北朝鮮の砲撃 連携し、暴走を許すな

朝日新聞 2010年11月24日

北朝鮮の砲撃 連携し、暴走を許すな

常軌をあまりに逸した、北朝鮮による軍事行動である。

きのう、朝鮮半島西側の黄海に浮かぶ韓国領の大延坪島周辺に、北朝鮮から数十発の砲撃がいきなり加えられた。韓国軍が応戦した。

民家に着弾して炎が上がる映像が世界に流れた。韓国兵や民間人に死傷者が出た。退避命令を受けた島民は防空壕(ぼうくうごう)や韓国本土に逃げた。韓国軍は最高レベルの警戒態勢に入っている。

北朝鮮の砲撃は明らかに朝鮮戦争の休戦協定に反する。国連安全保障理事会などで、国際社会が連携して対応を急ぐべきだ。まず大切なのは、事態をこれ以上に悪化させないことだ。

南北双方に自制を強く求める。

朝鮮半島は1953年の休戦以降も南北間に政治・軍事的に不安定な状態が続き、衝突も起こってきた。

たとえば陸上では、68年に北朝鮮ゲリラが韓国大統領府(青瓦台)襲撃を図り、韓国軍と激しい交戦があった。軍事境界線を挟んで南北間の銃撃もたびたびあった。

休戦ラインがはっきりしている陸上と違い、黄海上はさらに不安定だ。

休戦後、米軍主体の国連軍が海上に北方限界線(NLL)を引き、事実上の境界線として機能してきた。北朝鮮は認めておらず、独自のラインを南側に食い込ませて引いている。

この海域では、ワタリガニ漁が盛んな夏場、北朝鮮漁船がNLLを南に越えるなどし、それを機に南北艦艇が銃撃・砲撃戦をしてもきた。

だが今回は、民間人が多く住む島への軍事攻撃である。到底、許されるものではない。

韓国軍は現場海域で軍事演習をしていた。北朝鮮軍は「南朝鮮が軍事的挑発をし、断固とした軍事的措置を講じた」と報道し、軍事演習に対する行動だったことを主張している。

過剰で身勝手な反応である。

現場近くでは今春、韓国軍の哨戒艦が沈没した。米韓などの国際調査団は北朝鮮製の魚雷による攻撃だと鑑定した。また、北朝鮮は新たな核兵器開発に直結するウラン濃縮施設の存在を公表したばかりだ。

北朝鮮では今年、健康不安にある独裁者・金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男、正恩(ジョンウン)氏が後継者として選ばれた。もしも、今回の砲撃が後継体制の基盤固めや三男の権威付け、首脳部に対する軍部の「忠誠心競争」の結果だとすれば、あまりに独りよがりで危険である。

韓国は人的な被害も出てつらい立場にある。だが、新たな挑発を北朝鮮に起こさせないために、現在の抑制的な姿勢を続けてほしい。日米をはじめ、世界がそれを支持するだろう。北朝鮮に最も影響力を持つ中国も、これまで以上に強い態度で、理不尽な行動を止めさせるよう動くべきだ。

毎日新聞 2010年11月25日

北朝鮮砲撃事件 党派超え危機対応を

北朝鮮による韓国砲撃は、日本の安全保障にとって重大な脅威が間近に存在していることを改めて国民に実感させた。今回の砲撃が直ちに国民生活に影響を及ぼすものではないにしても、北朝鮮が再び挑発行為に出る可能性は否定できない。菅政権は北朝鮮の動向に関する情報の収集・分析と有事の危機管理に備えた対策に万全を期すとともに、事態を拡大させないよう、外交に全力を注ぐ必要がある。

日本の安全保障を直接脅かしかねない今回の事態は菅政権にとっての正念場というだけにとどまらない。国民全体の安全を左右する重大な局面でもある。与野党が補正予算案の採決日程をめぐる駆け引きだけに多くの精力を費やしている場合ではないだろう。

その意味で、菅直人首相が呼びかけた党首会談に野党各党が応じ、直面する危機への対処について話し合ったことを前向きに評価したい。自民党などが仙谷由人官房長官らへの問責決議案について、補正予算案採決前の提出を見送ることにしたのも妥当な判断だ。

北朝鮮は日本を射程に収めるノドン・ミサイルを配備済みとみられている。核兵器の小型化が進みミサイル搭載が可能となれば日本にとっての脅威は飛躍的に増大する。

今回の砲撃については「米国を協議に引き込むための瀬戸際戦術」などの見方がある。しかし、3度目の核実験の兆候があると伝えられたり、北朝鮮自らがウラン濃縮施設を公開するなど最近の不穏な動きを踏まえれば、今回の事態を極めて深刻に受け止めざるをえない。

政府は菅首相を本部長に全閣僚をメンバーとする対策本部を設置した。初会合で首相は、砲撃について「許しがたい蛮行だ。北朝鮮を強く非難する」と述べた。朝鮮戦争休戦以来初めて韓国領土を砲撃し、兵士だけでなく民間人にも犠牲者を出した北朝鮮の行為はまさに「蛮行」と言うほかない。

日本は4年前のミサイル発射と核実験を受け、北朝鮮籍船舶の入港禁止や輸入禁止などの制裁を継続実施中だが、新たな制裁も検討するという。

政府が当面力を入れるべきは米韓両国との連携を密にしながら中国への働きかけを強めることだろう。国連の場で国際社会の一致した意思を表明することへの努力も必要だ。

菅政権の一連の外交失態は首相官邸と外務省などとの連携不足に原因の一端がある。内閣支持率の急落は政権の統治能力への不信の表れといえる。首相は一から出直す覚悟で危機管理に当たる必要がある。

産経新聞 2010年11月24日

北の砲撃 移行期の「暴発」に備えよ

北朝鮮の朝鮮人民軍が23日、黄海の南北境界水域に向けて陸上から砲撃し、韓国側に、落下した砲弾で延坪(ヨンピョン)島の家屋多数が炎上、民間人や軍人の死傷者が多数出るという安全保障上、重大な事態となった。

韓国軍の黄海演習に対抗した行動とみられ、韓国側も対応射撃をしてはいるが、攻撃を仕掛けたのは北朝鮮であり、許し難い暴挙である。「明白な武力挑発で、民間人にまで無差別砲撃をしたことは決して容認できない」とした韓国大統領府の声明を支持したい。

だが、今は、この砲撃事件が南北の本格戦闘へと拡大して、地域の安定がさらに損なわれることがないようにすべきだ。当事国はもちろん、日本をはじめとする地域諸国や国際社会の責任も重い。

沈静化した段階で、今回、ゆえなき先制攻撃に出た北朝鮮に対しては、厳しい国際的な措置が求められよう。国際社会はすでに、北朝鮮が核武装増強につながるウラン濃縮プロセスの実施を世界に公表したことで、重大な挑戦を受けている。これ以上、甘やかしてはならない。

北朝鮮による常軌を逸した武力行使としては、今年3月にやはり南北境界水域で、韓国海軍の哨戒艦「天安」が魚雷により撃沈された事件がまだ記憶に生々しい。

この事件で、哨戒艦は北朝鮮の魚雷攻撃により撃沈されたという国際的な原因究明結果が公表されても、中国はそれを受け入れようとせず、事件を踏まえて行われた米韓合同軍事演習に激しく反発するのみだった。中国には今度こそ、「責任ある大国」として北朝鮮に厳正な対応を求めたい。

哨戒艦撃沈事件にしても、今回の砲撃事件にしても、北朝鮮が権力移行期に入っていることと無関係ではあるまい。金正日総書記の三男、金正恩(ジョンウン)氏が朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長に就任し、後継者として確定したばかりだ。

世襲独裁体制は、権力移行に伴って不安定化する国内を引き締めるために、外に敵をつくりがちである。加えて、何ら実績のない正恩氏も、自らを権威づけするため軍事的冒険に出やすい。

こうした状況下、日本は北朝鮮の暴発が今後も繰り返されるとみて備えを万全にしなければならない。日米韓の合同演習を実施し抑止力を高めていくことに加え、周辺事態法の検討も肝要だろう。

毎日新聞 2010年11月25日

北朝鮮砲撃事件 米中の責任は重大だ

何をするかわからない--。韓国に対する北朝鮮の砲撃は、この国の度し難い脅威を改めて浮き彫りにした。今後、3度目の核実験を行う可能性もあるし、ミサイル発射などで日本を威嚇することも想定外ではない。浮足立つことなく、日本の安全を真剣に問い直したい。

まずは米国と危機感を共有することが大切だ。欧米の主な関心事はイランであり、イランの核開発に対して国連安保理は何度も制裁決議を採択した。しかし、北朝鮮の核をめぐる6カ国協議は、米国のブッシュ政権末期の08年12月に宙に浮き、再開のめどは立っていない。

他方、北朝鮮は09年5月に再核実験を行い、今年3月の韓国哨戒艦沈没事件では、多国籍調査団が北朝鮮魚雷の爆発が原因と判定した。しかし、46人が犠牲になった大事件にもかかわらず、中国が安保理での北朝鮮非難決議の採択に反対し、弱い文言の議長声明にとどまった。

北朝鮮に甘い態度では禍根を残す。中国に対して私たちはそう忠告してきた。いかに中国の友好国でも北朝鮮の脅威を看過すれば、国際社会を危険にさらすことになる。今回の砲撃事件でも中国は慎重な姿勢だが、安保理常任理事国として、6カ国協議議長国として、北朝鮮に厳しい態度で臨むべきである。

米国にも注文したい。日本は韓国同様、北朝鮮の脅威にさらされているが、米国が同盟国・日本をどう守るつもりか、必ずしも明確ではない。ブッシュ政権は大量破壊兵器という幻を追ってイラク戦争を行い、オバマ政権はイランへの対応に忙しい。だが、いまだ核疑惑の段階のイランより北朝鮮の方が、はるかに現実的な脅威であるはずだ。

クリントン政権は00年、「ペリー・プロセス」に沿ってオルブライト国務長官を北朝鮮に派遣した。北朝鮮との戦闘は現実的でないとの認識に立つ訪朝だった。しかし、北朝鮮が06年に最初の核実験をしてから、同プロセスをまとめたペリー元国防長官は、北朝鮮に対する限定爆撃に言及するようになった。

次のブッシュ政権は北朝鮮を「悪の枢軸」と呼びつつ、後に融和姿勢に転じた。歴代米政権の対応は一貫性を欠いていよう。「軍事力を背景にした外交」が通用しにくい北朝鮮問題は、米国の不得意な分野だろうが、継続的で戦略的な外交努力が望まれる。

潜在的危機の大きさを思えば、米国は北朝鮮問題にもっと力を入れていい。具体的にどうするかという問いに答えるのは難しいが、日米が強い危機感を共有して中国を動かさなければ、何事も始まるまい。

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