イラン核疑惑 世界への挑戦をやめよ

朝日新聞 2009年10月02日

イラン核疑惑 世界への挑戦をやめよ

核兵器開発の疑惑が持たれているイランと、国連安全保障理事会の常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議が1年2カ月ぶりに再開された。

この間、事態は深刻さの度合いを増した。安保理が制裁決議を重ねてウラン濃縮の中止を求めてきたナタンズにある施設に加え、新たに第2のウラン濃縮施設の建設が発覚したからだ。

イランは施設の存在を認め、国際原子力機関(IAEA)に書簡を送ってその事実を伝えた。イラン側は国際ルールにのっとって報告したと主張しているが、これは通用しない。

ナタンズをめぐる核開発の疑惑がまったく晴れていないのに、第2の濃縮施設をつくっていたとは、国際社会への挑戦としかいいようがない。まだ稼働段階には至っていないとされるが、国連の潘基文事務総長が「安保理決議に違反するものだ」と厳しく批判したのは当然である。

イランとの対話路線を掲げるオバマ氏の米大統領就任で、核問題にも展望が開かれるのではないかという期待が生まれていた。これに真っ向から冷や水を浴びせる行動だ。

こうした行為がまかり通れば、日本の身近な脅威である北朝鮮の核を放棄させることもより難しくなりかねないし、世界の核不拡散体制が揺らぐ。

イランにもむろん、核を平和利用する権利はある。だが、それは核不拡散条約(NPT)の義務を誠実に果たし、国際社会の信頼を得たうえでの話だ。数次の安保理決議を無視しつづける現状で、認めるわけにはいかない。

オバマ大統領には強い主導性を発揮してもらいたい。直接対話を拒んできたブッシュ前政権の路線を改め、話し合いによる解決を探るという大統領の姿勢を評価する。同時に、イランの対応次第では、安保理の追加制裁も排除すべきではないだろう。

これまでイラン寄りだったロシアのメドベージェフ大統領も、米国と歩調を合わせる構えを見せている。

イランは不毛な対決路線から決別しなければならない。ウラン濃縮の停止と引き換えに産業用の核関連技術を提供するという米欧の打開案は、イラン側にも利益となる。受け入れて堂々と平和利用を進めたらどうか。

イランやアラブ諸国の間では、米欧が「イスラエルの核」を黙認していることへの不信感が強い。「核なき世界」の理念を語るオバマ大統領は、当面のイラン説得とともにイスラエルの問題とも向き合う必要がある。

事態の打開は容易ではなかろう。

日本は安保理で、対イラン制裁委員会の議長をつとめる。将来の中東非核化につなげるためにも、イランの妥協を働きかけるべきだ。それが、国連で核廃絶への強い決意を語った鳩山由紀夫首相の役割でもある。

読売新聞 2009年10月06日

国外濃縮合意 イランは速やかに履行せよ

国連安全保障理事会常任理事国(米、露、英、仏、中)にドイツを加えた6か国とイランは、イラン国内で生産された低濃縮ウランを、国外で核兵器に転用しにくい形にして戻す計画に合意した。

ロシアが濃縮度を高め、フランスが燃料化を引き受ける。

米紙の報道では、その量は、イランが国際原子力機関(IAEA)に申告済みの低濃縮ウランの75%にあたるという。確かに、実現すれば、核の軍事転用に歯止めをかける有効な手段になろう。

だが、手放しでは喜べない。これまで、イランの妥協が時間稼ぎに過ぎなかった例を、何度も目にしてきたからだ。合意がイランの濃縮活動をなし崩し的に認める契機になる、との不安も残る。

イランは、先月に発覚した第2の濃縮施設の査察にも合意した。IAEAによる査察は今月25日に実施される。まずは、その成否が注目される。

国際社会が求める「ウラン濃縮停止」に耳を貸さなかったイランが、妥協的な姿勢を見せた背景には、オバマ米政権の強硬姿勢がある。産油国ながら、精製能力が不足するイランへのガソリン禁輸など、経済制裁強化の圧力だ。

イランでは今年6月の大統領選の結果に対し、国民が今も不満を募らせており、制裁強化は政情不安を招きかねない。

制裁に消極的だったロシアが米国と歩調を合わせ始め、イランは事態の深刻さを悟ったのだろう。米露協調は、オバマ政権が東欧へのミサイル防衛(MD)配備を事実上撤回した成果といえる。

国際社会で孤立したイランは今こそ、政策転換の意思表示をすべきだ。速やかな合意の履行はその証左となろう。

それでも課題は残る。イラン国内の低濃縮ウランすべてを、どうやって国外に出させるか。そして、イラン国内での低濃縮ウラン製造を引き続き認めるのかどうか。

イランは2003年、IAEAが未申告の核施設を含めて全土で抜き打ち査察を実施できる「追加議定書」に署名した。だが、批准はしていない。

国際社会がイランに対し、濃縮停止から容認へと転換するのであれば、イランによる議定書の批准が最低条件となる。

「核の番人」と呼ばれるIAEAのトップにはこの12月、天野之弥氏が就任する。唯一の被爆国として、日本はこれまで以上に粘り強く、イランの説得を続けるべきだろう。

産経新聞 2009年10月03日

イラン核疑惑 全容開示へ具体的行動を 

イランの核開発問題をめぐる国連安保理常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの協議が1年2カ月ぶりに行われた。イランはこれまで国連安保理による制裁の対象となっていた施設とは別のウラン濃縮施設に対する国際原子力機関(IAEA)の査察に同意した。

さらに、イランの低濃縮ウランをいったんロシアなどに移送し、兵器転用しにくい形に加工して返還する計画でも原則合意した。合意の具体化については不透明な部分があるものの、一定の進展といえる。

しかし、イランが核兵器開発を進めているのではないかという疑惑は依然解消されていない。イランは「核の平和利用の権利」を盾に、ウラン濃縮活動を続ける構えを崩してはいないが、この際、第2のウラン濃縮施設を含む核開発計画の全容を開示すべきだ。

2度にわたって核実験を強行した北朝鮮に比べると、イランはまだ核の軍事転用を疑われている段階だ。しかし、再三にわたって繰り返す短、中距離ミサイルの発射実験とあわせれば、周辺国や欧州には大きな脅威となっている。

イランは中部にある最初のウラン濃縮施設については、2002年に暴露された後に査察を受け入れているものの疑惑解消への協力は十分とはいえない。3度に及ぶ安保理制裁決議もこのためだ。

第2の施設は先月下旬、国連安保理首脳会合で「核なき世界」を目指す決議が全会一致で採択された矢先に存在が発覚した。米英仏3カ国は数年前から計画を察知していたという。

イランは「IAEAの規定通りに情報提供した」「まだ何の物質も搬入していない」と主張するが、オバマ米大統領は「規模や構造が平和目的のための計画と矛盾する」と指摘する。「平和利用」に疑念を抱かせる理由が多すぎるのだ。

6カ国とイランの今回の協議では、並行して米国、イラン両代表による個別会談も行われた。しかし、解決への出口はまだ見えていない。

イランの泣きどころは、産油国なのに石油精製施設が不足していることだ。交渉決裂なら、米国が検討しているガソリン輸出禁止といった追加制裁も予想され、イラン国民が打撃を受ける。

10月末までの再協議でイランは具体的に行動すべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/61/