諫早湾干拓 開門を決断するときだ

朝日新聞 2010年12月07日

諫早湾干拓 開門を決断するときだ

福岡、佐賀、長崎、熊本の4県に囲まれた有明海。その一角にある諫早湾の干潟をつぶしてできた農林水産省の干拓事業が大きな岐路を迎えた。

干拓地をつくるために諫早湾を堤防で閉ざしたことと、魚やエビの水揚げが減ったことには因果関係が認められる。閉め切ったままにするのは違法だから、準備の後にとりあえず5年間、排水門を開くようにと、福岡高裁が命じた。

国営諫早湾干拓事業は菅直人首相にとって、無駄な公共事業批判の原点である。「ギロチン」と呼ばれた1997年の潮受け堤防の閉め切り以降、菅氏は再三、現地入りして、この事業を「走り出したら止まらない公共事業の典型」と訴えてきた。

しかも、開門は民主党の2009年の政策集にも載った。今年4月には与党と農水省の検討委員会が、開門調査が適当との報告書を、当時の赤松広隆農水相に提出した。赤松農水相もその意向を示していた。

いまこそ、開門に向けて動き出すため、菅首相自らが積極的に政治決断するときだ。一昨年、開門を命じた佐賀地裁判決に続く2連敗である。大局を考えれば、政府が上告するという選択はもはやないだろう。

農水省は地裁判決に対し「開門は困難」として控訴していた。いま、開門するかどうかを判断する環境影響評価(アセスメント)を進めている。

一方、干拓地や周辺で農業を営む人たちは、開門すれば堤防の内側にある淡水の調整池に海水が入って農業用水に使えなくなる、塩害などの被害も生じかねない、と反対してきた。

たしかに、干拓農地672ヘクタールに41の個人・法人が入植。08年4月から営農活動が本格化し、ジャガイモやタマネギなど約30種類が生産されている。

だが、今回の判決は農業用水の代替水源を確保できるのではないかと述べた。塩害の主張についても、農水省による客観的な資料に基づく立証がないと指摘した。

鳥取・島根両県の中海干拓地は、淡水化事業が中止になった後、「簡易ため池」を設けて営農が支障なく行われた。原告はこの事実をあげ、同じく畑作をしている諫早湾干拓地も「農業用水はまったく問題ない」という。

判決は常時開門に向けた改修などの期間として3年間の猶予を与えた。だが、農水省は02年にアセスせずに1カ月間の短期開門調査をした。その際にとった水門の底部だけを開ける方法ならば、いまの水門の構造のままでできると農水省も認めている。

高潮の恐れがあるような天候など、防災に必要なときは、判決がいうように状況に応じて閉めればいい。対立してきた漁業者と農業者が共存できる道を、政府は目指すときである。

毎日新聞 2010年12月09日

諫早湾判決 政治の責任で開門を

諫早湾の潮受け堤防をめぐる訴訟は、福岡高裁で行われた控訴審でも、1審の佐賀地裁と同様に5年間の常時開門を命じた。干拓地の農業用水を確保するなど対策を講じたうえ、国はすみやかに開門すべきだ。

有明海に面した諫早湾では、国営による干拓事業が行われ、その際に、湾央部が全長7キロに及ぶ堤防で閉め切られた。それによる水質悪化で漁獲が大きく減少するなど被害を受けたとして佐賀、長崎など4県の漁業者が、堤防の撤去や排水門の開門を求め、国を訴えていた。

控訴審判決では、有明海全域については因果関係を認めなかったものの、諫早湾とその近海に関しては、「干潟の消失や潮流の変化などで漁業被害が生じた」と認定した。

一方国は、開門すれば堤防の防災機能に悪影響があるうえ、調整池に海水が混じり干拓農地での営農者が農業用水を確保できなくなると主張していた。

これに対して判決は、「防災上やむを得ないときに閉じれば一定の防災機能は相当程度確保できる」と指摘。農業用水についても代替水源によって対応可能との判断を示した。

この諫早湾干拓事業は、一度始めたらとまらないとされてきた大型公共事業の代表例だった。コメの増産という当初の目的はコメ余りを受けて変わったのに事業は継続した。

これを野党時代の民主党は痛烈に批判してきた。政権交代後、政府・与党が検討委員会を設け、今年4月には開門調査を妥当とする報告書を当時の赤松広隆農相に提出した。

しかし、菅内閣発足時に赤松氏が再任されず、後任についた山田正彦前農相が、開門に反対している長崎県選出であることもあってか、開門へ向けた動きはとまってしまった。

野党時代に「無駄な公共事業の典型」と強調していた菅直人首相は、判決に対し「しっかり政府として検討していきたい」と語っているものの、これまで指導力を発揮した形跡はうかがえない。

党内での意見の取りまとめができず方針が定まらない。その結果、結論を先送りする。そんな民主党の姿が政権交代以降、繰り返されてきた。諫早湾の堤防問題についても同じ経路をたどっているように映る。

判決を受けて、政府は開門調査を実施する方向に動き始めたようだ。しかし、逆に上告についても検討しているという。

群馬県で建設が進められていた八ッ場ダムについても中止の方針が棚上げされた形になったことも含め、ふらついているように見える。菅政権は公共事業改革を本気で実施する覚悟があるのか。はっきりした形で示してもらいたい。

読売新聞 2010年12月08日

諫早湾干拓訴訟 「開門」命令が問う政治の責任

国の諫早湾干拓事業を巡り、漁業者側が潮受け堤防排水門の開放などを求めた訴訟で、福岡高裁は事業の影響調査のため5年間、堤防を常時開放するよう国に命じる判決を言い渡した。

堤防の閉め切りと、漁獲高が減少するなどの漁業被害との因果関係を明確に認めた。堤防閉め切りが地元漁業者の漁業を営む権利を侵害しているとも指摘した。

1審の佐賀地裁と同様、漁業者側の主張をほぼ全面的に認めた判決と言えよう。

国側は、開門すれば高潮や洪水時に堤防の防災機能が失われ、堤防内の調整池に海水が入り込んで干拓地農業にも被害が出ると主張していた。地元長崎県や干拓地農家の意向を踏まえたものだ。

しかし判決は「影響は限定的」と、これを退けた。

開門の準備に3年間の猶予を与えた上で、とりあえず排水門を開け、有明海の環境に及ぼす影響や漁業資源の回復策などを5年間で探れ、と命じた判決である。

干拓事業は、有明海の一角である諫早湾を全長7キロの潮受け堤防でせき止め、内側に広大な調整池と農地を造成した。1989年に着工、総額2500億円を投じて2008年に事業は完成した。

干拓による環境変化で魚介類が減少したとする漁業者側は、まず工事の差し止めを求めたが敗訴した。事業が完成した後は、堤防の撤去や排水門の開放などを求める訴訟で国と争ってきた。

干拓地農家の不安、長崎県や有明海に臨む周辺各県の思惑なども絡み合う中、「諫早問題」が混迷を深めた背景には二転三転した政治の対応のまずさもあろう。

自民党政権は、地方への利益誘導を狙って大型公共事業を乱発した。諫早湾干拓もその一つだ。

民主党は、有明海を再生するとして野党時代から開門に前向きだった。政権交代後の今年4月には、政府・与党の検討委員会が開門を妥当とする報告書をまとめた。

しかし、検討委を主導した当時の赤松農林水産相が宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題を機に退任した後は、この問題から遠ざかっている。

農水省は、開門の適否を判断する環境影響評価を進めており、来春に報告をまとめる方針だ。

判決を受けて仙谷官房長官は、開門に前向きな姿勢を示しつつ、環境影響評価の結果も踏まえて検討する意向を表明した。

最終的な判断は政治に委ねられる。漁業者と農家、双方に配慮した解決策を探る責任があろう。

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