朝日新聞 2010年11月27日
少年死刑判決 いっそう重い法曹の責任
裁判員裁判で2度目の死刑判決が仙台地裁で言い渡された。被告は犯行当時18歳7カ月の少年だった。
元交際相手の少女の家に押し入り、少女の姉と居合わせた友人の2人を殺害し、1人に重傷を負わせた。
残虐な行いというほかない。しかし少年法や国際条約は18歳未満に死刑を科すことを禁じている。その境界に近い年齢や裁判例を踏まえれば、無期懲役刑が選択されるのではないか。そうみる専門家も多かった。
だが判決は死刑だった。被告や証人の話を直接聞き、表情などから伝わってくるものも受け止めて到達した量刑である。重みは計り知れない。
とはいえ究極の刑罰だ。くれぐれも慎重な対応が求められる。高裁という別の目にはどう映るか。判断を仰ぐ意義は大きいのではないか。
重要な論点となった年齢問題について、判決は「死刑を回避すべき決定的な事情とまではいえず、総合考慮する際の一事情にとどまる」と述べた。山口県光市の母子殺害事件で、二審の無期懲役刑を破棄した最高裁判決の表現をそのまま引用したものだ。
閉廷後、記者会見した裁判員の発言を通しても、重圧と葛藤(かっとう)があったことがうかがえる。評議でどんな検討や考察が交わされたのか。それを踏まえた書き方は難しかったのだろうか。
裁判員制度には、事実認定だけでなく量刑にも市民の感覚を反映させる狙いがある。自分たちの思いを自分たちの言葉で残し、社会に送り出す。それが、後に続く者の導きになり、制度を鍛え、人々が犯罪や刑罰について考えを深める契機にもなる。
限られた時間の中、過大な注文かもしれない。だが、判決理由の作成は、評議に臨んだ裁判官にしか担えない仕事だ。一層の工夫を望みたい。
少年事件を市民が審理する。その難しさはかねて指摘されてきた。
成長の途中段階にある少年は、教育や環境によって大きく変わる可能性をもつ。その特性をどう理解するか。自分を表現する能力に欠ける少年の内面に、どこまで迫れるか。迅速な審理といかに両立させるか。少年鑑別所や家庭裁判所にいる専門職の知識や分析をどう役立てるか――。
「健全育成が少年法の理念」といえば裁判官、弁護人、検察官の間で了解し合えたこれまでとは違う。市民の胸にしっかりと届く、法の説明と立証活動が求められる。
裁判員が関与した少年事件はまだ十数件しかなく、判決の傾向を論じたり制度の見直しを始めたりする段階ではない。この先、審理を重ねるなかで、それぞれの立場から問題点や不具合が指摘されていくだろう。
それらを検討し解決策を探ることもまた、法曹の重大な使命である。
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毎日新聞 2010年11月26日
3人殺傷死刑 少年事件考える契機に
宮城県石巻市の3人殺傷事件で、事件当時18歳の少年(19)に対し、仙台地裁で少年事件の裁判員裁判として初めて死刑が言い渡された。
元交際相手の女性(18)に復縁を迫っていた少年は今年2月、女性宅に押し入り、女性の姉と友人の2人を牛刀で刺殺、姉の友人男性も刺して重傷を負わせたとされる。
少年は起訴内容をほぼ認めており、結果の重大性と更生可能性のどちらに重点を置いて判断するのかが問われたと言っていい。
判決は、保護観察中の事件のうえ、犯行態様も残虐で、少年の反省が十分ではないと認定した。その上で、更生可能性について「著しく低いと言わざるを得ない」と指摘した。
少年法は、18歳未満の犯罪に死刑を科さないと規定する。また、最高裁は83年、永山則夫元死刑囚(97年執行)の判決で、死刑を選択する場合に考慮すべき9項目の基準を示し、犯行の態様や被害者の数などと並び被告の年齢を挙げた。
その後、死刑が確定した少年事件は、千葉県市川市で92年に一家4人を殺害したとされる当時19歳の少年のケースにとどまる。2人殺害は、「境界事例」として、過去に地裁と高裁で死刑か無期懲役かで判断が分かれた例もあった。
だが、山口県光市の母子2人殺害事件で、2審の無期懲役判決を破棄した06年の最高裁判決が、従来の適用基準より厳罰化の方向に踏み込んだと指摘されている。
最高裁は、犯行の悪質性を強調したうえで、事件当時18歳だった年齢について「死刑を回避する決定的事情とはいえず、考慮すべき一事情にとどまる」との判断を示したのだ。
光事件では、広島高裁が08年、やり直し裁判で元少年に死刑を言い渡した。現在、上告中だ。
今回、判決は「年齢は死刑回避の決定的事情とはいえない」と指摘した。これは、06年の最高裁の判断を踏まえたものとみられる。
だが、事件は一つ一つ異なり、永山基準に照らしても判断は分かれるものだ。今回の判決が、少年事件の裁判員裁判の厳罰化の方向を示すと一概に評価することはできないだろう。
少年法は、更生教育を主体とした保護処分が本来、中心である。その原則を踏まえ、凶悪事件をどう受け止めるべきか。社会として改めて考える契機としたい。
判決後、裁判員が会見に応じ「(判決を出すことが)怖かった。一生悩み続けると思う」などと述べた。死刑という究極の刑罰の結論を出したのだ。公の場で語る役割を裁判員だけに負わせるのは納得できない。裁判官も会見などの場で裁判について話す機会を作るべきである。
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読売新聞 2010年11月26日
少年に死刑判決 更生より厳罰選んだ裁判員
「犯行の残虐さ、被害の重大性からすれば、極刑をもって臨むほかはない」。2人を殺害し、1人に重傷を負わせた少年に対し、仙台地裁は死刑を言い渡した。
裁判員裁判で、少年に死刑判決が出たのは初めてである。近年の少年犯罪への厳罰化の流れに沿ったものと言える。今後の裁判員裁判にも影響が及ぶだろう。
少年は犯行を認め、裁判では量刑が焦点になった。少年に更生の可能性を見いだし、死刑を回避するか、犯行の残虐性を重視して、極刑にするか。
判決は、犯行の様子について「執拗かつ冷酷で、残忍さが際立っている」と厳しく指摘した。
一方で、少年が語る反省の言葉などについては「表面的」「深みがない」と判断。「更生の可能性は著しく低い」と断じ、極刑を回避する理由は見当たらない、という結論に至った。
今年2月に宮城県石巻市で起きた事件だ。犯行当時18歳7か月だった少年は、交際相手だった女性を連れ出そうと自宅に乗り込み、それを邪魔したとして、女性の姉と友人を牛刀で刺殺した。姉の男友達にも重傷を負わせた。
少年は母親への傷害事件を起こし、保護観察中だった。
少年の健全育成・保護が基本理念の少年法は2000年に改正された。16歳以上の少年が故意に人を死亡させた事件は原則として刑事裁判にかけるようになった。少年の凶悪事件が相次ぎ、厳罰を求める声が高まったためだ。
山口県光市の母子殺害事件の裁判は、厳罰化を象徴する変遷をたどっている。犯行時18歳だった少年を広島高裁は無期懲役としたが、最高裁が破棄、高裁は差し戻し審で死刑を言い渡した。
今回の判決は、被告の年齢について、「死刑を回避する決定的な事情とはいえない」と指摘した。母子殺害事件での最高裁の考え方が反映されている。
最高裁が06年にまとめた調査では、被告が少年の場合、9割以上の裁判官が刑を「軽くする」と回答した。これに対し、一般市民の半数は「重くも軽くもしない」と答え、「軽くする」と答えた市民は4分の1にとどまった。
少年犯罪に対する市民の厳しい見方の表れだろう。
判決後、記者会見した裁判員からは「重圧で押しつぶされそう」「最後まで精神的なケアをしてほしい」との声が聞かれた。
重い判決の度に、裁判所に突きつけられる課題である。
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産経新聞 2010年11月26日
少年に死刑判決 犯情からみてやむを得ず
宮城県石巻市で3人を殺傷し、殺人罪などに問われた少年(犯行時18歳7カ月)の裁判員裁判が仙台地裁であり、少年として初の死刑判決が言い渡された。
裁判員が少年の更生可能性について、どこまで配慮するかが注目された。凶悪で残忍な事件である以上、18歳といえども厳しく対処するという厳罰化の流れが裁判員に受け止められたものと考えたい。
少年は今年2月、復縁を迫っていた元交際相手の女性宅に押し入り、女性の姉や友人を牛刀で刺殺し、居合わせた男性にも重傷を負わせた。さらに、女性を車で拉致したとして起訴された。
検察側は、結果の重大性や犯行の残虐性などを強調した。また少年が事件当時、別に起こした事件で保護観察処分中だったことなどから、弁護側が主張するような更生は期待できないとして、死刑を求めていた。
判決は、検察側の主張をほぼ認めた。とくに被告の年齢について、「相応の考慮は払うべきだが、死刑を回避する決定的な事情とはいえない」とした。うなずける判断である。
2人を殺害した状況には、女性の命乞(ご)いを無視して牛刀を腹部に思い切り突き刺すなど、「極めて執拗(しつよう)かつ冷酷で、残忍さが際立つ」とした。また反省も表面的で、矯正可能性も認められないとし、極刑を回避する事情はないと結論づけた。
犯行が残虐で、かつ更生が期待できない場合は厳罰で臨むという市民の重い判断でもある。
犯行時18歳の少年に死刑判決が出たのは、山口県光市で起きた母子殺害事件以来である。この裁判の判決も揺れに揺れた。1、2審判決は無期懲役だったが、最高裁が破棄差し戻しをし、高裁が死刑判決を下した。現在、最高裁に上告中だ。
このように、少年事件で死刑判決を出すには、職業裁判官でも判断が分かれるほど難しい。
今回の裁判で裁判員をつとめた男性は、記者会見で「正直、怖かった。一生、悩み続けると思った」と感想をもらした。大変な重圧だったと推察するしかない。
裁判員裁判での死刑判決は2例目だ。死刑が審理される裁判はまだまだ続く。裁判に市民の目を取り入れるとした裁判員制度の意義が、これからも試される。
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