社会保障予算 いつまで迷走を繰り返すのか

朝日新聞 2010年12月12日

社会保障と税 国民本位の与野党協議を

政治が党派的な利害を超えて取り組むべき重要な課題がある。

今後の社会保障の姿とその財源をどう確保するか。給付と負担のありようを、国民本位で考えることだ。

菅政権と民主党は、社会保障と税制の一体改革を進めるうえでの基本的な考えをまとめた。

その軸になっている有識者検討会の報告では、消費税を社会保障制度の基幹財源の一つであると明示した。同時に、給付と負担の関係を個人ごとに見えやすくする共通番号制度の導入も打ち出した。

社会保障の高齢者偏重主義を改め、雇用や貧困問題、子育てなどを重視することも新方針として盛り込んだ。負担感がつのる若い世代への支援を強化し、納得が得られる仕組みをつくっていくという姿勢である。

こうした方向づけは、いずれも妥当なものであるといえよう。

年金などの現金給付に重点を置くか、それともサービスなどの現物給付に軸足を置いていくのか。教育政策との連係はどうするか。議論不足の点も目につくが、そこはむしろ今後の課題として、開かれた検討の場で議論を深めていってもらいたい。

社会保障の給付と負担のあるべき姿については、専門家などの議論は出尽くした感すらある。いま問われているのは、実現に向けた政治全体としての力量ではあるまいか。

その点、今回の報告では野党への配慮が目立っている。具体的な数字はなるべく入れず、選挙公約などで民主党が示してきた独自の年金改革案などへの言及も避けた。

しかも2008年の「社会保障国民会議」や09年の「安心社会実現会議」といった自公政権時代の議論を踏まえた内容であることを強調。社会保障や税の問題を政争の具にしないよう、早期に常設会議を設けるよう提案し、「与野党協議へ」の思いが強くにじみ出ている。

与野党間の協議を通じて超党派の合意をつくり出すことが国民の利益にかなう、という視点に立ってのことでもあろう。大いに評価できる。

政権交代が現実のものになった。首相が短期間で交代している現実もある。社会保障制度の再構築について、与党が入れ替わるたびに方針が変わるのでは、大がかりな改革はできない。財源の確保を軸とする安定的な制度づくりは困難をきわめる。

むろん、与野党協議の場作りは一筋縄ではいかない。05年には、年金改革をめぐる協議の場が国会内に設けられたが、選挙戦を前に自然消滅してしまった経緯がある。

だが、社会保障と税の一体改革は待ったなしの状況だ。未来世代への責任感を、政治全体で共有してほしい。

毎日新聞 2010年12月11日

高齢者医療改革 やはり拙速はだめだ

功を焦ったところで財源がなければどこかに矛盾が出てくるものだ。後期高齢者医療制度に代わる新制度の最終案が示された。民主党の社会保障改革の目玉の一つである。「75歳という年齢で医療制度を分けるのは差別だ」という批判に応えるため自営業や無職の高齢者(約1200万人)は国民健康保険に移し財政は都道府県に運営させることが柱だ。

ただし会社勤めを続けている高齢者は勤務先の健康保険組合に移り、子どもらの扶養を受ける人(約170万人)は負担がなくなる。つまり新制度では75歳以上の1人暮らしや高齢者夫婦は保険料を払うが、子どもに扶養されて生活の不安が比較的少ない人は自分で保険料を払わなくて済むことになる。身寄りのない高齢者から「新たな差別だ」との声が聞かれるのもうなずける。

75歳を過ぎるころから医療費の伸びは著しくなり、平均すると現役世代の5倍近い額になる。現行制度で高齢者の保険料アップ率を現役より高くしたのは、今後の急激な高齢化に備えるための苦肉の策だった。これに対し新制度案では高齢者の負担を軽減するため12年度からアップ率を現役世代並みに抑制する。70~74歳の窓口負担は現在の1割から段階的に2割へ引き上げられ、75歳以上の低所得者向けの保険料軽減措置も段階的に縮小されるが、全体的に見れば高齢者の負担は軽くなる。

その分のツケは現役世代、特に大企業の健康保険組合や公務員の共済組合に加入している人に回される。それもある程度はやむを得ないが、子育てや住宅ローンなどにお金がかかり、最も消費性向が高い世代の負担ばかりが重くなるのはどうか。健保組合の8割以上が赤字であることも改めて指摘しておきたい。

負担増の議論に決着をつけるため与野党が虚心坦懐(たんかい)に話し合うことを私たちは訴えたが、野党側は新制度案について「看板を掛け替えただけ」などと冷淡な反応を見せている。75歳以上は毎年50万人以上も増えていく。自公政権時代に何年もかかって制度改革が練られてきた難問なのである。民主党政権になったからといって財源がないまま制度をいじってもやはり妙案は出てこない。

不可解なのは民主党内から高齢者の負担増になる部分に反対が噴出し法案提出をしないよう求める声が強まっていることだ。負担をさらに軽くするのはいいが、財源はどうするつもりなのか。負担を先送りし続け、甘い顔を見せても国民をだますことはもうできないだろう。

この際、小手先の改革はやめ、消費税アップも含めて財源確保の道筋をつけてから、改めて高齢者医療を見直すべきである。

読売新聞 2010年12月14日

社会保障改革 方向は与野党で一致している

政府・与党が社会保障改革を推進するための基本方針をまとめた。

「超党派で常設の会議を設置する」「来年半ばまでに、社会保障改革とその財源となる税の具体案を作成する」。柱となるのは、その2点である。

自民党などからさっそく、「民主党は野党の時は超党派協議に応じなかったではないか」と否定的な反応が出ている。だが、社会保障と財政の危機的状況を見れば、政争の具にする時ではない。

来年半ばまでという期限を、それ以上先送りすることは許されまい。民主党は野党当時の姿勢を反省し、自民党も過去のいきさつにこだわらず、議論のテーブルにつくべきだ。

基本方針は、政府・与党が設置した有識者検討会の「安心と活力への社会保障ビジョン」と題した報告書で肉付けされている。

ビジョンは、切れ目なく全世代を対象とした社会保障を構築することや、次世代に負担を先送りしないために安定的財源を確保するといった原則を掲げた。財源として、消費税を社会保障目的税化することなども提言している。

内容は、麻生政権による安心社会実現会議の報告書「安心と活力の日本へ」とほぼ重なる。安心と活力、というスローガン自体が同じだ。政権が交代しても、求められる政策の方向は変わらない、ということだろう。

与野党議員と有識者による「社会保障諮問会議」の設置をビジョンは提唱しているが、これも麻生政権時に提案された「安心社会実現円卓会議」そのものである。

内容も考え方も一致しているのだから、後は行動だけだ。

まず、政府・与党が今回の基本方針の本気度を示す必要がある。消費税率の引き上げ幅など具体的な考えを早急に打ち出すべきだ。単に超党派協議を呼びかけても野党は乗れまい。

菅内閣は来年度予算の編成作業において、医療、介護、年金、子育てなど社会保障の主な分野で、ことごとく財源の壁に突き当たっている。

最大の原因は、民主党の政権公約(マニフェスト)に無理がありすぎたことだが、自公政権に続いて民主党も消費税の議論を先送りし、安定財源を確保してこなかった点も大きい。

このままでは、社会保障がさらに行き詰まることは明らかだ。

揺るぎない制度を構築するためには、党派を超えて行動しなければならない。

産経新聞 2010年12月14日

社会保障と税改革 消費税言及せぬは問題だ

菅直人首相が本部長を務める「政府・与党社会保障改革検討本部」が、社会保障の機能強化と財政健全化を同時に達成するため、税制との一体改革の具体案と工程表を、来年半ばまでに作る方針を決めた。近く閣議決定する。

今回の方針は参院選での大敗以降、封印してきた消費税議論を再スタートさせたにもかかわらず、肝心の「消費税」の文字が見あたらない。目安となる数値も掲げられていない。6月の消費税増税発言に比べ、大きく後退した。具体案を先延ばしする姿勢は、「問題先送り」そのものだ。政権としての本気度が感じられない。

問題はスピードである。自公政権の下での社会保障国民会議や安心社会実現会議など専門家の議論によって、改革の方向性はすでに示されている。問われているのは、一刻も早く改革を実現させることだ。

高齢化が急速に進み、社会保障費は現行制度の維持だけでも毎年1兆円超のペースで膨らみ続ける。社会保障給付費は100兆円を超し、現役世代の負担も限界に達しつつある。改革が遅れるだけ、社会保障制度も国の財政もより厳しい状況に追い込まれる。

そもそも、首相は参院選直前の6月の記者会見で、今年度内に消費税率の引き上げ幅や逆進性対策を示す約束をした。自民党が提案した「10%」を参考にするとも明言していた。

そうでなくても、民主党内では介護保険や高齢者医療制度改革で、サービス拡充は求める一方、負担増や給付カットにつながる見直しには反対するといった無責任な意見が相次いでいる。

方針では、超党派の会議を常設して、野党に参加を呼びかけることも決めた。社会保障制度は、政権が代わるたびに根幹が変わったのでは、国民が混乱する。与野党で議論の場を持つことは当然といえよう。

だが、仙谷由人官房長官への問責決議の可決に無視を決め込んだまま、与野党協議を呼びかけるのは、あまりにも虫が良すぎる。政権が弱体化してきたので、延命の手段にしたいとの思惑が透けてみえる。これでは野党はとても協議に応じられまい。

首相は自らの責任において、まず議論のたたき台となる選択肢を示すことが先決だ。

読売新聞 2010年12月10日

社会保障予算 いつまで迷走を繰り返すのか

2011年度予算の編成作業が大詰めを迎える中、社会保障関連予算の財源確保や制度改革の議論が難航している。

自公政権当時の予算編成でも、社会保障分野は最後まで迷走した。少子高齢化の進行に伴う予算の自然増を、毎年2200億円削減するための方策に苦労したからだ。

だが今は、それをはるかに上回る困難に直面している。見通しのつかない財源の規模は兆円単位に上る。事前に財源を詰めてこなかったツケと言えよう。

社会保障に対する国民の不安感をこれ以上広げないためにも、11年度予算については、残り少ない埋蔵金などをかき集めて、何とか手当てするしかあるまい。

来年以降は、今年のような迷走を繰り返してはならない。安定財源を確保するため、消費税率を引き上げる道筋を今からつけておく必要があろう。

12月中旬になっても社会保障予算の大枠が固まらないのは、民主党政権の先送り体質に原因があるのは明らかだ。

社会保障費の自然増に加え、基礎年金の国庫負担割合を50%に維持するためには、合計4兆円近い財源が必要なことは早くから分かっていた。

にもかかわらず政府は、何の手も打たなかった。その上、子ども手当の拡大を図り、3歳未満に7000円上積みして、月2万円とすることを決めた。

これには2400億円要る。ところがその財源をめぐっては、支給対象となる家庭への所得制限や配偶者控除の見直し、相続税の課税対象の拡大など、さまざまな案が浮上し、いまだに政府・与党内で賛否が分かれている。

政府はまた、後期高齢者医療制度の“廃止”を急ぎ、新しい高齢者医療制度をあわただしく打ち出した。窓口負担の拡大や現役世代の負担増で帳尻を合わせようという内容だ。介護保険でも同じ方向の改革案が示された。

いずれにも民主党内から強い反対意見が出て、紛糾している。

一体、いつまで議論を続けているのか。政府・与党で誰が司令塔となっているのか分からないのが最大の問題だ。菅首相は今こそ、指導力を発揮し、党内の議論の一本化を急がねばならない。

そもそも、予算の無駄を徹底して排除すれば子ども手当など福祉充実の予算は捻出できる、という民主党の政権公約(マニフェスト)には無理がありすぎた。公約の早急な撤回・見直しが必要だ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/593/