政倫審出席 小沢氏の「条件」は筋違いだ

毎日新聞 2010年12月29日

小沢氏政倫審出席 「遅い決断」をどう生かす

小沢一郎民主党元代表が1月召集の通常国会で衆院政治倫理審査会に出席する意向を表明した。あまりにも遅きに失した決断と言わざるを得ないが、本人が意思表示したからには、重要問題山積の折、この問題が国会審議の妨げにならないよう与野党国会関係者の努力を強く望む。

小沢氏の変心の背景に何があったのか。離党勧告も辞さないとする菅直人首相ら民主党執行部の強い姿勢に追い込まれたこともあろうし、両者の決定的対立を回避しようと間に立つ連合への配慮もあるだろう。だが、自らの資金管理団体の億単位の虚偽記載問題で秘書が起訴され、自身も強制起訴を待つ身として、国会の場で、何も釈明をしないことがいかに非常識であるかを悟らざるを得なかったのではないか。

ただ、小沢氏は、出席時期について、この問題が主たる原因で国会が審議入りできない時は国会冒頭で、そうでない場合は予算成立後、という二段構えの条件を明らかにした。

私たちは、政倫審での説明が政治家として必要最低限のモラルだと主張してきた。その意味で小沢氏は条件をつけるべきではない。むしろ、小沢氏は自分の政倫審出席カードが、先の臨時国会の時より価値が落ちていることを自覚すべきだ。菅首相はあくまでも通常国会が始まるまでにこの問題を処理したい、としており、小沢氏はここまで遅らせてきた責任を自ら負うべきであろう。

政倫審で小沢氏が語るべきことは多岐に及ぶ。虚偽記載事件に出てくる、いわゆる秘書用アパートの土地購入資金の出所、流れ、ゼネコン献金説の真偽、秘書が起訴されたことに対する政治責任。自発的な潔白証明の場だとするならば、最近明らかになった09年衆院選直前の立候補予定者約90人に対する4億円の寄付についても説明願いたい。

さて、小沢氏のこの決断を政治がどう生かすのか。重要なのは、本来国会が全力を挙げて取り組むべき日本の経済、財政、外交、安保についての議論が、小沢氏問題で損なわれてはならない、の一点である。

菅執行部には包括的対応を望む。小沢カードだけでなく、野党が問題視している問責閣僚の処遇についても執行部としての明確な判断を下すことだ。参院での問責決議をどうとらえるのか。内閣改造をするのかしないのか。通常国会召集までに戦略を練り、腹を固めることだ。

野党にも小沢氏問題を引きずって党利党略に走らないよう望みたい。まずは、政倫審の土俵に乗るべきだ。証人喚問の是非はその後考えればいい。いつまでも小沢氏問題に振り回されていたら日本政治は沈没する。その意味では連帯責任である。

読売新聞 2010年12月29日

政倫審出席 小沢氏の「条件」は筋違いだ

党内外からの圧力に抗し切れなくなった末の突然の方針転換である。

民主党の小沢一郎元代表が28日、記者会見し、来月召集される通常国会で衆院政治倫理審査会に出席する意向をようやく表明した。

小沢氏は従来、検察審査会の議決により政治資金規正法違反で強制起訴されることなどを理由に、政倫審出席を拒否していた。

だが、民主党は27日、通常国会前に政倫審で小沢氏の招致を議決する方針を決定した。菅首相も、小沢氏が出席しない場合は離党を期待する考えを示し、小沢氏への圧力を強めていた。

小沢氏は、政倫審を拒否し続けた場合、民主党から離党勧告や、法的拘束力のある証人喚問を迫られ、より厳しい立場に追い込まれる、と考えたのだろう。

遅きに失したとはいえ、小沢氏が政倫審で自らのカネの問題について積極的に真実を語るのであれば、一応歓迎したい。

問題なのは、小沢氏が政倫審出席に条件を付けていることだ。

小沢氏は、「私が出席しないと国会審議が開始されない場合は、通常国会冒頭に出席する」と語る一方、「そうでない場合は、予算成立後に出席したい」という。

小沢氏は、自分の政倫審出席を国会審議を促進するカードにしたいようだが、多くの国民はそんなことは期待していない。

小沢氏が国会審議の重要性を強調するのは、参院の問責決議を受けて野党が要求する仙谷官房長官らの更迭を促す、党内の主導権争い絡みの狙いもあるのだろう。

これに対し、菅首相は、通常国会前の政倫審出席が党の決定だとして、小沢氏に「これに従ってもらいたい」と注文した。小沢氏は自らが示した条件にこだわらず、早期に政倫審に出席すべきだ。

小沢氏が国会できちんと語るべきことは、少なくない。

自らの資金管理団体「陸山会」の土地購入事件では、小沢氏の元秘書3人が起訴されている。

元秘書による政治資金収支報告書の虚偽記載について、小沢氏はどこまで関与したのか。4億円の土地購入資金を小沢氏個人が出したのに、年450万円もの利子を払ってまで、銀行融資を受けて隠蔽を図ったのは、なぜか。

小沢氏は、これらの疑問について誠実に答えねばならない。

陸山会が昨年、民主党の衆院選候補予定者91人に配った4億4900万円の原資や、その一部である旧新生党資金の流れについても明確な説明が求められる。

産経新聞 2010年12月29日

小沢氏と政倫審 本当に疑惑解明なるのか

自らの「政治とカネ」の問題をめぐり、衆院政治倫理審査会への出席を拒み続けてきた民主党の小沢一郎元代表が、一転して出席する意向を記者会見で表明した。

小沢氏はその理由について、政倫審出席により「国会運営が円滑に進められ、選挙戦において国民の支持を取り戻す」ことなどを挙げた。

民主党は政倫審で議決を行ってでも小沢氏の招致を実現する方針を27日に決めたばかりだ。開催時期をめぐり執行部と小沢氏の間で食い違いが残っているが、小沢氏が自発的に出席して開かれれば、政権与党として最低限の自浄作用の形は作れるというのだろう。

だが、偽証罪に問われることもない政倫審で、小沢氏の政治資金をめぐる疑惑を十分に解明できるだろうか。小沢氏の説明を聞くだけになりかねない。与野党は証人喚問を実施することで、小沢氏の政治とカネの問題に決着をつけなければならない。

小沢氏は会見で、自身の政治資金問題が「すでに具体的な司法手続きに入っている」として、「立法府の機関である政倫審に出席する合理的な理由はない」との立場を改めて述べ、出席は本意ではないことを強調した。

民主党政権の危機を救う構図を強調したい思惑があるのだろうか。小沢氏が開催時期について、通常国会冒頭か来年度予算案成立後にと条件を提示するのもおかしい。党の方針である召集前を受け入れるべきだ。

元秘書ら3人が逮捕・起訴され、自らも強制起訴される政治的、道義的責任の重みをわかっているのか。政倫審に出席しても司法手続きを理由に疑惑解明に協力しない姿勢をとっていては国民の支持回復など望めまい。

首相は、小沢氏が党の方針に応じず政倫審に出席しない場合、小沢氏に出処進退の判断を求めることにも言及していた。小沢氏が来年1月にも強制起訴された場合、離党勧告を行うかどうかの判断も求められる。

一方、小沢氏は国会運営上の問題点として、自衛隊を「暴力装置」と呼んで問責決議を可決された仙谷由人官房長官の進退を挙げた。首相は通常国会前に「いかに強力な体制を作っていくか」と改造の意向を示しているが、小沢氏の指摘を待つまでもなく、この問題の決着を急がねばならない。

毎日新聞 2010年12月28日

小沢氏招致方針 処分も辞さぬ覚悟で

遅きに失したが、決めた以上は覚悟がいる。小沢一郎・民主党元代表の国会招致問題について同党は役員会で、来年1月の通常国会までに衆院政治倫理審査会で出席を議決することを決めた。

野党・たちあがれ日本への連立工作が不発に終わるなど、菅内閣は立て直しの足がかりをつかめぬまま年を越しそうだ。次期国会にのぞむうえで、招致問題の進展は最低限の条件となる。小沢氏が出席に応じぬ場合は、強制力のある国会での証人喚問もためらってはならない。

菅直人首相が役員会に出席しての方針決定だが、「やっと今ごろになって……」というのが多くの国民の受け止めではないか。この1年、小沢氏招致をめぐり政界はエネルギーを消耗し、課題が山積する中で政治を停滞させた。かたくなに説明を拒み続けた小沢氏と、年末まで意見集約を怠った民主党執行部に改めて国益を損じた反省を求めたい。

それでも、小沢氏の政倫審出席方針を党が決めたことは重い。小沢氏は年明け後、政治資金規正法違反で強制起訴される見通しだが、司法責任とは別に、国会での説明責任が問われる事情に変化はない。

もはや、ずるずると決着を先送りする時間は無い。小沢氏が進んで説明に応じるべきなのは、もちろんだ。仮になお拒み続けるのであれば、野党が求める証人喚問に応じてでも民主党が説明を実現すべきだ。首相は小沢氏に自発的離党を求めることを示唆したが、小沢氏に対する処分も含めて、党が何らかのけじめをつける覚悟も必要だ。

一方で年の瀬、にわかに持ち上がったのが、たちあがれ日本の連立参加問題だ。民主党から打診を受け議員総会で対応を協議したが反対論が強く、見送りを決めた。

民主党が動いたのは、たちあがれ日本を橋渡し役とし、自民党との大連立も含めた野党との連携の布石とする狙いからとみられる。だとすればもちろん、政権の根本に関わる問題だ。だが、政権運営が混迷する中であたふたと連立を仕掛けた今回の動きは、ジリ貧内閣の延命策と国民の目に映るだけではないか。

そもそも、税制・社会保障で野党と議論するに足る具体性のあるビジョンを民主党はまだ示していない。たちあがれ日本で連立参加へ慎重論が大勢を占めたのも、現状では当然である。

11年度予算案が審議される次期国会に向け、首相は内閣改造も含めた態勢の再構築について判断を迫られる。ねじれ国会に危機感を募らせる事情はわからないでもないが、場当たり的な発想で乗り切れる局面でもあるまい。招致問題の決着は、あくまで立て直しの前提条件である。

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