COP16 今は国の対策を着実に

朝日新聞 2010年11月30日

COP16 「規制の空白期」が心配だ

地球温暖化対策の国際交渉が停滞期を迎えている。メキシコでの気候変動枠組み条約の会議(COP16)も、難航が懸念される。

現在の対策の大枠となっている京都議定書には大きな問題がある。2012年までの第1期は先進国だけが削減義務を負うが、最大の排出国である中国も、議定書を離脱した米国も削減義務を負っていない。

昨年、この大問題が解決しそうだった。米国で温暖化対策に積極的なオバマ民主党政権が誕生し、温暖化の国際交渉に復帰した。そして「京都議定書とは別の仕組み」をつくって米国や中国などが相応の規制をもつ方向に議論が進んでいたのである。

しかし、頓挫した。まず昨年末のコペンハーゲン会議(COP15)で、前向きの合意ができなかった。

オバマ政権は今年、米国内で野心的な排出量取引法の成立をめざしたが失敗し、中間選挙で共和党に負けた。これで米国と世界の熱気が消えた。

背景には世界的な経済危機がある。削減義務を課されることに否定的な中国など途上国は「議定書の延長で先進国はさらに削減を」と唱え、日本やロシア、カナダは「自分たちだけが義務を負う延長には反対」である。

欧州連合(EU)は「米中が入る仕組みができるのなら議定書延長も検討する」との構えだ。米国は「議定書には絶対に戻らない」と繰り返す。

こんなバラバラな状況では13年以降、国際的な削減義務がない「空白期」が生まれることになる。

こうした中で日本が果たすべき役割は小さくない。COP16での政府方針は「議定書の第2期の設定に反対」「米中など主要排出国が参加する単一の規制の仕組みをつくる」だ。

たしかに、日本やEUだけが新たな規制数値を受け入れるのでは、地球温暖化阻止の展望が開けない。米中がなんらかの形で削減の義務を担う仕組みをつくり出すために、各国が知恵を絞らねばならない。

日本は自国の利益を守りつつも世界の規制を進める立場に、しっかりと立つべきだ。COP16では「次の会議での大きな成果」につながる決定を生み出すよう力を尽くす必要がある。

そして国内では、環境税と国内排出量取引、自然エネルギー買い取り制度の3点セットの具体化を進めたい。

振り返れば今の状況は01年、米ブッシュ政権が議定書を離脱した後に似ている。「議定書は死んだ」といわれ、日本では政府や産業界に「議定書の批准に反対」の声が広がった。

しかし、世界は米国抜きで議定書を発効させた。これによって省エネや自然エネルギーの推進、低炭素型社会をめざす今の潮流が生まれた。

将来を見すえた国際協調が必要だ。

毎日新聞 2010年11月28日

COP16 今は国の対策を着実に

温暖化対策を議論する「国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)」が29日からメキシコのカンクンで開かれる。

京都議定書以降(ポスト京都)の枠組み作りができず、期待はずれに終わったCOP15から1年。国際交渉は進まず、今回で決着がつく見通しは立たない。

しかし、議定書の第1約束期間は12年で期限切れを迎える。気候変動を抑えるための合意に向け、一歩でも前進させる努力は欠かせない。

一方で、国際交渉の行方にかかわらず、日本は国としての対策を着実に進めていくことが肝心だ。

京都議定書の最大の問題点は、大量排出国である中国に削減義務がなく、米国も離脱していることだ。2大排出国が削減に責任を負わない合意には実質的な意味がない。

昨年、米国はオバマ政権が誕生し方向転換が図られるはずだった。しかし、議会の反対でポスト京都の削減目標は決められず、中間選挙の民主党敗北で目標設定は遠のいた。このままでは中国の関与も望めない。

議論が停滞する中で、空白期間を避けるために取りざたされているのが、現行の枠組みの下に先進国の削減目標を設定する「京都議定書の単純延長」だ。欧州連合(EU)も、米国や中国が入った包括的枠組みができることを条件に、これを検討する方針を決定している。

だが、今は包括的枠組みができる見通しはない。日本が議定書の単純延長に反対するのは当然だ。日本のこだわりが交渉の前進を妨げるという見方もあるが、緻密(ちみつ)な戦略がないまま押し切られることは避けたい。

ただし、交渉の場では「単純延長」の定義ははっきりさせておきたい。京都議定書には、先進国の数値目標以外にも、削減のためのさまざまな仕組みが含まれている。これらを改良しながら、ポスト京都に応用していく手はある。

国際交渉とは別に、化石燃料に依存しない低炭素社会をめざした仕組み作りは進めなくてはいけない。

たとえば、途上国の発電所建設にあたり日本の技術で二酸化炭素を削減する。削減は2国間で分配し国際クレジットとして認定する。京都議定書にも似た仕組みはあるが、使いにくく日本の技術が生かせない。ポスト京都をにらみ、新しい仕組みを育てていくことはできるはずだ。

国内の排出削減のため、地球温暖化対策基本法案に盛り込まれた環境税や国内排出量取引制度、再生可能エネルギーの全量買い取り制度についても早急に検討を進めたい。国内での削減努力を示すことは国際交渉で日本の立場を理解してもらう後ろ盾にもなるだろう。

読売新聞 2010年12月03日

COP16 京都議定書の単純延長は論外

世界の温室効果ガスの排出量を減らし、化石燃料に頼らない社会を築くためには、先進国と途上国の対立を解いて、新たな国際ルールを策定する必要がある。

気候変動枠組み条約の第16回締約国会議(COP16)がメキシコで開かれている。主要議題は、対象期間が2012年に終了する現在の「京都議定書」に代わる、新しいルール作りだ。

問われているのは、参加国の思惑が絡み合う中で、公平で実効性のある枠組みを構築できるかどうか、である。

討議は序盤から難航している。経済成長の足かせになるとして、新ルールで削減義務を負うことに強く抵抗している途上国側が、13年以降も京都議定書を延長するよう主張しているためだ。

京都議定書は先進国だけに削減義務を課しており、途上国に都合のよいルールになっている。排出量が最も多い中国も、途上国として削減義務を負っていない。

中国に次ぐ排出量の米国は、議定書を離脱したままだ。中国と米国を合わせた排出量は、世界全体の4割以上を占める。

一方で、削減義務が課されている日本や欧州連合(EU)などの排出量は、世界の27%に過ぎない。京都議定書が実効性を欠く枠組みと言われるゆえんだろう。

必要なのは、中国と米国も排出削減に応分の責任を果たすような枠組みである。京都議定書の単純延長は、明らかにそれに逆行するものだ。日本政府が議定書の延長に反対する方針を決めたのは、当然と言えよう。

ただ、EUにも京都議定書の延長を容認する動きがあるのは懸念材料だ。削減目標達成の手段の一つとして実施している域内の排出量取引制度を、今後も続ける方が得策との思惑からだろう。

日本が厳しい交渉を迫られることは間違いない。

鳩山前政権は、20年までに1990年比で25%削減という極めて高い目標を打ち出した。これに取り組むにあたっては、「すべての主要排出国による公平な枠組みの構築」と「意欲的な目標の合意」という前提条件も付けている。

この条件は堅持せねばならない。「25%削減」が独り歩きすれば、日本だけが不利な削減義務を負うことにつながりかねない。

過度の排出抑制は経済に悪影響を及ぼすとして、国内でも「25%削減」への反発は強い。この際、現実的な目標への見直しにも着手すべきである。

産経新聞 2010年11月29日

COP16 日本のノーが地球を救う

メキシコのカンクンで気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)が、日本時間の30日から始まる。焦点は地球温暖化防止の新たな枠組みの構築だ。現行の京都議定書の約束期間は2012年で終わる。その後の温室効果ガス削減の国際ルール作りが緊急の課題となっているのだ。

交渉では、参加各国に公平で、かつ削減効果の高い仕組みの構築を目指してもらいたい。

13年前に採択された京都議定書は、世界の人々の目を地球環境へと向ける効果を上げてきたが、欠点も多い。

その第1が、温室効果ガスの削減義務を負っているのが日本や欧州連合(EU)などの先進国に限られている点だ。第2は、世界に率先して省エネに取り組んできた日本が、その先駆性のために、かえって過大な負担を強いられているという矛盾である。

ポスト京都の新たな国際ルールを作るに当たっては、まず2大排出国の中国と米国の参加が欠かせない。COP16では両国への働きかけが何より重要だ。

しかし、米中が応じる気配はみられない。それどころか、日本に矛盾をのみ込ませようという論調が強まりかけている。

新たなルールの構築が難しそうだから、今ある京都議定書の枠組みをそのまま存続させようという「単純延長論」の台頭だ。

現行制度の下で削減義務を負わない途上国は大歓迎だし、排出量取引市場のよりどころを京都議定書に置いているEUも、これに同調する傾向をみせている。

議長国のメキシコは会議の成功を熱望している。日本は世界中から京都議定書の延長にイエスと言わされかねない状況だ。

だが、日本政府は決して圧力に屈してはならない。無理な排出削減がこれ以上続けば日本経済への悪影響は計り知れない。

排出量取引などで中国や東欧諸国に莫大(ばくだい)な国富が流出する。さらには国内の主要工場が海外に生産拠点を移す事態を招き、地方の雇用は失われる。

なおかつ、世界の温室効果ガスの排出増加は止まらない。それゆえ京都議定書の単純延長は認められない。日本が勇気を持って断ることで地球温暖化対策は、前向きに動き出す。松本龍環境相には、閣議で政府の意思を再度固めたうえで交渉に臨んでほしい。

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