五輪東京落選 「南米で初」には勝てなかった

朝日新聞 2009年10月04日

五輪リオへ 「南米初」に喝采を送ろう

52年ぶりの東京五輪の夢は消えた。だが落胆している人の耳にも、地球の裏側からサンバのリズムに乗る歓喜の歌声が届いていることだろう。

カーニバルで知られるブラジルのリオデジャネイロに7年後の夏、聖火がともされることになった。

コペンハーゲンで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、リオが東京、シカゴ、マドリードを振り切り、16年夏季五輪の開催都市に選ばれた。南米初の開催である。

招致をめぐる大混戦の中で、ルラ大統領やサッカーの王様ペレ氏らが「南米の若者のために、五輪を新たな大陸にもたらしてほしい」と訴え続けた。それがIOC委員の心を幅広くとらえたのだろう。

ブラジルは中国、インド、ロシアとともにBRICs(ブリックス)と呼ばれ、世界に存在感を増す有力な新興国の一つである。ルラ氏はG20の顔でもある。中南米諸国や他の大陸の途上国への支援呼びかけもリオ五輪への共感を広げる効果があったに違いない。

ブラジルには約150万人の日系人が住み、日本からの移民が始まって100周年を昨年祝った。2014年のサッカーW杯開催国にも選ばれており、世界の耳目を集めるスポーツの祭典を立て続けに開くことになった。

南米大陸は、経済や資源外交でもこれからの日本にとって重要性を増す地域になろうとしている。五輪を通じてこの地域に日本人の目が向くことは必ずやいい影響をもたらすだろう。

五輪開催地としては犯罪率の高さといった問題が指摘されてきた。だがこれからに期待したい。スポーツを通じて、若者の非行を防ぐ政策が実を結びつつある。リオを推した委員は、街と市民の負の側面ではなく、潜在力を評価したといえる。

スポーツの持つ力が人々に夢を与え、社会の活力を生み出す。それはどの国にも通じることだ。五輪はブラジル国民の自信を大きく育むだろう。

総会会場にはオバマ米大統領や鳩山首相らが乗り込み、誘致を競い合った。各国の世論を背に火花を散らし合いながらも、開催地決定の後は互いに健闘をたたえあう。そんな首脳外交もいいものだ。

盤石の財政やコンパクトな会場配置を柱にした東京の提案は評価を得た。鳩山首相の演説も、2020年までに温室効果ガス排出量を25%削減するという野心的な目標をいれたもので力があった。12月にはCOP15でのより厳しい交渉が待ち受けている。

東京への誘致は、「世界初のカーボンマイナス(二酸化炭素削減)五輪」を訴える試みだった。敗れたとはいえ、今後の都市づくりに生きれば、これまでの誘致の努力も決して無駄にはなるまい。

毎日新聞 2009年10月04日

東京落選 五輪の夢語り続けよう

2016年の夏季五輪・パラリンピックの開催地がブラジル・リオデジャネイロに決まった。南米大陸で初めての開催で、五輪に新たな歴史が刻まれることを歓迎したい。

52年ぶり2度目の五輪を目指した東京は2回目の投票で落選した。1988年の五輪招致で名古屋がソウルに大敗し、08年五輪招致では大阪がわずか6票で早々と姿を消した。夏季五輪招致の3連敗を免れようと切り札の首都・東京で挑んだが、またしても夢はかなわなかった。

敗因はさまざまあろう。だが、今回の東京招致は石原慎太郎東京都知事の独り芝居で、それが墓穴を掘ったという印象をぬぐえない。

「日本で再び夏季五輪を」の声がスポーツ界から上がったのは金メダル16個を含むメダルラッシュに沸いた04年のアテネ五輪後だった。日本オリンピック委員会(JOC)はさらなるスポーツ振興と国際競技力向上につなげるため夏季五輪の招致を国内主要都市に呼びかけた。

すでに08年五輪の北京開催が決まっていたため、JOCが目指したのは20年五輪だった。名古屋と大阪の失敗を踏まえ「1回の立候補で当選は難しい」と、16年五輪にも立候補し、実績を積む作戦を立てた。

ところが国内招致都市争いで福岡を破った東京は石原都知事の強力なリーダーシップのもと、16年五輪の実現に向け一気に突き進む。9月に77歳になり、すでに4選不出馬を表明している石原都知事にとって任期中に五輪招致を勝ち取るには16年五輪しかなかったのだろう。

この結果、東京の五輪招致は「北京五輪の8年後になぜ同じアジアの東京なのか」というアキレスけんをスタートから抱えこむ。「なぜ」に答えが出せないまま、招致活動は上滑りした状態で投票日を迎えた。

五輪招致は失敗したが、東京の提案がすべて無駄だったとは思えない。コンパクトな会場配置や財政、治安問題などで高い評価を受けた。「環境に配慮した五輪」という理念は今後、ますます必要性が高まり、平和の祭典としての五輪に新たな使命として書き加えられるべきだ。

東京招致に費やした150億円の巨費も詳細に使途を明らかにすることで、今後の五輪招致に当たり貴重な資料として役立てることもできよう。

名古屋と大阪は1度の惨敗で五輪への夢を語り続けることをやめた。訴えた理念はその場限りの作文だったと自ら認めたようなものだ。今回は同じ轍(てつ)を踏むべきではない。

2日の最終プレゼンテーションで「地球の将来のための環境五輪」を訴えた15歳の三科怜咲さんや、その後の世代のためにも、日本は五輪の夢を語り続けなくてはならない。

読売新聞 2009年10月04日

五輪東京落選 「南米で初」には勝てなかった

「東京にもう一度、聖火を」という願いは、かなわなかった。

国際オリンピック委員会(IOC)は、2016年の夏季五輪の開催地に、ブラジルのリオデジャネイロを選出した。1964年以来、2度目の開催を目指していた東京は落選した。

「日本中が沸いたあの感動を再び」「五輪を経済活性化の起爆剤に」といった期待が大きかっただけに、残念な結果である。

リオデジャネイロ、マドリード(スペイン)、東京、シカゴ(米国)による招致レースは、大接戦だった。オバマ大統領が招致演説を行ったシカゴが、1回目の投票で脱落したことが、混戦ぶりを物語っている。

東京は、2回目の投票で最下位に沈み、落選となった。シカゴの支持票が東京に回らなかったことが、直接の敗因といえよう。

半径8キロ圏内に競技会場を集中させる「コンパクトな五輪」が、東京の最大のセールスポイントだった。良好な治安や充実した都市機能、安定した財政基盤などもアピールしてきた。

だが、「南米で初の五輪開催」というリオの訴えに比べ、説得力を欠いた感は否めない。

五輪開催に対する世論の支持率の低さも、マイナスポイントだった。IOCの調査では、東京での支持率は、4都市の中で最低の55・5%にとどまり、マドリードの84・9%、リオの84・5%に比べ、大きく見劣りしていた。

鳩山首相が招致演説を行い、国を挙げて取り組んでいる姿勢を示したが、カバーしきれなかったということだろう。

東京は、競技施設への太陽光発電の導入など自然エネルギーの活用や、大規模な緑化計画も打ち出していた。こうした環境対策は、今後の都市計画に生かしていかなければならない。

厳しい経済状況の中、スポーツ界にも逆風が吹いている。それだけに、五輪の地元開催は、スポンサー確保などの呼び水になるという期待もあった。

「東京五輪」という大きな目標はなくなったが、スポーツ界は引き続き、競技レベルの維持、向上を図っていくことが大切だ。

石原都知事は、20年大会への再立候補について、「都民や国民の意見をよく聞き、積極的に考えていきたい」と語った。

再び招致を目指すのなら、今回以上に世論を盛り上げ、世界にアピールできるようなプランの練り直しも必要となるだろう。

産経新聞 2009年10月04日

「東京五輪」落選 次の20年に再挑戦しよう

コペンハーゲンで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2016年夏季五輪の開催都市にブラジルのリオデジャネイロが選ばれた。「環境五輪」を掲げる東京は落選した。

招致活動の先頭に立ってきた石原慎太郎東京都知事の「無念で、残念」という思いは、多くの日本人が共有している。だが、まずは「南米大陸で初の五輪開催」にこぎつけたリオデジャネイロを祝福したい。

ブラジルはロシア、インド、中国とともに有力新興国グループ「BRICs」の一角を占め、サッカーのワールドカップ(W杯)14年大会の開催国にも決まっている。移住100年余の歴史を刻む日系人社会もあり、日本との関係は深い。日本はリオ五輪に積極的に協力し、次の20年五輪の東京開催実現へとつなげてほしい。

東京がリオデジャネイロ、シカゴ(米国)、マドリード(スペイン)の計4都市で競い合った今回の招致合戦で後れを取った理由はいくつかあげられる。

1カ月前にIOCが公表した評価報告書で、東京はコンパクトな会場配置や財政基盤、治安などが高い評価を得た。しかし、大詰めの招致活動で「環境五輪」「次世代へ引き継ぐ」といった理念はなかなか伝わらなかった。国民の支持率が55・5%(IOC調査)と4都市中で最低だったことも熱意不足との印象を与えたようだ。

それでも、東京五輪をここで断念することはない。16年がだめなら、次の20年である。

10万人が収容可能な新設五輪スタジアムの屋根に太陽光パネルを張りめぐらす。ソーラーカーを走らせる。水力・風力発電をフル稼働させる。これらによって発生量以上の二酸化炭素(CO2)を削減する「カーボンマイナス五輪」の構想は、今回の招致失敗で色あせるものではない。さらに磨きをかけてほしい。

日本の高度成長を加速させた1964年の東京五輪と、日本が成熟国家となった21世紀の東京五輪とでは、意味合いは大きく異なる。巨費を要する事業への反対意見もあろう。しかし、オリンピック開催が青少年だけでなく多くの国民に誇りと大きな夢を与える点は時代を超えて共通している。

日本の底力を見せる五輪の実現へ、再挑戦を呼びかけたい。ブラジルのように国民が一つにまとまる情熱がなんとしても必要だ。

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