来年度の税制改正の焦点のひとつである法人税率の引き下げが難航している。減税に必要な1.5兆円の財源のめどが立たない限り、小幅な下げもやむをえないだろう。
法人に対する税率は、国税と地方税をあわせて40%強。国税である法人税は30%で、経済界はこれを5%幅で引き下げるよう求めている。
菅直人首相はすでに政府税制調査会に法人減税の検討を指示している。減税で雇用拡大や景気回復を促そうという狙いだ。
朝日新聞の全国主要100社アンケートでは、菅政権に期待する経済政策として79社が「法人税減税」をあげた。世界ではここ10年、法人税引き下げ競争が激しい。日本の電機産業などが競合する韓国や中国の税率は今や20%台なかば、ドイツや英国も30%を切る水準だ。日本は割高である。
日本には研究開発減税のような制度もあるが、それを考慮しても実質負担率は、やはり他の主要国より高い。日本と同じ高税率だった米国も、議会には減税論が浮上してきたという。日本も早急に世界水準との税率差を埋めていく必要がある。
法人税を下げても雇用拡大の効果はそれほどない、との見方もある。円高や国内需要の減少で企業が生産拠点を海外に移す流れは構造的なものだ。しかし、国内に雇用を残したり、設備投資を維持したりするうえで不利な材料は、少しでも減らしたい。
財源について、政府の税制調査会は原則として企業の税負担の付け替えでまかなう方針だ。赤字を翌年度以降の黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」制度や、資産の目減り分を損金算入できる「減価償却」制度などを見直し、課税対象となる企業を広げる。こうすることで税収を増やし、財源を確保する案が有力になっている。
それでは計1兆円足らずにしかならず、5%減税は無理だ。とはいえ一時検討された研究開発減税の縮小、石油化学製品の原材料となるナフサ免税措置の縮小などに踏み込めば、逆に雇用を減らす圧力を企業に加えかねない。
消費増税などの大型増税は封印されているうえ、歳出を削って財源を確保するにも限度はある。いきおい、赤字国債を増発して一時的にしのぐという手法に傾きかねないところだ。
だが、将来の税収増で穴埋めすればよい、という安易なやり方は採るべきではない。それでは財政そのものに対する信頼を著しく損なってしまう。その結果、避けて通れないはずの消費増税を柱とする税制改革はますます先送りされ、社会保障も財政再建も展望を失いかねない。
こうした状況を踏まえれば、財源が許す範囲で減税幅を決め、早期に実施するのが現実的ではないか。
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