日航の更生計画 スト実施で認可は問題だ

朝日新聞 2010年12月03日

JAL更生計画 早期再建で国民に報いよ

今年初め経営破綻(はたん)した日本航空の再建への道筋が見えてきた。ゴールに向けて順調に飛んでほしい。

東京地裁が更生計画を認め、来年3月に会社更生手続きを終える。株式の再上場は2012年をめざすという。当初の想定より速いペースだ。

米国でも、政府支援下で再生を進めてきたゼネラル・モーターズが株式再上場を果たした。日米で再生を後押ししたのは、世界同時不況からの景気回復である。とはいえ、どちらも政府の支援が不可欠だった。

日航は企業再生支援機構から3500億円の出資を受けた。そのうえ機構のとりまとめで取引銀行に5200億円の借金棒引きをのんでもらい、約2800億円の新たな融資も受ける。ふつうの倒産企業にはありえないほどの恵まれた条件である。

日航が肝に銘ずべきは、こうした出資や融資を全額返済し、国民負担を生じないようにすることだ。世界経済はなお不安定で、経営の手腕が問われようとしている。

日航自身が長年の「親方日の丸」体質を捨て、生まれ変わらねばならないのはもちろんである。

日航は稲盛和夫会長の出身母体である京セラと、管財人となっている企業再生支援機構から計6人を役員として招き入れた。いわば再生請負人たちだ。これを機に、甘い経営風土を一気に塗り替えてもらいたい。

会社更生法の適用という荒療治は、日航が高コスト構造から転換することを可能にした。非効率なジャンボ機をすべて退役させて新型機を導入し、多くの不採算路線からも撤退する。過剰だった人員を1万6千人減らし、3万3千人体制に絞る。

当面の課題は、労使対立の克服だ。パイロットや客室乗務員で最大250人の整理解雇に踏み切る方針が対立を生んでいる。ルールを踏まえて慎重に交渉を進めなければならないが、日航は破綻企業であり公的支援も受けている。希望退職者の募集だけで削減計画数に達しなければ、一定の整理解雇に踏み切らざるをえない状況だ。

政府による異例の日航支援は航空システムを守るためである。だからこそ再生日航は国民の「空の足」を安全に支え続けなければならない。だが、期待される役割はそれだけではないだろう。国民生活や経済成長に進んで貢献する姿勢が望まれる。

たとえば政府の新成長戦略の柱のひとつ、観光戦略で日航は重要なプレーヤーだ。年間2千万人以上の海外観光客を誘致する政府目標を達成するにも、急増するアジアの中間所得層を取り込みたい。それには格安航空便がもっと必要だ。競争の激しいこの分野への参入は容易ではないが、積極的に取り組むべきではあるまいか。

産経新聞 2010年11月30日

日航の更生計画 スト実施で認可は問題だ

経営再建中の日本航空の会社更生計画案について、銀行など債権者の大半が同意した。これを受け、30日にも計画案は東京地裁の認可を受ける見通しだという。

しかし、日航の現状を見る限り、計画案がこのまま認可されることは許されまい。一部労組が人員整理に断固反対の立場を崩さず、ストライキを実施する方針を決めたため、更生計画自体が瓦解(がかい)しかねないからだ。

人員の削減は更生計画の柱である。5200億円の借金棒引きと出資による3500億円の公的資金を投入する前提だ。

日航は労組のゴネ得を許す労使なれ合いの体質もあって、何度も再建が頓挫し、今年1月に破綻した。このままでは同じ轍(てつ)を踏む懸念が残る。「甘え」の企業風土を温存したままでの公的資金投入は国民の理解を得られない。

日航は来年3月までにグループ全体で1万6千人を削減する目標を掲げ、希望退職を募ってきた。しかし、パイロットと客室乗務員については目標に達せず、計250人の整理解雇を決めざるを得なかった。これに対して客室乗務員の一部の労組はスト権を確立した上、整理解雇の撤回だけでなく、人員整理そのものにも反対し、来月24日、25日にストを強行する方針を決めた。

整理解雇は雇用契約を一方的に取り消すことになるため、実施にあたって法律で厳しい条件が課せられている。だが、日航はそもそも破綻企業であり、その条件に該当する。再建を成功させるには、整理解雇もやむを得ない。

支援機構は当初、「スト権を確立すれば出資しない」と労組を牽制していた。ところが、労組側がスト実施を決めたにもかかわらず、「客室乗務員の多くは別の労組に所属しており運航に大きな支障はない」などとして、公的資金を出資する方向に傾いている。

経営側も、整理解雇の規模縮小や、地上職への転籍を促す妥協案を示して話し合いを継続する方針だという。これでは、支援機構も経営側も腰砕けである。すでに希望退職に応じた地上職社員に対しても、説明はつかない。

更生計画の認可が、日航の再建を保証するわけではない。再度失敗すれば、国民負担の公的資金が水泡に帰すことになる。支援機構と日航の労使はそのことを改めて肝に銘じるべきだ。

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