NHK会長選び 混乱は経営委の責任だ

朝日新聞 2011年01月16日

NHK新会長 ジャーナリズムの精神を

NHKの会長選びが決着した。

きのう、NHK経営委員会が新会長に選んだのはJR東海の松本正之副会長である。民間で社長を務めたという点で福地茂雄・現会長と共通する。鉄道会社という公共性の強い大企業を経営してきた能力を、公共放送の運営で生かしてほしい。

松本氏に知ってほしいのはジャーナリズムの精神だ。

深く調べ、幅広い意見に耳を傾け、自律的に判断して市民のために発信する。放送の仕事の経験がなくとも、現場から学び、見識をもってあたれば信頼を集められることは、福地会長が示したとおりだ。

かつてNHKは、国内の政治問題に対する切り込みが弱いといわれた。予算案の承認が国会で必要なため、政界に神経を使った。

最近は放送現場に対する上層部からの細かな注文がなくなり、過剰な自己規制も減ったといわれる。格差や歴史認識などの問題も積極的に取り上げるようになり、番組は活性化した。

会長の権限は、人事から番組編成にいたるまで広く大きい。松本氏は政治からの自主・自律を守り、現場が生き生きと働く環境を保ってもらいたい。職員の不祥事など、信頼を損なう事態には断固たる態度で律してほしい。

外部の目をもった強いリーダーシップこそ、松本氏に最も期待されるものだ。たとえば、福地会長は昨年、大相撲名古屋場所の中継を取りやめる決断をした。野球賭博にまみれた大相撲への視聴者からの強い批判にこたえた。NHK出身の会長だったら難しかっただろう。

テレビのアナログ波からデジタルへの完全移行は7月に迫っている。これを混乱なく実現することが、新会長が就任して当面の課題になる。

経営計画に入っている受信料の10%還元という難題も控えている。NHKを見るのは高年齢層に偏り、若者は離れている。インターネットで番組を見る人が増え、放送と通信の融合がすすむ激変期である。受信料をどの範囲から集めるのか。公共放送とはどうあるべきかについて、改めて問われる時代を迎えている。

課題は山積だが、松本氏が率いる次の3年間は、視聴者のために新しいNHK像をどう築くか、やりがいの多い時期でもある。

今回の会長選びで、経営委員会は失態を続けた。松本氏への評価は今後の実績を待つしかないが、前候補者と決裂して数日で次の候補を立て、全会一致で決めた。この運営は腑(ふ)に落ちぬと感ずる人も少なくないだろう。

迷走の原因をつくった小丸成洋経営委員長は責任を明確にしたうえで、経営委員会は今回の会長選びを検証してもらいたい。

毎日新聞 2011年01月19日

NHK新会長 経験を改革に生かして

NHKの新会長にJR東海副会長の松本正之氏が決まった。24日に任期満了で退任する福地茂雄会長に続き、2代連続の外部登用となった。

松本氏は、旧国鉄、JR東海で人事・労務畑を歩み、分割民営化推進に中心的な役割を果たしたとされる。昨年4月まで6年間同社社長を務め、リニア中央新幹線の整備計画にも道筋をつけた。

就任に際しての会見で松本氏は「NHKの経営は鉄道と似ている。鉄道ではお客さま、放送では視聴者が相手の仕事。公共性が基本の価値観にある」などと述べた。

NHKは、年間約6400億円の受信料を視聴者から得て運営している。その針路を示す12年度以後の経営計画を決める作業に松本氏はまず取り組むことになる。

受信料の還元策の策定、ネットなど多様化するメディアへの対応など課題は山積する。還元に伴い組織のリストラも必要だろう。相次いだ不祥事を受けての改革を引き続き進めつつ、公共放送の使命を果たす体制作りに手腕を発揮してもらいたい。

一方で、ジャーナリズムの役割と責任も自覚してほしい。福地会長時代、歴史を検証するドキュメンタリーやドラマなど番組への評価が高まった。スタッフが自由な空気の中で報道や番組作りに携わることは何よりも大切だ。

松本氏は今後、国会対応をするが、報道や番組作りが政治の影響を受けるようなことがあってはならない。自主性・自立性を確保し、良質な番組を作ることが、受信料制度を支える生命線であることを肝に銘じてほしい。

それにしても、慶応義塾の安西祐一郎前塾長の擁立から就任要請撤回、本人による拒絶に至る経営委員会のご都合主義的な対応は、改めて厳しく批判されるべきだろう。

その後、松本氏の選出は、一部委員の推薦を受ける形で、委員の多くが面談することもなく決まった。時間切れを前に即決したもので、改革途上のNHK会長はどんな人物がふさわしいのかを十分に議論したとは到底、評価できない。

経営委員の選出にまで踏み込んで経営委員会のあり方を厳しく見直し、抜本的に改革すべきである。

その上で、次期以降をにらみ、会長選出のプロセスを視聴者サイドに立って透明化してほしい。福地会長の時もそうだったが、土壇場で窮余の策として財界人を引っ張り出すパターンが繰り返されては困る。

NHK職員の意識改革も必要だ。会長候補の名前が浮上するたびに怪文書が飛び交うような風土が改まらなければ、選出をめぐる混迷が再現しないとは限らない。

読売新聞 2011年01月16日

NHK新会長 改革の手綱を緩めてはならぬ

混迷を続けたNHK会長人事が決着した。

福地茂雄会長の後任には、JR東海副会長の松本正之氏が就任する。

アサヒビール相談役から転じた福地氏に続き、2代連続で経済界からの会長起用である。放送に関する手腕は未知数だが、民間経済人として培った経営感覚を生かし、道半ばのNHK改革を強力に進めてもらいたい。

松本氏を選んだ理由について、経営委員会の小丸成洋委員長は、国鉄改革に取り組んだ実績などを評価し、「NHK改革に最適な人物」と指摘した。

それにしても、新会長人事は、前代未聞の迷走ぶりを見せた。

慶応義塾前塾長の安西祐一郎氏から一度は内諾を得ながら、安西氏が経営委員会に不信感を募らせ、土壇場で白紙撤回された。

福地会長の任期切れが24日に迫る中、経営委員会は、安西氏の拒否表明から4日後の15日、なんとか新会長の選出にこぎつけた。

新会長に求めたいのは、まず規律が緩んだNHKの組織の立て直しだ。制作費の不正流用や記者による株式インサイダー取引、大相撲の野球賭博に関する捜査情報の漏えい問題など、毎年のように不祥事が発生している。

公共放送、報道機関として、あってはならない行為ばかりだ。新会長は法令順守を徹底させ、再発防止に努めねばならない。

肥大化した組織や業務の大胆な合理化も課題だ。NHKは、受信料という形で、年間6000億円以上の負担を国民に求め、その収入で事業を展開している。

だが、そうした公的機関としての自覚が薄く、リストラが徹底されていないとの批判が根強い。

今年7月に地上波の完全デジタル化を迎え、2012年度には受信料の「10%還元」という事業も待ち受ける。

前例踏襲の傾向が強いNHKにとって、いずれも難問だ。だからこそ、「外部の目」による斬新な発想に基づく経営が何より重要になる。それが、今後の良質な番組作りにもつながろう。

混乱した人事劇は、経営委員会のあり方にも大きな疑問を投げかけた。受信料を支払う国民を代表し、NHKを監視するお目付け役のはずである。

だが、経営委員会の権限が3年前に強化されたにもかかわらず、それに見合う自覚も能力も不足していることが、今回露呈した。

経営委員会の人選や権限、執行部との関係などを抜本的に見直すことが不可欠だろう。

産経新聞 2011年01月13日

NHK会長選び 改革の実行を託せる人に

NHKの次期会長選びが迷走している。いったん内諾まで得ながら土壇場で白紙還元されたお粗末な人事劇から浮かび上がるのは、公共放送の最高意思決定機関として会長任命権を託されている経営委員会(委員長・小丸成洋福山通運社長)メンバーの信じ難い運営理念の欠落ぶりだ。

経営委に求められるのは、何よりもまず、今のNHKに必要な会長像とは何かを明確に描くことである。福地茂雄現会長の任期が満了となる24日まで残された時間は少ないが、ここは一時的な会長代行を立てる緊急措置も視野に入れ、拙速な人選だけは厳に慎むべきだろう。経営委は次期会長選出の原点に返り、NHK改革を託せると国民の多くがうなずける人選に全力を挙げてほしい。

新会長が果たすべき第1の役割は、依然道半ばのNHK改革のさらなる推進である。受信料という国民負担に支えられる組織であるとの自覚を持ち、いまなお批判が絶えない経費の無駄遣いや組織の肥大化防止といった改革への取り組みは最優先課題だ。

こうした官公庁並みの親方日の丸体質の改善に加え、新会長には公共放送として国民の利益にかなった良質で公正な番組作りへの目配りも一層求められている。

一昨年4月放映されたNHKスペシャル「アジアの“一等国”」では「取材に応じた台湾人の話を一方的に都合良く編集している」と指摘されるなど、番組内容に偏向・歪曲(わいきょく)があったとして視聴者らから訴訟を起こされている。

国益に鈍感なNHKの姿勢は、古森重隆前経営委員長=富士フイルムホールディングス社長=にも指摘され、北朝鮮問題などについて、日本の立場を国際放送で流すよう改められた。新年早々、職員が窃盗未遂容疑などで逮捕されるなどの不祥事も後を絶たない。

元アサヒビール相談役の福地会長が3年前、20年ぶりに民間から起用されたのも、こうした企業統治や法令順守の強化に本格的に取り組む決意が局内にもあったからではなかったか。

しかし、その福地氏自身も「率直に言って、まだまだ徹底できていない」と認める。改革達成には息長い取り組みが必要だ。新会長には改革の本筋を見据えた強い意志と指導力が求められる。経営委は、そうした視聴者の思いを改めて胸に深く刻む必要がある。

朝日新聞 2011年01月13日

NHK経営委 責任自覚し、会長選びを

NHK経営委員会は、公共放送であるNHKの最高意思決定機関だ。会長を選ぶことは最も重要な仕事だ。それが、現会長の任期切れを目前にして大混乱に陥っている。

小丸成洋委員長は昨年末、前慶応義塾塾長の安西祐一郎氏に会長への就任を求めた。内諾を得た後に、今度は一転して辞退を求めた。理由は安西氏を中傷する風評の存在だというのだから、安西氏が怒って就任を拒絶したのは当然だ。

会長の任期は3年だ。福地茂雄・現会長はかなり前から、身を引くと意思を伝えていた。次期会長を選ぶ時間は十分あった。それなのに「続投の可能性」に期待して先延ばしにし、ここにきて混迷を招いたのは、小丸委員長の失態だ。委員会をまとめられなかった責任は明確にとるべきだろう。

24日に迫った福地会長の任期満了に間に合わせるためだけに、選びやすい内部からの登用という道はとるべきではない。経営委員会がきのう「内部からとも外部とも決めていない」と説明したのは当然だ。

放送法には会長の任期満了後も後任が決まるまで在任する規定がある。福地会長に当面の在任を求め、慎重に人選を進めるしかないのではないか。

地上波デジタルへの完全移行、通信との融合など、放送を取り巻く状況は激しく変わっている。広告収入が低迷し民放の経営が厳しい今、受信料に支えられ安定した基盤を持つ公共放送がどのような役割を果たすべきなのか。NHKのあり方が改めて問われる時期のリーダー選びである。

NHK会長に求められる資質は、何だろうか。まず、政治からの距離を置いて、自律した報道・制作の自由を守る姿勢だ。そして、巨大な組織を統治し、経営する手腕だ。

アサヒビール相談役から転じた福地会長は、当初はジャーナリズムの経験がないことに懸念もささやかれた。だが自由な雰囲気で番組を作らせ、ドキュメンタリーの秀作や独創的なドラマに結実した。株インサイダー取引問題では第三者委員会を置いて実態を調査した。信頼回復への道を開き、受信料不払いも減った。

自民党政権時代には、NHK会長選びには有力議員が水面下で力を発揮したといわれる。経営委員会の判断で決めた例ばかりではなかろう。

そうした旧来の仕組みがなくなったいまは、国会の同意で選ばれている経営委員が自らの力と責任でことにあたらねばならない。

これはむしろ本来の姿だ。混乱を「生みの苦しみ」とし、様々な角度から議論して、透明性のある会長選びをすることが求められる。

経営委員会は役割を自覚し、責任を果たしてほしい。

毎日新聞 2011年01月13日

NHK会長選び 混乱は経営委の責任だ

NHKの会長選びが混迷している。既に退任を表明し、今月24日で任期が切れる福地茂雄会長の後任が決まらないのである。

小丸成洋経営委員長(福山通運社長)が就任を要請して内諾を得ていた慶応義塾前塾長、安西祐一郎氏と経営委員会が土壇場でもめ、就任が白紙に戻った経緯はお粗末と言うほかない。小丸氏の責任はもちろん重いが、会長の任命は経営委員会の専権事項である。このような事態に至った責任を12人の経営委員全員が自覚すべきだろう。

戦後の会長人事を振り返ると、76年にNHKの生え抜き職員が初めて会長に就いて以後、大半をNHK出身者が占めてきた。だが、不祥事が相次いだことなどを受けて08年、外部から20年ぶりにアサヒビール相談役だった福地会長が就任した。

公共放送であるNHKの会長人事をめぐっては、かつては政権与党の思惑が優先し、「政治との距離」が問われてきた。民主党政権は一転して人事への関心は高くなく、それはNHKにとってプラスとみるべきだろう。だが、経営委はどれだけ本腰を入れて議論してきたのだろうか。

地上波放送と、BS放送の完全デジタル化が7月に迫っている。デジタル化がスムーズに移行しなかった場合、受信料への影響が懸念されるという。また、受信料の10%還元をどう実行するかなど、次期会長はいきなり難問に直面する。

これらの課題に通じたうえで、かじ取り役をする適性は何だろう。

NHKでは、08年に発覚した記者らによるインサイダー取引事件以後も、昨年、大相撲の野球賭博事件に絡んで記者による捜査情報漏えい問題が起きたばかりだ。ジャーナリズムを担う報道の役割を理解し、報道倫理の確立に努めることも次期会長の重要な任務である。

NHK執行部と経営委の関係は、過去ことあるたびに問われてきた。経営委員長が番組内容にまで口を出して問題化したこともあった。一方で、お飾りとの批判も受け、経営委のチェック体制を強化するために放送法が改正され、08年からは常勤委員も新たに設けられている。

放送法上、NHKの最高意思決定機関と位置づけられる経営委は、受信料を払う視聴者に代わってお目付け役を担っているということを委員らは改めて認識してほしい。

福地会長は、昨年早くに1期限りで退任する意向を示していた。時間はあったはずである。NHK内部には、職員からの登用を期待する声が強いようだ。まずは外部登用された福地会長の3年間の功罪を経営委はきちんと検証し、内部外部を問わず適性を備えた人材を選ぶべきだ。

読売新聞 2011年01月12日

NHK会長人事 公共放送の使命果たす適材を

重責を担う公共放送の新トップを、現職の任期切れ直前まで決められないとは、あまりにお粗末ではないか。

NHKの福地茂雄会長の後任選びが今月24日の任期満了を控え、混迷している。就任要請を内諾した慶応義塾前塾長の安西祐一郎氏が就任を拒否し、会長人事は白紙に戻った。

混乱が続けば、NHKの業務のみならず、放送界全体に与える影響も懸念される。任命権を持つNHK経営委員会は、早急に人選を進めねばならない。

経営委員会は昨年末、4人の候補者から安西氏を選び、安西氏もこれを受け入れた。

ところが、その後、安西氏が処遇面で条件を付けたとされる臆測が広がり、経営委員会は一転、安西氏に辞退するよう求めた。

安西氏は11日の記者会見で「仕事の環境の説明を求めただけ」と説明し、指摘された「条件」の存在を否定した。

問題は、その「条件」以前に、経営委員会の小丸成洋委員長が総務省主導とされる安西氏起用案に沿って、独自に人事を進めた点にあったのではないか。

福地氏は早くから1期3年での退任を公言していた。しかし、経営委員会が後任選びを本格化させたのは昨年11月以降だ。

小丸委員長は、委員会の総意を得ないまま、安西氏に会長就任を繰り返し要請した。その要請以前には安西氏と面識がないことも発覚した。こうしたことが重なり、一部の委員が強く反発した。

それが、辞退要請の一因でもある。小丸氏の責任が問われるのは避けられないだろう。

こうなった以上、会長候補として、内部昇格も含め幅広く人材を求めるしかあるまい。ただし、外部からの招聘(しょうへい)は容易ではない。

例えば、有力財界人にすれば約3200万円の年収は十分とは言えず、国会答弁や記者会見で、鋭い批判の矢面に立たされることも少なくない。

1万人もの職員を抱える大組織を、うまくかじ取りする経営的な手腕も求められる。

地上デジタル放送への完全移行や受信料の視聴者への10%還元、番組のインターネット同時配信など、NHKが現在直面するのは難事業ばかりだ。

会長職は相当な覚悟と指導力がなければ務まらない。

民放との二元体制の中で、公共放送が果たすべき使命や将来像を深く理解した人物を起用することが、何より重要である。

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