平和賞授賞式 空席が中国の現実語る

毎日新聞 2010年12月10日

平和賞授賞式 空席が中国の現実語る

今年のノーベル平和賞授賞式には、受賞者も家族も出席できないという。なぜなら、受賞者である中国人の民主活動家、劉暁波氏は獄中にいるからだ。妻は軟禁状態。メダルと約1億2000万円の賞金が宙に浮いたままの授与式となる。

ロシアやイラン、イラクなど20カ国前後の代表も出席を見合わせるそうだ。人権抑圧に対する価値観において中国と似た立場の国々が多い。

このこと自体は不思議ではない。獄中の劉氏が出席できないことはノーベル賞委員会も織り込み済みだろう。劉氏は、中国共産党の一党独裁体制を批判する民主化憲法草案を起草したために、共産党政権の法律によって、獄中にあるからだ。

「中国の法律に反した服役中の犯罪者」という中国政府の主張は、中国の法律が非民主的で人権抑圧的であるということでもある。劉氏が獄中にある事実こそ、中国に民主憲法が必要なことを証明している。

それにつけても、中国政府の取り乱した対応は醜態だった。「服役中の犯罪者」を釈放しなかったのはともかく、留守宅まで監視下に置き、家族を軟禁するとは見苦しい。劉氏の主張の正しさが、ますます輝きを増した。

各国にある中国大使館を動員して授賞式に参加しないよう運動したと知ったら、多くの中国人は顔を赤くするのではないか。この世界には、中国が民主主義とは価値を異にする危険な国だという「中国異質論」を言いたいひとたちがたくさんいる。そのようなひとたちにとって中国の居丈高な強圧外交は、「中国の台頭は危険だ」という中国脅威論、中国傲慢論を一層強く印象づけるものとなったことだろう。

考えようによっては、中国は愚直である。民主活動家や人権活動家に対する理不尽な弾圧をあまり隠そうとしない。

中国は一党独裁体制のもとで高度経済成長を果たし、そのなかで「特殊利益集団」という富裕層が成長した。その権益を守るには一党独裁がふさわしく、利益を弱者にも配分するには民主主義がふさわしい。いまの共産党は弱者の党から富者の党に変質した。民主主義が目の敵になった。

ニセ粉ミルクで障害の出た赤ちゃんの父親が被害者の会を組織したら懲役刑の判決を受けた。四川大地震で校舎に埋まって死んだ子供の親たちが校舎の手抜き工事に抗議したら弾圧された。人権侵害事件を依頼された弁護士が突然逮捕されるという事件も珍しくない。

白と黒とが逆転した社会で苦闘する中国人は劉氏だけではない。中国政府の受賞妨害は気休めにしかならない。

読売新聞 2010年12月11日

平和賞授賞式 中国は劉暁波氏を釈放せよ

栄えある受賞者の座席は空席で、傍らに本人の写真が飾られた光景は、中国の特異性を改めて世界に示すものだった。

今年のノーベル平和賞の授賞式が10日、ノルウェーのオスロで開かれた。

受賞した中国の反体制作家、劉暁波氏は、長年にわたって、非暴力の人権活動を中国内で展開してきた。その実績が認められての栄誉である。

劉氏は2年前、共産党の独裁体制の廃止などを呼びかけた「08憲章」を公表した。それがもとで国家政権転覆扇動罪に問われ、懲役11年の刑に服している。このため授賞式に出席できなかった。

劉氏への授賞は、世界第2の経済大国になる中国が、依然として基本的人権を軽視していることへの国際社会の警告でもあった。

ところが中国は、劉氏への授賞を体制転覆を狙う欧米社会からの挑戦だと受け止めた。夫人の劉霞さんを北京の自宅に軟禁し、劉氏の兄弟の出国までも禁止した。

平和賞の歴史の中で、本人だけでなく親族も授賞式に出席できなかったのは、1935年の受賞者であるナチス・ドイツ政権下の反体制活動家カール・オシエツキー氏以来のことだ。

時代は大きく変わったものの、全体主義体制の本質は変化していないことを、劉氏の授賞式は鮮明に物語っている。

中国は自国の台頭は脅威ではないとする「平和発展論」を強調する一方で、国内の民主派を弾圧し続けている。これでは責任ある大国の姿とは言えないだろう。

中国の胡錦濤政権は劉氏を直ちに釈放すべきである。

中国当局は劉氏の授賞式に参加しないよう各国に外交圧力さえかけた。大国主義を(あら)わにした傲慢な態度と言わざるを得ない。

ロシア、ベトナム、キューバ、サウジアラビアなど約20か国が中国の要請を事実上受け入れ、欠席したという。極めて遺憾だ。

日本政府は劉氏への評価を「差し控える」と慎重だったが、大使を授賞式に出席させることで、人権尊重の姿勢は示した。

日中関係は、尖閣諸島沖漁船衝突事件を契機に冷え込んだ。一方で、双方の経済的な依存関係は一層深まる複雑な時期を迎えた。

良好な日中関係を維持していくためにも、人権問題の改善は必要だ。日中政府間で定期的に行われている人権対話で、日本は人権尊重や自由の保障を求めてきた。今後も粘り強く、中国に促していかなければならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/591/