新戦略概念 NATOの進化に期待

朝日新聞 2010年11月26日

NATO戦略 米欧ロが協調探る時代へ

冷戦後も長く対立してきたロシアと北大西洋条約機構(NATO)が、協力を模索する時代に入った。リスボンで開かれたNATO首脳会議は、そんな時代への転換を印象づけた。

首脳会議は、向こう10年間の基本方針として二つの柱を盛り込んだ。

第一は、域外からのミサイル攻撃に対して欧州の領土を守るミサイル防衛をNATOの任務とする。第二は、アフガニスタンの国軍、警察へ治安維持の権限移譲を進め、2014年末までに完了させるとの目標だ。

この新方針に、ロシアが前向きな反応を示している。欧州ミサイル防衛では、ミサイル攻撃の情報を共有する研究を進めることで合意した。

アフガンについてもロシアは、欧米軍の物資、兵員が領内を通過する制限を緩めることを認めた。

ロシアのメドベージェフ大統領は首脳会議に招かれて、「とても重要な一歩だ。歴史的と言ってもいい」と語った。ロシアと欧米が安全保障の理念を共にする意義は大きい。

ロシアが姿勢を変えた背景には、米国が柔軟姿勢に転じたことがある。ブッシュ前政権はNATOの東方拡大を進め、ロシアの反発を招いた。2年前のグルジア紛争で、双方は鋭く対立した。その後、オバマ政権はグルジアやウクライナのNATO加盟論を先送りし、ロシアに歩み寄った。

とはいえ、ロシアが欧州ミサイル防衛への協力にまで踏み込むかどうかは不透明だ。この計画は、核開発疑惑に加えてミサイル開発を行うイランからの攻撃を主に想定しているとされ、ロシア内に慎重論がくすぶる。欧米側もイランとの無用な緊張を高めないよう、周到な目配りが必要だ。

アフガン情勢も深刻である。反政府武装勢力タリバーンの反攻によって、欧米軍の兵士の犠牲者は増えている。アフガン治安部隊の育成を進め、来年から本格化する駐留部隊の撤退への態勢を整えることが課題だ。

NATOは冷戦時代、旧ソ連圏と対抗するためにあった。ソ連の崩壊により無用論が浮上した。イラク戦争の賛否をめぐっては欧州と米国の間に亀裂が生じた。ロシアとの協調に踏み出せたのは、欧米が亀裂を修復させ、一体感を回復させたからでもあろう。

核抑止力を維持しつつも「核なき世界」をめざす。従来の集団的防衛に加えて、各国との信頼醸成を進める協調的安全保障も進める。新方針のそんな点にも注目したい。「世界最強の同盟」と呼ばれるNATOは、21世紀にも有効な組織であるかどうかの試練になお、さらされている。

ユーラシア大陸の西側で新しい動きが始まった。紛争の火種の残る東アジアにどのような影響を及ぼすか。そこにも目をこらさねばならない。

毎日新聞 2010年11月21日

新戦略概念 NATOの進化に期待

大胆な構想である。欧州にミサイル防衛(MD)の拠点を設け、米国の迎撃システムと組み合わせて米・欧州の全域を守る。その計画に、かつては北大西洋条約機構(NATO)の仮想敵だったロシアの参加も求める。北米・欧州の計28カ国が加盟するNATOが首脳会議で採択した「新戦略概念」の主要部分だ。

現在のMDシステムは果たして有効なのか、米欧でも日本でも論議がある。米国のブッシュ前政権の東欧MD構想には、ロシアが「実はロシアへの対抗措置」と見て反発した。今回、NATOがメドベージェフ露大統領を首脳会議に招いてMD計画を提示したのは画期的だ。その計画の有効性はともかく、NATOとロシアの関係改善を歓迎したい。

だが、懸念もある。名指しはしていないが、欧州MDは特にイランを意識している。将来的には、米国が技術支援したイスラエルの迎撃システム「アロー」との運用連携もあり得るため、イスラエルと敵対するイランの強い反発は避けられまい。

域外諸国や国連などとの「協調的安全保障」を打ち出した点も評価したい。域外協力はNATOの負担軽減のためでもあるが、核・ミサイル開発やサイバー攻撃など、種々の脅威に対して重層的な安全保障を考えるのは当然である。

従来の戦略概念は99年に策定され、域外派兵を容認するなど「戦うNATO」の色彩を強めた。その2年後に始まったアフガニスタン攻撃は既に9年に及び、NATOの派兵国は戦いに疲れた。首脳会議では14年までに国際部隊がアフガンで戦闘任務を終える方針を確認したが、域外の紛争にNATOがどこまで関与するかが問われ続けた9年だった。

ソ連・東欧の軍事同盟「ワルシャワ条約機構」は90年代に消滅し、ロシアとの軍事的対立も考えにくい半面、08年のロシアとグルジアの交戦に見るように紛争の芽はある。自らの存在意義を模索し続けてきたNATOは、今回の新戦略概念により「国際的な安保連合」への進化をめざしているようだ。欧州でも域外でもNATOの存在は重要である。

米欧と関係が深い日本も北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされ、中国やロシアの領土上の圧力も強まっている。日本もまた新たな戦略を考える時だ。日米安保に基づく米国との協力はもとより、NATOとの連携も重要度を増している。

新戦略概念に「核兵器のない世界」という文言が盛り込まれたことも歓迎すべきだ。直後の「核兵器が存在する限りNATOは核の同盟であり続ける」という文言が本音としても、最強の軍事同盟が「核なき世界」を目標に定めたことを喜びたい。

読売新聞 2010年11月25日

NATO新戦略 ロシアとの信頼構築が課題だ

グルジア紛争をめぐる米露関係の険悪化で「新冷戦」と騒がれた2年前とは様変わりである。

北大西洋条約機構(NATO)はリスボンで開いた首脳会議で、欧州全域を守るミサイル防衛(MD)網を今後10年かけて築き、そこに長年の仮想敵だったロシアの参加を促すことを決めた。

今回採択した「新戦略概念」の柱とも言えるもので、ロシアも協議に応じるという。

冷戦終結で敵が消滅し、存在意義を問われ続けたNATOが、約20年かけてたどり着いた結論である。ラスムセン事務総長は「カナダ西部から(東回りに)ロシア極東までが単一の屋根で覆われる」と意義を強調した。

冷戦時代の西側軍事同盟が、かつての敵の盟主にまで安全保障の傘を広げるのは、時代の変化を考えれば自然なのかもしれない。

単一のMD網構築には、現実的な打算も働いている。

欧州全域を覆うMD網は、西欧諸国が独自に運用するミサイル探知システムなどを、米国が東欧に展開するMDに順次統合して構築される。緊縮財政を迫られている西欧諸国には、将来のコスト負担を減らせるという利点がある。

しかし、ロシアの参加については相互不信という障壁が残る。

NATOは、MDをイランのミサイル攻撃などに対応するものと説明した。だが、ロシア軍部などは、ロシアの戦力をそぐのが真の狙いではないかと疑っている。

NATO内でも、旧ソ連の支配を受けた国々には、ロシアに対する忌避感がまだ根強い。

MD協力の行方を占う上で注目されるのは、アフガニスタンの対テロ戦争におけるNATOとロシアの協調だろう。

首脳会議では、NATO指揮下でアフガンに展開している米軍主体の国際部隊について、その治安権限を2014年末までにアフガン側に全面移譲すると宣言した。ロシアもそれに向けて、アフガン部隊の育成や物資・人員の輸送への協力を拡大すると約束した。

アフガンを舞台に双方の協力が進めば、MD協力の前提となる信頼醸成につながる。

ユーラシア大陸の西側では、冷戦終結の果実が実りつつある。

だが、冷戦構造が残る大陸の東端では、北朝鮮が韓国の延坪(ヨンピョン)()を砲撃するなど新たな緊張さえ生まれている。日本は自らの厳しい安全保障環境を再認識し、日米同盟の強化やNATOとの対話・連携を進める必要があろう。

産経新聞 2010年11月22日

NATO新戦略 日本も重層的協力深めよ

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は今後10年間の行動指針となる「新戦略概念」を採択、ミサイル防衛(MD)などをめぐる対露協力やアフガニスタンの治安権限移譲の行程表などを承認して閉幕した。

21世紀の新たな脅威を念頭に置いた新戦略概念は、米国やNATO単独では解決できない課題に日本など域外国や国際機関と連携して取り組む「協調的安全保障」を主要任務に位置づけたことが特徴だ。

欧州の財政難や厭戦(えんせん)機運など同盟内の課題は多いが、価値と理念で結ばれたNATOの新たな方向は日本の国益にも合致する。日本もアフガンなどで積極的な貢献を果たし、日米同盟とNATOの重層的発展を支えていきたい。

新概念の策定にあたってラスムセン事務総長が「われわれは世界の主要国と手を携えることが必要だ」と述べたように、欧州の大規模紛争の恐れがなくなった半面、NATOはアフガン問題などで大きな壁に直面している。

財政難で防衛支出を削り、国際治安支援部隊(ISAF)から撤退する動きが進む一方、ロシアとの協力もひと筋縄ではいかない。アフガンへの物資搬入や欧州規模のMD構築ではロシアの協力が不可欠となる半面、旧東欧などの新加盟国にはロシアの拡張主義への警戒心がまだ根強いからだ。

NATO首脳はメドベージェフ露大統領との会合で、MD共同調査などで協力を求めた。だが、NATOの戦術核削減ではロシアの戦術核を念頭に「世界に核があるかぎり、核抑止同盟を堅持する」と、現実的対応を示したのは当然として評価したい。

首脳会議最終日のアフガン協議には韓国、豪州などISAF参加国とともに、経済支援を続ける日本も参加し、伴野豊外務副大臣が自衛隊の医官派遣など新たな人的支援について説明した。

今回の首脳会議の議題にはならなかったが、力ずくで海洋権益拡大を図る中国や核・ミサイル開発を続ける北朝鮮問題などは、日本からNATO側に率先して注意喚起し、連携していくべきだ。

米国の関心も大西洋からアジア太平洋へ向かう中で、大切なことはNATOと日米同盟がグローバルな問題意識を共有しつつ、アジアの安全保障でも密接な協力を深めていくことだ。菅直人政権にもこの認識を深めてもらいたい。

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