大切なことがほとんど何も決まらず、動かない。今年の国内政治はそんな1年だった。歴史的な政権交代から1年3カ月余。民主党政権への国民の期待は日ごと薄れ、すっかり失望の年となってしまった。かといって自民党など野党への信頼が大きく回復しているようにもみえない。政党政治そのものの危機である。
膨れるばかりの国と地方の借金。年金や介護保険など社会保障政策は破綻寸前だ。一方で中国が軍事的にも経済的にもますます台頭し、朝鮮半島は緊張が続く。そんな中、どうしたら政治の行き詰まりから抜け出せるのか。重い課題が残った。
改めて振り返っておこう。
鳩山由紀夫前首相が普天間問題と自身の政治資金問題の責任を取って小沢一郎民主党前幹事長とともに辞任したのは6月だった。続いて就任した菅直人首相は「脱小沢」をアピールし、一時的に内閣支持率は急回復したものの、7月の参院選で民主党は大敗し、参院は与党が過半数を割り込み衆参ねじれ状態となった。
さらに菅内閣が失速するきっかけとなったのは尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件だ。中国漁船船長をいったん逮捕・送検したものの、その後、処分保留で釈放した。その判断や責任を菅首相や仙谷由人官房長官らが検察当局に押しつけたことで大きな批判と不信を招いた。
普天間と中国問題。元々、外交と安全保障政策は党内の意見がばらばらで民主党の弱点とされてきた。しかし、政権弱体化の理由はそれだけだったろうか。漁船衝突事件が起きた9月7日、民主党は代表選の最中で、菅首相と小沢氏の両陣営が内政と外交の課題そっちのけで激しい党内抗争を繰り広げていたことが象徴的ではなかっただろうか。
政治資金問題の責任を取って幹事長を辞任したはずの小沢氏が代表選に出馬したこと自体驚きだったが、党内抗争に明け暮れる民主党に「こんなことをしている場合か」とあきれた国民は多かったろう。次期衆院選に出馬せず引退すると表明していた鳩山氏も調整役として復活し、その後引退も撤回してしまった。
リーダーの言葉は軽く、一つ一つの懸案にけじめをつけず先送りする。危機感が欠如し、責任も取ろうとしない--。今の政権を言い表せばそうなろう。
「政治主導」の掛け声も最近はあまり聞こえなくなり、昨年の衆院選マニフェストで掲げた公約も後退を余儀なくされている。
もとをただせば鳩山・小沢体制時代に「政権交代すればいくらでも財源は出てくる」と財源論をおろそかにしたのが始まりだ。だが、菅内閣が公約を修正しようとすると今度は小沢氏支持派が「マニフェストを守れ」と批判する。「小沢対反小沢」の対立は政策にも影響している。
参院選後、私たちは個別の政策、法案について与野党が十分議論し、一致点を見いだして成案を得ていくよう再三、求めてきた。「熟議の国会」への転換である。菅首相もその路線を目指していたはずだ。ところが、党内がまとまらなくては野党に働きかけるのはおよそ無理だった。
やっと、というべきだろう。この年末、小沢氏は来年1月召集される通常国会で政治倫理審査会に出席する考えを表明した。だが、出席の条件として参院で問責決議を可決された仙谷氏の辞任を暗に求めるなど、自らの政治資金問題を国民に説明するというより、相変わらず党内の主導権争いが優先しているようだ。
菅首相も年明けに内閣を改造する意向も示しているが、こんな党内状況では「外に向かって打って出る改造」とはなりそうもない。
通常国会は参院で与党が過半数に達せず、衆院でも再可決に必要な3分の2以上の議席を持たない中で開かれる。予算関連法案などが野党の反対で可決されなければ、たちどころに菅内閣は行きづまる。内閣総辞職か衆院解散・総選挙か。「3月危機」説がささやかれるように、再び政治は重大な局面にさしかかるかもしれない。
現状では政権の有効な手立てはなさそうだ。だとすれば菅首相は政治の原点に立ち返るほかない。それは国のリーダーとして何をしたいのか、もっと明確にすることだ。
財政と社会保障政策の再建のため、消費税率の引き上げが本当に必要だと思えば、さらに情理を尽くして国民に説明すべきだ。「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)への参加が日本の生きていく道だと考えるのなら、これも政治生命を懸けて取り組むべきである。リーダーに信念がないと政治は動かない。
政界以外に目を移せば明るいニュースもたくさんあった。サッカー・ワールドカップでのベスト16、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還、2人の化学者のノーベル化学賞受賞……。これらに共通しているのは世界に目が向いていることだ。
「若者よ、海外に出よ」。ノーベル賞受賞者の一人、根岸英一さんの言葉を今年、記憶にとどめたい。菅首相はじめ与野党議員には内向き姿勢と決別して、せめて永田町の外に目を向けてほしいものだ。
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