介護保険素案 負担増は避けられない

朝日新聞 2010年11月26日

介護保険 増税なしでは行き詰まる

高齢社会で介護の費用は増え続ける。だが、保険料の引き上げは壁に突き当たりつつある。そこで、利用時の負担増やサービスの削減を検討せざるをえなくなった。

2012年度から3年間の介護保険制度について、厚生労働省の審議会がきのう意見書をまとめた。その文面からはこんな窮状が透けて見える。

参院選での民主党大敗後、菅政権が消費税を軸とする増税論議を封印したため、新規の財源確保は間に合わなくなった。そのことが保険制度内での負担増や、サービス給付削減の圧力を高めている。このままでは介護保険はやせ細り、安心は遠ざかる。

もはや政府が「税金を上げないと、制度がもちません」と国民に正直に言うべき時ではないだろうか。

厚労省によれば、現在のサービスを維持するだけで65歳以上が負担する保険料の全国平均は12年4月から今より1千円も増えて月額約5200円になるという。高齢化による介護費用の膨張圧力はそれほど大きい。

市町村は、高齢者からは主に年金天引きで保険料を集めているが、大幅な負担増は難しいとの声が強い。

このため審議会の意見書は「保険料は月5千円が限界との意見もあり、伸びをできる限り抑制するよう配慮することも必要である」とした。

その具体策として、サービス量を減らしたり、利用に応じた負担を増やしたりする選択肢を並べた。

年金などの収入が比較的多い人の自己負担を現行の1割から2割に増やす案が打ち出された。だが、収入の多い人はすでにより多くの保険料を払っているから、反発が予想される。

要介護度の軽い人が多く利用する掃除などの生活援助に関する負担増の提案もあるが、反対意見との両論併記となった。自宅での生活に必要なサービスの利用を控えたために重度化し、病院や施設に入るなどすれば、介護費用が逆に膨らむ恐れもあるからだ。

増税による新たな財源を期待できない以上、当面は制度の枠内でやり繰りすることはやむをえない。けれども、こんな状態が続けば保険料や利用者負担がじりじり上がり、サービスは低下するという悪循環に陥る。

審議会では、単身・重度の要介護者も在宅で暮らせる「地域包括ケアシステム」構想も示された。だが、財源なしでは絵に描いた餅にすぎない。

介護保険を行き詰まりから救い出し、安心して暮らせる高齢社会を築くには、裏付けとなる財源を示す必要がある。業界や利用者の代表らで構成する審議会では限界がある。

やはり消費税を含む税制と社会保障全体の抜本改革が欠かせない。菅政権は今、そのことを自覚し、勇気をもって国民に語らねばならない。

毎日新聞 2010年11月24日

介護保険素案 負担増は避けられない

安心して老後を過ごすのに今の介護保険で十分だと思っている人はまずいないだろう。私たちの国ではお年寄りは家族が介護するものとされてきた。そうした常識が通用しなくなった今も介護保険は家族の介護負担を前提に組まれている。しかし、それも限界に近づいている。

要介護者の重度化は進み認知症は200万人とも言われているが、特別養護老人ホームや老人保健施設は満杯状態で、特に認知症の人は簡単には受け入れてくれない。有料老人ホームやグループホームも受け皿としては足りず、ほとんどは家族が疲弊しながら自宅で介護しているのが実情だ。100歳代の親を80代の子が介護している例も珍しくなくなった。親の介護のために仕事を辞めざるを得ない現役世代も多い。

精神科病棟には認知症のお年寄りが5万人以上も収容されている。精神障害者の「社会的入院」を解消しても、行き場のない認知症のお年寄りがその分病床を埋めているのだ。はたして長い人生の終着点が精神科病院でいいのだろうか。

12年度の介護保険改革に向けた意見書の素案が社会保障審議会介護保険部会に提示された。24時間対応の定期巡回・随時対応サービスの創設、介護と看護など複数のサービスを組み合わせた複合型サービスの導入、グループホームへの家賃補助など、重度化しても地域での暮らしを支援するサービスを拡充しようというのが特徴だ。家族を介護負担から解放し、住み慣れた地域でずっと暮らし続けたいと思っているお年寄りの願いをかなえるためには当然だ。

問題はやはり財源である。素案では基金の取り崩しのほか、高所得者の自己負担を現在の1割から2割へアップさせることも盛り込まれた。現役世代の負担増も検討されている。負担増にはとかく批判がわき起こるが、世界で最も高齢化が進んだ国で暮らしているのに、国民負担率は先進国で最低水準という現実を直視すべきだ。事業仕分けや予算の組み替えでは必要な財源が捻出(ねんしゅつ)できないことが分かった。低所得者に配慮するのは当然として、介護サービスを充実させるため負担増は避けられないだろう。

介護保険の総費用は10年で2倍に増えたが、介護が必要なのにサービスを利用していない人の方がはるかに多い。サービス基盤を拡充し、雇用を広げて人材を育成し、もっと使いやすく使う価値もある介護保険にしなくてはならない。負担に見合う介護が受けられれば国民の納得感も高まるだろう。保険料だけでなく消費税アップも真剣に考えるべきだ。これから高齢化の坂は最もきつくなる。早くしないと間に合わない。

読売新聞 2010年11月26日

介護保険見直し 財源抜きのやり繰りも限界だ

高齢化が加速する中で介護保険制度をどう見直すか――。社会保障審議会の介護保険部会が25日にまとめた意見書は、現状の財源の枠内で、さまざまな調整策を提示するにとどまった。

政府・与党は社会保障の財源に欠かせない消費税の議論に及び腰で、改革姿勢が全く見えない。

そんな状況では、思い切った意見を出すのは難しい。「見直し」より「帳尻合わせ」という言葉がふさわしい内容になったのも、無理はなかろう。

世代を問わず保険料や窓口負担の重さは限界に近い。制度を維持するには、消費税率を引き上げて公費の投入を増やすしかない。

介護保険制度は2000年に導入されてから10年たつ。

サービス利用者は制度発足時の149万人から、現在は約400万人まで増えている。介護費用は当初の3・6兆円から7・9兆円に膨らんだ。高齢者が払う月額保険料も、初年度の平均2911円が、今では4160円だ。

厚生労働省の試算によると、このままでは12年度に5000円を超え、介護職員の待遇改善のための報酬改定などを織り込むと5200円になる。夫婦で月1万円以上の介護保険料は、負担の限界を超えるとの声が強い。

5年に1度の節目となる今回の見直しでは、老老介護など深刻な状況に対処するための対策などと併せ、介護の必要度が低い人をどの程度まで制度の対象とすべきかといった、掘り下げた議論が期待されていた。

だが、保険料を月4000円台にとどめるための方策をひねり出すことで精いっぱいだった。

たとえば、所得の高い高齢者はサービス利用時の自己負担を現行の1割から2割に引き上げる、企業の組合健保や公務員共済に加入する現役世代にも保険料の負担増を求める、といった措置だ。

取りやすいところから取る、という図式は、後期高齢者医療制度の見直しと共通している。

財源について、意見書は「社会保障と財政のあり方全体の中での課題である」と記し、間接的な表現ながら、消費税の議論の必要性を指摘している。

政府・与党は、来年の通常国会に介護保険法の改正案を出す方針だ。意見書の内容をどこまで盛り込むかは政治の判断になる。

増大する利用者と介護費用に見合った財源を確保する道筋を示さなければ、国民に受け入れられる制度にはなるまい。

産経新聞 2010年11月28日

介護保険改革 財源論議回避は無責任だ

厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会の部会が、平成24年度の介護保険制度改革の意見書をまとめた。

高齢化が進み、介護保険の利用者は増加の一途だ。サービスの使い勝手や介護職員の待遇改善なども急務である。そのためには、いかに費用を工面し、誰がどう負担するかが今回の見直しの焦点だったが、結果は踏み込み不足と言わざるを得ない。

介護保険の総費用は、今年度の7・9兆円から、15年後には20兆円近くまで膨らむと試算されている。意見書では、月額負担が5千円を超えると試算された65歳以上の保険料を抑えるため、高所得層の利用者負担を1割から2割に引き上げ、介護施設の相部屋の室料徴収なども求めた。現役世代の負担増にも言及している。

支払い能力がある人に応分の負担を求めるのは当然だが、利用料など細々とした見直しで捻出(ねんしゅつ)できる額は限定的だ。介護保険の財政安定化基金の一部を取り崩す案も提示したが一過性であって、抜本的な解決策とはいえまい。

菅直人内閣は消費税論議から逃げ、現財源の枠内でやりくりしようとしている。これでは議論が窮屈になるだけだ。政権の無責任ぶりを示している。民主党では来春の統一地方選への影響を懸念し、負担増自体に否定的意見が相次いでいるというからあきれる。

税の追加投入の規模によって議論は大きく違ってくる。どうしても増税が嫌なら、軽度者向けサービスの切り離しや、保険料の大幅増も視野に入れなければならない。保険料負担の対象年齢引き下げも含め、まずは政治家が抜本改革の具体的方向性を示し、国民的議論につなげる必要がある。

こうした中で、24時間の巡回型訪問サービスの新設など、在宅介護の充実に軸足を移す考えを打ち出したのは現実的な判断だ。費用がかさむ施設介護だけに依存していたのでは制度は行き詰まる。住み慣れた自宅で過ごしたい高齢者の要望にも沿える。疲弊した家族の負担軽減は喫緊の課題だ。

団塊世代が75歳以上となる平成37年には高齢者人口がピークを迎える。持続可能な制度に改めるための時間は限られている。政府・民主党は一刻も早く、社会保障全体のビジョンとともに、消費税引き上げの具体的検討に着手しなければならない。

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