イラク新政権 この1年間が正念場だ

朝日新聞 2010年12月28日

イラク新政権 宗派を超えて国づくりを

イラクで3月の総選挙から9カ月を経て、すべての主要勢力が参加する挙国一致内閣が発足した。

イラク戦争から7年半、独裁体制が崩壊し、民族と宗派の対立や暴力が噴き出した国で、やっと強権ではなく、民主主義に基づいて国家統合を実現する足場ができたと評価したい。

特に旧フセイン政権を支えたイスラム教スンニ派勢力が、初めてシーア派が主導する政権に、ほぼ対等の立場で参画する意味は大きい。

スンニ派は米国の対テロ戦争の標的となり、政治舞台では影が薄かった。ところが選挙でアラウィ元首相が率いる会派が、スンニ派票をまとめ、議会の最大会派になった。

首相のマリキ氏は一度はたもとを分かったシーア派宗教勢力と統一会派を復活させて、政権継続を果たした。

挙国一致内閣は、マリキ、アラウィ両氏の激しい多数派工作が、全政治勢力を巻き込んだ結果ともいえる。

アラウィ氏自身も政権入りし、外交と安全保障を扱う国家戦略評議会の議長に就任することになった。

しかし、新政権の前途の多難さは、国防、内務、安全保障の3閣僚が決まっていないことに端的に表れている。

イラクの未来を開くためには「挙国一致」を成功させるしかない。国造りの基本となる治安の改善という重要課題も、イラク人自身が民族や宗派を超えて力を合わせるしか道はない。

今年8月末に米軍戦闘部隊が撤退した後も、シーア派やキリスト教徒を狙ったテロは続いている。イラク治安部隊の訓練や復興支援のために現在5万人いる米軍は、来年末には撤退する。

この2年ほどで治安が劇的に改善したのは、スンニ派部族勢力が米軍と協力して、国際テロ組織アルカイダと対決したためである。しかし、シーア派にはスンニ派勢力への不信感が強い。

両派が挙国一致内閣を組むことで、差し迫った課題に日々、関わることになる。治安面での宗派を超えた連携が生まれることを期待したい。

新政権ではマリキ首相とシーア派勢力にはイランが影響力を持ち、米国やアラブ諸国がアラウィ氏を支える構図が続くだろう。そんなイラクを分裂させないためには、国際社会が協力して支援態勢を組むことが必要だ。

日本は戦後のイラクの未曽有の混乱に責任なしとはいえない。米国のイラク戦争を支持し、戦後、自衛隊を派遣して、米英の占領を支援した。

イラクは推定原油埋蔵量で世界第3位の産油国であり、かつサウジアラビア、イラン、トルコ、シリアなど中東主要国と国境を接する場所にある。

イラクの安定は、この地域の安定に欠かせない。それを側面から支えるために、日本は社会開発や経済開発で支援する姿勢を見せるべきである。

毎日新聞 2010年12月27日

イラク新政権 この1年間が正念場だ

提出がずいぶん遅れた、しかも空欄の多い答案用紙のようだ。今年3月の連邦議会選挙から9カ月。イラクでようやく新政権が発足した。マリキ首相が続投し、イスラム教シーア、スンニの両派とクルド勢力が参加する「挙国一致内閣」だが、多くの閣僚が未定とあっては「見切り発車」と言わざるを得ない。

だが、今はイラクの新たな出発を喜びたい。約5万人の駐留米軍は来年末で完全撤退する。予定通りの完全撤退を実現すべく、第2次マリキ政権は治安確保と民生安定に力を入れるべきだ。米軍に頼らず、早く独り立ちしてほしい。それは日本を含む国際社会の願いである。

この国の人々は80年代のイラン・イラク戦争、91年の湾岸戦争、03年からのイラク戦争と、戦乱の中で生きてきた。豊富な石油資源の恩恵が庶民にはなかなか行き渡らない半面、シーア、スンニ、クルドの三つどもえで権力抗争が続き、常に国家分裂の危機をはらむ国だった。

新政権発足までに政争に時間を費やした印象も否めないが、こうした特殊事情に配慮する必要もあろう。3月の選挙ではマリキ首相のシーア派政党とアラウィ元首相率いるスンニ派主体の政党が競り合い、再集計を余儀なくされたことも、新政権発足を遅らせる結果になった。

結局、シーア派のマリキ氏が引き続き首相を務め、クルド勢力のタラバニ大統領とジバリ外相も留任するなど、大きな骨格は変わらなかった。本来なら、第1党の「イラク国民運動(イラキヤ)」のアラウィ氏が首相になってもおかしくないが、マリキ氏の「法治国家連合」と他のシーア派会派の連携で、宗派的多数派(シーア派)が押し返した格好だ。

アラウィ氏は新設の「国家戦略政策会議」議長になる。閣僚名簿提出時点で、決定した39閣僚の出身母体はシーア派会派17、スンニ派主体の会派11、クルド人会派9と、選挙結果をほぼ反映している。フセイン政権の与党バース党に関係したとして議会選立候補が禁じられた人物を副首相の1人に選ぶなど、国民和解を意識した点は評価できる。

今後は国防相、内相を含めた重要閣僚を早く選任して政権基盤を固めるとともに、石油都市キルクークの帰属や石油利権をめぐるルールづくりなど、難問を平和的に解決する必要がある。国連安保理が対イラク制裁を解除する決議を採択し、原子力開発への道を開いたのは、新生イラクへの信頼を物語っていよう。

だが、新政権が試されるのはこれからだ。各派が結束を保って、予定通りの米軍完全撤退を実現するか。それとも新たな混とんを招き寄せるか。この1年間が正念場である。

産経新聞 2010年12月28日

イラク 挙国一致で復興を進めよ

フセイン独裁政権の崩壊から7年8カ月たち、イラクが新たな道に踏み出した。

今年3月の国民議会選挙後に難航していた主要会派の連立協議がようやくまとまり、挙国一致の新政権が発足した。それに先立ち、国連安全保障理事会がクウェート侵攻(1990年)後にイラクに科していた主な制裁の解除を決めた。国際管理下にある原油・ガスの輸出収益がイラク政府の管理に戻される意味は大きい。

今年8月の米軍戦闘部隊の撤収と合わせ、新生イラクに民主的な主権国家の実体が備わりつつあることを歓迎したい。それだけに今後は、イラク自身の独り立ちへの強い覚悟が求められよう。

イラク戦争やテロで破壊された石油関連施設の復旧はまだ十分とはいえない。原油生産量は日量245万バレル(2009年)で目標の600万バレルには程遠い。国家歳入の9割以上を石油部門に依存するイラクは、まず肝心の施設復旧に全力を傾注する必要がある。交通網や港湾の整備も不十分だ。

世界第3位の埋蔵量を誇る原油の収益を自ら管理する新政権の予算企画・執行を含む統治能力が問われる。バグダッド駐在の支援事業関係者は「国際管理のくびきから離れたとき、ばらまき予算にならないか、本当に必要な復興資金が確保されるのか」と話した。国際社会全体の懸念として、真摯(しんし)に受け止めねばならない。

新政権は発足までに9カ月半もかかった。結局、イスラム教シーア派の主要勢力をまとめた「法治国家連合」のマリキ首相が続投し、スンニ派の支持を受けるアラウィ元首相率いる世俗主義会派「イラキーヤ」やクルド人会派などに議会の議席数に応じた閣僚を割り振って「国民和解」の体制を整えた。だが、国防相や内相など重要ポストでは妥協は成立せず、当面は首相らが兼任する。

閣僚や石油利権をめぐる争いの火種が、宗派・民族間の対立や治安の悪化を再燃させるおそれはある。それはとりもなおさず、中東全体の安定を揺るがす。何としても回避すべきである。

日本は石油輸出施設や港湾整備などの復興で、米国に次ぐ支援を実行している。国民の税金を使った政府開発援助(ODA)を日本企業による新たな投資につなげるためにも、新政権の安定に協力していきたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/612/