税制改正 もう継ぎはぎは限界だ

朝日新聞 2010年12月17日

税制改正大綱 帳尻合わせは限界だ

将来に向けた改革の姿を描けていないため、場当たり感が強い。菅政権がきのう決めた来年度の税制改正大綱は、税制抜本改革の必要性を浮かび上がらせる結果となった。

大綱には、重要な改正が含まれている。12年ぶりの法人減税、所得税や相続税などでの5500億円の増税がその柱だ。個人向けの増税では、所得が比較的多い層の負担増が目立つ。

「とりやすいところを狙った」との批判も噴き出しそうだが、税制のゆがみを手直しするといった側面もあり、そのことは評価できる。

たとえば所得税。給料の一定額を必要経費とみなして課税対象から除く「給与所得控除」を小さくし、年収1500万円超の人を増税の対象とする。これは、高所得者ほど控除額が膨らんで有利になっている現状の是正につながる。

相続税では、税負担の対象にならない「基礎控除」を4割減らし、最高税率も現行50%を55%に引き上げる。

これには経緯がある。バブル時代の地価高騰であまりに相続の負担が膨らみ、その軽減策として基礎控除を広げた。しかしいまや地価はバブル以前の水準だ。このため、相続税を払わないで済む人が増えている。

相続税の課税対象は死亡者100人当たり4人にすぎず、ピーク時の半分というありさまだ。課税対象を広げるのは妥当な判断ではあるまいか。

政府税制調査会が「格差是正」を掲げ、こうして税による所得再分配の機能を生かそうとしているのは良いだろう。しかし、この改正で負担が増えるのは高所得者にとどまらない。

所得税では23~69歳の親族を扶養する人の「成年扶養控除」を廃止し、年収568万円を超える人々が増税対象となった。これは「再分配」だけでは説明できない。

法人税の5%幅引き下げや子ども手当の拡充に必要な「1.7兆円の財源探し」が影を落としている。「帳尻合わせ」の策と見られても仕方ない。

しかもその財源も、なお5千億円ほど不足したまま、見切り発車のような税制改正大綱の決定となった。これは、今回の税制改正の大きな欠陥の表れであるといえよう。

菅政権が消費税の引き上げを含む税制の抜本改革の全体像を描けていないため、財源確保のめどすら立たず、国民が負担を分かち合う構図も見えてこない、ということだ。

税制は国民生活の重要な基盤だ。どんな社会にするために、どのような税制をめざすかがあいまいなままでは、社会保障の将来像も描けない。

その場しのぎでツギハギを重ねる手法は、いよいよ限界に来た。やはり抜本改革と正面から向き合うしかないことは、もはや明らかである。

毎日新聞 2010年12月17日

税制改正 もう継ぎはぎは限界だ

時代にそぐわなくなった税制を見直し、本当に支援を必要としている人たちに恩恵が行き渡る仕組みに変える。若い世代が将来に希望を持って働き、安心して子どもを育てられる社会にする--。政権交代を通じて民主党が実現したかったのはそういう改革ではなかったのか。

すったもんだの末に政府の来年度税制改正案がまとまった。だが、目標としていたはずの姿に近づいたとは言い難い。子ども手当は当初の計画を大幅に縮小する一方、法人税率の5%引き下げは財源後回しで貫くなど、企業重視の内容となった。

ちぐはぐさも露呈した。国の役割が重くなる社会保障の強化を唱えながら、民間部門の活力をより重視することを意味する法人税減税を実施する。「大きな政府」に向かおうとしているのか、「小さな政府」を志向しているのか、民主党の目指すものが、よく分からない。

なぜそうなったのか。

税制改正の過程を通じて鮮明になった問題点がいくつかある。まず、意思決定の仕組みを強化することなく、つまり、強い司令塔が不在のまま、調整を各省庁に委ねたことだ。これでは理念上、整合性のとれた税制など期待しようがない。

政府と与党との調整もうまくいかなかった。「政治主導」の鳴り物入りで誕生した政府税制調査会だったが、特定業種などを税制上優遇する租税特別措置や所得税の配偶者控除の縮減といった事実上の増税案は民主党がことごとく反対。結局、減税や優遇税制の継続は政治主導で決め、納税者の負担増となる変更は先送りか最小限にとどめる“逃げ”の姿勢に終始した感が否めない。

株式の配当や譲渡益にかかる税率を時限的に低くしている優遇措置の延長も、抜本的な改革に手を付けることなく惰性で継続を決めたとしか言いようがない。証券投資による所得を特別扱いし、本来20%である税率を10%にする根拠は何なのか。本当に10%とすべきなら、なぜ恒久化せず2年の延長なのか。納得できる説明を求めたい。

税制改正の中には、前進と呼べる部分もある。相続税を増税とする一方で、贈与税について生前贈与の優遇措置対象に孫を加え、より若い世代に所得が移転しやすい仕組みに変えることが代表例に挙げられよう。

23~69歳の被扶養者を持つ世帯主を対象とした成年扶養控除で、対象となるための条件として所得の上限を設置したのも方向性は正しい。働く意欲があるのに職を得ていない被扶養者については、雇用政策で直接、本人を支援し、就労できるよう促すのが筋だからだ。

ただ、低所得者より高所得者に恩恵が偏りがちな控除は廃止し、子ども手当のように直接、給付する制度に切り替えるのは、民主党が政権公約で約束していたことだ。その意味で、配偶者控除の見直しに手を付けられなかったのは、明らかに約束違反であり、来春の統一地方選など選挙を意識した目先の思惑優先と言わざるを得ない。

年度ごとの帳尻合わせがもはや限界にあることが、かつてなく鮮明になった。これまで予算の帳尻合わせに使ってきた埋蔵金は底をつき、もうあてにできない。一方で、間もなく団塊世代がすべて高齢者となり、年金や医療にかかる歳出は加速度的に増加する。消費税の引き上げを含む税の抜本改革は待ったなしだ。

政府は、来年半ばまでに、改革の具体案を作ることを決めた。国民に求めることになる負担増の規模は、今回の税制改正でもめた増税の比ではない。しかも時間は半年ほどと限られている。配偶者控除に所得制限を設けることすら決められなかった現政権が果たして実行できるのか、疑問だ。

菅直人首相はかつて、財政再建を急がなければ「日本もギリシャのようになる」と強い危機感を訴えていた。消費税引き上げにも直接、言及した。しかし、参院選で大敗して以来、増税の必要性を熱く語る姿を見ることはない。

政府は今後野党にも協議を呼びかけていくというが、まずは首相の主導のもと、政権が危機意識と改革への強い熱意を共有し、結束することが最優先である。さらに欠かせないのは、世論の支持だ。政府・与党としての改革案を作成するのに並行し、国民に財政の現状と先行きを正直に、分かりやすく説明する作業を忍耐強く続ける必要がある。

国と地方を合わせた長期債務の残高が国内総生産の180%に当たるような先進国はほかにない。それにもかかわらず、国債価格が安定しているのは、国内に潤沢な金融資産があることに加え、消費税の引き上げ余地が大きいことがある。しかし、借金が膨らむ一方で金融資産の縮小は続く。増税の余地があるとはいえ、政治に実行する意思がないと市場参加者が判断したらどうなるだろう。

財政破綻危機にみまわれてから実施する対策がいかに激痛を伴うかはギリシャなどの例が示している。そうならないよう、今のうちから英断を下すのが与党、野党にかかわりなく政治家が果たすべき責任だ。

読売新聞 2010年12月17日

税制改正大綱 消費税抜きで改革はできない

デフレと円高で景気の足取りは重く、先進国最悪の財政赤字がのしかかる。日本経済の成長と財政健全化をどう両立させるか――。

民主党政権に問われた税制改革の基本理念は、それに尽きるだろう。しかし、政府が16日閣議決定した2011年度の税制改正大綱は、そうした要請に十分応えたものとは言い難い。

法人税引き下げや所得税、相続税の控除見直し、地球温暖化対策税の導入など、取り上げられた課題は、いずれも過去の税制論議で難航した重要テーマばかりだ。

にもかかわらず、体系だった議論には至らず、増減税の帳尻を合わせるだけの小手先の改革に終始した。消費税論議が政治的に「封印」された結果、抜本改革の全体像が見えない中で右往左往している印象だけが残った。

法人税をさらに下げよ

最大の焦点となった法人税は、5%の引き下げで決着した。世界的に割高な法人税の引き下げは企業の国際競争力を高めるうえで不可欠であり、「成長に配慮した税制改正」の象徴でもある。

だが、法人税問題は、5%下げで必要となる1兆5000億円の代替財源をどう工面するかを巡って、最後まで迷走した。

租税特別措置の見直しなど企業側の新たな負担で捻出できるのは6500億円程度にとどまり、下げ幅を3%とする案も出された。最終的に5%下げを指示した菅首相の判断は妥当である。

法人税の実効税率は40・69%から35%強に下がるが、10%台のアジア諸国に比べれば、まだまだ高水準である。

今回の引き下げは第一歩に過ぎない。企業が国際競争を勝ち抜くにはなお不十分だ。将来の税制改革を通じて、もう一段の引き下げを目指すべきだ。

経済界の姿勢も問われる。税負担が軽くなった分を企業がため込むだけで、国内の投資拡大や雇用創出に回さなければ、何のための減税か分からなくなる。せっかくの減税を日本経済の活性化につなげるべきだ。

所得課税は広く薄く

一方、個人課税は増税項目が並んだ。所得税では、サラリーマンの税負担を軽減する給与所得控除に上限を設定し、成年扶養控除は一定以上の所得がある人は受けられないようにする。相続税も大幅に課税を強化した。

11年度予算編成では、歳出総額が92兆円規模に膨らむのに対し、税収見通しは41兆円程度にとどまる。新規国債の発行額を44・3兆円に抑え込むとしても、10年度に続いて国の借金が税収を上回る異常事態は解消されそうにない。

こうした現状を直視すれば、財政健全化に向けた個人課税の増税路線はある程度やむを得まい。

日本の税制は、先進各国に比べて個人所得課税の割合が低い。景気低迷の影響などもあるが、税負担を軽くする様々な控除が拡大した結果、課税ベースに虫食いのように穴が開いているからだ。

今後も控除の見直し自体は避けて通れないが、問題は民主党政権が「格差是正」の名の下に、高所得層ばかりに負担増を求めていることである。

今回の個人課税強化で捻出できる税収は、国分だけで5000億円程度に過ぎない。主要国に比べ、所得税が課税される最低年収は高く、5~10%の低い税率が適用される納税者数は多い。

今後は、低中所得層を含めて広く薄く負担を求める制度を目指すべきだろう。

その際、必要なのは公平性を確保することだ。収入がガラス張りの給与所得者に比べ、自営業者の所得を把握する難しさが指摘されている。税と社会保障の共通番号制度導入も急がねばならない。

政権公約の修正急げ

昨年に続き、財源探しに奔走することになった最大の要因は、民主党が政権公約(マニフェスト)にこだわったことにある。

子ども手当や農家の戸別所得補償など、政策効果が薄いばらまき政策を実施するための財源確保を迫られるためだ。それが税制改革を(ゆが)める結果を招いている。

税制改革の実現には、政府がまずマニフェストの大胆な修正に踏み切ることが前提となろう。

同時に、民主党の参院選惨敗で後退した消費税議論を本格化することが欠かせまい。

政府・与党は、社会保障改革の財源となる税の具体策を来年半ばまでに作る方針を示した。

社会保障費は現行制度でも毎年1兆円超のペースで膨らみ続ける。その費用は中途半端な税制改正では賄いきれないことを国民の大半が理解している。

このままでは社会保障制度も財政もいずれ破綻することは確実だ。これ以上、消費税問題から逃げることは許されない。

産経新聞 2010年12月17日

税制改正大綱 この増税は納得できない

菅直人政権による来年度の税制改正大綱は、極めて増税色の強い内容となった。結論から言えば、方向性はほぼ妥当としても、その使途には多くの国民が納得できないのではないか。

今回の改正は消費税を封印する一方で、個人所得、資産、法人課税、環境税導入まで対象とするなど近年には例のない幅広さだった。そして、法人税以外すべて増税となったのが特徴である。

所得税ではサラリーマンの必要経費にあたる給与所得控除を年収1500万円超で頭打ちにし、23歳以上の成年扶養控除も原則廃止した。相続税では基礎控除を引き下げ、最高税率を引き上げた。

こうした増税措置は税の重要な役割の一つである財源調達機能を回復する上で間違いではない。ピーク時の半分以下に落ち込んだ所得税の税収は人的控除の拡充が大きな要因だし、相続税もバブル期の課税緩和をそのまま温存してきたからだ。

問題はその使途である。財政悪化が財源調達機能喪失の代償であることを考えれば、財政健全化に役立てるのが筋なのだが、菅政権は子ども手当など政権公約の上積みに充てようとしている。これらはその政策目的も効果も極めて不透明なバラマキ政策として批判されており、国民にどう理解を求めるつもりなのか。

民主党政権が強調する税のもう一つの役割である所得再分配機能の強化という面でも問題がある。給付付き税額控除とそれに必要な社会保障と税の番号制を先送りしただけでなく、子ども手当に所得制限さえかけていないからだ。

本来なら税制抜本改革で見直すべきテーマにまで幅を広げながら、実態は政権公約の上積み財源探しに終始したわけだ。環境税も石油石炭税の引き上げでお茶を濁し、法人税の引き下げでは課税ベース拡大で半分しか財源が確保できず財政規律に禍根を残した。

このように来年度改正が表面的で体系的議論を欠く結果に終わったのは、言うまでもなく消費税上げを封印したからだ。すでにそれは来年度の基礎年金国庫負担割合2分の1の安定財源が確保できない事態まで生じさせている。

菅政権は社会保障制度と消費税を含む税制の一体改革案を来年6月までにまとめる。今度こそ本気で取り組まないと、日本の税も財政も間違いなく崩壊する。

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