参院1票の格差 抜本改革、第三者の手で

朝日新聞 2009年10月01日

1票の格差 来夏に向け参院は動け

一昨年の参院選では自民党が大敗して民主党が第1党に躍進した。政権交代の前触れとなった選挙だが、一票の格差は最大4.86倍もあった。

著しい不平等の下で行われたこの選挙は違憲、無効だとして東京都と神奈川県の有権者が起こした裁判で、最高裁は原告たちの訴えを退けた。

合憲の判断だとはいえ注目されたのは、最高裁が「投票価値の平等という観点からは、なお大きな不平等がある。国会は速やかに適切な検討を」と求めたことだ。

さらに「現行の選挙制度を維持する限り、定数を振り替えるだけでは格差の縮小は困難であり、選挙制度自体の仕組みの見直しが必要」とまで踏み込んだ。国会はこれを重く受け止めなければならない。

15人の裁判官の意見は、合憲10と違憲5に分かれた。

ひとつ前の04年参院選では、一票の格差は最大5.13倍だった。参院が06年に「4増4減」の最小限の調整をしたことで、格差が縮小した。多数意見は、それから07年の選挙までの短期間にさらなる見直しをするのは極めて困難だったと国会の事情をくんだ。

これに対し、反対意見は「投票価値が平等といえる最大2倍未満の格差を著しく逸脱している」「抜本改正を求めた最高裁判決から10年たっても、それがなされないまま行われたこの選挙は違憲」と厳しく断じている。

微調整でお茶を濁してきた国会に対し、最高裁は選挙を違憲、無効とはしないまでも、その怠慢を厳しく指弾したといえるだろう。

まず参院が、抜本改正に真剣に取り組まねばならない。でなければ、さまざまな政治的思惑から避けているのでは、と疑われても仕方ない。

次の参院選は来年夏に迫っている。時間はあまりない。とくに政権党になった民主党は、政策集に07年選挙を例に参院選の格差是正を掲げており、責任は大きい。

参院は3年ごとに半数を改選する。このため最低でも1選挙区の定数は2となる。総定数を増やさずに都道府県単位で選挙区を割り振っている限り、どうしても相当の格差が生じてしまう。複数の県を合区するなど根本的な発想の転換が必要だ。

8月の総選挙までの「衆参ねじれ国会」で、与野党が調整や合意づくりよりも政争に走る場面が繰り返された。参院は「再考の府」と呼ばれながら、衆院のコピーのような性格が指摘されてきた。

選挙制度についても、衆院と似た選挙区と比例代表の組み合わせでいいかという問題も突きつけられている。

とはいえ、まずは一票の格差の改善に取り組むことだ。それなしでは参院の権威が泣く。

毎日新聞 2009年10月01日

参院1票の格差 抜本改革、第三者の手で

「1票の格差」が最大4・86倍だった07年7月の参院選挙区選挙での定数格差について最高裁大法廷は「不平等は憂慮すべき状態だが、見過ごせないほどではない」と合憲の判断を示した。一方で「投票価値に大きな不平等のある状態」として「国会において速やかに適切な検討をすることが望まれる」とも述べた。04年の大法廷判決で改善を求められた参院は4増4減などの是正策を実施したが、選挙制度そのものを見直さなければ抜本改革にならないと改めて迫られたのである。

参院の定数格差について転機となったのは、6・59倍の格差が問われた96年の最高裁判決だ。それまでは「憲法には選挙区定数を人口比例配分するべき旨の規定がない」との理由で違憲性は否定されていたが、初めて「違憲状態」(判決は合憲)と判断された。それ以降、違憲の目安は6倍と見られるようになり、格差の顕著な選挙区の定数削減などが行われた。

ところが、04年の最高裁判決は5・06倍の格差を合憲としながら、現行定数配分規定に疑問を呈する裁判官が過半数を占め、「次の選挙で漫然と現状が維持されたままなら違憲判断の余地は十分にある」と是正を求めた。参院は各党議員による参院改革協議会を設置し、05年の報告書で(1)格差の大きな選挙区の再配分案(4増4減から14増14減まで5案)(2)議員1人当たりの人口が最も少ない鳥取県を別の県と合区する案(3)全国を10程度のブロックとする案などが挙げられた。参院のあり方にふさわしい選挙制度を憲法改正も絡めて論議することにも言及された。しかし、公選法改正に盛り込まれたのは、現議席の変動に最も影響が少ない4増4減案で、結局5倍近い格差が残ることになった。

衆院の場合は小選挙区比例代表並立制が導入されると同時に、内閣府に衆院議員選挙区画定審議会(区割り審議会)が設けられ、10年ごとの大規模な国勢調査に基づき、1票の格差は2倍までを基本とする見直しが行われている。議員以外の有識者から成り、改革案を作成して首相に勧告している。

参院の格差が大きいのは選挙区が都道府県単位になっているからで、総数を増やさずに抜本改革するには合区やブロック制などの論議も避けられないだろう。自らの議席に直接利害が絡む議員の手でどこまで踏み込んだ改革ができるのか。小手先の是正では憲法の保障する法の下の平等を守ることはできない。選挙制度を根底から見直すには、しがらみのない第三者に委ねるしかないのではないか。5倍近くの格差をこれ以上放置することは許されないだろう。

読売新聞 2009年10月02日

参院1票の格差 選挙制度の抜本的見直しを

小手先の是正だけでは「1票の格差」は解消できない――。最高裁の国会に対する強いメッセージといえよう。

参院議員1人当たりの有権者数に大きな格差がある。最高裁大法廷はその1票の格差について、「各選挙区の定数を振り替えるだけでは、大幅な縮小は困難」との見解を示した。

その上で、格差是正を図るには、「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要になる」と、制度の抜本改革を求めた。

参院の1票の格差を巡り、最高裁はこれまでも国会に是正を求めてきた。だが、遅々として進まぬ現状にしびれを切らし、厳しく注文したということだろう。

国会はこれを真摯(しんし)に受け止め、抜本改革に向けた議論を進めていかなければならない。

今回の訴訟では、2007年の参院選の定数配分が憲法に違反するかどうかが争われた。この時、1票の格差が最大だったのは、神奈川県と鳥取県選挙区の間の4・86倍だった。

最高裁は判決の中で、06年に参院で「4増4減」の是正措置がとられたことなどを考慮し、憲法に違反するほどではないとしたものの、「大きな不平等が存する」と判断した。

現行の参院の選挙制度は、都道府県単位の選挙区選と全国単位の比例選からなっており、3年ごとに半数が改選される仕組みだ。選挙区選は、都道府県代表の色合いが強く、各選挙区の定数は、最低でも2が配分されている。

これが格差是正の障害になっている。だが、この枠組みを崩すと、新たな問題が生じる。

例えば、民主党は「4増4減」が議論された当時、格差を4倍以内にするため、有権者数が最も少ない鳥取県と、隣の島根県の「合区」案を主張した。

仮に実施していれば、両県民から「県の代表がいなくなるのは不公平」との反発が出ただろう。

判決が示したように、現行制度の枠組みを維持する限り、1票の格差是正には、おのずと限界があるのは明らかだ。

民主党は、13年をめどに参院の選挙制度の「抜本的改革」を行うと公約している。

衆参両院の選挙制度は、選挙区選と比例選の2本立てで、ともに似通ったものになっている。これには根強い批判があり、参院は比例選に一本化すべきといった意見もある。

二院制のあり方を含めて、選挙制度の抜本改革論議が必要だ。

産経新聞 2009年10月02日

参院選挙制度 憲法改正と一体の改革を

最高裁大法廷は、「一票の格差」が最大4・86倍あった平成19年の参院選に対し、「定数配分規定が憲法に違反するに至ったとはいえない」との判断を下した。一方で、「投票価値に大きな不平等がある」とも指摘し、「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる」と踏み込んだ。

これまでの参院の定数是正といえば、現行の定数配分への影響をできるだけ避けようと、手直しでお茶を濁してきた。だが、判決が「各選挙区の定数を振り替える措置だけでは最大格差の大幅な縮小をはかることは困難」と指摘したように、もはや小手先の見直しは通用しない。

最高裁が異例ともいえる国会への注文を付けた背景には、18年の「4増4減」以降、見直し議論を進めてこなかった国会に対するいらだちがある。判決では「検討に相応の時間を要することは認める」とし、いわば猶予措置との認識も示されている。与野党ともこれを重く受け止め、早急に是正を講じなければならない。

本格的な少子高齢化時代に突入し、今後さらに都市部への人口集中が進むことが予想される。これに伴い「一票の格差」はより拡大していく可能性が大きい。都道府県ごとの選出を続けていたのでは、いつまでも根本解決とはならないといえよう。かつて国会では、鳥取と島根を「合区」にしようとの検討がされたこともある。道州制をにらんだ広域ブロックや、比例代表一本とする方法も一案であろう。

「一票の格差」は定数是正をすれば終わる問題ではない。求められているのは参院改革そのものだ。衆参両院の意思が異なる「ねじれ国会」にみられたように、最近の参院は党派色が強く、衆院と比べた独自性も薄まってきた。

一院制を含む「参院のありよう」を根本的に見直す機会にすべきだ。従来の発想にとらわれない大胆な改革にするためには、憲法の枠組みにとらわれてはなるまい。来年5月には、憲法改正原案を発議できるようになる。与野党は早急に具体案の検討に入る責務がある。

ただ、自らの議席がかかる問題に、参院議員自身がメスを入れることができるだろうか。第三者機関を設置し、検討を委ねるのが妥当であろう。中途半端な改革に終わらせるようなことになっては国権の最高機関の名が泣く。

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