デフレと円高で景気の足取りは重く、先進国最悪の財政赤字がのしかかる。日本経済の成長と財政健全化をどう両立させるか――。
民主党政権に問われた税制改革の基本理念は、それに尽きるだろう。しかし、政府が16日閣議決定した2011年度の税制改正大綱は、そうした要請に十分応えたものとは言い難い。
法人税引き下げや所得税、相続税の控除見直し、地球温暖化対策税の導入など、取り上げられた課題は、いずれも過去の税制論議で難航した重要テーマばかりだ。
にもかかわらず、体系だった議論には至らず、増減税の帳尻を合わせるだけの小手先の改革に終始した。消費税論議が政治的に「封印」された結果、抜本改革の全体像が見えない中で右往左往している印象だけが残った。
◆法人税をさらに下げよ◆
最大の焦点となった法人税は、5%の引き下げで決着した。世界的に割高な法人税の引き下げは企業の国際競争力を高めるうえで不可欠であり、「成長に配慮した税制改正」の象徴でもある。
だが、法人税問題は、5%下げで必要となる1兆5000億円の代替財源をどう工面するかを巡って、最後まで迷走した。
租税特別措置の見直しなど企業側の新たな負担で捻出できるのは6500億円程度にとどまり、下げ幅を3%とする案も出された。最終的に5%下げを指示した菅首相の判断は妥当である。
法人税の実効税率は40・69%から35%強に下がるが、10%台のアジア諸国に比べれば、まだまだ高水準である。
今回の引き下げは第一歩に過ぎない。企業が国際競争を勝ち抜くにはなお不十分だ。将来の税制改革を通じて、もう一段の引き下げを目指すべきだ。
経済界の姿勢も問われる。税負担が軽くなった分を企業がため込むだけで、国内の投資拡大や雇用創出に回さなければ、何のための減税か分からなくなる。せっかくの減税を日本経済の活性化につなげるべきだ。
◆所得課税は広く薄く◆
一方、個人課税は増税項目が並んだ。所得税では、サラリーマンの税負担を軽減する給与所得控除に上限を設定し、成年扶養控除は一定以上の所得がある人は受けられないようにする。相続税も大幅に課税を強化した。
11年度予算編成では、歳出総額が92兆円規模に膨らむのに対し、税収見通しは41兆円程度にとどまる。新規国債の発行額を44・3兆円に抑え込むとしても、10年度に続いて国の借金が税収を上回る異常事態は解消されそうにない。
こうした現状を直視すれば、財政健全化に向けた個人課税の増税路線はある程度やむを得まい。
日本の税制は、先進各国に比べて個人所得課税の割合が低い。景気低迷の影響などもあるが、税負担を軽くする様々な控除が拡大した結果、課税ベースに虫食いのように穴が開いているからだ。
今後も控除の見直し自体は避けて通れないが、問題は民主党政権が「格差是正」の名の下に、高所得層ばかりに負担増を求めていることである。
今回の個人課税強化で捻出できる税収は、国分だけで5000億円程度に過ぎない。主要国に比べ、所得税が課税される最低年収は高く、5~10%の低い税率が適用される納税者数は多い。
今後は、低中所得層を含めて広く薄く負担を求める制度を目指すべきだろう。
その際、必要なのは公平性を確保することだ。収入がガラス張りの給与所得者に比べ、自営業者の所得を把握する難しさが指摘されている。税と社会保障の共通番号制度導入も急がねばならない。
◆政権公約の修正急げ◆
昨年に続き、財源探しに奔走することになった最大の要因は、民主党が政権公約(マニフェスト)にこだわったことにある。
子ども手当や農家の戸別所得補償など、政策効果が薄いばらまき政策を実施するための財源確保を迫られるためだ。それが税制改革を歪める結果を招いている。
税制改革の実現には、政府がまずマニフェストの大胆な修正に踏み切ることが前提となろう。
同時に、民主党の参院選惨敗で後退した消費税議論を本格化することが欠かせまい。
政府・与党は、社会保障改革の財源となる税の具体策を来年半ばまでに作る方針を示した。
社会保障費は現行制度でも毎年1兆円超のペースで膨らみ続ける。その費用は中途半端な税制改正では賄いきれないことを国民の大半が理解している。
このままでは社会保障制度も財政もいずれ破綻することは確実だ。これ以上、消費税問題から逃げることは許されない。
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