毎日新聞 2010年12月07日
阿久根市長失職 民意くみ混乱の収束を
強権的な手法の限界を示したと言えよう。鹿児島県阿久根市の竹原信一市長の解職請求の是非を問う住民投票が行われ、賛成多数で竹原氏は失職した。
強引な市政運営を続けた市長を住民が拒否した審判は重い。だが、賛否は僅差であり、竹原氏は出直し選挙への出馬を表明している。混乱を収束させようという自覚と責任感が竹原氏、議会の双方になければ、なかなか市政は正常化しまい。
法をたびたび無視したかのような竹原氏のこのところの市政運営は暴走としかいいようがない。司法手続きも軽視するかのような言動が批判を浴びたが、ことに議会を招集しないまま予算や条例など専決処分を繰り返したことは問題だ。首長と議会の双方が住民から選ばれ自治を形づくる「二元代表制」の原則を揺るがしているからだ。
08年の竹原市長就任以来、議会は2度にわたり不信任を決議したが、竹原氏は議会解散や失職に伴う市長選で対抗し、昨年5月の出直し選で再選を果たした。反対勢力と調整もせず、混乱を加速するばかりでは首長としての能力に今度は住民から疑問符をつけられても仕方なかろう。
しかも、これで混乱が収束に向かうわけではない。住民投票の結果は僅差で、竹原氏が出馬する出直し選挙の接戦を予想する声も多い。一方で市長支持派による市議会の解散を求める動きも進み、リコールの住民投票に必要な署名を集めたとする署名簿をすでに提出している。
つまり住民は竹原氏、市議会の双方に厳しい目を向けているということだろう。まず、竹原氏は投票結果を重く受け止め、独断的だった自らの行政を総括し、きちんと非を認めることが先だ。そもそも、住民から一度拒否された首長の再出馬の是非自体、今後の立法政策として議論の余地があるのではないか。
一方で、竹原氏と対立する議員側も議員、市職員の報酬、給与の見直しなどを通じて竹原氏が掲げる市政刷新の主張が少なからぬ住民の共感を呼んでいる現実から目をそむけてはなるまい。
阿久根市は九州新幹線鹿児島ルートから外れ、地盤沈下にあえぐ。地方の閉塞(へいそく)感がともすれば強力なリーダー待望論を生み、その結果、議会との関係をめぐり行政が混乱する素地は多くの自治体にある。
だからこそ首長と議会が尊重しあい、地域の再生に向け幅広く議論し、行政を建設的に進める責任がある。住民投票や選挙は確かに民意を確認する最終的な手段だ。だが、混乱を収拾する展望を示さないままでは住民の首長、議会双方への不信を強めるばかりだ。
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読売新聞 2010年12月07日
阿久根市長失職 独善的手法は否定されたが
市長の独善的な市政運営が否定されたのは間違いない。一方で、市議会に対する市民の不満が大きいことにも留意する必要があろう。
鹿児島県阿久根市の竹原信一市長に対する解職請求の是非を問う住民投票は、賛成が過半数を占め、市長が失職した。来月にも出直し市長選が行われる。
竹原前市長は、市議会側の招集請求に応じず、議会閉会中に、市長や市議、職員の賞与半減や、元愛媛県警巡査部長の副市長選任などの専決処分を乱発してきた。
鹿児島県知事の是正勧告を無視したほか、市議会で一連の専決処分が不承認になった後も、是正する措置を取らなかった。
法律を守るのは、首長の最低限の責務だ。行財政改革という目的が正しくても、その手法を正当化することはできない。
ただ、住民投票の賛成票は7543票で、反対票をわずか398票上回っただけだ。前市長の行財政改革の基本的な方向性への支持の強さも印象づけた。
前市長派が主導した市議会の解散請求運動でも、9266人もの署名が集まった。市議会や職員の報酬が高いことなどへの市民の反発の表れにほかならない。
長引く不況に伴い、地方の疲弊が進む中、阿久根市の経済状況も厳しく、大胆な行財政改革が必要とされている。そのことを市議会は謙虚に受け止め、自ら改革することが大切だろう。
出直し市長選の行方は予断を許さない。竹原前市長と、市長解職に動いた市民団体の幹部が、ともに出馬の意向を示している。
首長と議会の二元代表制の下、いつまでも両者の不毛な対立が続くのは、もはや「民主主義のコスト」の域を超え、住民にとっても不幸なことだ。
竹原前市長は、独善かつ強権的な手法を改め、建設的な市政運営を約束することが求められる。市民団体側も、具体的な行財政改革を明示することが重要となる。
阿久根市政の混乱は、地方自治法の不備を明らかにした。現行法は、首長が法令を順守するという“性善説”を前提にしており、首長が違法状態を続けることに対する歯止め規定を欠いている。
総務省は、首長が議会を招集しない場合は議長が代行したり、首長の専決処分を制限したりする内容の法改正を検討している。
衆参ねじれ国会だけに、政府提出法案が成立する保証はないが、こうした必要な法改正は与野党が協力して実現すべきだ。
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