法人税減税 小幅でもやむをえない

朝日新聞 2010年12月06日

法人税減税 小幅でもやむをえない

来年度の税制改正の焦点のひとつである法人税率の引き下げが難航している。減税に必要な1.5兆円の財源のめどが立たない限り、小幅な下げもやむをえないだろう。

法人に対する税率は、国税と地方税をあわせて40%強。国税である法人税は30%で、経済界はこれを5%幅で引き下げるよう求めている。

菅直人首相はすでに政府税制調査会に法人減税の検討を指示している。減税で雇用拡大や景気回復を促そうという狙いだ。

朝日新聞の全国主要100社アンケートでは、菅政権に期待する経済政策として79社が「法人税減税」をあげた。世界ではここ10年、法人税引き下げ競争が激しい。日本の電機産業などが競合する韓国や中国の税率は今や20%台なかば、ドイツや英国も30%を切る水準だ。日本は割高である。

日本には研究開発減税のような制度もあるが、それを考慮しても実質負担率は、やはり他の主要国より高い。日本と同じ高税率だった米国も、議会には減税論が浮上してきたという。日本も早急に世界水準との税率差を埋めていく必要がある。

法人税を下げても雇用拡大の効果はそれほどない、との見方もある。円高や国内需要の減少で企業が生産拠点を海外に移す流れは構造的なものだ。しかし、国内に雇用を残したり、設備投資を維持したりするうえで不利な材料は、少しでも減らしたい。

財源について、政府の税制調査会は原則として企業の税負担の付け替えでまかなう方針だ。赤字を翌年度以降の黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」制度や、資産の目減り分を損金算入できる「減価償却」制度などを見直し、課税対象となる企業を広げる。こうすることで税収を増やし、財源を確保する案が有力になっている。

それでは計1兆円足らずにしかならず、5%減税は無理だ。とはいえ一時検討された研究開発減税の縮小、石油化学製品の原材料となるナフサ免税措置の縮小などに踏み込めば、逆に雇用を減らす圧力を企業に加えかねない。

消費増税などの大型増税は封印されているうえ、歳出を削って財源を確保するにも限度はある。いきおい、赤字国債を増発して一時的にしのぐという手法に傾きかねないところだ。

だが、将来の税収増で穴埋めすればよい、という安易なやり方は採るべきではない。それでは財政そのものに対する信頼を著しく損なってしまう。その結果、避けて通れないはずの消費増税を柱とする税制改革はますます先送りされ、社会保障も財政再建も展望を失いかねない。

こうした状況を踏まえれば、財源が許す範囲で減税幅を決め、早期に実施するのが現実的ではないか。

産経新聞 2010年12月09日

法人税5%下げ 経済成長促す決断の時だ

平成23年度税制改正の焦点の法人税減税をめぐり、菅直人首相が政府・民主党に結論の取りまとめを急ぐように指示した。減収分に見合う財源を確保できないため、5%で調整してきた減税幅を圧縮する動きがあるが、菅政権は日本経済の成長を促すシンボルとして、実効性のある法人税減税を実現させねばならない。

法人税減税は成長戦略の一環として、日本企業の国際競争力を強化し、海外からの投資を呼び込むための政策だ。減税が目指した本来の目的を忘れてはならない。

日本の法人税は、国税と地方税を合わせた実効税率で40・69%と主要先進国の中で米国と並ぶ高い水準で、10年以上も据え置かれたままだ。本来なら消費税増税を含めた税制の抜本改革の中で実施すべきだが、今回は、それに先行して法人税減税を検討している。成長戦略にも盛り込まれており、雇用を生み出す企業を支援する姿勢を示したものだ。

中国や韓国などとの国際競争が激しくなる中で、日本経団連や経済産業省は来年度に5%の引き下げを強く求めている。「まずは他の国々との競争条件をなるべく同じにしてほしい」との産業界の切実な要望に対し、政府・民主党は耳を傾けなければならない。

5%の法人税減税には1兆5千億円程度の財源が必要である。厳しい財政事情を背景にして、財務省では減税と増税を同規模で実施する「税収中立」を求めている。欠損金の繰り越し控除や減価償却制度など、租税特別措置の見直しにより約7千億円程度を賄う方針だが、減収分すべての財源は確保できていない。そこで、浮上しているのが減税幅の圧縮だ。

確かに、財政規律の確保は重要だが、今回の法人税減税は年度ごとの税収だけで判断すべきではない。減税の実施で経済の活性化を促しながら、将来的な法人税収の増加効果なども総合的に勘案して、法人税の減税に取り組む必要がある。

一方の産業界も、産業構造の変化に伴う租税特別措置の見直しを避けるべきではない。ドイツが2008年に実施した法人税減税では、課税ベースの拡大で財源をほぼ確保した経緯もある。そのうえで、産業界には法人税減税によって国内の設備投資を促し、着実に雇用を生み出す具体的な成果が求められる。

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