北朝鮮提案 相変わらずのまやかしだ

朝日新聞 2010年12月23日

北朝鮮の提案 あまりに不十分な中身だ

まかり間違えば、大規模な交戦に発展しかねない朝鮮半島の緊迫した状況も、対話を探る局面へ軸足を移しつつあるように見える。

韓国軍が北朝鮮に近い海域で射撃訓練をした。北朝鮮は先月の韓国の島に対する砲撃を超える反撃を加えると公言していたが、当面は軍事的な対応をしないことを示唆した。

さらに北朝鮮は、平壌に招いた旧知の米国の州知事を通じて、核開発に関連する新たな提案をした。

その真意をはかり、北朝鮮が実際どう動くのか見極めねばならない。

州知事が明らかにした北朝鮮の提案は3点だ。寧辺地区に建てたウラン濃縮施設に国際原子力機関(IAEA)からの監視要員を受け入れる。核燃料の国外搬出について交渉する。そして砲撃戦のあった黄海の緊張緩和策を韓国や米国と話し合うのだという。

文字通り受け取れば、悪い話ではない。だが、中身はあまりに不十分であり、問題点が多すぎる。

IAEAの要員はもともと寧辺の核施設に常駐していた。北朝鮮が、昨春の弾道ミサイル実験を受けた国連安全保障理事会の非難声明に反発して、国外に追い出したものだ。それを復帰させるのは当然のことだ。

ただし、監視対象をウラン濃縮施設に限るのだとしたら、それは認められない。プルトニウム型の核開発をしてきた他の多くの施設はどうするのか。また濃縮施設も、寧辺だけではなかろう、と米韓は見ている。

核燃料の国外搬出についても、北朝鮮はすでに使用済み燃料を再処理してプルトニウムを抽出したとしており、搬出するのは未使用分だけだろう。そうならば、核兵器になるプルトニウム問題が監視されないまま残る。

それより何より、北朝鮮は核問題を話し合う6者協議の合意に基づいて、主要な核施設を凍結し、検証を受けねばならない立場にある。そこまで戻るのが本来の形である。

北朝鮮は先の砲撃の責任を負わねばならない。なのに、それを促すべき国際社会がまとまらないのは残念だ。中国が同意せず、安保理は非難声明を出せなかった。日本から見れば、中国がそこまで北朝鮮をかばうのは理解しがたいが、安保理で問題を解決する難しさが表れた。

北朝鮮は関係国の溝を突き、今回のような譲歩を小出しにして様子を見る腹づもりだろう。この国がもっとも恐れる米国を対話の場に誘い出したい、そんな思惑が見える。

もちろん、北朝鮮をめぐる数々の問題は、交渉を通じて解決していかなければならない。北朝鮮が前向きの行動をとるよう迫る。そのために、日本はむろん、中国、米国をはじめとした連携が強く求められる。

産経新聞 2010年12月22日

北朝鮮提案 相変わらずのまやかしだ

北朝鮮が時折見せる「軟化」の姿勢は、額面通りに受け取るわけにはいかない。

平壌を訪問した米民主党のリチャードソン・ニューメキシコ州知事が、北朝鮮高官との会談で寧辺(ニョンビョン)のウラン濃縮施設への国際原子力機関(IAEA)監視要員の受け入れなど3項目に合意したと発表した。また韓国軍の海上射撃訓練に対し、北朝鮮は即座には軍事的対抗措置をとらなかった。

だが、これらの提案は北朝鮮が常套(じょうとう)手段とする揺さぶりである。北が核をめぐる6カ国協議などで約束をほごにした例は一度や二度ではないからだ。

リチャードソン知事が発表した合意には未使用核燃料棒の売却交渉も含まれるが、6カ国協議で合意ずみの核施設無能力化手順の一つで、不要な資材を売って外貨獲得を狙うものかもしれない。

しかも、喫緊の課題であるウラン濃縮施設の監視は、既に米核専門家に公開した寧辺以外には言及しておらず、まやかしの対話提案になる可能性が大だ。米国務省は北の提案に懐疑的で、「問題は実行するかどうかだ」と強調した。当然である。

今年3月に北朝鮮が引き起こした韓国軍哨戒艦撃沈事件や11月の韓国・延坪(ヨンピョン)島砲撃によって国際社会の対北制裁包囲網は一層強化されている。にもかかわらず、北が食糧難を顧みずに核開発を加速できるのは中国の支援が大きい。

韓国の海上射撃訓練を口実にした北の再攻撃が予想された状況下で、国連安全保障理事会の緊急会合が開かれた。北と韓国の双方に自制を促すロシアの声明案に対し、日米英仏は北に対する「非難」は譲れないと主張したが、結論を出せないまま終了した。中国が強く反対したためだ。

名指し非難声明を採択できなかった哨戒艦撃沈事件をめぐる安保理会合と同じ構図である。北の暴挙を容認する中国の甘い対応は、大国の責務を放棄するものだ。

日米韓は北に対し、あくまで哨戒艦事件と延坪島砲撃の謝罪と賠償を求める強い姿勢を崩すべきではない。中国が働きかけている6カ国協議首席代表による緊急会合は、北が核廃棄に同意した2005年共同声明の履行を確約することが最低条件である。

リチャードソン知事が関わった合意提案は意味をなさないと北朝鮮と中国は認識すべきだろう。

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