衆院選公示 「国どうする」が不十分 政権交代論の危うさ直視を

毎日新聞 2009年08月18日

衆院選、きょう公示 日本の未来を語れ 対米関係も重要な争点

歴史的な選挙戦のスタートである。先月21日の衆院解散からほぼ1カ月。「助走」の長い選挙戦は、実際には折り返し点を過ぎて終盤に差し掛かった感もある。

「歴史的」なのは、言うまでもなく政権選択の選挙だからだ。外国では選挙による政権交代は何ら珍しくない。しかし、日本では1955年の保守合同以来、もっぱら自民党を中心とする政治が続いてきた。

その長期支配こそが日本の安定的な経済成長に役立ったという見方がある一方で、政治や官僚機構の「金属疲労」はもはや限界との声もある。いずれにせよ、日本独特の戦後体制について有権者の歴史観が問われる選挙でもあるはずだ。

しかし、17日に日本記者クラブで開かれた党首討論会を聞いて釈然としないものが残った。社会保障や雇用、子育てなど、暮らしに直結する問題を重点的に論じるのは当然だが、政権選択の判断材料はそれだけではない。外交や安全保障も含めて「日本をこういう国にしたい」という将来展望を国民にきちんと示すことも大切だ。

そもそも各党のマニフェストが外交・安保に割いたスペースは少なく、党首討論会での議論も限られていた。大きな曲がり角の選挙なのに、曲がり角の先に将来の日本の姿が明確に見えてこないのが実情だろう。

米紙ロサンゼルス・タイムズの東京支局長を務めたサム・ジェームソンさん(73)は60年秋から半世紀近く日本に住んでいるが、今の日本人は60年代の「ハングリー精神」を失ったように見えるという。経済的な目標も低めに設定されているようで、日本はもっとやれるのに、というはがゆさを覚えるらしい。

外交も同様だ。「相手が米国でも国連でも、反対されそうだと日本は提案しない傾向がある。たとえ反対されても継続してやることです。黙っていたら、日本の気持ちは同盟国の米国だって分かりませんよ」

前回総選挙で自民が大勝した05年は、日本が国連安保理の常任理事国入りを切望しながら、よりによって米国の実質的な「ノー」で望みを絶たれた年でもあった。

ジェームソンさんはそんな米国の態度を「同盟国の裏切り行為」と批判する一方で、最近の日本の防衛論議を憂慮する。「米国へ向かうミサイルを迎撃する能力があるのに日本がそうしないなら、日本は米国人の信頼を失い、日米同盟は実質的に終わるでしょう」

さらに現行の防衛分担を「米国は『危険、きつい、汚い』の3K、日本は『きれい、賢い、カッコいい』の3K」と表現し、手を汚すまいとする日本の姿勢に首をかしげる。日本の右派からもよく聞く主張ではあるが、知日派ジャーナリストの日本への憂いが伝わってくる。

日本の政治家や官僚が米国の顔色をうかがう傾向は昔から指摘されてきた。だが、「対米追従」の実態とは何だろう。米国が有無を言わせず日本を従わせているのではなく、むしろ日本が自己規制や自縄自縛によって「思考停止」の状態に陥っているだけではないのかという指摘もある。だとすれば、米国自身が同盟国の助言を求めている昨今、「対米追従」に最も迷惑するのはオバマ政権、という逆説も成り立とう。

この辺の問題を整理するのは大切である。表立った争点にはなっていないが、イラク戦争への対応も含めて「対米追従」への疑問は日本人の胸にわだかまり、各種選挙にも微妙な影響を与えてきた。マニフェストで自民は「日米同盟の強化」を、民主は「緊密で対等な日米同盟」をうたっているが、日米が率直に議論する同盟関係でなければ空疎な美辞麗句に終わってしまう。

とりわけ今は日本が発言すべき時である。北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対して日本には「ダモクレスの剣」にも似た不安が広がる。北朝鮮を念頭に置く敵基地攻撃や核武装をめぐる論争が起きているのも、そうした不安の反映だろうが、かといって非現実的な核武装などを論じても問題解決にはつながるまい。

核をめぐる恐怖は60年代初頭、キューバ危機に直面した米国が一番よく承知していよう。時のケネディ大統領はソ連と談判してキューバから核ミサイルを撤去させた。だが、21世紀の東アジアに、北朝鮮の核兵器を廃棄に導く指導者(たち)が果たして現れるだろうか。

厳しい局面にこそ冷静な議論が必要だ。今回の選挙では、あくまで生活上の諸問題が主な争点だが、日本は国際社会でどう生きていくかという、戦後の大きな懸案が改めて問われている。この歴史的な節目に当たり有権者は各党のマニフェストや論戦を吟味し、30日には貴重な一票を投じるべきである。

読売新聞 2009年08月19日

衆院選公示 政権構想と政策を吟味しよう

日本の進路を左右する極めて重要な衆院選が18日、公示された。

各政党、候補者はもとより、有権者一人ひとりが、今回の総選挙の意義をしっかりと自覚し、それぞれの責任を果たしてもらいたい。

日本は今、多くの困難かつ深刻な課題に直面している。

世界経済は、同時不況から脱しつつあるが、本格的な景気回復には至っていない。悪化が続く雇用情勢に目配りしつつ、いかに日本経済を回復軌道に乗せるのか。

◆経済をどう回復させる◆

少子高齢化が進む中、右肩上がりの経済成長が前提の社会保障制度は機能しない。新たな給付と負担のあり方を検討し、持続可能なシステムを再構築する必要がある。

日本を取り巻く安全保障環境はかつてなく厳しい。北朝鮮は核・弾道ミサイル開発を加速させ、中国の軍事大国化も進む。日本の平和と安全をどう確保するのか。

衆院選で争われるべきは、これらの課題に対する適切な処方(せん)だろう。

各党と候補者は、日本の新たな国家像と、それを実現するための政策を語り、有権者に選択肢を示すべきだ。

与野党は、連立政権を前提に政権構想を提示している。政権選択の重要な手がかりは、自民、公明の連立与党の重点政策と、民主、社民、国民新の野党3党による共通政策だろう。

与党は、経済成長戦略として「今後3年間で40~60兆円の需要を創出し、200万人の雇用を確保する」と強調した。社会保障の安定財源として、景気回復を前提に、消費税を含む税制の抜本改革を実行するとも明記している。

景気回復と財政再建に2段階で取り組む方針を明示したのは、責任ある態度だが、実現に向けた具体的な道筋は不透明である。より明確な説明が求められよう。

野党3党は、子ども手当、高校無償化など直接給付型の家計支援を最重点施策に掲げた。国民の可処分所得を増やし、内需主導型の成長を目指す。消費税率は次期衆院選まで据え置くという。

年16・8兆円にも上る新規施策を実施すれば、内需拡大に一定の効果は持つだろう。だが、内需主導型の成長戦略は、「ばらまき」「成長戦略がない」との批判を受けて急遽(きゅうきょ)示したもので、“後付け”との印象は否めない。

そもそも、16・8兆円もの財源を無駄遣いの排除などだけで本当に捻出(ねんしゅつ)できるのか、という根本的な疑問も解消されていない。

◆4年間の総括が重要◆

外交・安全保障分野で、与党は、海上自衛隊によるインド洋での給油活動やソマリア沖での海賊対処活動の継続を明記した。

いずれも、国際社会の「テロとの戦い」の一翼を担い、日米同盟を強化する上で重要な活動だ。

一方、野党3党の共通政策は外交・安保政策に言及していない。社民党が自衛隊の海外派遣に反対するなど、各党の立場に大きな隔たりがあるためだが、難題を衆院選後に先送りしたにすぎない。

国家の基本にかかわる問題をあいまいにしたまま、連立政権を組んだ場合、責任ある外交を展開し、日本の国益を守れるのか。

選挙戦を通じて、外交・安保政策論議を深めることが大切だ。

前回衆院選以来4年間の自公連立政権を、どう総括するかも重要な視点だ。

2007年参院選で与党が大敗した結果、国会は衆参ねじれ状態となり、機能不全に陥った。

年金記録漏れや閣僚の事務所費問題など、大敗の原因は無論、自公政権にある。だが、ねじれ国会での政治の混乱については、小沢代表の下、政局至上主義で与党と全面対決に走った民主党側にも大きな責任があろう。

安倍、福田両首相は各1年で政権を放り出し、自民党の統治能力の低下を露呈させた。民主党の前原、小沢両代表も偽メールや政治資金の問題で辞任し、国民の政治不信を高めた。政治への信頼回復は、与野党の連帯責任であることを忘れるべきではない。

◆「日本の進路」熟考を◆

民主党の主張する「政権交代」は、健全な議会制民主主義を実現するうえで重要な要素だ。ただ、肝心なのは、「交代」自体ではなく、「交代」によって政治をどう変えるかだろう。

今回は、各党が政権公約を掲げて戦う3回目の衆院選となる。

政権公約は多岐にわたり、専門的な内容も多い。単なる人気取りの政策や選挙戦術、一時のムードに惑わされてはなるまい。

政策の是非を冷静に見極め、政権を選択するためには、複眼的な思考が有権者に求められる。

今回の衆院選を、日本の進路を熟考し、政治を前進させるための重要な一歩としたい。

産経新聞 2009年08月18日

衆院選公示 「国どうする」が不十分 政権交代論の危うさ直視を

第45回総選挙がきょう公示される。これからの日本丸の針路を決めるきわめて重要な選挙である。30日の投票まで、この国を誤りなく主導できる指導者と政党を、有権者は徹底的に吟味し、選び出さなければならない。

その意味で、各党の代表は日本をどうするかという国のありようをあまり語っていない。きわめて残念である。政権交代の有無が最大の注目点となっているが、これは何かを実現するための手段でしかない。

各党が訴えるべきは、日本が抱える内政外交の懸案をどう解決するかの処方箋(せん)だ。たとえば、ばらまき的な政策を続けることはできない。財源の確保とともに財政健全化の目標をどうするかだ。

また、北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を踏まえて、日米同盟が弱体化されても、日本の平和と安全が確保されるのかどうか。

こうした基本的な問題への疑問にきちんと答えることが政権選択の前提であるはずだ。政権を担おうという自民、民主両党のさらなる努力と決断を強く求めたい。

とくに政権政党となる可能性が出ている民主党は、こうした疑問に答えようとしていない。指摘されているのは、外交・安全保障政策の危うさや公約財源のあいまいさ、明確な経済成長戦略と財政健全化目標の欠落などだ。

◆同盟変質させる「対等」

民主党はこれまでインド洋での海上自衛隊の補給支援や在日米軍駐留経費の日本側負担に関する特別協定などに反対してきた。さらに政権獲得後は「対等な日米関係」を現実の外交路線に採用しようとしている。

補給支援は来年1月で終了させ、中長期的には沖縄の在日米軍基地の整理縮小を進めようという内容で、日米同盟の変質を招く政策判断といえる。

同様の主張で反米姿勢を強める社民党との連立政権が樹立されれば、日米同盟関係への影響はさらに深刻化しよう。

17日の日本記者クラブ主催の6党党首討論会では、麻生太郎首相と太田昭宏公明党代表が、細かい数字なども挙げながら、鳩山由紀夫民主党代表に公約財源をただした。鳩山氏は、自らは消費税率引き上げを4年間行わないと主張しながら、首相に対して来年中の税率引き上げを考えているかどうかを答えさせようとした。

民主党の公約財源の説明はいまだに不十分だ。経済成長戦略についても、子ども手当などを家計支援策に位置付けているが、そのうちどれだけが消費に回るかの分析などはなく、内需拡大への効果は不透明だ。

一方、自民党は今後の存続さえも危ぶまれる局面に立っていることを認識すべきだ。先月の東京都議選では大きく後退したが、自民党への逆風はさらに強まる様相を呈している。

◆自民は存続の危機だ

麻生首相は景気対策を引き続き行うことに意欲を示している。たしかに、17日に発表された4~6月期の国内総生産(GDP)速報値が前期比0・9%増、年率換算で3・7%増と1年3カ月ぶりにプラスに転じたことは、昨年秋以降に政府が経済対策最優先の姿勢をとってきた効果が数字に表れたものといえる。国民が肌で実感するには至っていない点は麻生首相も認めており、継続的な景気への対応が必要だ。

だが、それを強調するだけでは国民の信を取り戻せないだろう。首相はこの日の党首討論で、米国に向けて北朝鮮から発射されたミサイルを日本が迎撃することなどに対し、「北朝鮮という国が隣にある」ことを強調するとともに、「安全保障の基盤を強化することは大事なことだ」と述べた。

これまでの憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使に踏み込む意欲を示したもので評価できるが、日本の国を守るという以上、行使に踏み切ることを明確にすべきである。そうした決意が欠けていることに国民の不満があり、指導力に疑問符が付けられているのではないか。

自民党は日本の国益や国際的信用をどう維持し、国民の安全を高めていくかを、もっと具体的に示してほしい。そこに自民党の存在価値があるといえよう。

現状のままでは国際社会での日本の存在が希薄化し、世界に対する日本の発信が止まる。改革が失速する内政と同様、外交面でも過去に後戻りすることが許される状況かどうか。一票を投じるまでの間、真剣に考えていきたい。

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