検事総長辞任へ 立つ鳥跡を濁すべからず

毎日新聞 2010年12月19日

検事総長辞任へ 再生の第一歩としたい

大林宏検事総長が、年内にも辞任する意向を固めた。大阪地検特捜部の郵便不正事件に絡み、証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件が発覚し、元主任検事や前特捜部長ら3人の検事が逮捕・起訴された。一連の事件について最高検の検証結果が近く公表されるのに合わせたとみられる。

大林総長は6月に就任したばかりで、任期を1年半残す。また、一連の事件では、決裁する立場になく、辞任の必要はないとの声もあった。しかし、検察を取り巻く環境は、依然として厳しい。人心を一新して立て直す意味で、トップが身を引く決断をしたのだろう。

村木厚子・厚生労働省元局長の無罪が確定した郵便不正事件で明るみに出たのは、主任検事の証拠改ざんにとどまらない。検察の抱えるさまざまな病理が噴き出した。

実体のない障害者団体向けの偽証明書を04年に作成したとされる同省元係長は、当時課長だった村木さんの指示を供述した。だが、強引な自白調書作成について、取り調べ内容を記録した「被疑者ノート」に記していた。一方、検事らは、取り調べメモを廃棄したとされる。

法廷で元係長ら関係者は相次ぎ村木さんの関与を否定し、関係者の一人は「検察の構図は、壮大な虚構だ」とまで証言した。

ストーリーありきの特捜部の捜査手法と密室での強引な調書作りの実態が明るみに出たと言える。取り調べの録音・録画、いわゆる可視化の必要性が浮き彫りになった。

地検内部で証拠改ざんが問題になったのは今年2月ごろとみられる。だが、村木さんの公判は続けられ、検察は、元係長らの供述調書の相当部分について証拠採用が退けられたのに、論告で懲役1年6月を求刑した。真実の解明よりも組織防衛を優先した結果に他ならない。検察官の倫理規定も当然必要だろう。

捜査のチェック体制強化や証拠品の適切な管理、証拠の全面的な開示、人質司法の改善なども課題だ。

いずれも、外部識者による法相の諮問機関「検察の在り方検討会議」で本格的に議論される。

会議の方向性を踏まえながら検察再生を進めていく新総長の責任は極めて大きいと言える。

民主党の小沢一郎元代表の資金管理団体をめぐる事件では、検察の説明責任が強く問われた。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐっても、政治的な判断を要する場合の検察権行使について、社会から批判を浴びたことは記憶に新しい。

時代や社会の変化に対応し、どう検察はあるべきか。バトンタッチの節目にきちんと語ってほしいと、大林総長には注文しておきたい。

読売新聞 2010年12月18日

検事総長辞任へ 新体制が背負う責任は重大だ

検察トップの大林宏検事総長が、大阪地検特捜部の元主任検事による証拠品改ざん事件などの責任をとって、辞任することになった。

検事総長が不祥事で引責辞任するのは史上初めてだ。

厚生労働省元局長の村木厚子さんが無罪となった郵便不正事件では、見立てに合わない物的証拠を元主任検事が改ざんし、当時の特捜部長ら上司が組織的に隠蔽していた。その行為が検察に対する国民の信頼を失墜させた。

組織のトップとしての責任は免れず、辞任は当然である。

大林総長は元特捜部長らを起訴した際の記者会見で、「改革を行うことが私の責任だ」と述べ、職にとどまる意向を示していた。

だが、一連の事件に関する最高検の検証結果と再発防止策がほぼまとまり、体制を一新すべきだと判断したようだ。

近く公表される予定の検証結果には、特捜部の収集したすべての証拠を上級庁の高検が点検するといった対策が盛り込まれる見通しだという。

改ざんが元主任検事の個人的な暴走だったのか、それとも組織に根ざす問題なのか。後者であれば、捜査手法や組織の在り方、検察官の倫理教育に至るまで根本からの見直しを図らねばならない。

法相の私的諮問機関である「検察の在り方検討会議」など、外部の意見も参考にすべきだろう。

検察の再生は、こうした改革を着実に遂行できるかどうかにかかっている。大林総長の後を継ぐ新総長の責任は、極めて重大と言わざるを得ない。

今、かつてないほど検察の対応に国民の注目が集まっている。

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件では、那覇地検が、逮捕した中国人船長を処分保留のまま釈放した。日中関係の修復に配慮した政治決着だったことは間違いあるまい。検察の独立は保てていたのか、疑問を持つ人は多いだろう。

衝突の模様が撮影されたビデオをネット上に流した海上保安官の刑事処分も控えている。

検察が嫌疑不十分で不起訴とした民主党の小沢一郎元代表は、検察審査会の2度の議決を経て、年明けにも強制起訴される。

今後の裁判で、小沢氏の有罪を立証する役目を担う弁護士に対し、検察がどこまで協力するかも問われることになる。

新総長の下で検察は、一つ一つの課題に誠実に取り組み、判断の過程を国民に説明していく姿勢が求められよう。

産経新聞 2010年12月17日

検事総長辞任へ 立つ鳥跡を濁すべからず

大阪地検特捜部による押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件の責任をとり、大林宏検事総長が辞任する意向を固めた。被告の無実を証明する証拠を検事が改竄し、その犯行を上司が隠すという検察史上最悪の事件である。トップの引責は当然だろう。

だが、国民の検察不信は大阪地検による一連の事件だけが招いたものではない。「立つ鳥跡を濁さず」である。国民のすべての疑問に答えてから去ってほしい。

尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件では、海上保安庁が逮捕した中国人船長を那覇地検が処分保留で釈放したままとなっている。捜査が事実上終わっていることは那覇地検も認めている。起訴猶予などの不起訴処分がないままの現状は、「意図的なサボタージュ」と指弾されても仕方がない。

海上保安庁が撮影した衝突ビデオは、那覇地検の捜査資料として、初公判前の証拠公開を禁じた刑事訴訟法を根拠に非公開とされてきた。中国人船長の釈放と帰国を許して、初公判が実際に訪れるはずはなかった。その不自然さが海上保安官による映像流出事件を誘発したともいえる。

船長釈放時に那覇地検の次席検事が「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と会見で語った政治判断への越権行為についても、最高検はまったく説明をしていない。

那覇地検の捜査に対しては、福岡県内の会社役員らが「犯罪構成要件を満たしていながら起訴しないことは司法としての責務を放棄したことになる」などとして那覇検察審査会に不起訴不当の審査開始を申し立てた。

那覇検審は「不起訴処分が存在しない」としてこの申し立てを却下している。不起訴処分を早く出した上で、検審の場で捜査の再検証がなされるべきだ。

民主党の小沢一郎元代表に対する東京第5検審の起訴議決も、東京地検の不起訴処分の背景に「政治的配慮があったのではないか」との検察不信が影響した可能性もある。那覇地検の「政治判断」による処分保留を放置したままの現状では否定もしにくいだろう。

大林検事総長は大阪地検の前特捜部長らが起訴された10月、「失われた国民の信頼を一刻も早く回復することが私に課せられた責務」と語っていた。引責辞任だけでは責務を果たせない。

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