まずは「その意気や良し」としておこう。今度こそ、ぶれず、ひるまず、掲げた目標をやり遂げてほしい。
菅直人首相が年頭の記者会見で、政権の今年の重点課題を明確にした。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を念頭に置いた「平成の開国」、消費税引き上げを含む税制と社会保障の一体改革、政治とカネの問題へのけじめ――の3点である。
迷走してきた政権運営を立て直し、政党政治への国民の信頼を取り戻す。その足がかりとして、TPPと消費税に政策目標を絞り込んだ首相の問題意識を私たちは共有する。
貿易立国の日本にとって自由貿易の強化は、勃興する新興国の需要を取り込むうえでも、死活的に重要だ。衰退の一途にある農業を再生させる好機にもつなげたい。
一方、膨れあがる財政赤字を放置したまま、これ以上予算を組めないことは、昨年末の予算編成で明らかだ。国民の安心の基盤である社会保障を将来にわたって守るためには、もはや負担増から逃げ続けるわけにはいかない。
とはいえ、いずれの課題も、足元の民主党内だけでなく、国民の間にも慎重論、反対論が少なくない。政権の体力を消耗する大仕事になろう。ねじれ国会乗り切りもおぼつかない首相に、どこまでの覚悟があるのか心配だ。
首相は昨年の参院選で「消費税10%」を掲げたが、形勢不利とみるや発言を後退させた。TPPも党内の異論に押され、昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での交渉参加表明を見送った。腰の定まらなさを、これ以上見せられるのは御免である。
来年からは団塊の世代が年金を受け取る側に回り始める。社会保障の財源確保は待ったなしだ。TPPは、関係国が今年11月の交渉妥結を目指している。日本の参加が遅れれば、主張を反映させる余地は小さくなるだろう。
いずれも今年こそが正念場なのである。首相は不退転の決意で、党内の反対派や野党を説得し、国民にも丁寧な説明を尽くして、合意形成の先頭に立たなければいけない。
社会保障と税制の一体改革について、首相は自民、公明など野党に超党派の議論への参加を呼びかけた。
いずれの党が政権を担っても避けて通れない課題である。政権の真摯(しんし)な提案には、野党も真摯に応じるべきだ。政権を追い込むといった政略を優先するあまり、話し合い自体を拒むようなことがあってはならない。
もちろん、その環境を整える責任が首相にはある。首相が二つの政策課題とともに、政治とカネの問題へのけじめを掲げたのは当然だ。その第一歩として、通常国会が始まる前に、小沢一郎氏の政治倫理審査会出席を実現する。それがすべての出発点である。
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