日本の進路を左右する極めて重要な衆院選が18日、公示された。
各政党、候補者はもとより、有権者一人ひとりが、今回の総選挙の意義をしっかりと自覚し、それぞれの責任を果たしてもらいたい。
日本は今、多くの困難かつ深刻な課題に直面している。
世界経済は、同時不況から脱しつつあるが、本格的な景気回復には至っていない。悪化が続く雇用情勢に目配りしつつ、いかに日本経済を回復軌道に乗せるのか。
◆経済をどう回復させる◆
少子高齢化が進む中、右肩上がりの経済成長が前提の社会保障制度は機能しない。新たな給付と負担のあり方を検討し、持続可能なシステムを再構築する必要がある。
日本を取り巻く安全保障環境はかつてなく厳しい。北朝鮮は核・弾道ミサイル開発を加速させ、中国の軍事大国化も進む。日本の平和と安全をどう確保するのか。
衆院選で争われるべきは、これらの課題に対する適切な処方箋だろう。
各党と候補者は、日本の新たな国家像と、それを実現するための政策を語り、有権者に選択肢を示すべきだ。
与野党は、連立政権を前提に政権構想を提示している。政権選択の重要な手がかりは、自民、公明の連立与党の重点政策と、民主、社民、国民新の野党3党による共通政策だろう。
与党は、経済成長戦略として「今後3年間で40~60兆円の需要を創出し、200万人の雇用を確保する」と強調した。社会保障の安定財源として、景気回復を前提に、消費税を含む税制の抜本改革を実行するとも明記している。
景気回復と財政再建に2段階で取り組む方針を明示したのは、責任ある態度だが、実現に向けた具体的な道筋は不透明である。より明確な説明が求められよう。
野党3党は、子ども手当、高校無償化など直接給付型の家計支援を最重点施策に掲げた。国民の可処分所得を増やし、内需主導型の成長を目指す。消費税率は次期衆院選まで据え置くという。
年16・8兆円にも上る新規施策を実施すれば、内需拡大に一定の効果は持つだろう。だが、内需主導型の成長戦略は、「ばらまき」「成長戦略がない」との批判を受けて急遽示したもので、“後付け”との印象は否めない。
そもそも、16・8兆円もの財源を無駄遣いの排除などだけで本当に捻出できるのか、という根本的な疑問も解消されていない。
◆4年間の総括が重要◆
外交・安全保障分野で、与党は、海上自衛隊によるインド洋での給油活動やソマリア沖での海賊対処活動の継続を明記した。
いずれも、国際社会の「テロとの戦い」の一翼を担い、日米同盟を強化する上で重要な活動だ。
一方、野党3党の共通政策は外交・安保政策に言及していない。社民党が自衛隊の海外派遣に反対するなど、各党の立場に大きな隔たりがあるためだが、難題を衆院選後に先送りしたにすぎない。
国家の基本にかかわる問題をあいまいにしたまま、連立政権を組んだ場合、責任ある外交を展開し、日本の国益を守れるのか。
選挙戦を通じて、外交・安保政策論議を深めることが大切だ。
前回衆院選以来4年間の自公連立政権を、どう総括するかも重要な視点だ。
2007年参院選で与党が大敗した結果、国会は衆参ねじれ状態となり、機能不全に陥った。
年金記録漏れや閣僚の事務所費問題など、大敗の原因は無論、自公政権にある。だが、ねじれ国会での政治の混乱については、小沢代表の下、政局至上主義で与党と全面対決に走った民主党側にも大きな責任があろう。
安倍、福田両首相は各1年で政権を放り出し、自民党の統治能力の低下を露呈させた。民主党の前原、小沢両代表も偽メールや政治資金の問題で辞任し、国民の政治不信を高めた。政治への信頼回復は、与野党の連帯責任であることを忘れるべきではない。
◆「日本の進路」熟考を◆
民主党の主張する「政権交代」は、健全な議会制民主主義を実現するうえで重要な要素だ。ただ、肝心なのは、「交代」自体ではなく、「交代」によって政治をどう変えるかだろう。
今回は、各党が政権公約を掲げて戦う3回目の衆院選となる。
政権公約は多岐にわたり、専門的な内容も多い。単なる人気取りの政策や選挙戦術、一時のムードに惑わされてはなるまい。
政策の是非を冷静に見極め、政権を選択するためには、複眼的な思考が有権者に求められる。
今回の衆院選を、日本の進路を熟考し、政治を前進させるための重要な一歩としたい。
この記事へのコメントはありません。