年金の財源不足 もう先送りは許されぬ

朝日新聞 2010年12月01日

年金の国庫負担 借金頼みの実態を隠すな

財源が確保できないので借金に頼らざるを得ないというのなら、その実態を隠してはならない。国民に知らせ、国債という借金を減らしていく努力につなげることが大切だ。

来年度予算の編成で検討が進む年金のような問題は、とりわけそうであり、小細工は禁物である。

年金制度を支えるには、基礎年金の3分の1だった国庫負担の割合を引き上げることが長年の課題とされてきた。2004年の制度改革のさい、09年度から2分の1に引き上げることが法律に明記された。

だが、そのための増税を先送りしてきた結果、2.5兆円の恒久財源を確保できない状況が続いている。

09、10両年度は財政投融資特別会計の積立金という「埋蔵金」の取り崩しでつじつまを合わせた。来年度に向け検討されているのが、年金特別会計の積立金128兆円の流用だ。

この積立金は、過去にも財政のやりくりで使われた。一般会計からの繰り入れを一時的に停止し、その分だけ積立金を取り崩して給付した。国債発行額は圧縮され、うわべは財政規律を保ったかに見えたが、実質的には赤字国債の発行と同じである。

年金特会では、将来の給付に備えて積立金を確保している。お金の山があるように見えても、余っているわけではないのだ。

流用が一時的なら、年金給付の減額や保険料の値上げに直結するわけではない。だが、「隠れ借金」とも呼ばれてきた手法の復活は安易な流用の横行につながりやすく、借金の実態を見えにくくする点も問題だ。

こそくな手段に頼らず、むしろ赤字国債を発行したほうが、不足分が目に見えるだけ、ましだと言えよう。

何よりも、菅政権自身が今年6月「会計間の資金移転や赤字の付け替えなどに依存した財政運営は厳に慎む」との財政運営戦略を閣議決定していることを忘れてはならない。

自ら定めた規律を破るとなれば、政権への信認はますます落ちる。もちろん、基礎年金の国庫負担を維持するために国債を発行する結果、政権が設けた「国債発行は44兆円まで」という枠を破るようなことも許されない。

苦しくとも他の歳出を削るなどの工夫をこらして、44兆円枠を守るよう努力してほしい。

もはや明らかなはずだ。毎年2.5兆円もの金額をまかなうための選択肢は増税しかない。さもないと、毎年の予算編成のたびにこの問題が立ちふさがるだけである。

菅直人首相も民主党も、参院選の敗北を機に、消費税を中心とする税制の抜本改革という重要課題を先送りしてしまった。その姿勢を改めない限り、真の解決策は見えてこない。

毎日新聞 2010年12月01日

年金の財源不足 もう先送りは許されぬ

突然起きた危機ではない。消費税引き上げ論議を避けてきた政治家の先送り体質が招いたものだ。その場しのぎの財源が底をつき、基礎年金の国庫負担率50%が来年度は維持できなくなる見通しとなった。責任は与野党ともにある。これまでの無策を猛省し、社会保障制度の抜本改革と安定財源確保に全力を挙げなければならない。

基礎年金の給付費は保険料と国庫(税金)で支えられている。少子高齢化が進めば現役世代の保険料負担が重くなることから、2004年の年金制度改革で09年度までに国庫負担率を5割に引き上げることが決まった。消費税増税などで安定財源を得ることが前提になっていた。

ところが、当時の自公政権は財源の改革を先送りする一方、国庫負担率は、36・5%から50%に上げた。財源不足は、財政投融資特別会計の積立金という埋蔵金に頼った。

その埋蔵金もほぼ底をつき、50%の国庫負担を続けようとすれば、11年度は約2・5兆円が不足するという。国債の増発による穴埋めは、新規発行額を10年度並みの44兆円以内に抑えるという閣議決定があるため容易ではない。

そこで財務省が提起しているのが、安定財源確保までいったん36・5%に戻す案だ。ただ、保険料や給付金に影響が及ばないよう年金特別会計の積立金を取り崩して穴埋めするのだという。取り崩した分は、消費税増税後に補填(ほてん)するから問題ないとの理屈らしい。

しかし、積立金は将来の年金給付に充てる貴重な財産だ。新しい制度や財源確保の展望もないまま、「後で返すから」と手を付けることは非常に危険である。後で何とかするという無責任な発想の結末が今の事態であることを忘れてはならない。積立金の取り崩しが何年も続くようだと年金制度への信頼が決定的に揺らぎ、成り立たなくなる恐れさえある。

国庫負担率の引き下げは、11年度予算編成にからみ、財務省と厚生労働省の間で議論されているが、日本の将来にかかわる大きな問題だ。2省庁間で決着を図るような話ではない。菅政権が最優先で取り組むべき課題なのだ。

年金制度の抜本改革を唱えながら政権交代を果たした民主党である。野党に協力を呼びかける前に、まず自分たちがどのような制度をいつ実施したいのか、一刻も早く具体的な計画をまとめる責任がある。自民、公明両党も、自らの無責任が引き起こした危機だということを十分認識しなければいけない。

団塊世代への年金給付が間もなく本格化する。政治の駆け引きに時間とエネルギーを浪費している余裕などないはずだ。

読売新聞 2010年12月02日

基礎年金財源 国庫負担50%を堅持すべきだ

公的年金に対する国民の信頼を一段と低下させかねない愚策である。

2011年度予算案の編成作業が山場を迎え、基礎年金の国庫負担の取り扱いが、最大の焦点になってきた。財務省は財源不足を理由に、2年前に36・5%から50%へと引き上げた国庫負担率を、元に戻すよう提案した。

そんなことをすれば、国民が払う保険料が上がるか、受け取る年金額が減る可能性がある。政府は財源をやり繰りし、国庫負担率50%を維持すべきである。

基礎年金の国庫負担率を50%にしたのは自公政権時代の09年度からだ。将来にわたって年金制度を安定させるには公費の追加投入が不可欠との判断だった。

問題は恒久的な財源なしに負担率を引き上げたことである。毎年2・5兆円要るにもかかわらず、「11年度までに恒久財源を確保する」として、09~10年度は埋蔵金を取り崩してしのいできた。

これほどの規模の恒久財源を確保するには消費税率の引き上げしかあるまい。自公政権がその議論を先送りした責任は重い。民主党も子ども手当など巨額のばらまき政策を続けながら、同様に消費税率引き上げから逃げている。

年末を迎え、来年度予算の帳尻を合わせることが出来るのか、との懸念が高まる中で、財務省が出した答えが国庫負担率引き下げでは、国民の理解は得られまい。

年金特別会計の積立金(128兆円)から一般会計へ2・5兆円貸し付け、それを国庫負担金として受け取るという“帳簿操作”で国庫負担50%を維持する案も浮上しているが弥縫(びほう)策に過ぎない。

消費増税で確実に返済される、という道筋が示されなければ、将来世代に借金を付け回すことになり、国債発行と変わらない。

一方で、予算編成には、わずかながら追い風も吹きつつある。税収は10年度予算の当初見積もりでは約37兆円だが、企業業績の回復で40兆円程度まで上方修正される可能性が高い。11年度も同程度の税収が見込まれよう。

税外収入も5兆~6兆円は確保できそうだ。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の剰余金(1・4兆円)を国庫返納させ、歳出を10年度並みの92兆円強とすれば、基礎年金の国庫負担率を維持する財源のメドはつくのではないか。

ただし、12年度以降の保証はない。社会保障財源の安定的な確保と財政再建の両立を図るには、消費税率引き上げしかないことを、菅内閣は再確認すべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/575/