政治が党派的な利害を超えて取り組むべき重要な課題がある。
今後の社会保障の姿とその財源をどう確保するか。給付と負担のありようを、国民本位で考えることだ。
菅政権と民主党は、社会保障と税制の一体改革を進めるうえでの基本的な考えをまとめた。
その軸になっている有識者検討会の報告では、消費税を社会保障制度の基幹財源の一つであると明示した。同時に、給付と負担の関係を個人ごとに見えやすくする共通番号制度の導入も打ち出した。
社会保障の高齢者偏重主義を改め、雇用や貧困問題、子育てなどを重視することも新方針として盛り込んだ。負担感がつのる若い世代への支援を強化し、納得が得られる仕組みをつくっていくという姿勢である。
こうした方向づけは、いずれも妥当なものであるといえよう。
年金などの現金給付に重点を置くか、それともサービスなどの現物給付に軸足を置いていくのか。教育政策との連係はどうするか。議論不足の点も目につくが、そこはむしろ今後の課題として、開かれた検討の場で議論を深めていってもらいたい。
社会保障の給付と負担のあるべき姿については、専門家などの議論は出尽くした感すらある。いま問われているのは、実現に向けた政治全体としての力量ではあるまいか。
その点、今回の報告では野党への配慮が目立っている。具体的な数字はなるべく入れず、選挙公約などで民主党が示してきた独自の年金改革案などへの言及も避けた。
しかも2008年の「社会保障国民会議」や09年の「安心社会実現会議」といった自公政権時代の議論を踏まえた内容であることを強調。社会保障や税の問題を政争の具にしないよう、早期に常設会議を設けるよう提案し、「与野党協議へ」の思いが強くにじみ出ている。
与野党間の協議を通じて超党派の合意をつくり出すことが国民の利益にかなう、という視点に立ってのことでもあろう。大いに評価できる。
政権交代が現実のものになった。首相が短期間で交代している現実もある。社会保障制度の再構築について、与党が入れ替わるたびに方針が変わるのでは、大がかりな改革はできない。財源の確保を軸とする安定的な制度づくりは困難をきわめる。
むろん、与野党協議の場作りは一筋縄ではいかない。05年には、年金改革をめぐる協議の場が国会内に設けられたが、選挙戦を前に自然消滅してしまった経緯がある。
だが、社会保障と税の一体改革は待ったなしの状況だ。未来世代への責任感を、政治全体で共有してほしい。
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