「諫早」上告断念 見切り発車の開門では困る

毎日新聞 2010年12月16日

諫早上告断念 開門へ向け作業を急げ

長崎県の諫早湾の排水門開門を命じた福岡高裁判決について、菅直人首相が上告しないことを表明した。野党時代からたびたび現地を訪問し、干拓事業を批判してきたのが菅首相だ。1審の佐賀地裁も福岡高裁と同様に5年間の常時開門を命じている。司法の判断を重視した首相の判断は当然だ。

高裁判決後、佐賀県の古川康知事は早期の開門調査や最高裁への上告断念を要請する一方、長崎県の中村法道知事は上告を求めた。

政府はというと、開門調査を実施する方向に動き始める姿勢を示しつつ、上告についても検討するという、矛盾する対応をとった。

党内で意見が対立し、それを集約できず結論を先送りするという政権交代以降の民主党の姿が、諫早湾の堤防問題でも繰り返されるかにみえた。それが、長崎、佐賀両県や、干拓地の営農者と漁民の行動に投影した形となった。

菅首相は半年間の政権運営について「仮免許」と表現したが、法人税率の5%引き下げに続いて、諫早湾の排水門開閉問題でも、首相の意思で上告断念を決めたことになる。

民主党内は、小沢一郎元代表の衆院政治倫理審査会への出席問題をめぐって揺れている。その中で、党代表でもある菅首相の存在感を示そうということなのかもしれない。

しかし、たとえそうした思惑が働いているのだとしても、先送りでなく決断を行い、政治的に決着をつけるのは、首相としての当然の役目だ。「開門して海をきれいにしようという福岡高裁の判断は大変重い」と菅首相は語っているが、先送りを回避した首相の対応を評価したい。

もちろん、開門はそう簡単な問題ではない。

二つある排水門を全面的に開けば、水門の内側にある調整池から淡水が諫早湾内に急激に入るため、漁場環境がさらに悪化することになりかねない。また、後背地の防災や、調整池に代わる農業用水の代替水源の確保という課題もある。

そうした課題を解決しながら、早急に開門につながる方策を探ってほしい。ただし、諫早湾の干拓は、コメの増産という本来の目的がなくなったにもかかわらず、事業が継続され、ムダな公共事業の代表とされてきた。開門へ向けた対策を行うにしても、費用対効果をきちんと精査する必要がある。

政府が上告を断念したことで、開門調査に反発する長崎県が態度を硬化させている。営農者らによる反対運動が過熱する可能性がある。

そうした人たちの心配を取り除くよう、政府は説明を尽くし、理解を求める努力を怠ってはならない。

読売新聞 2010年12月16日

「諫早」上告断念 見切り発車の開門では困る

長崎県の国営諫早湾干拓事業を巡り、潮受け堤防の排水門を5年間開放するよう国に命じた福岡高裁判決について、菅首相が最高裁への上告を断念する方針を示した。

判決は確定し、門は2012年度にも開放される見通しだ。

地元を二分する対立が続いてきた問題に一定の方向性を示したものだが、開門の影響を十分検討したうえでの決断だったか、疑問が残ると言わざるをえない。

首相は野党時代から諫早湾干拓事業の見直しを主張し、上告断念についても「私なりの知見を持っている。開門で海をきれいにしていこうという訴訟での高裁判断は非常に重い」と説明した。

しかし、事業を実施する農林水産省は現在、開門の適否を判断する環境影響評価を進めており、訴訟では上告を求めていた。それを押し切っての判断である。政治主導に名を借りた見切り発車とならないだろうか。

1989年に着工した諫早湾干拓は、有明海の一角を占める諫早湾を全長7キロの堤防で閉め切り、内側に干拓地と調整池を整備する事業で、08年に完成した。

事業を巡っては早くから漁業者と農業者、周辺自治体、その選出議員らがそれぞれの利害を主張し、迷走を続けた経緯がある。

完成後、焦点となったのが排水門の開放問題だ。湾を堤防で閉め切った影響で漁獲量が減少したとする漁業者は開門を強く求めた。一方、干拓地の農業者は開門すれば堤防内に海水が流入し、営農できなくなると反対してきた。

高裁判決は、堤防の閉め切りと漁業被害の因果関係を認め、門を開けても農業や防災への影響は限定的との見解を示した。

だが今後、排水門を常時開放した場合に不測の事態が起きる可能性は否定できまい。

調整池の汚泥などが堤防外に流出して周辺海域の水質が悪化し、漁業への悪影響はないか。洪水や高潮が発生した際の防災対策は万全か。農業用水として使う新たな水源確保はどうする――といった点である。

高裁判決は国に準備期間として3年間の猶予を与えた。政府は想定される様々な状況を点検し、開門の時期や方法などを慎重に検討しなければならない。

今後、開門反対派の長崎県や農業者側の反発はますます強まるだろう。地元の同意を得ずに開門を強行するわけにはいくまい。首相は地元関係者との調整や説得についても責任を持つ必要がある。

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