法人税下げ決着 確かな成長の後押し役に

朝日新聞 2010年12月16日

法人税5%下げ 皮算用では心もとない

法人税を5%引き下げる、との決断を菅直人首相が下した。雇用と成長のために公約を貫こうとする姿勢は妥当だが、財源の確保についても指導力の発揮を望みたい。

日本の企業に対する実効税率は国税と地方税を合わせて40%強で、主要国では最も高い。近年は企業誘致を目的に各国が法人税の減税を競ってきた。ドイツ、英国は30%弱、中国や韓国は20%台半ばである。

この現状は放置できない。ただでさえ円高と国際間競争で輸出採算が悪化しているなか、企業の海外移転に拍車がかかり、投資と雇用がますます減りかねないからだ。

企業は生産や研究開発の拠点だけでなく、本社さえもどの国に置くのが最も得策かを真剣に考え始めている。少しでも流出を食い止めるには立地条件を改善する必要があり、法人税の引き下げは避けられない。

経済界の要請に菅首相が満額回答をしたのは、首相自身が「雇用重視」の政策路線を掲げていることと深くかかわる。内外の企業に国内で雇用を増やしてもらいたい。それには法人税減税で投資を増やす環境を整えていくという、政府の強いメッセージを発する必要があった。

米倉弘昌日本経団連会長ら財界首脳は首相に歓迎の意を伝えたが、こんどは経済界が雇用と事業の拡大でこたえる番だ。経団連などの傘下企業に積極的に呼びかけ、前向きの投資を増やす道を探ってほしい。

法人減税の決断そのものは妥当とはいえ、首相は大事なものを失いかねない。財政の規律と、それに対する国民の信頼である。

菅政権は、新たな歳出増や減税には恒久的な安定財源を確保するというルールを設けた。ところが、法人税を5%下げるのに必要な財源1兆5千億円のうち、税制改正で手当てできる額は1兆円に満たない。残り数千億円の財源はめどが立たないままだ。

将来の経済成長に伴う税収の自然増でまかなえば良いとの意見が政府内や経済界にあるが、「捕らぬタヌキの皮算用」では心もとない。

主要国で最悪と言われる日本の財政は、このまま赤字を垂れ流せば制御できなくなる。かろうじて歯止めとなるのは、財政再建に向けて努力する政府の姿勢とルールである。首相自身がそれを破るのでは、国民や市場関係者の信頼は失われてしまう。

政権公約に並べた施策の実現を図ろうとして、歳出の膨張圧力が強い。このため、予算編成のやりくりで財源を見いだすのは容易ではない。それでも、自らつくったばかりの原則を破る愚は避けるべきだ。

財源が整わなければ、首相の決断も値打ちが半減してしまう。

毎日新聞 2010年12月15日

法人減税先行 責任ある決断だろうか

「最終的には私の責任で決める」と表明していた菅直人首相が、法人税率を来年度、5%引き下げ35%強とする決断をした。財源不足のため5%より小幅な引き下げに抑える案も検討されたが、当初の方針を貫いた形だ。

しかし、責任ある決断だったと首相は胸を張れるだろうか。減税断行だけなら誰にでもできる。法人税率の引き下げが日本経済全体にとって緊急性の高い政策だと首相が本気で信じるのであれば、政策の優先順位に従って財源を捻出する議論をもっと早く主導すべきだった。

法人税など企業関連の税をどのように見直すかは、消費税も含む税体系全体の改革の中で議論するのが望ましい。財政難が深刻化する中、国が誰に対する支援を手厚くし、誰に負担増を求めていくのか、包括的にとらえる必要があるからだ。法人税率の変更だけでなく、暫定的な策として導入されながら結果として恒久化してしまったさまざまな企業向け優遇税制を見直したり、課税対象を広げることも併せて議論する必要がある。

だが菅政権は、あえて法人税減税を先行させる選択をした。一方で多くの優遇税制は、企業の反発が根強いため存続させる。その結果、税減収の一部は、個人(高額所得者)が増税という形で穴埋めすることになりそうだ。

菅首相は5%引き下げの理由について、「経済界がそのお金を国内投資や雇用拡大に使う」からだと説明している。しかし、5%減税で、設備投資が活発化したり、雇用や賃金が増えるというほど単純ではない。

規制緩和や貿易の自由化、新しい企業や産業が育ちやすい環境作りにも本腰を入れなければ、経済の活性化にはつながらないだろう。処方箋の多くはすでに「新成長戦略」などに盛り込まれている。着実に、できれば前倒しで、実行していくことが重要だ。そうでなければ、せっかくの減税も生かされまい。

経済界にも注文したい。「国内外から投資を呼び込み、雇用を創出するために(法人税率の)引き下げは必要」と経団連などは減税を要求してきた。減税と引き換えに、政府が企業に投資や雇用の増加を強制するのは間違いだが、企業経営者にはもっと需要を掘り起こしたり、リスクを取って新しい分野にチャレンジする姿勢を強めてもらいたい。経済界全体に、そうした攻めの精神(アニマル・スピリッツ)が欠如しているような気がしてならない。

何事も政府頼みでは困る。経済活動を担っているのは他ならぬ民間企業なのだということを、行動で示してほしい。

産経新聞 2010年12月15日

法人税下げ決着 確かな成長の後押し役に

平成23年度税制改正の焦点だった法人税減税は、菅直人首相の判断によって5%の引き下げで決着した。企業の税負担を軽減することで、国際競争力の強化や国内雇用の拡大、そして外国からの投資拡大につなげねばならない。

日本の法人税の実効税率は、40%強と先進国の中で最も高い水準にある。30%前後の欧州諸国と比べ歴然とした差があり、経済界と経済産業省は5%減税を強く求めてきた。

政府内には、財源不足から、3%に圧縮すべきだとの意見も根強かったが、菅首相は「経済界には雇用を拡大し、給与を増やしてほしい」として5%の引き下げを関係閣僚に指示した。

法人税の引き下げは、菅政権が目指す成長戦略の柱にも位置付けられている。国際競争力の強化をはじめとする減税の目的を考えれば、5%の減税を決めたことは日本経済の成長を促す決意を示したものといえる。

ただ、減税の裏付けとなる財源の確保はできておらず、「見切り発車」との印象は否めない。5%の減税で、国・地方合わせて1兆5千億円の減収が見込まれるものの、代替財源として捻出できるのは繰越欠損金や減価償却などの租税特別措置の見直しで6500億円にとどまるという。

このため政府は、年収1500万円超の高額所得者の給与所得控除を縮小するほか、相続税増税などで一定規模の財源を確保する方針だ。法人税減税の財源に個人向け課税の増税分を充てることには筋違いとの指摘もある。国民の理解取り付けが不可欠だ。

さらに菅政権は、法人税減税に伴う景気刺激効果で法人税収は伸びると予測し、この増収分も財源に充てるとしている。しかし、6月に決めた財政運営戦略では、新たな減税には新たな安定財源の確保を義務付ける財政ルールを盛り込んでいる。自然増収は安定財源とはいえず、このままではルールに抵触する恐れがある。

時代の変化に合わせて重厚長大産業に手厚い現行の租税特別措置の見直しは今後も欠かせない。

産業界の姿勢も問われている。せっかく減税しても、企業がその資金をため込むだけでは経済活性化にはつながらない。国内投資の拡大や雇用創出に結びつける創意工夫、それを後押しする規制緩和など官民の取り組みが重要だ。

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