小沢氏政治資金 公金私物化なぜ許される

朝日新聞 2010年12月02日

政治資金報告 一つの「財布」で、透明に

好むと好まざるとにかかわらず、企業・団体献金には頼れなくなる。

総務省が公表した2009年の政治資金収支報告(中央分)は、いずれそんな時が来ると予感させる内容だ。

都道府県選管に提出される地方分をあわせてみないと、全体像はわからない。だが、中央分の企業・団体献金は28億円弱にとどまり、ピークの1990年の約16分の1。各党の政治資金団体に対する企業・団体献金も90年代に激減し、09年はそれ以来最低だった。

この間、度重なるスキャンダルを受けて規制が強化された。冷戦終結で「自由主義体制の維持」のため自民党に献金するという大義名分は消えた。細川「非自民」政権や民主党政権の登場で、企業がなぜ特定政党を支援するのか理由を見いだしにくくもなった。

細る企業・団体献金にいつまでもしがみついてはいられない。各党はそう認識すべきだ。禁止を公約した民主党は先頭に立つ責務がある。

ただ、企業・団体献金が細っても、政界の金銭疑惑は尽きない。献金がゼロになれば、すべて良くなるわけではない。カギを握るのは透明性だ。

たとえば、民主党の小沢一郎元代表に関連する収支報告には、複雑な資金のやりとりが記されている。

政治団体「改革フォーラム21」から、小沢氏が代表を務める党支部へ3億7千万円。同額を党支部から小沢氏の資金管理団体「陸山会」へ。これらを原資に、昨年の総選挙の立候補予定者91人に約4億5千万円が配られた。

「フォーラム」には、解党した旧新生党の資金がプールされていた。それが小沢氏の資金管理団体のカネとして配られ、小沢グループは伸長し、党代表選の国会議員票に結びつく。複雑なやりとりを経て、政党の資金が個人の政治力の源泉に変身したことになる。

党支部を経由したことには、別の疑念も向けられている。政治資金規正法の規定で、政党などを除く政治団体同士は年に5千万円までしか寄付できない。その規定を免れる抜け道に使ったのではないか、という点である。

政治家が多くの「財布」を持ち、財布同士で出し入れするから、こんなことが起こる。財布は一つと決めてしまえば、ずっと見えやすくなるだろう。

カネで手勢を養う政治から、もう卒業したい。党が資金を管理し、公正に分配する仕組みを検討してはどうか。

ほかにも多くの論点がある。一つは個人献金を伸ばす方策だ。私的な見返りを求めない小口の献金が増えれば、政治家のふるまいも変わるだろう。

政治とカネと言えば「疑惑追及」となりがちではある。しかし、政治資金の流れは時の政権の成り立ちを表し、ひいては民主主義のかたちを決める。

だれがコストを負担し、どう政治を育てるか。根本から論ずる時である。

毎日新聞 2010年12月05日

政治とカネ 透明化の道は険しい

課題が解決されるどころか、増えるばかりではないか。「政治とカネ」をめぐる問題が放置されたまま臨時国会は論戦を終えた。政治資金規正法違反で強制起訴される民主党の小沢一郎元代表の国会での招致問題は先送りされ、政治浄化に向けた制度論議も足踏み状態だった。

小沢氏が国会で説明する最低限の責任を果たさぬままの状態を次期国会で放置してはならない。企業・団体献金の禁止のみならず、政治資金の透明性を高める方策を与野党は幅広く議論してほしい。

「政治とカネ」が自民党政権時代にも増して、内閣を揺るがした年となった。小沢氏の資金管理団体の土地取引をめぐる事件、鳩山由紀夫前首相の偽装献金事件は政権を直撃し、両氏が責任を取る形で鳩山内閣は退陣した。その後も小沢氏の強制起訴が決まり、党の自浄能力が問われ続けている。小沢氏は司法の場とは別に、国会で説明する責任があることを改めて指摘したい。

一方で09年の衆院選の直前、小沢氏が実質的に運営する政治団体が民主党の政党支部に3億7000万円を寄付し、同支部が翌日に同額を小沢氏の資金管理団体に寄付していたことが09年分の政治資金収支報告書から判明した。資金管理団体はほぼ同時期に同党立候補予定者約90人に4億円を超す寄付をしており、結果的に原資にあてられたとみられる。

政治団体間の寄付には年間5000万円の上限がある。このため、上限のない政党支部を迂回(うかい)させ資金を移動させた疑いがある。

また、政治団体には小沢氏が率いた旧新生党の解党時の残金が移されていた。立法事務費など公金を含む残金が結果として「小沢グループ」の拡大に活用された、との指摘も免れまい。

こうしたケースは政治資金の透明性に対する疑念を深める。政治家別に資金が出入りする団体を一元化するなどして、政治家個人が突出した資金力をバックに派閥を形成できるような仕組みからの脱却を図るべきではないか。

民主党では小沢氏が党代表や幹事長だった際、多額の資金が「組織対策費」として党から幹部あてに支出されていた。その後の資金の使い道は不明であり、政治資金の支出に関する情報公開が進む中、著しく透明さを欠いている。岡田克也幹事長は組織対策費の廃止を明言したが、制度的に規制に取り組むべきだろう。

次期国会は民主党が公約した企業・団体献金の全面禁止にどう道筋をつけるか、今度こそ実行力が問われることになる。同時に、政治資金の透明性を向上させる努力を与野党が絶やさないことが大切だ。

産経新聞 2010年12月02日

小沢氏政治資金 公金私物化なぜ許される

国会に血税が投入されていることへの背信行為といえよう。極めて不透明な点が多く、証人喚問を通じた徹底究明が不可欠だ。

国会招致を拒み、説明責任を果たさずにいる民主党の小沢一郎元代表にまた、不可解な政治とカネの問題が判明した。

平成21年分の政治資金収支報告書などによると、小沢氏は昨年7月の衆院解散当日、自身の資金管理団体「陸山会」を通じ側近議員ら89人の候補者側に計4億4200万円を配った。

その前日、小沢氏は陸山会に3億7千万円を貸し付け、2日後には全額返済された。問題となるのは、返済に合わせて旧新生党の政治関係団体から貸付金と同額の資金が、政党支部経由で陸山会に移されていたことだ。

一連の資金の流れからは、旧政党資金が政党支部や陸山会などを迂回(うかい)して小沢氏側に移り、自らの支持グループを形成する軍資金にあてられたことがうかがえる。

旧政党が残した資金には立法事務費や政党助成金など多額の公金が含まれている。公金の私物化と言わざるを得ない。

旧新生党は、小沢氏が平成6年の新進党の結成まで率いていた。解散時には残金の大半の約9億2千万円が小沢氏関係の政治団体に移され、約5億円は立法事務費だった。旧自由党が民主党と合併した際も同様に資金が移された。

政党助成法は、政党が解散した場合に総務相が残金の返還を命じることができるとしているが、強制力はないとされる。当時、制定に関与した小沢氏は「骨抜き」を意図したのだろうか。

政党が解散する直前に寄付を行うことを禁止し、残金返還に応じない場合の罰則規定を設けるなどの法改正が急務である。

政治団体間の寄付の上限(年間5千万円以内)をかいくぐるために、量的制限のない政党支部を経由させた疑いもある。併せて抜け道をふさぐ方策が必要だ。

陸山会の土地購入をめぐる虚偽記載事件でも、小沢氏が陸山会に4億円をいったん貸し付けるなど複雑な資金操作が行われ、その原資は明らかでない。衆院解散時に貸し付けた3億7千万円の原資も究明しなければならない。

今国会での小沢氏の国会招致は見送られるが、「最後は私が判断する」と言いながら動かなかった菅直人首相の責任は大きい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/576/