最高検検証報告 強い検察再生への契機に

朝日新聞 2010年12月25日

最高検報告 正義を再び託される道は

米国の著名な判事が残した言葉がある。「検察官の義務とは事件に勝つことではない。正義を行うことだ」

その正義が大きく揺らいだ大阪地検による証拠改ざんの発覚から3カ月。最高検の検証結果がまとまった。

犯人隠避の罪に問われた前特捜部長らが否認し、裁判も始まっていないとあって、細かな経緯など伏せられた部分が多い。もどかしさは否めない。

それでも検証結果からは、真相の解明という、検察官にとって最も重要で忠実であるべき価値を脇に置き、上司の評価や人間関係、体面などを優先させたゆがんだ姿が浮かび上がる。

個人の資質や能力のせいにして済ませられる問題でなく、組織の風土と文化に巣くう病理ととらえなければならない。ところが、検察当局はどこまでその認識を持っているのか。検証結果には言い訳がましい記述も散見され、疑念を持ってしまう。

再発防止策として最高検は、特捜事件に関する決裁の強化や、取り調べ状況の一部録画などを打ち出した。チェック機能を高めることに異論はない。だが、検察に都合よく運用できる一部録画で不信を拭えると思っているとしたら、考え違いも甚だしい。

今後、法務省に置かれた第三者機関が、検証結果を参考に検察の将来像を議論する。特捜部という組織を存続させることの功罪を含め、人事評価のあり方や検察官が守るべき倫理など、本質に切り込む提言を期待したい。

裁判員制度が始まり、刑事事件は大きな曲がり角にある。検察は過去の成功体験と決別し、時代にふさわしい捜査・公判を追求しなければならない。

罪を問わないことを条件に情報の提供を受ける司法取引をはじめ、他国が実践している捜査手法の研究にも本格的に取りかかる時期が来ているように思う。人権の保障と真相の解明とをどう両立させるか。社会全体で考えるべき重要な課題である。

検証結果の公表にあわせ、大林宏検事総長は職を辞すことになった。その決断を評価したい。取り調べ検事による暴行など深刻な事件が起きても、おざなりの責任しかとってこなかった歴代幹部の振る舞いが、今日の独善的な体質をつくった面は否めない。

国民の信頼を失った時、検察という組織は立ちゆかなくなる。改ざん事件後、参考人が事情聴取に応じてくれないなど、世の厳しい風を痛感している検察官は少なくないのではないか。

これまでも事あるごとに「基本に忠実な捜査」が唱えられてきた。だがそれは浸透せず、身についたものになっていないことが今回明らかになった。

冒頭の言葉を胸に刻みながら、当たり前のことに当たり前に取り組む。その先頭に、新たに検事総長に就任する笠間治雄氏は立たなければならない。

毎日新聞 2010年12月26日

最高検の検証 背景の掘り下げが甘い

村木厚子・厚生労働省元局長の無罪が確定した郵便不正事件について、最高検が検証結果をまとめた。

大阪地検特捜部の逮捕・起訴段階の取り調べや決裁、さらに公判段階での問題点を洗い出したものだ。

村木さんが関与しているという見立てにこだわったうえ、必要な捜査を尽くさなかったと結論づけた。さらに、関係者の取り調べについても「誘導などにより、客観的な事実と整合しないまま作成された供述調書が少なからず存在し、反省すべき問題があった」とした。

また、元主任検事による証拠改ざんの可能性が取りざたされた今年1月以降の大阪地検検事正ら幹部の公判対応も批判した。その時点できちんと調査が行われていれば無罪求刑なども検討できたとした。もっともな指摘である。

だが、検証は全体として元主任検事と、改ざんを隠蔽(いんぺい)したとされる前特捜部長の個人的な要因や指導力不足を強調している印象だ。

例えば、事件について消極的な意見を述べる検事に対し、前特捜部長が理不尽な叱責を加えていたことが事件の原因になったと指摘した。また、前特捜部長は捜査会議を開かず、事件の組織的チェック体制が不足していたという。

一方、その前任者の時代は検事同士が情報を共有して協議が行われていたとし、東京、名古屋の特捜部も同様だとしている。今回の郵便不正事件が特異だったとも受け取れるような記述である。

だが、この事件をきっかけに過去の事件関係者らさまざまな人が発言を始めた。今は、特捜部や検察組織が長年抱えてきた構造的な問題点が議論され始めた時期である。その認識が薄いのではないだろうか。

高検や最高検の決裁についても検証は触れた。だが、元主任検事が意図的に証拠上の問題点を報告しないで地検の決裁を通った場合は「高検や最高検がこれを探索して把握することは、実際上困難であった」と結論づけた。その通りだとしても、なぜ決裁が形骸化したのか。元主任検事や前特捜部長ら刑事責任を問われた人以外の責任について、踏み込みが足りないと言わざるを得ない。

再発防止策として、特捜事件における容疑者の取り調べの録音・録画を挙げたが、試行との位置づけである。本格的な検察改革は今後、外部識者による法相の諮問機関「検察の在り方検討会議」で年明けから本格的に議論される見通しだ。最高検が示した再発防止策は、さらに見直される可能性が高い。

27日付で笠間治雄・新検事総長が就任する。検察改革をリードする覚悟が必要である。

読売新聞 2010年12月26日

検察検証報告 猛省を抜本改革につなげよ

法と証拠に照らして真実を解明する。その基本が組織全体に欠けていたという真摯(しんし)な反省から、検察は改革をスタートさせなければならない。

大阪地検特捜部の証拠改ざんなど一連の不祥事についての検証結果報告を、最高検が公表した。

厚生労働省の村木厚子元局長が無罪となった郵便不正事件については、逮捕や起訴の判断から、有罪の立証にこだわった公判活動に至るまで、すべてが不適切だったと認める内容である。

大林宏検事総長は引責辞任し、後任に笠間治雄・東京高検検事長が就任する。新総長以下、大阪地検だけでなく検察全体の問題であるとの認識に立ち、組織の抜本的な見直しを進める必要がある。

間違った先入観に基づいて供述を誘導する取り調べ、見立てと矛盾する物的証拠の軽視、あげくの果ての証拠の改ざん。検証報告には、あってはならない、ずさんな捜査の数々が列挙されている。

しかも、地検上層部や上級庁の高検、最高検が、何ら疑問を差し挟むことなく決裁していたことも明らかになった。チェック機能の形骸化とともに、幹部検察官の資質が劣化していると批判されても仕方がない。

検証報告は、当時の特捜部長が村木元局長の立件を「最低限の使命」だと指示していたことを指摘、元主任検事が、そのプレッシャーから証拠改ざんに及んだと、動機の一端にも言及した。

幹部が成果主義にとらわれ、部下は功名心に走る。公益の代表者としての役割を忘れた検察の現状を映し出したと言えるだろう。

最高検が再発防止策として、特捜部内に証拠管理を専門に扱う検事を配置したり、高検がすべての証拠を点検したりするなど、監督強化を掲げたのは当然である。

また、これまで裁判員裁判の対象事件で部分的に導入されてきた取り調べの録音・録画(可視化)について、特捜部の扱う事件でも試行することを盛り込んだ。供述の不当な誘導が確認された以上、その検討は避けて通れまい。

ただ、全面的な可視化については、「容疑者から真実を聞き出せなくなる」など、弊害を指摘する声も捜査現場には根強い。試行を重ねて、その功罪を慎重に見極めるべきだろう。

検察改革の行方は、法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」の意見も参考に決めていくことになる。政官界の不正摘発に果たしてきた特捜検察の役割も踏まえた議論を重ねてもらいたい。

産経新聞 2010年12月26日

最高検検証報告 強い検察再生への契機に

厚生労働省元局長の無罪が確定した郵便不正事件と、大阪地検特捜部の押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件について、最高検が検証結果を公表した。

報告書は「検事が法を犯して証拠を改竄することは断じて許されず、それを知った検事がその犯人を隠避することも言語道断」と言い切っている。検察組織に問題があったことも認めた。

一連の事件は、全検察当局をあげて猛省すべき検察史上最悪の不祥事だが、これを弱体化に結びつけてはならない。巨悪を眠らせないため、特捜部が真に「最強の捜査機関」としてよみがえる契機とすべきだ。

報告書は「再発防止策」の一つとして、特捜部が身柄を拘束して取り調べる事件は、一部録音・録画(可視化)を試行することにも踏み込んでいる。一部可視化の対象となるのは、容疑者が自白した後の調書を読み聞かせする場面などが中心となる見込みだ。

ただ、特捜事件は政官界の汚職や企業犯罪が主な対象である。そこに可視化を導入することは妥当なのか。その範囲も含め、慎重に判断されなくてはならない。司法取引やおとり捜査の導入もセットで検討されるべきだろう。

最高検の検証結果を受け取った法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」は、来春をめどに提言をまとめる。そこでは特捜部の存廃や、全面的な可視化も議論の対象となる見込みだ。

座長を務める千葉景子前法相は法相退任後、「特捜部という形が本当に必要とは思えない」といった発言を繰り返している。検討委員には可視化に熱心なジャーナリストや、検察批判を強めている元検事らも含まれており、結論ありきの検討会であっては困る。

さまざまなシステムの変更以上に問われるのは、個々の検察官の自覚、意識改革である。

最高検は「すべての検察官が自己の問題として受け止めることなくして、国民の検察に対する信頼を回復することはできない」と決意を表明した。これを単なる言葉として終わらせてはならない。

事件の責任をとって引責辞任する大林宏検事総長の後任には、笠間治雄東京高検検事長が就任する。捜査経験が豊富で現場の信頼も厚いとされる笠間新総長には、検察再生に向けた強烈なリーダーシップを期待したい。

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