2010回顧・世界 安保環境の厳しさ感じた1年

毎日新聞 2010年12月31日

2010年を振り返る 動かぬ政治に終止符を

大切なことがほとんど何も決まらず、動かない。今年の国内政治はそんな1年だった。歴史的な政権交代から1年3カ月余。民主党政権への国民の期待は日ごと薄れ、すっかり失望の年となってしまった。かといって自民党など野党への信頼が大きく回復しているようにもみえない。政党政治そのものの危機である。

膨れるばかりの国と地方の借金。年金や介護保険など社会保障政策は破綻寸前だ。一方で中国が軍事的にも経済的にもますます台頭し、朝鮮半島は緊張が続く。そんな中、どうしたら政治の行き詰まりから抜け出せるのか。重い課題が残った。

改めて振り返っておこう。

鳩山由紀夫前首相が普天間問題と自身の政治資金問題の責任を取って小沢一郎民主党前幹事長とともに辞任したのは6月だった。続いて就任した菅直人首相は「脱小沢」をアピールし、一時的に内閣支持率は急回復したものの、7月の参院選で民主党は大敗し、参院は与党が過半数を割り込み衆参ねじれ状態となった。

さらに菅内閣が失速するきっかけとなったのは尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件だ。中国漁船船長をいったん逮捕・送検したものの、その後、処分保留で釈放した。その判断や責任を菅首相や仙谷由人官房長官らが検察当局に押しつけたことで大きな批判と不信を招いた。

普天間と中国問題。元々、外交と安全保障政策は党内の意見がばらばらで民主党の弱点とされてきた。しかし、政権弱体化の理由はそれだけだったろうか。漁船衝突事件が起きた9月7日、民主党は代表選の最中で、菅首相と小沢氏の両陣営が内政と外交の課題そっちのけで激しい党内抗争を繰り広げていたことが象徴的ではなかっただろうか。

政治資金問題の責任を取って幹事長を辞任したはずの小沢氏が代表選に出馬したこと自体驚きだったが、党内抗争に明け暮れる民主党に「こんなことをしている場合か」とあきれた国民は多かったろう。次期衆院選に出馬せず引退すると表明していた鳩山氏も調整役として復活し、その後引退も撤回してしまった。

リーダーの言葉は軽く、一つ一つの懸案にけじめをつけず先送りする。危機感が欠如し、責任も取ろうとしない--。今の政権を言い表せばそうなろう。

「政治主導」の掛け声も最近はあまり聞こえなくなり、昨年の衆院選マニフェストで掲げた公約も後退を余儀なくされている。

もとをただせば鳩山・小沢体制時代に「政権交代すればいくらでも財源は出てくる」と財源論をおろそかにしたのが始まりだ。だが、菅内閣が公約を修正しようとすると今度は小沢氏支持派が「マニフェストを守れ」と批判する。「小沢対反小沢」の対立は政策にも影響している。

参院選後、私たちは個別の政策、法案について与野党が十分議論し、一致点を見いだして成案を得ていくよう再三、求めてきた。「熟議の国会」への転換である。菅首相もその路線を目指していたはずだ。ところが、党内がまとまらなくては野党に働きかけるのはおよそ無理だった。

やっと、というべきだろう。この年末、小沢氏は来年1月召集される通常国会で政治倫理審査会に出席する考えを表明した。だが、出席の条件として参院で問責決議を可決された仙谷氏の辞任を暗に求めるなど、自らの政治資金問題を国民に説明するというより、相変わらず党内の主導権争いが優先しているようだ。

菅首相も年明けに内閣を改造する意向も示しているが、こんな党内状況では「外に向かって打って出る改造」とはなりそうもない。

通常国会は参院で与党が過半数に達せず、衆院でも再可決に必要な3分の2以上の議席を持たない中で開かれる。予算関連法案などが野党の反対で可決されなければ、たちどころに菅内閣は行きづまる。内閣総辞職か衆院解散・総選挙か。「3月危機」説がささやかれるように、再び政治は重大な局面にさしかかるかもしれない。

現状では政権の有効な手立てはなさそうだ。だとすれば菅首相は政治の原点に立ち返るほかない。それは国のリーダーとして何をしたいのか、もっと明確にすることだ。

財政と社会保障政策の再建のため、消費税率の引き上げが本当に必要だと思えば、さらに情理を尽くして国民に説明すべきだ。「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)への参加が日本の生きていく道だと考えるのなら、これも政治生命を懸けて取り組むべきである。リーダーに信念がないと政治は動かない。

政界以外に目を移せば明るいニュースもたくさんあった。サッカー・ワールドカップでのベスト16、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還、2人の化学者のノーベル化学賞受賞……。これらに共通しているのは世界に目が向いていることだ。

「若者よ、海外に出よ」。ノーベル賞受賞者の一人、根岸英一さんの言葉を今年、記憶にとどめたい。菅首相はじめ与野党議員には内向き姿勢と決別して、せめて永田町の外に目を向けてほしいものだ。

読売新聞 2010年12月29日

2010回顧・世界 安保環境の厳しさ感じた1年

日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを、改めて感じ取った人が多かったのだろう。

本紙読者が選ぶ今年の海外10大ニュースには、北朝鮮の暴挙、台頭する中国の異質さを伝えるものが多く並んだ。

韓国・延坪島への砲撃事件(2位)や韓国哨戒艦沈没事件(8位)は、北朝鮮の好戦的な本質を示した。金正恩氏への権力継承過程に入り(6位)、核開発を続けるだけでなく、武力挑発に出て朝鮮半島の緊張を高めている。

史上最多の7300万人が入場した上海万博(3位)や、広州アジア大会を成功させた中国は、経済の急成長を背景に、国際舞台での発言力を強めている。

だが、人権概念の欠如や外交常識をはずれた振る舞いも目についた。ノーベル平和賞が、自国の民主活動家で服役中の劉暁波氏に決まる(7位)と、家族らに授賞式への出席を禁じたほか、各国にも欠席するよう圧力をかけた。

東アジアの安定に重要な役割を担う米国は、対話と多国間協力を掲げるオバマ政権になってまもなく2年を迎えるが、与党・民主党が中間選挙で敗れ(13位)、下院の多数派を共和党に奪われた。

それは、国際社会での米国の影響力に陰りを生じさせている。

ロシアは、メドベージェフ大統領が北方領土を訪問するなど、日本に対して強硬姿勢に転じた。欧米諸国には核軍縮やミサイル防衛で協調姿勢を示しており、東西に異なる顔を見せる国になった。

不安は東アジア以外にも広がった。内部告発サイト「ウィキリークス」による大量の米国務省公電の公開(11位)は、ネット時代の情報流出の怖さを見せつけた。

ギリシャの財政危機(12位)に始まる通貨ユーロの信用不安も世界経済を揺るがしている。欧州では、イスラム教徒との共生を拒否する極右勢力が躍進し、社会の寛容さも失われつつある。

ハイチの地震(4位)、メキシコ湾の原油流出(5位)など天災や人災が相次いだ。

チリ鉱山事故も人災と言えるだろう。その「奇跡の救出劇」が、今年の1位に選ばれた。地底で耐え続けた33人の勇気と連帯、救出を成功させた人間の知恵が、世界中の人々に希望と、つかの間の高揚感を与えてくれた。

先行きに不安を抱えながら、21世紀の最初の10年が過ぎようとしている。来年は、世界をよりよい方向へと動かすニュースが記憶に残る年であるよう祈りたい。

産経新聞 2010年12月30日

回顧2010年 混迷に希望も芽生えた 大切な国を支えていく決意

21世紀最初の10年が終わろうとしている。「10年ひと昔」という言葉があるが、10年前と比べて、日本の社会や政治、経済などに明るい兆しが見えてきたとはいえまい。むしろ、先行きの不透明感が増し、多くの国民はこの国が停滞期にさしかかっていると感じているのではないだろうか。

10年前の日本は、1980年代末から始まったバブル経済崩壊後の「失われた10年」と呼ばれる景気低迷を抜け出しつつあった。そして、それに続く戦後最長の好況「いざなみ景気」の時代に入ろうとしていた。だが、好景気も実際には実感の伴わないものに終わり、今に至るまで、どんよりとした重い空気が日本全体を覆い続けている。

◆期待裏切った民主党

今年の日本経済を振り返ると、やや明るさが出た時期もあったが、全般的には厳しい情勢が続いている。10~12月の3カ月間、政府による景気の基調判断は「足踏み状態となっている」との表現で据え置かれた。

何よりも問題なのは、国家財政が破綻寸前にあることだ。確かな財源も見込めないまま、国債の発行に頼るのは限界にきている。

雇用情勢も依然、深刻だ。とりわけ新卒者の就職内定率は戦後最低の水準にある。これでは、若者たちが夢を持てるはずがない。

昨年8月の衆院選で、国民は閉塞(へいそく)状況を打破してほしいと、民主党に国のかじ取りを託した。その意味で、今年は民主党政権の真価が問われる1年だった。

だが、期待は完全に裏切られたといえる。

外交面では、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐって、菅直人政権は中国に対し毅然(きぜん)とした態度が取れず、国民の大きな失望を買った。北朝鮮による日本人拉致の問題は解決の糸口すらつかめず、ロシアのメドベージェフ大統領に北方領土訪問を許すなど、対北、対露政策も混迷を極めている。

最も大切な日米同盟関係も、普天間飛行場の移設問題で迷走した。鳩山由紀夫前首相が「最低でも県外」と県外移設にこだわった結果、暗礁に乗り上げている。

社会保障費の増大に伴う財源をめぐっては、消費税論議が必要不可欠だった。だが、菅首相は参院選を前に、積算根拠も示さず税率10%を掲げた。政府・与党内は混乱に陥り、議論がはばかられる雰囲気すら生んでいる。

政権の決断の遅さも批判された。とりわけ、民主党の小沢一郎元代表の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件では、小沢氏は衆院政治倫理審査会に出席の意向を示したが、どう決着させるかで党内はもたついている。

社会状況で特筆されるのは、「消えた高齢者」や「児童虐待」にみられる社会や家族の絆の崩壊だろう。日本人が築き上げてきた道徳や、よき慣習は失われ、寒々とした光景が広がっている。

大阪地検特捜部の元主任検事による証拠改竄(かいざん)にみられる検察庁のモラル低下も深刻だった。

◆負託に応えた裁判員

では、希望は全くないのだろうか。今年のうれしいニュースといえば、2人の日本人学者のノーベル化学賞受賞や小惑星探査機「はやぶさ」が長い宇宙の旅を終え、奇跡的に帰還したことだろう。

米パデュー大学特別教授、根岸英一さんも、北海道大学名誉教授の鈴木章さんも、若いころから海外に留学し、自分の学問を世界レベルで競ってきた。「2番ではなく1番」を目指したのである。

野球の本場、米大リーグで10年連続200安打を達成したイチロー選手や、サッカーW杯で16強入りを果たした岡田ジャパンの健闘もたたえられる。

だが、こうした一部の学者やスポーツ選手らだけに頼るのでは心もとない。大切なのは国民一人一人が、この国や社会を支えていく決意を持つことである。

そうした意味で、難しい判断を迫られた裁判員のがんばりに注目したい。今月、鹿児島地裁で判決が言い渡された老夫婦殺害事件は、被告が犯行を全面否認していたこともあって、審理は40日間もの長期に及んだ。

証拠書類をじっくり読み、被告や証人の話に耳を傾け、決断する。仕事などの個人的事情を抱えながら、国民の代表として託された役割を誠実に果たした人たちの姿に、この国の可能性や将来を感じるのである。

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