沖縄県知事選 首相は普天間現実策を

朝日新聞 2010年11月29日

沖縄知事選 重い問いにどう答えるか

沖縄県知事選で、保守系の現職仲井真弘多氏が、革新系の前宜野湾市長伊波洋一氏を破り、再選された。

普通の首長選とは意味合いが大きく異なる選挙戦だった。県政の課題を超え、「沖縄対ヤマト」という険しい対立構図が色濃く打ち出されたからだ。

日米両政府と本土のすべての国民は沖縄が突きつける重い問いに今度こそ真剣に向き合わなければならない。

最大の焦点である米海兵隊普天間飛行場の移設先について、仲井真氏は「北海道から鹿児島までのヤマト」を主張した。日米安保体制の必要性を認めたうえで、沖縄の過重な基地負担を本土も分かち合うよう求めた。かつて、普天間の危険性除去を最優先する立場から、名護市辺野古への移設を容認していた立場からの転換である。

一方の伊波氏は、一貫してグアムへの国外移設を主張し、日米安保体制の見直しが持論でもある。

伊波氏が当選していたら日米合意の実現は絶望的だったが、仲井真氏であれば沖縄振興などの条件次第で将来は軟化もありうると、菅政権はわずかな望みをつないでいるかも知れない。

しかし、それは沖縄県民の堅い意思を見誤った楽観と言わざるを得ない。

沖縄はあまりに長い間、日米同盟に翻弄(ほんろう)され、ヤマトから「差別」されてきた。もはや振興策というアメで基地負担を受け入れることはしない。県内に新たな基地は造らせず、基地に頼らない自立的な経済を目指す――。

昨年の総選挙以降、名護市長選、参院選、名護市議選と、繰り返し示された沖縄の民意は後戻りはすまい。

この間、菅直人首相は就任直後に1度、沖縄を訪れただけで、信頼関係再構築の先頭に立つ気概を見せていない。日米合意の踏襲とともに、沖縄の負担軽減に取り組むと繰り返してきたが、その実は何ら上がっていない。

それどころか、米空軍嘉手納基地の滑走路改修工事に伴い、普天間の騒音は逆に激化している。

菅首相は、政権としてこれから沖縄にどう向き合うのか、その基本方針を早急に固め直さなければならない。

中国軍の海洋活動の活発化や北朝鮮の韓国領砲撃で、日本自身の安全保障のためだけでなく、東アジアの平和と安定を支える礎として、日米同盟の重要性が改めて強く意識されている。

しかし、「だから沖縄に基地負担に耐えてもらうしかない」という議論はもう成り立たない。住民の理解と協力なしに、米軍基地の安定的な運用も日米同盟の強化も立ちゆかない。

一基地の問題が日米同盟全体を揺るがす。そうした事態をなんとかして避ける高度な政治的力量が菅政権には求められる。米国政府も「日本の国内問題」と傍観せず、ともに出口を探る責任を果たすべきである。

毎日新聞 2010年11月29日

沖縄県知事選 首相は普天間現実策を

沖縄県知事選で現職の仲井真弘多氏が伊波洋一前宜野湾市長らを破って再選された。最大の焦点は米軍普天間飛行場の移設問題だった。選挙戦では、伊波氏が「国外への移設」を主張したのに対し、仲井真氏は「県外移設」を公約にした。

同県名護市辺野古への移設を盛り込んだ日米合意の履行を掲げる政府内には、仲井真氏がかつて条件付きでこれを容認する姿勢であったこと、選挙戦で「県内移設反対」と明言しなかったことから、事態の進展に期待をかける向きがある。

が、情勢はそれほど甘くない。

再選を果たした仲井真氏は、「県内(移設)は事実上ない。県外だ」と語り、日米合意の履行は難しいとの考えを改めて表明した。また、琉球新報社などの1週間前の県内世論調査によると約75%が「県内移設ノー」である。今年1月の名護市長選では受け入れ反対の市長が誕生し、9月の市議選も市長派が勝利した。

仲井真氏の柔軟に見える姿勢は、沖縄振興策などを念頭に政府との協議の窓口を閉ざしたくないという思いの表れだろう。公約は「県外移設」であり、近い将来、仲井真知事が民意や名護市の意向を無視して公約を覆すとは考えにくい。

菅政権は普天間飛行場が当面、存続することを前提にして方針を再検討せざるを得ないのではないか。「日米合意の履行」を繰り返すだけでは事態の打開は望めそうにない。

中国の軍備増強や尖閣諸島沖衝突事件、北朝鮮の砲撃事件などで在日米軍の抑止力の意義が再びクローズアップされている。しかし、そのことによって普天間移設の原点である周辺住民の危険性除去の取り組みがおろそかにされてはならない。

毎日新聞は普天間問題解決のために、沖縄を含めた協議機関を設置するとともに、普天間移設方針と切り離し沖縄の基地負担軽減を先行して実施するよう求めてきた。

負担軽減は、移設について合意を得やすい環境の整備に役立つ。同時に、日米合意の負担軽減策の一つである訓練移転が普天間飛行場でも進めば、住民の危険性と生活被害を現実に減じることになる。

菅政権が発足してもうすぐ半年になる。この間、普天間問題はまったく進展していない。知事選が終わり、沖縄側の体制が整った。菅直人首相は前に足を踏み出すべきだ。「難題回避」の姿勢は返上してもらいたい。米政府にも解決に向け柔軟な対応を求める。

また、日米両政府は、普天間問題が日米同盟全体に悪影響を及ぼすような事態を避けるよう努力すべきだ。来春の日米安保共同声明に向けて進められる同盟深化の作業の障害にしてはならない。

読売新聞 2010年11月29日

沖縄知事再選 普天間移設の前進を追求せよ

沖縄県が引き続き政府と連携し、米軍普天間飛行場の県内移設にも含みを残す――。それが県民の選択だった。

沖縄県知事選で、現職の仲井真弘多知事が再選された。米軍普天間飛行場の国外移設を主張していた新人の伊波洋一・前宜野湾市長は及ばなかった。

これで、普天間飛行場を名護市辺野古に移設するとした5月の日米合意の早期進展が期待できるわけではない。知事は県外移設を求めているうえ、名護市長も受け入れに反対しているからだ。

知事は、基地負担の大幅軽減を求めて伊波氏に投票した多数の県民への配慮も求められよう。

仮に伊波氏が当選していれば、事態は深刻だった。非現実的な国外移設に固執し、普天間飛行場は現在の危険な状態のまま長期間固定化する恐れがあった。

仲井真知事は昨年まで辺野古移設を支持し、今も県内移設への反対は明言していない。政府との協議に応じる意向も示している。

菅政権は、仲井真知事との対話を重ね、日米合意へ理解を得るよう最大限の努力をすべきだ。

そのためには、普天間飛行場の移設や在沖縄海兵隊8000人のグアム移転後の米軍施設の跡地利用や地域振興で、具体的な将来展望を示すことが重要だ。沖縄の過重な基地負担の一層の軽減を追求することも必要となろう。

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件や北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)砲撃で、在日米軍の抑止力の重要性は増している。

今月13日の日米首脳会談では、来年春の菅首相の訪米と日米同盟深化に関する共同文書の発表で合意した。この文書を意味のあるものにするには、普天間問題の一定の前進が不可欠だ。

ところが、菅政権は、あまりに普天間問題に無為無策だった。

自民党政権は、過去の沖縄県知事選や名護市長選で、普天間移設に理解を示す候補を全力で支援してきた。民主党は今回、沖縄選出の党所属国会議員らが伊波氏を応援するのを黙認した。

菅首相が、本当に日米合意を実現し、同盟を深化させる気があるのか、疑わしい。

普天間問題は、14年間に及ぶ曲折を経てきた。昨年、ようやく現実味を帯びてきた辺野古移設をいったん白紙に戻し、米国、沖縄双方との関係を悪化させたのは民主党政権である。

どんなに困難でも、菅政権は、日米合意を前に進めるという重い責任を負っている。

産経新聞 2010年11月29日

仲井真氏当選 同盟重視派の勝利生かせ

沖縄県知事選は投開票の結果、現職の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)氏が新人の伊波(いは)洋一前宜野湾市長らを破って再選を果たした。

焦点の米軍普天間飛行場の移設問題では、仲井真氏も「県外移設」を掲げていた。日米合意に基づく辺野古移設案の実現が困難な状況に直ちに変化はないだろう。

だが、仲井真氏は県内移設を全面否定するのは避け、余地を残した。政府と仲井真氏との協議も難航が予想されるが、菅直人首相は移設実現に向けて全力で臨まなければならない。

仲井真氏は「日米安保はまだ必要だ」との主張を貫き、安保条約を否定して米海兵隊全部隊の撤退などを求める伊波氏とは、決定的な立場の違いがあった。知事選の結果次第で日米同盟が危機に陥ることも予想された。日本の平和と安全に欠かせない同盟を評価する仲井真氏再選の意義は大きい。

知事選は尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で日本の領海が侵犯され、北朝鮮の延坪(ヨンピョン)島砲撃など地域情勢が緊迫するなかで行われた。在日米軍の抑止力はいっそう重要性を増している。沖縄の有権者がより現実的な判断を示したものともいえるだろう。

政府は膠着(こうちゃく)状態に陥った移設問題の打開に向けた糸口を探るため、早急に仲井真氏との話し合いを始める必要がある。仲井真氏も日本の平和と安全を守るための方策を考えてほしい。

一方で菅政権の無責任さも問題だ。首相は就任以来、「日米合意を踏まえ、沖縄の負担軽減にも努力する」という抽象論を繰り返すにとどまった。政権与党でありながら知事選の候補者擁立を見送り、一部議員が伊波氏を支援することを黙認した。

鳩山由紀夫前首相が掲げた「県外移設」方針が迷走して行き詰まる間に、名護市では辺野古移設に反対する市長が誕生し、沖縄県内の反対論も拡大した。

仲井真氏は、4年前の知事選で「県内移設」を容認する姿勢を示していたが、民主党政権の失政と問題先送りが、県内移設論を維持できない立場に仲井真氏を追いやったといえる。同盟深化に向けた日米共同宣言の発表も来年に持ち越された。

菅首相は、統治責任を放棄するこれまでの姿勢を転換しなければ、移設問題を前進させ、同盟を維持することは困難になる。

産経新聞 2010年11月27日

あす沖縄知事選 安保体制の弱体化は困る

日本の安全に直結する沖縄県知事選が28日行われる。最大の焦点は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題だが、107万有権者の選択次第では国民の平和と安全を担う日米安保体制の命運を左右しかねない。

米国や周辺諸国も多大な関心を寄せている。普天間問題の迷走で空洞化を深めてきた日米同盟がさらなる重大な危機に陥るのか、それとも同盟立て直しに転じる契機とし得るのか、結果を注視したい。

任期満了に伴う今回は、再選を目指す保守系無所属の仲井真弘多現知事と、革新系無所属新人の伊波洋一・前宜野湾市長による事実上の一騎打ちだ。

普天間問題では、今年5月の日米両国政府の合意に基づいて名護市辺野古周辺に県内移設をめざす菅直人政権に対し、両氏とも「県外」を訴える。一見すると、違いはないようにも見える。

しかし、移設と密接に絡む日米同盟について、仲井真氏が「日米安保体制を含む日米同盟が日本と東アジアの平和と安定の維持に寄与」し、今後も堅持が必要と評価しているのに対し、伊波氏の主張は大きく異なる。

伊波氏は「軍事同盟である安保条約はやめて、対等・平等の平和友好条約に切り替えるべきだ」として安保条約そのものの破棄を訴えている。同盟の実効性を高める上で不可欠となる集団的自衛権の行使にも否定的だ。

日米合意による普天間移設に必要な公有水面の埋め立て工事の許認可権は知事にあり、環境影響評価にも関与する。両氏のいずれが当選しても、移設計画が大幅に遅れることになるだろう。だが、問題はその先の見通しである。

政府が誠意をもって地元と話し合い、移設を進める余地があるのか。それとも伊波陣営が掲げるように普天間を含む海兵隊全部隊にグアムへの撤退を求めるのか。

後者となれば、普天間以前に日米安保体制そのものが崩壊しかねない。沖縄の有権者には、日本国民全体の安全がかかっている選択なのだという認識を求めたい。

中国が力ずくの海洋権益拡大を進め、北朝鮮は韓国砲撃の暴挙に出た。日本の安全保障環境は急速に悪化している。同盟の共同防衛態勢を強化しなければならないときだ。一国の平和と繁栄を一地方選挙の帰趨(きすう)に委ねてよいのか、という問題も提起しておきたい。

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