中国建国60年 膨張主義からの脱却が必要だ

朝日新聞 2009年10月02日

中国建国60年 富国強兵の道の危うさ

中華人民共和国が60周年を迎えた。

「中国は世界の東方にそびえ立っている。社会主義だけが中国を救い、改革開放こそが中国を発展させた」

胡錦濤国家主席は、毛沢東が建国を宣言した天安門楼上で約20万人を前に演説し、10年ぶりの軍事パレードを閲兵した。孫文が好んだ黒い礼服姿は、毛、トウ(登におおざと)小平、江沢民の各氏に続く、共産党第4世代の指導者としての自負を見せつけた。

パレードでは、米国全土を射程に収めるとされる大陸間弾道ミサイル「東風31A」や、ロシアの戦闘機をもとにした「殲(せん)11」など国産の最新兵器を多数披露し、軍事力の充実を誇示した。

無謀な増産計画で数千万人ともいわれる犠牲者を出した大躍進や、それに続く文化大革命など幾多の混乱を経て、中国は約30年前に改革開放にかじを切った。

そして今、日本を抜いて世界第2の経済大国になる日は近い。同時不況からも、大胆な経済対策で真っ先に回復しつつある。富国強兵の道をまっしぐらに突き進もうとしているようだ。

世界は米国の一極支配から多極化への歩みを速めている。存在感を高める中国経済に、米国も日本も欧州も緊密に結びついている。

半面、軍事力の強大化に世界は懸念と危惧(きぐ)を深めている。日本にとっても重い現実である。強引な資源獲得戦略が各地であつれきも呼んでいる。

一方で中国は、大国の責任を果たそうという意欲も見せる。

胡主席は、一連の国連の会議やG20の場で「気候変動への対応を発展計画に組み入れ、強力な措置をとる」「核軍備競争に加わらず、国際的な核軍縮プロセス推進に努める」などと述べ、国際協調を重視する姿勢を示した。

しかし、外の世界への自信に満ちた振る舞いと、国内の不穏な空気との落差は尋常ではない。

経済成長に伴う利権をめぐり、党員による権力の乱用や腐敗が絶えない。賃金不払いや土地収用をめぐる紛争が頻発しているが、司法や行政は十分に機能しない。国民の不満は、各地で当局との衝突を生んでいる。

新疆ウイグル自治区やチベット自治区では、民族紛争が収まりそうもない。テロへの警戒だとして、当局の締め付けは強まるばかりだ。

穏やかならぬ状況で迎えた建国記念日である。当局は祝賀行事から一般市民を締め出し、会場周辺のビルやホテルも立ち入りが厳しく制限された。厳戒のなかでの祝賀は、中国社会の深まる矛盾を映し出している。

中国が内外に示すべきなのは法治であり、人々が大切にされる調和のとれた社会である。その方向への脱皮の努力があってこそ、東アジア共同体の夢をともに語れる国になるに違いない。

毎日新聞 2009年10月01日

中国建国60年 強い国より豊かな国に

中国はきょう建国60年の記念日を祝う。「中国人民は立ち上がった」と毛沢東が宣言した天安門の前を、新型戦車やミサイルの軍事パレードが通る。

かつて帝国主義列強に侵略された中国にとって強国は理想だろう。だが、この軍隊は共産党が指揮権を握る党軍であり、国軍ではない。「銃口から政権が生まれた」(毛沢東)60年前から変わっていない。

昨年、中国は改革開放30年だった。最大の行事は北京五輪だった。世界第2の経済大国目前の国力を存分に発揮した。中国は大きく変わった。

建国以来の60年は、前半が毛沢東の革命の時代、後半がトウ小平の改革の時代である。前半は、経済がほとんど成長せず、政治は文革の混乱と権力闘争に明け暮れた。中国が経済大国に変わったのは後半に入ってからである。トウ小平の強い指導力で市場経済システムに転換した。外国資本を導入し、勤勉な労働力に恵まれ、世界の工場となった。

トウ小平がまっ先にやったことは軍縮だった。100万人兵員削減によって資源配分の重点を経済建設に移した。「先富論」を唱え、強い国より豊かな国を目指した。全方位外交で諸外国との摩擦を避けた。「韜光養晦(とうこうようかい)・有所作為」(力をひけらかさず、やるべきことはやれ)の金言を残している。

中国の軍備拡張は江沢民前国家主席になってからだ。中国の市場経済は自由で公正な市場競争ではなく、共産党の指導する「社会主義市場経済」だった。権力を独占する共産党幹部がコントロールすれば、富は権力者に集中する。権力者と資本家が結合した「官商癒着」という言葉が生まれた。

農民を農地から追い立てた官僚の手には土地の転売益が入る。地方では、官僚ポストを金銭で売る「売官」が横行して暴力団員が警察官になり治安が悪化した。中国の極端な貧富の格差は、この政治体制から生まれたものだ。中産階級が育たず、成長の結果、貧困層が増えて社会は不安定になった。

権力の崩壊を防ぐ究極の装置が軍である。共産党指導部は「国体擁護」を叫んでいる。「三つの勢力」すなわちテロリスト、民族分裂主義、過激主義が社会主義を転覆しようとしているという。共産党統治の腐敗に不満を持つ大衆が、テロリストなどに見えるのではないか。軍事増強は外国に向けただけでなく、中国内部への威嚇でもある。

胡錦濤国家主席になって、「民のための政治」「調和社会の建設」が叫ばれている。その実現のかぎは政治の民主化だ。中国は強さより豊かさを目指すべき段階だ。

読売新聞 2009年10月01日

中国建国60年 膨張主義からの脱却が必要だ

中国は1日、建国60周年を迎えた。

共産党の一党支配のもと、約30年前に市場経済を大胆に導入し、米国、日本に続く世界第3位の経済大国に成長した。

日本を追い抜くのも時間の問題と見られている。

その一方で、体制崩壊につながりかねない民主化への動きを力で抑えつけるなど、「民主化なき市場経済」とも言える独自路線を歩んでいる。

昨年夏は北京五輪を成功させた。来年5月からは、上海万博を開催するなど、国際的な存在感を急速に高めている。

だが、その足元はどうか。

経済至上主義の高度成長は、国民の生活を豊かにしたが、同時に貧富の格差を拡大させ、農村の貧困ぶりが際立つ。

都市や農村で土地収用を巡る紛争が多発し、労働争議なども頻発している。党官僚や役人の腐敗・汚職は、とどまるところを知らない。各地の環境破壊も深刻な状態に陥っている。

社会にひずみが生じる中で、人々に拝金主義が蔓延(まんえん)し、モラルの荒廃が指摘されている。

新疆ウイグル自治区では、ウイグル族と漢族の対立が先鋭化し、事態は深刻化するばかりだ。亡命チベット人と中国政府との話し合いは膠着(こうちゃく)状態にある。

経済開発と強圧的手段のアメとムチの政策だけでなく、少数民族の宗教、文化や人権を、もっと尊重する姿勢が大事だ。そうしなければ、政権が掲げている「調和社会」は実現しないだろう。

国威発揚に向け、祝賀式典と軍事パレードが行われる首都・北京では、テロ警戒のため、大量の軍治安部隊が動員され、空前の厳戒態勢が敷かれているという。

中国は「平和的発展」を掲げつつ、軍事力の増強を推し進めてきた。国防予算の透明性を高め、周辺国・地域の懸念を取り除くよう努めるべきだ。

アフリカや南米諸国における中国のなりふり構わぬ資源獲得外交に対する国際社会の非難にも、対応していかねばならない。

中国は世界最大の二酸化炭素排出国でもある。地球温暖化防止への国際的取り組みでは、具体的な数値を伴った削減義務を負うことが求められる。

(よわい)六旬の社会主義・中国。論語の「耳(したが)う(人の話を聞き、その気持ちまで分かる)」の言葉通り、世界の声に耳を澄ませ、膨張主義を脱却して、大国としての責任を果たす時だ。

産経新聞 2009年10月01日

中国建国60周年 開かれた大国へ民主化を

中国は1日、建国60周年を迎えた。中国は、いまや経済・軍事大国として国際社会での存在感を増し、金融危機克服などで世界の期待は大きいのだが、政治や軍事は透明性を欠き不信感も根強い。中国が国際社会との協調を進めるには国内の民主化と政治改革をし、開かれた大国になることこそ必要ではないか。

この60年は、毛沢東時代の「政治第一」の前半と、トウ小平氏が率いた「経済第一」の後半で二分される。今日の経済発展が、1970年代末以来の改革・開放の成果であることは言うまでもない。

過去30年間に中国の経済規模は60倍を超え、ドイツを抜いて世界3位になった。経済発展に伴い、軍事力の増強も著しい。国防予算は89年以来21年連続で2ケタ成長を続け、未公表分を含めると米国に次ぐ規模とされる。

中国は、こうした国力増強を「特色ある社会主義」の成果と誇示している。共産党独裁の政治体制下で資本主義の市場原理と手法を取り入れたことを指す。私有経済の振興を促す一方で、国家が経済・金融を管理する計画経済時代の手法で、世界金融危機の影響も最小限に食い止め、景気対策でも、世界に先行、一党独裁の優越性を示した。

その半面、国内では問題と矛盾が山積している。格差の拡大、官僚の腐敗などへの国民の不満はしばしば暴動に発展する。チベットやウイグルの騒乱事件も続く。胡錦濤政権は9月中旬の党中央委員会総会(4中総会)で国民の党不信に危機感を示したが、有効な具体策は打ち出せなかった。

中国が直面しているのは、国際化、多元化した社会で国民の権利意識が高まり、権力エリートが支配する政治体制へ批判の矛先を向けだしたことだ。そうした批判は80年代に盛んに行われ、民主化運動を導いたが、89年の天安門事件以後は民主化や政治改革論議はタブーになってしまった。

1日の建国60周年の演説で、胡錦濤国家主席は、中華振興の夢を実現した共産党の指導を誇る見通しという。4中総会は、一党独裁制堅持を強調したが、既にネットを含め情報統制を強化、異議申し立てを抑圧する傾向が顕著だ。

それによって共産党が国民の信頼を回復することもなく、国際社会の対中警戒心も消えないだろう。中国が、政治改革に着手する必要はますます強まっている。

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