協議は不可能だ。

ところが、そうした厳しい状況でありながら、再改造内閣発足後の菅首相の記者会見から、自らの進退、いや民主党政権の存亡を懸けるといった強い決意が伝わってこなかったのは、どういうことか。

首相は「日本の危機を乗り越える」と何度も危機感を訴え、「安心できる社会保障制度を作る」とも語った。それは当然の話だ。しかし、具体論となると相変わらず党内外の批判を恐れているのか、とりわけ消費税に関しては「はじめに引き上げありきではない」とも語るなど、まだ白紙だとの言い方に終始した。

確かに具体的にはこれからの作業だが、財政と社会保障の立て直しがもはや待ったなしであることは多くの国民も既に知っている。多少なりとも首相自身の考えを語ってもらわないと逆に国民は戸惑ってしまう。

二つのテーマだけではない。当面の課題は衆参のねじれのもと通常国会で新年度予算案と関連法案を成立させられるかである。菅内閣は一昨年の衆院選のマニフェストの見直しにも着手するという。だとすれば今の予算案もそれに伴って修正するのか。それはどの部分なのか。早急に整理すべきだろう。懸案となっている小沢氏の衆院政治倫理審査会出席問題も進展がない。これも早急に実現を図るよう改めて求めておく。

言うまでもなく今回の内閣改造は昨年、参院で野党の賛成多数により、仙谷氏らの問責決議が可決され、野党側が仙谷氏らを交代させなければ通常国会の審議に応じない姿勢を示したのがきっかけだ。法的根拠のない問責決議を乱用し、審議拒否の口実にすべきではないと何度か指摘してきたように、今回の一件も前例とすべきではないと考える。

今後、どの党が政権を取ったとしても、衆参がねじれる可能性が絶えずあることを想定すれば、問責決議の扱いも含めて、国会審議のあり方について与野党で真剣に協議すべき時期である。

今回の内閣改造でようやく通常国会は24日から始まることになった。まだ入り口に立ったに過ぎないということだ。菅首相の施政方針演説では自らの考えをより具体的にするよう求める。それを受け、野党も徹底的に政策論議をし、一歩でも前に進む国会になるよう願いたい。

読売新聞 2011年01月15日

菅再改造内閣 懸案に党派を超えて取り組め

日本が直面している危機を乗り越えねばならないという菅首相の意欲はうかがえる。

だが、政策の実現には与党だけでなく、野党の協力が不可欠だ。菅首相の不退転の決意と実行力が問われよう。

◆政策実現へ政治生命を◆

菅再改造内閣が発足した。

改造の狙いは、明確である。

一つは、参院で問責決議が可決された仙谷官房長官と馬淵国土交通相を事実上更迭し、国会審議への障害をなくすことだ。

無論、問責決議に法的拘束力はない。しかし、自民、公明など野党が両氏の更迭を強く要求し、西岡参院議長まで「国を担う資格なし」と仙谷氏の辞任を求めた。

24日召集の通常国会が冒頭から動かない事態を避けるには、更迭はやむを得ないだろう。

もう一つは、首相が「政治生命」をかけると言明した消費税を含む税制と社会保障制度の一体改革や、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、日米同盟強化に取り組む体制を整えることだ。

そのための目玉人事が、たちあがれ日本を離党した与謝野馨・元官房長官の経済財政相への起用である。“外様”の入閣に、民主党内では、従来の言動と整合性がとれるのかと反発が強い。

だが、首相は与謝野氏の能力と経験を買い、野党側とのパイプ役を期待している。記者会見では、与謝野氏が麻生内閣で社会保障の基本政策を検討した「安心社会実現会議」の中心だったとして、政策で共通認識があると語った。

与謝野氏には、社会保障問題での与野党協議実現など、具体的な成果を上げてもらいたい。

TPP参加に消極姿勢を示していた経済産業相の大畠章宏氏を国土交通相に横滑りさせ、後任に経済財政相の海江田万里氏を据えたのも、首相のTPP推進の意思の表れと見てよい。

前原外相と北沢防衛相を留任させたことは妥当な判断だ。米軍普天間飛行場の移設問題を解決する糸口を見いだし、日米同盟を立て直すためには、継続的な取り組みが欠かせない。

◆野党も連帯責任果たせ◆

首相は、重要課題解決に向けて布石を打った。問題は、野党からいかにして協力を得るか、そのために民主党内をどうまとめていくかである。

内閣の要、官房長官には、小沢一郎元党代表に批判的な枝野幸男幹事長代理が就いた。安住淳国会対策委員長の起用とともに「脱小沢」路線継続を鮮明にした。

首相は、野党から協力を得るうえで足かせになっている小沢氏の「政治とカネ」の問題決着に本腰を入れる姿勢を示した。

だが、小沢氏の問題を契機に、民主党内に生じた亀裂は深刻だ。新内閣についても小沢氏を支持する議員たちは「挙党一致にはほど遠い」と冷ややかだ。

政権基盤の弱い菅首相が、ただでさえ困難な消費税率上げ、TPP参加といった課題で党内をまとめるのは容易ではなかろう。

首相自身にも問題がある。党大会では、子ども手当導入や農家の戸別所得補償について、歴史的にみて間違っていないと強弁した。これでは民主党の政権公約見直しを求める自民党など野党の協力を得られるはずがない。

首相は、謙虚に反省し、政権公約を抜本的に改めることからスタートすべきだ。

自民、公明両党にも注文したい。民主党政権が今直面している課題は、いずれも自公政権から引き継がれて来たものだ。

野党だからといって統一地方選に向けて対決色を強め、衆院解散・総選挙に追い込むことを目指すだけでは、無責任だ。政党支持率も上がるまい。

与党とともに協議のテーブルにつき、難題解決の一翼を担うべきである。

今回の改造では結局、連立政権の枠組みを変更できなかった。

菅首相は、たちあがれ日本との連立工作に頓挫し、次の手を打ちあぐねているのだろう。

◆政界再編の芽を生かせ◆

衆参ねじれ国会で、重要法案を成立させるために、衆院で再可決可能な3分の2以上の議席確保を図るのか、あるいは参院で過半数獲得を目指すのか――首相は野党との連携に関する根本的な戦略をまだ描けていない。

しかし、今回の与謝野氏の入閣で政界再編の芽が出てきたとも言える。与謝野氏が言うように、国の命運を左右するような課題には各党が「政争の場を離れて」取り組むべきだ。

政党間の連立や再編を促すためには、やはり、二院制の在り方を含めて、問題の多い衆院と参院の選挙制度を大胆に見直す必要があるのではないか。

それが、国会の機能不全を打開することにもつながろう。

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