COP16 「全参加」へ歩み止めるな

朝日新聞 2010年12月12日

COP16 飛躍へのステップになる

地球温暖化防止策をめぐる国際交渉は相互の不信感が和らぎ、メキシコで息を吹き返した。米国や中国も加わる新たな枠組みづくりに向け、来年の交渉が正念場となる。

カンクン会議(COP16)は、もともと控えめに「次につなぐ」ことを目指した。それが貴重な成果を生み出したといえる。

具体的な目標は二つだった。交渉を正常化することと、京都議定書の第1期の温室効果ガスの削減目標が終わる2012年の後に「規制の空白期」をつくらないための仕組みづくりだ。

議長を務めたエスピノサ・メキシコ外相は、「隠された文書も秘密の交渉もない」と、透明性重視のていねいな運営に徹した。昨年のコペンハーゲン会議(COP15)の教訓を生かした方式である。

COP15では、米国のオバマ大統領ら主要国首脳が達した合意に、一部の国から「非公式の場でつくった」と批判の声が上がり、正式決定直前でつまずいた。今回、成果を生んだ背景には「失敗すれば決定的な痛手になる」という危機感があった。

「カンクン合意」は極めて幅が広い。長期目標では温度上昇を2度以内に抑えることなどが記され、資金援助の新制度設立や途上国の削減行動の検証法も詳しく決まった。昨年のコペンハーゲン合意に従って各国が事務局に報告している独自の削減目標を重要視する、とされた。

まさに「コペンハーゲン合意」が、より詳細になって再登場した形だ。この合意は、温暖化交渉を新しい段階に押し出す一歩になるだろう。

京都議定書については、「空白をつくらないこと」とされた。空白を避けるにはCOP17(南アフリカ)で新しい枠組みを決める必要がある。簡単ではないが、熱い交渉の1年になる。

米国も中国も、現行の京都議定書の枠組みに参加していないため削減義務がない。両国を含む新たな枠組みの検討を早め、COP17で一定の結論を出さねばならない。

この枠組みは京都議定書のようなものなのか、全く別のものなのかを決めることも大切だ。

温暖化対策は「不公平感」との闘いだ。京都議定書では先進国だけが削減目標をもった。その後、米国が勝手に離脱し、中国が世界一の排出国になり、2大排出国が削減義務をもたないことで不公平感が一層強まった。

だが、解決策は規制を前に進める中でしか生まれない。広範な国々に規制の網をかけ、次第に公平な規制に発展させるやり方がよいのではないか。

日本も京都議定書での削減義務に不公平感を抱く国だ。枠組みづくりに積極的に貢献する中で、公平さを実現すべきだろう。

毎日新聞 2010年12月12日

COP16 「全参加」へ歩み止めるな

予想通り、大きな進展はなかった。メキシコのカンクンで開かれていた「国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)」がカンクン合意を採択し閉幕した。

12年で期限が切れる京都議定書以降(ポスト京都)の枠組み作りはできず、COP17以降に持ち越した。最大の焦点だった議定書の延長問題も先送りされた。

その中で、それなりに進んだのは、昨年、「留意する」という表現にとどまったコペンハーゲン合意の枠組みが格上げされ、国連の正式文書となったことだろう。途上国支援や削減の国際検証も盛り込まれた。

コペンハーゲン合意には、日本や欧州だけでなく、温室効果ガスの2大排出国である米国と中国、途上国も入っている。米中や途上国に削減義務がない京都議定書と異なり、全世界が削減の責任を果たす枠組み作りにつながる可能性がある。

ただし、削減の実効性を考えると楽観はできない。京都議定書のような法的拘束力がなく、削減の数値目標は自主申告となっているからだ。

申告が気候変動を抑えるのに十分な削減かどうかも問われない。実際、コペンハーゲン合意の下で申告された各国の削減量を足し合わせても、気候の安定化には不十分だ。削減の具体的な検証方法にも不透明な部分が残る。

カンクン合意には、産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える必要性も盛り込まれた。「2度未満」を実現するには自主申告と緩い検証では心もとない。削減を実質的なものにする仕組み作りに、世界が知恵を絞り、歩み寄る必要がある。

今回、京都議定書の単純延長は避けられたものの、今後の国際交渉がコペンハーゲン合意に一本化されたわけではない。

議定書の下で削減義務を負う国の排出量が全体の3割に満たないことを思えば、日本が議定書の単純延長に反対するのは正論だ。ただ、正論を主張するだけでは、思惑が入り乱れる国際交渉で、全員参加の実効性ある枠組み作りを進めることはできない。

国際交渉が停滞しても日本は低炭素社会に向けた歩みを止めてはいけない。国内対策はもちろん、途上国の削減も支援しつつ、多くの国に日本の主張を理解してもらう必要がある。世界が化石燃料への依存から脱却できるよう、国際的な仕組み作りをけん引する気概を見せてほしい。

日本は新成長戦略に「技術を生かし世界の温室効果ガスを13億トン以上削減する」との目標を盛り込んでいる。今回、京都議定書が単純延長されなかったからといって、胸をなで下ろしている暇はない。

読売新聞 2010年12月12日

COP16閉幕 「京都」の延長は何とか避けた

京都議定書を単純延長するかどうかを焦点に、メキシコで開かれていた気候変動枠組み条約の第16回締約国会議(COP16)が閉幕した。

延長問題の結論は、来年のCOP17以降に先送りされた。日本にとっては、最悪の事態をひとまず回避した形だ。

延長反対を主張し続けた日本の姿勢が、今回の決定に少なからず影響を及ぼしたと言えよう。

京都議定書は、温室効果ガスの排出を削減させる国際ルールだ。2012年には、対象期間の5年間が終了する。

先進国だけに削減義務を課しているため、最大の排出国である中国は、途上国として削減義務を負っていない。先進国側では米国が離脱した。

2大排出国が削減の対象外となっている京都議定書をこのまま延長させても、世界の排出量削減に結び付かないことは明らかだ。

日本が「米中も参加する新たな枠組みを作るべきだ」と訴えたのは、当然のことだった。

今回、すべての先進国、途上国を対象とする、新たな枠組みの構築を目指すことで合意に至ったのは、一定の前進といえる。

京都議定書の単純延長を完全に封じ込めるため、日本には、新しいルール作りの議論をリードしていく努力が求められる。

新たな枠組みの骨格は、先進国にこれまで同様、削減義務を課す一方で、途上国には、自主的な削減を求めるというものだ。

途上国は、削減の実施状況について、国際的なチェックを受けることになる。大切なのは、抜け道を許さない精緻な検証体制を整備することだ。

途上国の削減努力を後押しするためには、先進国からの資金・技術援助も欠かせまい。

13年以降の枠組み作りは正念場を迎え、今後、各国の削減率などを決める協議が行われる。枠組みの内容は、公平で実効性のあるものにしなければならない。

削減義務を負うのを拒み続けている中国に対しては、先進各国が協調し、応分の責任を負うよう働きかけを強めていく必要がある。米国が、日本などと同じく削減義務を受け入れるかどうかも、今後の焦点となるだろう。

日本は、「20年までに1990年比で25%削減」という極めて高い削減目標を掲げている。今後の国際交渉で不利な削減義務を負わされるのを避けるためにも、この目標を、より現実的な数値に見直すことが肝要だ。

産経新聞 2010年12月12日

COP16 温暖化の防止は全世界で

京都議定書の単純延長は回避された。メキシコのカンクンで開催され、11日に閉幕した気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)の結論である。

単純延長が決まると、地球環境にとっても日本の経済に対しても、とんでもないことになってしまうところだった。

交渉で終始正論を貫き、世界の温暖化防止の道を誤らせなかった日本の姿勢を高く評価したい。

現行の京都議定書で定められた温室効果ガス削減の約束期間は、2012年で終わる。その後の枠組みの構築がCOP16の主要課題であった。

しかし、その構築は昨年のCOP15でも難航し、前に進んでいない。そのため、今回のCOP16では、京都議定書の約束期間を13年以降まで延ばせばよいではないかという意見が勢いを増した。

京都議定書の単純延長論である。途上国や中国などの新興国にこの要求が強かった。

だが、主要排出国の中国と米国に削減義務がない現行制度は実効性が減じている。新興国や途上国の排出が増加した結果、削減義務を負っている日本や欧州連合(EU)など先進国の排出量は、もはや世界全体の27%にすぎない。

先進国だけで減らしても焼け石に水である。地球温暖化を防ぐためには、中国と米国が加わり、新興国も途上国も参加する枠組みの構築が不可欠なのだ。COP15の「コペンハーゲン合意」でも確認された方針である。

今回のCOP16では、コペンハーゲン合意に沿った取り組みへの決議が採択されたが、現実の指導力には疑問が残る。

13年以降の実質的な温暖化対策の枠組み構築は、来年末に南アフリカで開かれるCOP17に持ち越された。対策に「空白期間を生じさせない」という名目で、今後1年間、京都議定書の延長論がより強力に蒸し返されるであろう。

現行制度で削減義務を負わない新興国や途上国にとって単純延長は都合がよい。排出を増やしつつ経済発展を加速できる。しかし、それは誤った道である。

日本は環境先進国として、粘り強く各国を説得していかなければならない。単純延長論に屈すると世界全体による取り組みは、大きく遠のいてしまう。国益と地球益の双方を熟慮した上での国際交渉の積み上げが重要だ。

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